富士フイルムが構造転換を成功させた新規事業の取り組み方とは?
グローバル化の進展や技術のイノベーション、市場ニーズの急激な変化などを背景に、既存事業のみでは生き残れない世の中になりつつある現代。自社の強みを捉えた上での新規事業開発の重要性はますます高まってきています。
しかし、新規事業に取り組んでみたものの、なかなかうまくいかないという企業も多いのが現状です。何が新規事業開発の成否を決めているのでしょうか。
本記事では、サーキュレーションで行われた富士フイルムの元役員によるセミナーの内容をもとに、激変の世の中を勝ち残る新規事業開発のポイントを解説します。
セミナー登壇者様:山田 澄人(ヤマダ スミト)氏
富士フイルム(執行役員)→富士フイルム知財情報リサーチ(社長)→産総研(上席イノベーションコーディネーター)。インスタント写真システム「初代チェキ」のフイルム開発リーダーも経験した後に、医療画像診断システムや体外診断(IVD)システムの製品化を牽引。富士フイルムが写真フイルム会社からの構造転換を成し遂げた際に、R&D統括本部技術戦略部長として戦略立案とその推進を担当。
Contents
新規事業成功の勘所とは?
厳しい生存競争を勝ち抜くために、多くの企業が新規事業の開発に取り組んでいます。しかし、なかなか軌道に乗らないという悩みも多く聞きます。
富士フイルムは、コア事業だった写真フイルムの需要が激減するという市場環境の変化の中で、全社一丸となって事業構造の転換を進めてきたことで有名です。富士フイルムの新規事業成功の勘所は何だったのでしょうか。
例えば、カラーフイルムを例に見てみましょう。1980年代、カラーフイルムは拡大の一途にありました。そんな中、富士フイルムはカラーフイルムが成長し続けている1988年に世界発のフルデジタルカメラを発表したのです。当時、カラーフイルムは富士フイルムにとって利益の源泉でした。それにも関わらず、自らが先頭に立ってデジタル時代を見越した破壊的イノベーションの先駆者になったことがポイントです。
技術のイノベーションや環境変化などによって市場はどんどん変化しています。この事例から、先を見据えて潜在ニーズを見極め、自らが先頭に立って仕掛けることがいかに重要かということがわかります。
事業別に見た新規事業立ち上げポイント
富士フイルムは現在、化粧品や医薬品など複数の成長事業分野を持っています。それらの新規事業は、どのようにして生まれたのでしょうか。
富士フイルムでは、下記のような4象限のマトリクスを使って徹底的に技術の棚卸しをしてきました。技術の棚卸しをしながら、打って出る事業分野を探ってきたのです。
ここでは、代表的な新規事業を3つご紹介します。
① 化粧品事業
まずは化粧品です。「なぜ、富士フイルムが化粧品なのか」とよく聞かれますが、実は化粧品と写真フイルムの技術の親和性は非常に高いのです。例えば、写真フイルムの主原料は肌の弾力を維持するコラーゲンです。そのほかにも、フイルムの劣化を防ぐ抗酸化技術はアンチエイジングに応用できるなど、写真フイルム事業と化粧品事業は技術の連続性があるものでした。
とはいえ、後発企業として勝負するためには、どのように市場に打ち出すのかが重要なポイントになります。
一般的に化粧品は美などの感性価値を訴求しますが、富士フイルムは徹底的に機能性を訴求しました。高い技術力を持っていたからこそ、化粧品事業においても競争力を保つことができたのです。
② 医薬品事業
医薬品の場合も、化粧品と考え方は同じです。技術の連続性があり、勝てる戦略が描けたことにより、医薬品事業に参入しました。
例えば、富士フイルムがカラー画像をコントロールするために開発・蓄積した20万種類にも及ぶ薬品種の化学構造は、抗がん剤や既存の薬の構造に類似していました。事実、ライブラリーのいくつかの薬品は、初期テストで薬効を発現したのです。
医薬品はこれまで培ってきた技術との親和性も高く、現在富士フイルムは医薬品を含むヘルスケア事業を成長事業と位置づけています。
③ 再生医療事業
損傷を受けた生体機能を修復させる再生医療。実は写真フイルムで培った技術と再生医療の親和性は非常に高いものでした。
例えば、再生医療において細胞培養のための培地は動物由来のコラーゲンが使われていましたが、動物の個体差を反映した抽出ごとのバラツキが課題となっていました。富士フイルムはコラーゲンがおよそ半分を占める写真フイルムで培った技術で、コラーゲンの構造と分子量を制御して動物由来成分を含まないバイオマテリアルを開発することができたのです。
再生医療は革新的な治療法としての期待も高く、今後の成長加速が見込まれる事業分野になっています。
新規事業は既存事業との連続性がカギ
これらの新規事業は今では富士フイルムの成長事業となり、業績貢献も大きくなっています。それでは、富士フイルムが新規事業に成功したポイントは何でしょうか。
それは、新規事業ターゲットを土地勘のある事業分野に置いて、既存事業とのシナジーを生み出したことにあります。土地勘のある事業分野というのは、必ずしも似たような事業というわけではありません。フイルムと化粧品のように一見全く違う分野に見えるけれど、根底では技術や事業に連続性があるというものも含まれます。
技術や事業の連続性を生かして隣地に事業を広げていき、時間をかけて事業構造の転換を図っていったことが成功につながった要因と言えるでしょう。
まとめ:新規事業を成功させるために
ここまで読んで、早速新規事業に取り組もうと考えている経営者の方は多いのではないでしょうか。
もちろん、新規事業は最初からすべてうまくいくわけではありません。歴史に残るような成功事業も、最初は社内に根強い反対があったものは多いと聞きます。
それを覆すためには、期待値がリスクを上回るような納得できるシナリオを策定することと、最終的にはトップの決断が必要です。経営者の方は、リスクを覚悟で一歩を踏み出す心構えも重要と言えるでしょう。
本記事を参考に、ぜひ新規事業成功の一歩を踏み出していただければ幸いです。
なお、本記事はセミナーでお話しいただいた内容から一部を抜粋したものです。セミナーでは、ほかにも革新的新規事業の事例などたくさんのトピックスについてお話しいただきました。もっと詳しく聞きたい方は、次回の開催をご期待ください。