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【イベントレポート】ソフトバンクのサステナビリティ経営 ―始動から1年、推進担当者が語るSDG全社推進の取り組みとその裏側とは?―

SDGs

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

2021/07/30回では、サステナビリティ・SDGs推進責任者の皆様に向けて、ソフトバンクのSDGs推進室にてマテリアリティへの取り組み施策を牽引されている日下部氏に、ソフトバンクが実践しているSDGs推進施策の裏側と最速で推進する秘訣をご紹介いただきました。
「SDGsの推進に着手しているが、現場や役員の当事者意識が低く、推進が計画通りに進んでいない」
「自社のマテリアリティに対し、事業部も巻き込んで取り組んでいく方法が知りたい」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

日下部 奈々氏

日下部 奈々氏

日本を代表するグローバル企業、ソフトバンクのSDGs推進担当者
2004年ソフトバンク入社。新卒・中途採用、ソフトバンクグループ人材育成機関「ソフトバンクユニバーシティ」立ち上げ、「ソフトバンクアカデミア」をはじめとしたグループ次世代リーダーの発掘・育成、タレントマネジメントやダイバーシティ推進を担う。現在はSDGs推進室へ着任し、SDGs戦略策定や対外コミュニケーション、社内浸透施策などの取り組みを推進中。

信澤 みなみ氏

信澤 みなみ氏

株式会社サーキュレーション ソーシャルデベロップメント推進プロジェクト 代表
2014年サーキュレーションの創業に参画。成長ベンチャー企業に特化した経営基盤構築、採用人事・広報体制の構築、新規事業創出を担うコンサルタントとして活躍後、人事部の立ち上げ責任者、経済産業省委託事業の責任者として従事。「プロシェアリングで社会課題を解決する」ために、企業のサスティナビリティ推進支援・ NPO/公益法人との連携による社会課題解決事業を行うソーシャルデベロップメント推進室を設立。企業のSDGs推進支援、自治体・ソーシャルセクター とのコレクティブインパクトを目的としたプロジェクト企画〜運営の実績多数。

板垣 和水

板垣 和水

イベント企画・記事編集
慶應義塾大学在籍中にITベンチャーでのインターンに2年間従事。オウンドメディアのSEOやチームマネジメント、100本以上の記事ディレクション/ライティングに携わる。卒業後サーキュレーションに入社し、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。

※プロフィール情報は2021/7/30時点のものになります。

加速するサステナビリティ/ESG/SDGsの取り組みとは

高まる人口増加と環境問題、カーボンニュートラルへの意識

企業のサステナビリティやESG、SDGsへの取り組みが急務とされていることは、もはや自明の理となっている。PRI(責任投資原則)の提唱や国連サミットでのSDGsの採択、パリ協定といった形で世界全体がサステナブル社会への取り組みを進め、2021年の世界経済フォーラム(ダボス会議)においては、グローバルリスクの上位5つが環境関連の問題であるとされた。日本も現在「2050年カーボンニュートラル」に向けて、2030年度までにCO2を2013年度比で46%削減すると宣言している。
これらの動向に伴い、ESG投資の加速化は留まるところを知らず、現在世界の運用金額の3分の1――3400兆円がESG投資で占められている。

短期視点から中長期視点、自社起点から社会課題起点への転換が求められる

社会全体がいかにニューノーマルな世界を創り上げることができるかという点において、企業が果たすべき役割は大きい。
とはいえ、現実として企業はどう変革していくべきなのか。この点を簡単にまとめるなら、以下のような図となる。

これまでの企業が短期視点、そして自社起点で事業を推進していたとすれば、今後求められるのは中長期視点、そして社会課題起点のビジネスなのだ。

【事例】ソフトバンクのSDGs戦略全体像とスピード推進の裏側

実際に企業がSDGs推進をする際は、SDGsの17の目標を吟味して方針を立て、マテリアリティ(自社にとっての重要課題)の特定、長期ビジョン策定、短中期目標設計などの設計を経てから社内外への発信に至る。
今回のウェビナーでは、特に課題感を抱く企業が多いマテリアリティの特定から短中期目標設計のフェーズまで、ソフトバンクで実施された取り組みと流れについて伺っていった。

わずか1年で事業部がSDGs推進を自走できる形に変革

ソフトバンクはSDGs戦略を進めるにあたって、2020年4月の委員会設置からわずか1年足らずで数々の取り組みを行っている。SDGs宣言を経て全社での改善活動やステークホルダーへの情報開示、さらにはSDGsの格付け取得まで獲得しているが、なぜここまでのスピード推進を行ったのだろうか。

日下部:サステナビリティの取り組みは中長期で考えていく必要があるものの、一方で、経営層に活動の成果を提示することも必要ですから、1年間で明確な外部評価を取得することをひとつのスコープにしたんです。
また、当社は事業を通じてSDGsに全社で取り組むべきだと考えており、1年以内に事業部主体で自発的にさまざまなアクションを起こし、自走してくれるような状態を目指すことにしました。

ソフトバンクのSDGs推進で実施された取り組みと実績

さらにより具体的に、ソフトバンクが1年で打ち立てた実績についても教えていただいた。まず日下部氏は全社の戦略策定を1.5ヶ月で行い、SDGs経営の土台を作り上げた。この戦略策定は、マテリアリティの特定やサステナビリティ方針、中計戦略などを絡めて打ち出されたという。

信澤:2つめの実績が企業評価というところですが、まさに総なめと言っていいほどESG評価を取得していらっしゃいますね。

日下部:評価取得が目的ではないのですが、評価を通じて我々が今後改善すべき項目やこれまで取り組みの成果が見えてきますから、この指標は真摯に受け止めています。そういう意味では、さまざまな指標に対して会社全体でチャレンジし、フィードバックをしっかり見るというプロセスを大切にしていたかもしれません。

そして3つめの社内浸透では社員99%がSDGs推進を認知するという結果を残しており、ここについて「かなり力を入れた」と日下部氏。

日下部:SDGsをキードライバーにしながら事業を通じて全社が成長していくとなると、やはりその実現者は社員ということになります。彼らがいかに実感値を持って納得するかがSDGs推進の一丁目一番地だと考え、力も時間もかけましたね。

ソフトバンクが最速でSDGs推進できる3つの理由

企業のSDGs推進においては、まさに理想形とも言えるスピード感で実績を残したソフトバンクだが、その成功要因はどこにあったのか。日下部氏が挙げたのは、「推進体制」「接点創り」そして「ビジネス視点」の3つだ。

推進体制については、「技術や管理などさまざまな部門から推進責任者を立て、責任者自身が数字や戦略にコミットする体制を取った」と日下部氏。同様に、グループ会社からも推進責任者をアサインしたという。さまざまな事業を取り扱う巨大なグループ企業だからこそ、全社横断の推進体制は特に意識したそうだ。
また、2つめの「接点創り」において、一貫して伝えていたのはやはり「SDGsをキーとして自分たちが成長すること」だという。

日下部:SDGs推進がビジネスチャンスなのだということを事業部とのコミュニケーションで伝え、それを最大化するためのツールや露出方法を一緒に考案、発信していきました。

信澤:それが3つめの「ビジネス視点」にもつながるのかと思います。

マテリアリティ特定後のKPI設計までのステップ

SDGs推進の全体感のポイントを押さえたところで、実際にソフトバンクが歩んだSDGs推進のステップについて詳しく見ていく。冒頭でも簡単に触れた通り、特に課題の多い「マテリアリティ特定」から「長期ビジョン策定」、そして「短期中長期目標設計」のステップについて解説していただいた。

「事業を通じて社会課題を解決する」考えを徹底

SDGs推進を計画する際、企業が最初に悩むのが「自社にとってのマテリアリティは何か」ということだ。この点については、スピード推進を実現したソフトバンクにとっても大きな壁だったという。

日下部:事業部と折り合いがつかなかったことも実際はありましたね。「SDGsへの取り組みは大事だけれど、事業部にとっては1円にもならない」と言われたこともあります(苦笑)。それは彼らが持っている目標を考えれば理解できるところですから、今でも試行錯誤しながら会話を続けています。

信澤:今は、「SDGsは事業部とも関係があることなのだ」という理解へと変わっているプロセスなのかなと思います。そのひとつの要因が、マテリアリティと事業の関連性をしっかり結び付けたところなのでしょうか?

日下部:そこもこだわったポイントです。スライドの左側ですね。ソフトバンクの精神には「事業を通じて社会課題をどう解決するか」という考えがありましたし、1~3のアクションに紐付くところは、我々の全事業が反映されるようなマテリアリティにしたいという思いがありました。

事業部主体で挑戦的なKPI設定をするためのコミュニケーションを設計

マテリアリティに紐付いた長期ビジョンの策定ができたら、実践へ向けて短中期目標の設計を行う。ここで最初のポイントになるのが、まず事業部自身が目標を立てること――「やってみる」というステップだ。

日下部:当たり前だと思われる方もいるかもしれませんが、SDGsは過去の歴史によって積み上げられた全人類の課題ですから、全体的な理解を持っていきなり目標を立てるというのは難しいことです。
しかし、それをSDGs推進部が立ててしまうと、結局推進部目標になってしまいます。やはり、各事業部が責任を持って報告・推進する形にしたかったので、どんな目標であれ、まずは事業部自身が納得して設定することにこだわりました。

事業部にとっては未知の経験であり手探りの状態であったとしても、まずは自分たちで目標を立て、その上で経営や投資家、あるいは外部の有識者からフィードバックを受け、ディスカッションをする。こうした場作りが、事業部を巻き込む上では欠かせないものとなるようだ。

信澤:ステップ3は「数字に挑戦意欲を持つ」ということですが、これは具体的にどのようなコミュニケーションが発生するのでしょうか?

日下部:世の中的に求められている数値と、事業特性や置かれている状況によって掲げられる数値は違いますよね。ですから、どうすればグローバルトレンドに向かって取り組めるのか、落とし所となる数字について推進責任者とかなりディスカッションしました。普通にやって達成できる目標では、「それで本当にSDGsの目標に届くのか」という話になりますし。
いかにアンビシャスな目標に引き上げていくのか、その目標が世の中的にはどんなふうに見えるのかという視点をフィードバックしつつ、どんな着地になったとしても最後は事業部に決めてもらうことにしました。

KPI設定の結果、例えばソフトバンクは「テクノロジーのチカラで地球環境へ貢献」というマテリアリティに対して、2030年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを掲げた。そのために、事業活動で使用する電力を再生可能エネルギーに切り替えたり、最先端テクノロジーを活用した省エネ化を実施したりしているという。
また、「レジリエントな経営基盤の構築」のマテリアリティに対して掲げた指標は、2035年までに管理職の女性比率を現比率の3倍というもの。そのために「女性活躍推進委員会」を発足し、取り組みを進めている。

【まとめ】最速でSDGs推進するための3つのポイント+α

SDGs推進のステップにおけるポイントをまとめると、以下のようになる。+αとしたのは、事業部自らがKPIを設定、調整するという部分だ。各項目について、日下部氏からもコメントをいただいている。

日下部:繰り返しになりますが、推進体制を構築する際は必ず「みんなでやる」ことです。委員会やその体制をそういった形に落ち着かせるのは面倒ですし、「SDGs推進室だけでやってしまいたい」と思うこともあるかもしれませんが、全社横断にこだわってください。
2つめの「社内外に対する積極的なコミュニケーション」も大事な部分ですから、ブランドや人事など、このテーマに関心のある人たちを巻き込みながら一緒に作っていきましょう。
3つめのビジネス視点については、経営と一緒にディスカッションをしながらいかにナラティブにSDGsについて語っていくかということが大事です。
そして+αの部分では、KPIをしっかり作り、ブラッシュアップしていくことです。我々としても、このPDCAの作業を続けながら今後も取り組んでいきたいと思っています。

ソフトバンクのサステナビリティ経営まとめ

今回のウェビナーのポイントを、「すぐ取り組んでいただきたいこと」として以下の3点にまとめた。

今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。ソフトバンクのサステナビリティ経営にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
ソフトバンクのサステナビリティ経営 ―始動から1年、推進担当者が語るSDG全社推進の取り組みとその裏側とは?―
本ホワイトペーパーは、2021年7月30日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。「SDGs」というワードが浸透している一方、会社で設定したマテリアリティへの取り組みに関心の薄いメンバーが多いことに苦心しているサステナビリティ・SDGs推進責任者の皆様に向けて、ソフトバンクが実践しているSDGs推進施策の裏側と最速で推進する秘訣をご紹介しております。