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【イベントレポート】横河電機に学ぶBeyondSDGs ―2035年シナリオプランニングによる企業変革推進の裏側とは?―

SDGs

17,000名のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月6~8回のウェビナーを開催しております。

2021年4月23日は、予測不可能な現代において数十年先の未来を描くためのシナリオプランニングの構築ステップについて、横河電機の玉木氏と大内氏にお伺いしました。
先が見えない時代だからこそ、企業は今後の自社の行く末、ひいては世界の行く末を想像し、他社と協働しながら未来のための事業展開を進めていく必要があります。
それを踏まえ、なかなか社内一丸となって長期戦略が描けない、あるいは今後サスティナビリティ推進を実行していきたいという思いを抱かれている経営者やSDGs推進責任者の方々は必見です。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

玉木 伸之氏

玉木 伸之氏

横河電機株式会社 未来共創イニシアチブ プロジェクトリーダー
1989年横河電機に入社。FA分野の生産管理システムの設計・構築、商品企画を経て、新事業開発、中長期経営戦略策定などを経験。その後、エネルギー・化学分野の業種マーケティング戦略立案、エグゼクティブセリングや事業変革を推進するグローバル組織横断プロジェクトの企画・推進をリード。また、社外で多くのシナリオプランニングのファシリテーションを経験。2019年よりHR部門に移り、シナリオプランニングを活用した次世代リーダー育成プログラムを企画・実施。4月より社長直轄の組織横断の未来共創活動を発足し、社会課題の解決や次世代リーダ育成に取り組む。

大内 伸子氏

大内 伸子氏

横河電機株式会社 未来共創イニシアチブ シナリオアンバサダー
学生時代の学びと海外経験から、水問題に関心を持ち、2017年横河ソリューションサービスへ入社。その後、主に発展途上国向けの上下水道の監視制御システムの営業・提案活動、プロジェクト遂行に従事。全26名の若手メンバと共に、シナリオプランニングを実践し、社内外の有識者との対話を通じて未来シナリオを描いた。今後は、シナリオアンバサダーとして、未来シナリオをもとに社内外での未来共創活動に取り組む。

信澤 みなみ氏

信澤 みなみ氏

株式会社サーキュレーション ソーシャルデベロップメント推進プロジェクト 代表
2014年サーキュレーションの創業に参画。成長ベンチャー企業に特化した経営基盤構築、採用人事・広報体制の構築、新規事業創出を担うコンサルタントとして活躍後、人事部の立ち上げ責任者、経済産業省委託事業の責任者として従事。「プロシェアリングで社会課題を解決する」ために、企業のサスティナビリティ推進支援・ NPO/公益法人との連携による社会課題解決事業を行うソーシャルデベロップメント推進室を設立。企業のSDGs推進支援、自治体・ソーシャルセクター とのコレクティブインパクトを目的としたプロジェクト企画〜運営の実績多数。

花園 絵理香

花園 絵理香

イベント企画・記事編集
新卒で入社した大手製造メーカーにて秘書業務に従事。その後、医療系人材会社にて両手型の営業を担当し全社MVPを獲得、人事部中途採用に抜擢され母集団形成からクロージング面談まで幅広く実務を経験。サーキュレーションでは、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とビジュアルに強いコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。

全ての企業が求められる、サステナブルな社会へのパラダイムシフト

サスティナビリティ実現に向けた企業の取り組みは実装フェーズに移行

国連でSDGsが採択されたのは2015年のこと。近年は企業CMでもSDGsの取り組みが紹介されるほど認知度が高いワードだ。実際、GPIFの調査によると、2018年度時点で企業におけるSDGsの認知度はほぼ100%に近い数字をマークしている。
また別の調査では、2017年から比べると企業のSDGsに対する課題表明や方針反映、事業との紐付けなどの動きは、2020年までにのきなみ30%以上増加。おおむね60~70%の割合にまで到達している。
一方でSDGsに関する取り組みについて全く公開していない企業は28%から5%にまで減少した。SDGsの取り組みは、単なる宣言ではなく事業活動を通じた実装フェーズに移行しつつあると言える。

SDGs経営実装における最大の課題は「長期目標設定の難しさ」

SDGsが掲げる17の目標の中から自社にとっての重要課題を特定し、実際に事業をSDGsに紐付けるまでの実装ステップは、おおむね以下のような流れで進むと想定される。

SDGsは当然短期的に解決できるような目標ではなく、企業としては長期的目標及びKPI設計が求められることがほとんどだ。しかしSDGs実装プロセスにおける一番の課題は、この長期視点を持つのが難しい点にある。
不確実性が高い社会において、自社を取り巻く環境が今後10年、20年先でどのように変化し、その上でどのような取り組みをすべきなのか、一朝一夕では想像ができないのだ。

本ウェビナー内で行ったアンケートでも、SDGsに対して視聴者が抱えている課題としては「長期目標を想像できない・決められていない」が最も多く、そのほか「重要課題に対する指標が決められていない」「社会視点・長期起点思考人材がいない」といった悩みも続いた。

【事例】横河電機が実践した2035年シナリオプランニング

以上のような状況を踏まえて今回ご登壇いただいたのが、若手社員を中心にシナリオプランニングの手法を用いて社会や環境の未来像を描き、SDGsを経営に組み込むための取り組みを推進している横河電機の玉木氏と大内氏だ。
横河電機はBtoB企業として、エネルギー、マテリアル、バイオ、ライフサイエンスといった分野においてさまざまな産業・ソリューションを提供しており、業界内では国内最大手に位置している。

グローバルカンパニーとして求められた未来シナリオ

横河電機はヨーロッパやアジア、アメリカ、中国、中東など、世界62カ国104社にまでビジネスの裾野を広げているグローバルカンパニーだからこそ、顧客からサスティナビリティへの考え方を問われたり、長期的視点でのディスカッションが求められたりする場面が多かったという。

そこで立ち上がったのが「Project Lotus」。シナリオプランニング手法を用いて未来シナリオを描く、組織横断型のプロジェクトだった。

玉木:これは実は、思い立って経営に答申したプロジェクトです。ゴールは、2035年の未来シナリオを作ること。未来は一つの会社や部門だけで片付く話ではありませんから、未来を支え、ネットワークを築ける人財を育成することもゴールとして設定しました。
メンバーは、15年後に会社を支えるであろう20代~40代前半の若者を選抜しています。

玉木氏はプロジェクトそのものの企画・実施を、大内氏は選抜メンバーとしてシナリオプランニングの実施を行った。

シナリオプランニングとは?複数の未来を描くフレームワーク

シナリオプランニングとは、将来的に起こり得る未来について複数のシナリオを想定し、組織内での議論・戦略設計を促す経営手法を指す。

未来は不確実で定義できないからこそ、単一の未来予測をするのではなく環境変化などの不確実要素を前提としたシナリオを複数設定することで、柔軟な戦略を打ち立てることができる。

ここでキーワードになるのが、フォアキャスティングとバックキャスティングの考え方だ。フォアキャスティングでは過去・現在の情報を用いて単一の未来予測を行うが、バックキャスティングでは想定した未来から逆算して現在取るべき行動を探る。

玉木:中長期計画を立てるときは、過去の実績や現在のケーパビリティを基に未来を考えるケースが多いでしょう。経済が安定しているときは、フォアキャスティングという手法が非常に有効でした。
しかし、コロナやデジタルの進化といった要因により、明らかにこれまでとは異なる未来に進もうとしていることが予想されるときは、未来からバックキャストする手法を採ります。

Project Lotusによって生まれた横河電機が描く4つの世界

シナリオプランニングを用いて未来予測を行った結果、横河電機では2035年には以下の4つの未来シナリオが想定されるという結論に至った。

大内:この未来シナリオで重要なのが、「シナリオ軸」と呼んでいる縦と横の軸です。ここに書かれているのは、横河電機、または製造業の未来を大きく左右するような、不確実性の代表です。
まず縦軸の「デジタル基盤の構築」というのは、デジタル社会やデータ駆動型社会が大きく進展していく中で、その広がりが産業内に留まるのか、あるいは社会全体に行き渡るのかという切り口です。
横軸の「グリーン経済のパラダイム」というのは、経済の中心が地球環境重視にいくのか、経済重視でいくのかという切り口です。

2つの大きな切り口から生まれたのが「リジェネレーションの夜明け」「グリーン成長のジレンマ」「迷走と分断」そして「日々是イノベーション」という4つのシナリオだった。それぞれのシナリオについても、大内氏に簡単にご説明いただいた。

大内:「リジェネレーションの夜明け」は、社会が地球環境重視に向かい、デジタル基盤の構築が進むような世界観になっています。両者のつながりがデータ連携を起こし、サーキュラーエコノミー(循環型経済)が進展します。「リジェネレーション」という、サスティナビリティのさらに先を行くような、再生循環が始まる世界です。
「グリーン成長のジレンマ」では、ESG投資などが経済の土台になっていきます。しかしその中でデータ活用が企業の競争力の源泉として囲い込まれてしまい、なかなか社会全体で連携できず、コレクティブインパクトが阻害されてしまうジレンマを抱えています。
「迷走と分断」の世界では、環境規制が厳しくなっていきます。その中で事業継続が難しくなる企業も出てくるため、経済が停滞。現実的に利益を追求する企業と、環境を保全したい企業の両極端な対立が進みます。そのためお互いにビジョンを共有できない、同じ目標に向かって一緒に走れない世界です。
最後の「日々是イノベーション」は、テクノロジーがどんどんイノベーションを引き起こすような社会になります。しかし、必ずしもそれは環境を重視したものではないという世界です。
以上のような各シナリオの世界観を、STEEPのフレームワークで分析も行いました。

2035年未来シナリオを活用した企業変革推進までの手順

未来シナリオを描く上で重要なのは、どのような未来を描いたのかという結果そのものよりも、どのようにしてその未来を想像したのかという、シナリオプランニングのプロセスだ。
ここからは、横河電機がProject Lotusにおいてどのようなステップでシナリオプランニングを進めたのか、大きく計画フェーズと実行フェーズに分けて要点を抜粋しながら見ていく。

【計画フェーズ】「未来のために」を合言葉に経営層から若手メンバーまで巻き込み

長期的かつ自由に考えるため、2035年をタイムホライゾンとして設定

信澤:かなり細かいステップだったそうですが、計画フェーズとしては5段階。課題の要件定義から入り、プロジェクト設計をした上で経営を巻き込んでコンセンサスを取り、その上でプロジェクトメンバーの人選を行い、ようやくチームビルディングを完成させていくという流れですね。
まずは計画フェーズに触れたいと思いますが、要件定義においてはどういった部分がポイントになったのでしょうか。

玉木:長期的なことを考えますので、15年後までにどの程度事業を拡大できているのかを仮置きし、今の主力事業のスコープを拡大解釈してシナリオのテーマを決めました。2035年に設定したのは、2030年だと少し手前すぎるからです。自由に未来を考えられるようにしました。
また、長年の蓄積がある伝統的な事業でしっかりと生産性や効率性を高めながら、変わりゆく世界に対していかに組織横串で創造的な機能を作っていくのか。ここをプランニングしながら実装していきたいと考えました。

経営・ミドル層との間で「未来の人財育成」というもう一つのゴールを共有

プロジェクト設計においては、「学習意欲や成長ポテンシャルの高いメンバーを選出したのが大事なポイントだった」と語る玉木氏。さらにHR主導ではありながら、研修レベルではなく経営企画レベルの結果を追求し、そのうえで自由度を重視したという。ここには当然、人財育成の意図がある。

信澤:プロジェクト設計を踏まえて、次は経営とのコンセンサスを取ったということですが、次世代の若手を巻き込む意味を、経営陣と対話して納得・確信に変えていくプロセスがあったのではと思います。

玉木:ここは非常に大事なところで苦労をしましたが、未来の人財を育てたいというトップの意志を私自身も確認したかったんです。プロジェクトの説明を聞いて皆さん最初はびっくりしていましたが、「やってみよう」ということになり、経営陣からもさまざまなアイディアが出て助かりました。

その後、実際に今活躍する若手をプロジェクトに巻き込むことについて、ミドル層と話し合ったという。

玉木:実際、若手にはこのプロジェクトに30%ほどの工数を掛けてもらいました。直属のライン長からしてみると「何をしてくれているんだ」という思いもあったでしょうが、少し先の自分たちの未来を作るためということで、快く合意いただけました。

【実行フェーズ】社長の視座で世界を俯瞰し、問い続けた数ヶ月

69冊の課題図書を読み込み、毎月2回ディスカッションを実施

長期視点で事業を、ひいては会社の将来を考えるという大目標を合言葉として、全社的にプロジェクトに対するコンセンサスを得た玉木氏。経営層や各事業部の価値観ややりたいことも吸い上げながら協力体制を築き、いよいよ実行フェーズに移ったという。
ここからは、実際にシナリオプランニングを実施した大内氏にお話を伺った。

信澤:まずは外部環境分析から入ったということですが、通常ならメガトレンドを参考にしながら自社内で議論をしたり、コンサルファームにデータを出してもらうようなことが多いと思います。横河電機さんはどのような取り組みをしたのでしょうか。

大内:まずは、玉木さんが選んだ膨大な課題図書の読み込みをしました。

信澤:スライドには69冊とありますね。

大内:読書は継続中で、今も課題図書はどんどん増えています。書籍や専門レポートを読み込んで、本当のメガトレンドや世の中の変化を、自分たちの中に落とし込むところからスタートしました。

外部環境分析には3ヶ月かけ、月2回、丸一日かけてディスカッションを行っていたという。若手社員の貴重なリソースをしっかりと本プロジェクトに費やせたのは、計画フェーズにおいて玉木氏の精力的な根回しがあったからこそだろう。

信澤:推進ポイントに「感性と思考を駆使し、自ら問い、メタ認知力を高める」とありますが、これはどのような思考方法だったのでしょうか?

大内:今はアウトサイドインが大切なことだと言われていますよね。SDGsもこの考え方から来ています。その中で言われたのが、とにかく社長の視座になって考えるということです。自分のやっている事業のことだけではなく、社会や産業、世界がどう変わっていくのかを考える上では、この「社長の視座」が一番ポイントだったと思います。

視座を高く持ちながら、グラレコによるビジュアル化や、マインドマップなどを用いて整理・分析が進められたのも、横河電機におけるシナリオプランニングの特徴的な部分だ。

フォアキャスティングに陥らないようシナリオ検証を繰り返した

自分たちで洗い出した数千以上もの項目に優先順位を付け、さらに因果関係を紐解く作業を経てたどり着いたのが、前述で紹介いただいた「グリーン経済のパラダイム」と「デジタル基盤の構築」というキーワードだった。
描くべき未来像の形が見えてきたところで、ようやくシナリオ作成に入ったという。

信澤:社内だけで議論をしていると、シナリオ作成の部分で結局フォアキャスティングになりがちだと思うのですが、注意したポイントはありますか?

大内:社外との対話を大切にしましたし、自分たちの考えたシナリオを仮説として、検証を何度も行いました。

信澤:存在意義(パーパス)を問い直して紐付けていく段階で、社長も関わったそうですね。

大内:はい、社長と対話する機会を得て、若い私たちが社会や世界をどういう風に見ていて、どんな思いを持っているのかを聞いていただけました。

社内外を行き来しながらシナリオをじっくり検証し、問い続けた結果完成したのが、4つのシナリオだ。プロジェクトは一旦クローズされたが、シナリオ活用に向けた次なる動きはすでに始まっているという。

玉木:経営会議を通して、シナリオを基にした未来共創的な活動や社会課題の解決に向けたアクティビティの実施に関して同意を得ました。若手主体の対外活動や社内のコラボレーションを今まさに始めたところです。

シナリオプランニングのよくあるケースと横河電機の比較

ウェビナーでは、横河電機によるシナリオプランニングのプロセスを参考に、シナリオプランニングを用いようとした企業が一般的に陥りがちなケースと比較して違いを分析した。

信澤:よくあるのが、経営幹部や外部のコンサルタントが取り組むケースだと思います。一方横河電機さんの場合は、次世代を担う若手の皆さんが、社外の経営者や有識者と対話しながら事業機会を描いていったということでした。

社内の経営陣のみでシナリオプランニングを描いたとしても、それは単なる経営戦略的なシナリオに留まってしまう。一方、社内外と共創しながら未来のストーリーを一つひとつ丁寧に描いていくと、Beyond SDGsの世界観を示すシナリオができあがり、グローバルレベルで対等なディスカッションが可能になる。

真に活用できる未来シナリオを創り上げるのであれば、まずは「誰が」の部分にこだわって進めていきたいところだ。

2035年未来シナリオを活用した企業変革推進の3つのポイント

最後に、横河電機の事例から未来シナリオを活用した企業変革推進のポイントを3つ抽出した。

信澤:何回もおっしゃっていただいたように、外部との対話は本当に重要だなと思いました。対話と問いかけを繰り返すことで自分たちの納得度も高まっていくでしょうし、そこからバックキャスティングを描くことができます。
また、次世代を担う若者たちがプロジェクトに参画すると、シナリオをしっかり事業部に持ち帰って、自社の事業やサービスにも活かすことができます。こういった動き自体をマネジメントがサポートするのもポイントですね。
そして最後に挙げたのが「繋がりの化学反応」ということですが、社内だけではなく、社外も積極的に巻き込んで取り組みを継続するというのがポイントになりそうです。

シナリオプランニングによる企業変革推進まとめ

今回のウェビナーのポイントを、「この後すぐに取り組んでいただきたいこと」として以下の3点にまとめた。

今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。シナリオプランニングにご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
横河電機に学ぶBeyondSDGs ―2035年シナリオプランニングによる企業変革推進の裏側とは?―
本ホワイトペーパーは、2021年4月23日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。独自の2035年シナリオプランニングが注目を集めている横河電機株式会社の未来共創イニシアチブ 玉木氏らのご推進経験を元に、予測不可能な現代において数十年先の未来を描くためのシナリオプランニングの構築ステップについてご紹介しております。