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【イベントレポート】ESG投資を呼び込むサステナビリティ経営 ―YahooのSDGs担当者が事例で語る、企業版ふるさと納税を活用した脱炭素ビジネスへの挑戦―

SDGs

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

2021/11/18回では、企業変革の方々に向けて、ヤフー株式会社のSDGs担当者である長谷川氏と、地域活性化事業の企画立案を行う西塔氏に、企業版ふるさと納税を活用した脱炭素ビジネス挑戦の裏側をご紹介いただきました。
「オープンイノベーションでSDGs/社会課題起点の事業開発を進めている他社の具体的な事例が知りたい」
「カーボンニュートラルに関する取り組みを強化する自治体や他社連携など取り組みの可能性を知りたい」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

長谷川 琢也氏

長谷川 琢也氏

ヤフー株式会社 SR推進統括本部
ヤフー株式会社SR推進統括本部、「Yahoo! JAPAN SDGs」編集長。自分の誕生日に東日本大震災が起こり、思うところあって東北に関わり始める。海の課題解決メディア「Gyoppy!」プロデューサー、フィッシャーマン・ジャパン事務局長、潜水士。

西塔 大海氏

西塔 大海氏

合作株式会社取締役、慶応義塾大学SFC研究所上席所員、大崎町SDGs推進協議会事務局
地方創生分野での人材活用制度設計の専門家として、内閣府企業版ふるさと納税(人材派遣型)や総務省地域プロジェクトマネージャーの制度づくりに携わる。地域活性化事業の企画立案を北海道から鹿児島まで全国で20自治体で行い、現在は鹿児島県大崎町にて官民連携連携によるSDGs推進事業を3ヵ年10億円規模で展開予定。企業と地方自治体の双方の立場に立ち、社会課題解決の方法を模索し続けている。

信澤 みなみ氏

信澤 みなみ氏

株式会社サーキュレーション ソーシャルデベロップメント推進プロジェクト 代表
2014年サーキュレーションの創業に参画。成長ベンチャー企業に特化した経営基盤構築、採用人事・広報体制の構築、新規事業創出を担うコンサルタントとして活躍後、人事部の立ち上げ責任者、経済産業省委託事業の責任者として従事。「プロシェアリングで社会課題を解決する」ために、企業のサスティナビリティ推進支援・ NPO/公益法人との連携による社会課題解決事業を行うソーシャルデベロップメント推進室を設立。企業のSDGs推進支援、自治体・ソーシャルセクター とのコレクティブインパクトを目的としたプロジェクト企画〜運営の実績多数。

板垣 和水

板垣 和水

イベント企画・記事編集
慶應義塾大学在籍中にITベンチャーでのインターンに2年間従事。オウンドメディアのSEOやチームマネジメント、100本以上の記事ディレクション/ライティングに携わる。卒業後サーキュレーションに入社し、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。

※プロフィール情報は2021/11/18時点のものになります。

【事例】ヤフーが実施した、地域カーボンニュートラル促進プロジェクト

企業による環境問題への取り組みが世界的に推進されている現在。2022年以降はただ単に目標を掲げるだけではなく、より具体的な動きが求められると予想される。その際に必要なのが、自社だけではなく他社や自治体も含めて、どのような共創を行うべきかという観点だ。
そこで本ウェビナーでは、「企業版ふるさと納税制度」を、カーボンニュートラル促進のための利用したヤフーの事例をご紹介する。企業と自治体が、国の制度を利用しながらどのようにサステナビリティの実現に向けたプロジェクトを始動したのだろうか。

Yahoo!JAPANが掲げるカーボンニュートラル実現のための目標

さて、前提としてヤフー株式会社は他の大企業の例に漏れず、社会課題解決のために数々の取り組みを行っている。その一つが、2021年1月19日に発表された「2023年度100%再エネチャレンジ宣言」だ。多くの企業が中長期でのカーボンニュートラル達成を目指す中、約3年という短期間での目標を設計。挑戦的であり、ヤフーの環境課題に対する意欲も窺える。
目標達成のための具体的な取り組みが、今回ご紹介する地域カーボンニュートラル促進プロジェクトだ。

プロジェクトの主旨は、各自治体が行っている脱炭素の取り組みを、ヤフーが資金面で支援するというもの。その際に活用されたのが、「企業版ふるさと納税」という構造だ。

そもそも「企業版ふるさと納税」とは?

まず個人向けのふるさと納税は、周知の通り、自分が応援したいと思う自治体に対して寄付を行える制度だ。寄付金のうち2000円を超える額については、所得に応じて所得税・住民税の控除が受けられる。また、地域独自の返礼品がもらえるのも特徴となっている。
一方「企業版ふるさと納税」とは、文字通りふるさと納税の企業版として設けられた制度だ。正式名称は「地方創生応援税制」で、2016年からスタートしている。基本的には、自治体が地方創生の取り組み事業に関する戦略を策定・公表。企業がその募集内容を検索し、寄付を行う。
企業が自治体から返礼品等の見返りを受け取ることは禁止されているが、昨年(2020年)の制度見直しによって、寄付額の最大 9割まで法人関係税から控除されるようになった点で、大きなメリットがある。寄付額の下限は10万円と、利用もしやすい。

出典:内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局、内閣府地方創生推進事務局「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)について」

上記の説明の通り、本来は企業側が自治体の取り組みを探して寄付を行うのが一般的だが、ヤフーは寄付先の事業テーマをカーボンニュートラルに絞った上、公募型で行った点が新しい。結果として、日本初の取り組みとなった。

30以上の自治体から選ばれた、日本一のリサイクル率を誇る大崎町

ヤフーの地域カーボンニュートラル促進プロジェクトに応募した自治体は、実に30以上。厳正な審査の上、全8自治体が選ばれ、2021年8月に第一弾となる寄付を実施。その一つが、鹿児島県大崎町だった。

西塔:大崎町は人口約1万3000人程度の町で、畜産、農業、養鰻業が非常に盛んです。食料自給率は300%とも言われます。
今回のテーマとなっているカーボンニュートラルの切り口でいくと、日本一のリサイクル率を誇る町となっています。

大崎町を含む自治体選定は、メールでの申込みから書類審査、オンライン相談会、オンライン最終プレゼン、内定というプロセスで進んだ。
ただ、カーボンニュートラルと一言に言っても、その取り組み範囲は非常に幅広い。なぜ大崎町が選定先として選ばれたのか、選定プロセスの中でヤフーはどこに重点を置いていたのか。これらについて、次の項目から大きく3つのポイントに絞って伺った。

企業版ふるさと納税の審査における3つのポイント

Point.1:脱炭素に対する直接的なインパクトがあるか

信澤:脱炭素へのインパクトは、企業様にとってかなり重要なポイントですよね。自社だけでは目標達成が難しいからこそ、社外と連携して実現を図るということだと思いますが、実際はどのようなお考えだったのでしょうか?

長谷川:こういった取り組みに対しては社内や社外、株主への説明責任が発生しますから、数字で語ることはどうしても大事になります。どんな時間のスパンでどれくらいCO2を減らせるのかというバランスは難しい部分ではありますが、そこは自治体さんに頑張っていただいて、数字を出してもらいました。

西塔:脱炭素の文脈を数値化するのは役場では難しいところがあるので、大崎町には我々合作株式会社が間に入り、協議会として数値化した資料を作成いたしました。

信澤:自治体だけではなく、協議会があるからこそ企業と連携しやすいという背景があったのですね。

大崎町にはゴミ処分のための焼却炉がないため、廃棄物の焼却処理の過程で発生する温室効果ガス排出を、すでに削減している点も、評価ポイントだったという。

Point.2:独自性・地域性があるか

信澤:2つ目のポイントは独自性・地域性があるかということですが、ここはどのような考えや観点を持っていらっしゃったのでしょうか。

長谷川:例えば庁舎の電球をLEDにするとか、公用車をUV車にするといった取り組みは数値化しやすいものですが、それは自治体が自分たちで取り組むべき部分かなと思います。我々としては次につながるような事例を作って横展開するために、独自性を求めました。
大崎町の場合は20年前から人口減や予算不足、そしてCO2などさまざまな課題ドリブンでリサイクルをスタートしており、ほかの自治体も真似すべき取り組みになっています。

Point.3:横展開可能なモデルとなりうるか

信澤:最後のポイントが横展開可能かどうか。こちらは西塔さんから、ぜひ横展開可能なモデルとはどのようなものなのか、お伺いできればと思います。

西塔:大崎町のリサイクルのモデルは、非常に中身がシンプルです。実際に2012年から東南アジアの自治体に向けて横展開を行っており、すでに一部では30%ほどのゴミの削減、そして生ゴミの堆肥化を実装しております。

長谷川:やはり世界は大きいですし、CO2の問題も山積みですから、どこから潰していくかが大事です。大崎町は20年前から小さな町でコツコツと始めた事例を東南アジアに持ち込み、現場と世界の大きな部分、両方にアプローチできているところが素晴らしいですね。

視点を国内のみならず、世界に向ける点がサステナビリティ経営においては重要であり、その意味で「横展開可能性」は、外せないポイントとなるようだ。

まとめ:短期・長期でのインパクトを見定め、世界的な横展開まで狙う

ここまでのポイントをまとめると、今のような内容になる。

まず見定めるべきは、脱炭素に対する直接的なインパクトの有無。そして独自性や地域性をもって、企業価値を高めながら国内、ひいては世界に貢献できる事業かどうか。最後に、その取り組みを独自のもので終わらせるのではなく、横展開が可能かどうか。
大崎町は、これらをクリアした自治体として、ヤフーとの連携に成功した。

ヤフーと大崎町が「資源循環の町」で描く未来

今後、ヤフーと大崎町が共に描こうとしているのは「サーキュラーヴィレッジ構想」だ。全てのものがリユース・リサイクルされ、社会貢献につながるような町づくりを目指すという。

西塔:大崎町だけが良ければいいというのではなく、社会全体に貢献できるような商品開発にも関わっていきたいですし、そのために町内にさまざまな施設を作っていこうとしています。それが結果として、町外にも役立つ施設になればいいですね。

企業版ふるさと納税を活用したビジネスの開発ポイント

ここまでにご紹介した通り、ヤフーが自治体への寄付によって実現しようとしているのは、自社と自治体によるシナジーの創出だ。その推進には、当然ながらいくつかの課題や押さえておくべき要素も存在する。
ここからは、ヤフーの事例を引き合いにしながらビジネス開発の具体的なポイントを伺った。

Point.1:企業版ふるさと納税の利用価値を理解する

まず企業版ふるさと納税の活用について、通常であれば企業が自治体を検索・選定し寄付をするプロセスを採ることはすでに説明した。ただし、寄付で終わってしまってはビジネスには直結しない。ここで押さえておくべきなのが、企業版ふるさと納税における「人材派遣型」の有用性だ。

西塔:寄付金によって法人関連税が控除されたり、損金加算による優遇が受けられたりするというのが企業版ふるさと納税の概要ですが、プランBのような形で「人材派遣型」というものがあります。これは納税をした自治体に対して企業が人材を派遣できるもので、人件費をふるさと納税予算から拠出可能です。
人材派遣は2021年の春頃から始まったばかりで、まだ全国に6、7事例ほどしかありませんが、企業が資金だけではなく人材も提供することで、地域貢献に加えプロジェクト推進が図れます。

また、ヤフーがそもそも企業版ふるさと納税を活用しようと思った背景には、最大9割の税額控除が大きなターニングポイントになったという。長谷川氏は、「9割になったタイミングで、ヤフーとして社会貢献の文脈に活かせないかということで構想が始まり、今に至ります」と語る。

信澤:ここはぜひ知っていただきたいポイントですね。脱炭素のような、共創が必要になる大きなテーマに活用いただけそうです。

Point.2:ブリッジ人材を見つける

実際に企業と自治体が共創をする際に必要となるのが、今回の事例で言うところの西塔氏や長谷川氏のようなブリッジ人材――お互いの想いを翻訳し、橋渡しをしてくれる役割の存在だ。

長谷川:コーディネーターなど色々な呼び方がありますが、これは非常に大事です。私は本プロジェクトとは別に10年ほど前から東北の事業に関わっていますが、やはり地域の方と都会の民間企業の人間が会話をすると、大変です。時間の流れやお金への価値観、スピード感などの基準が全く違うので、企業が地域や社会貢献に飛び込んだときに失敗しやすいポイントになります。
企業側、地域側の相互理解が行われればよいわけですが、そのために早いのが、両方の気持ちがわかる人が間に立つ方法です。ブリッジ人材がいると会話がスムーズになりますし、揉め事も回避できます。

西塔:企業版ふるさと納税を利用するだけであればブリッジ人材は必須ではありませんが、寄付金を財源として新しいプロジェクトを推進する、ひいては企業自身のビジネスの種になるものを探していくという段階においては、かなり重要になると思います。

Point.3:プロジェクトをデザインする

ブリッジ人材をアサインすることも含め、企業と自治体が一緒にプロジェクトをデザインすることが大切なのだと、長谷川氏は語る。

長谷川:自治体の思いややりたいことはあっても、数値化や横展開の部分で弱さが出てしまうと、企業側も寄付ができなくなってしまいます。その点で、数値化も含めプロジェクトをスケールさせていくことが得意な人が自治体と一緒にプロジェクトをデザインしていくことが、非常に大切です。

ESG投資を呼び込むサステナビリティ経営まとめ

今回のウェビナーのポイントを、以下の3点にまとめた。

今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。ESG投資を呼び込むサステナビリティ経営にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
ESG投資を呼び込むサステナビリティ経営 ―YahooのSDGs担当者が事例で語る、企業版ふるさと納税を活用した脱炭素ビジネスへの挑戦―
本ホワイトペーパーは、2021年11月18日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。カーボンニュートラルやSDGsなどの文脈を持つ事業開発に向けて、まさに今ヤフーが取り組み推進中の企業版ふるさと納税を活用した脱炭素ビジネスへの挑戦の裏側をご紹介しました。