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【イベントレポート】無印良品OMO推進者の事例に学ぶ ―小売業のDX推進を成功に導く組織体制と役割とは?―

D2C・EC強化

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

2021年2月24日は、EC推進などに壁を感じているというマーケティング及びDX推進責任者の皆様に向けて、事例を基にOMOやデジタルマーケティングを成功に導くためのロードマップをご紹介いたしました。
今回ご登壇いただいたのは、無印良品の「MUJI passport」プロジェクトを主導した風間氏。
OMO推進におけるTipsも満載なので、自社の戦略のヒントにしてみてください。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

風間 公太氏

風間 公太氏

「MUJI passport」立ち上げなど無印良品のOMOを推進した立役者
企業SNS黎明期から無印良品のSNSアカウント運用、MUJI passport企画開発など複数のPJを主導し、同社を2017年デジタルマーケティング成功企業1位への道に導いた立役者の一人。現在はOMO/DX推進支援や、企業SNSアカウント運用支援などで活躍中。

佐々木 博明氏

佐々木 博明

株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部
エンタープライズ推進チーム

ディー・エヌ・エー、リクルート、ビズリーチにてWebマーケティングや新規事業立ち上げなど幅広く担当。その後、PERSOL INNOVATION FUND合同会社でHRTech企業への投資案件やM&A業務に従事。サーキュレーション入社後は大手企業様へのDXや新規事業の支援に従事。製造業・流通業・通信など幅広い業界に対して、DX推進に必要なマーケティング・セールス・ECの戦略立案、業務・システム改革、組織改革などのコンサルティング実績を持つ。

新井 みゆ

新井 みゆ

イベント企画・記事編集
新卒で入社した信託銀行では資産管理業務・法人営業・ファンド組成の企画業務に従事。「知のめぐりを良くする」というサーキュレーションのミッションに共感し参画。約1500名のプロ人材の経験知見のアセスメント経験を活かし、サービスブランディング、イベント企画等オンライン/オフラインを融合させた各種マーケティング業務を推進。

※プロフィール情報は2021/2/24時点のものになります。

コロナ禍におけるBtoCビジネスで重要なOMO施策

OMOの定義とは?O2O、オムニチャネルとの違いは「顧客視点」

そもそもOMOとは「Online Merges with offline」の略称で、近年注目されているマーケティング用語だ。文字通りオンライン・オフラインをマージ(融合)させるという意味を持つ。
より具体的に表現すると、OMOとは「オンライン・オフラインのデータを最大活用して、オムニチャネルを行うこと」と定義できる。ただ、オンラインとオフラインの融合という意味ではO2O(Online to Offline)という概念もあり、意味を混同してしまう人も多いかもしれない。O2Oもまた、オンラインとオフラインを連携し、顧客の購買行動を促進する施策を指すからだ。

改めてOMOとO2O、そしてオムニチャネルという3つの言葉の意味を整理すると、以下のようになる。

まずO2Oを理解するための最大のポイントは、あくまでオンラインとオフラインをつないだ「集客手段」であるということ。オムニチャネルは、「商品視点」でプロモーションの最適な方法を探る考え方だ。一方、OMOにおいては「顧客視点」が最も重要で、ユーザーの声を聞いて反映しながらCXの最大化、PDCAの高速化を図ることとなる。ここにオンラインとオフラインの垣根は存在しない。
OMOについて考える際は、まずはこれらの用語の違いについてしっかり押さえておきたい。

OMO領域は日本国内において強いニーズがあると推測される

では、現在OMOはマーケティングの中でどのような立ち位置にあるのだろうか。ここで一つ注目すべきは、現在コロナの影響で店舗の売上が減少傾向にあること。2021年3月時点で、実店舗売上額は対前年実績の55.1%にまで減っている。

この減少傾向に伴うオンライン活用の重要性は無視できない。実際に、オムニチャネルコマース市場規模は2025年には2019年度比の1.4倍にまで成長する見込みがある。
ただしオンラインの隆盛によって実店舗のニーズがゼロになるかと言えばそうではなく、直接商品に触れたり、試してから購入したいというニーズは今なお高い。

したがって、オンライン・オフラインの顧客ニーズを拾い上げながら上手く双方を組み合わせ、シームレスな購買体験を構築するのが肝要だと考えられる。

OMO思考で、どんなマーケティングを実施するのか。ここがコロナ時代を生き抜く鍵となるだろう。

【事例】無印良品の「MUJI passport」で実践したOMO施策の裏側

本ウェビナーにご登壇いただいた風間氏は、SNS黎明期から一貫して無印良品のマーケティングを主導してきた人物だ。その中で今回ご紹介いただくのがMUJI passportの事例。アプリをダウンロードし、無印良品の商品の購買やサービス利用することで「MUJIマイル」が貯まる本サービスがリリースされたのは、2013年にまで遡る。
アプリとしてはすでに老舗的な存在とも言えるMUJI passportは、どのような目的を持って、どのように開発・運用されてきたのだろうか。ここに隠されているOMO成功のヒントについて、たっぷり伺った。

店舗とWebをつなぎ、顧客像を明確化したMUJI passport

アプリでファンと横断的なコミュニケーションを取りLTVを向上

2013年時点では、「OMOというよりオムニチャネルの具現化の一つの形がMUJI passportだった」と語る風間氏。リアル店舗を展開している無印良品は、「テクノロジーを用いていかにリアル店舗の購買体験を向上させるか」に主眼を置いていたのだ。
その前提で、MUJI passportが作られた目的は「Web・リアルを横断したファンとのコミュニケーション」「持続的な来店客数増→売上増」そして「マーケティング施策効果の可視化」だった。特に一つ目の目的について、風間氏は以下ように述べる。

風間:それまでの無印良品はECサイトではお客様の購買やWebでの行動を把握できていました。一方リアル店舗においてはいわゆる会員カードのようなメンバーシップ制度がなく、Webで商品を購入したお客様が店舗ではどんな商品を買っているのか、横断的に把握できませんでした。

「何が売れているかはわかっても、誰が買っているのかわからない状態だった」そう。Webとリアル、双方の顧客像を明確化するために導入されたのが、MUJI passportだったのだ。
また、「持続的な来店客数増→売上増」という部分では、長期的なLTV(Life Time Value)、すなわち顧客生涯価値を見ることを重視したという。

風間:来店頻度が上がったことで一回あたりの買物金額が減ったとしても、LTVで見れば増えている。こういった発想に変えていきました。

成功要因の一つは、財務負担の少ないポイントプログラムの導入

2020年8月末時点で、MUJI passportのアプリダウンロード数は各国の累計が4937万DL。日本だけでも2111万DLを誇る。
この成功のポイントはいくつかあり、例えばダウンロード後に即利用可能なUI設計であること、横断型組織によるプロジェクト進行(後述)が行われたことなどが挙げられる。
そしてもう一つ重要なのが、財務負担の少ないポイントプログラムの導入だ。

佐々木:ポイントについてはどうやって減価償却するのかといった話があり、社内調整にご苦労されたかと思います。このあたりはどのように進めたのでしょうか?

風間:企業側にとってポイントの財務負担はかなり大きく、それが年間どれほどになるか読めないものです。特に、よほど大規模な小売業でない限り、買い物をして即ポイントが得られて現金のように使えるプログラムは非常に財務負担がかかります。
その中でMUJI passportが採用したのが、マイルシステムです。購入や行動をマイルに換算し、それがある程度貯まった時点でポイントとして使えるようになり、マイル自体は1年ごとにリセットされる仕組みです。

貯めたマイル数に応じて会員ステージが変わり、もらえるポイント数も変化するMUJI passportのマイルシステム。2段階構造にしたことで、企業のポイント負担を押さえることができたという。さらに、ポイント運用において助けとなったのが、ECサイトで培ったノウハウだった。

風間:ECでもポイントをキャンペーン的に使っており、一定のロイヤルティを持つお客様に対して、どの程度のポイントを出せばどの程度の購買をしてもらえるのか、ある程度知見がありました。500ポイントを渡したときに500円分しか買わないかというと、そうではないということです。こういった経験も踏まえてポイント設計ができたのは大きかったですね。

MUJI passportの要となった「巻き込み型」のプロジェクト体制

オンラインとオフラインを横断するOMOを推進するときに重要なのが、組織設計だ。あらゆる部署が関わる中では、社内合意を取るのも苦労が伴う。
MUJI passportにおいても、「経営層に対してデジタル施策の価値を理解してもらうのは難しかった」と風間氏。

風間:とはいえ、これまで数多くのマーケティング施策を行う中で、我々デジタルチームは「ある程度企画が固まってから巻き込んだのでは現場の声が反映できないし、現場に自分ごと化してもらえない」と学んでいました。
ですからMUJI passportのような店舗も巻き込んだ大きな施策となれば、やはりキーとなる部署は最初から巻き込んだほうがスムーズにいくだろうと考え、そのような体制を構築しました。

佐々木:マーケティングとITがチームを組んだり、社内でOMOの理解が高い人をアサインしたりするのもポイントですね。多部署を組み合わせて体制を作っていくのが肝になるのだと思いました。

OMO戦略を推進する上で最も重要なのはロードマップの最初のフェーズ

企画の初期段階から、さまざまな部署を巻き込んだ体制を構築した風間氏。実際にMUJI passportのプロジェクトを進めるにあたっては、4つのフェーズによるロードマップがあるとご説明いただいた。

風間:特に最初の理想を描くという部分で、自分たちがどうありたいか、そしてどんな顧客像を大事にしたいのかを言語化するのが、こういったプロジェクトを進める上では非常に大事だと思います。理想ありきで社内理解の醸成や、実際のアプリ開発などの要件定義に進んでいく。一番の拠り所になるのが最初のフェーズかなと思いますね。

佐々木:最初にきちんとカスタマーが見えていれば、その後が描きやすいんですね。

失敗しないOMO推進体制の作り方

デジタル部分よりも先に顧客戦略・顧客価値設定を固めること

実際にOMOを推進しようと思っても、プロジェクト設計の段階で躓いてしまうケースは少なくないだろう。今回は風間氏が実際の支援事例の中で行った事例を基に、プロジェクト設計のポイントも教えていただいた。

風間:OMOのような取り組みを進めるにあたって多いのが、図の真ん中にあるデータシステム設計から着手しようとするパターンです。

風間:アプリや顧客IDを統合するようなデータ基盤の開発はもちろんやらなければいけないのですが、やはり先ほどもお話した通り、企業として何のためにそれをやるのか、それがお客様に何をもたらすのかという点をしっかり定めておくのが重要です。図にあるような、顧客戦略設定と顧客価値設定という部分ですね。ここがブレると後々迷走することがありますから、しっかり時間をかけて、関係者を巻き込みながら決めていくことが多いです。

企業が顧客に提供できる価値の言語化がOMOに直接結び付く

「顧客価値」、いわゆるカスタマーバリューは、顧客が商品やサービスを利用することで得られる体験や意義を指す言葉で、顧客と企業の関係性を高めるためには欠かせない要素だ。
風間氏は、OMOで実現したいことは、すなわち顧客価値の具現化であるとしている。

風間:以下は、私がご支援している企業で設定した顧客価値の例です。

風間:顧客価値を決めていくときに、このピラミッドの上に行けば行くほどつながりが強いことを示します。「つながっていることの価値」を顧客接点で考えると、この企業の場合はLINEというモバイルアプリを中心としたコミュニケーションが軸になります。
機能価値や体験価値なども含め、企業がお客様に物事を提供する上で何が価値につながるのかを、改めて言語化しながら考えるのが重要です。

佐々木:そういう意味ではWebサイトやサービスの機能、最近はSNSも大切ですね。

風間:最近は機能面において企業ごとの大きな違いはなくなってきている気がします。我々がMUJI passportを作ったときに比べると、アプリを作るための投資費用や開発期間は圧倒的に低く、短くなっている。
コストが下がっている時代なので、機能的な価値よりも顧客体験を向上させるのがもちろん大切です。そこにさらに情緒的価値を加えて、体験がお客様に何をもたらすのかを考える必要性も増しているように感じます。

外部人材を適宜活用しながらプロジェクトの構成要因を編成する

ディスカッションでは、組織体制の具体的な組み上げ方についても紹介していただいた。風間氏は「全体像の中で一番の肝になるのはプロジェクト責任者レイヤーの方々」と述べる。

風間:部長クラスの方が現場も経営層も見つつ立ち回っていただけるかどうかは大きいです。
あとは、OMOを経営課題として取り上げるのであれば、マーケ部署だけではなく経営企画のような部署が主導したほうが、いろいろな部署を横断して巻き込んでスムーズに進めやすくなりますね。

さまざまな領域の知見を必要とするプロジェクトにおいて一つのポイントになるのが、外部人材の活用だ。
部長クラスのロールをサポートするという意味では、外部の専門家に伴走してもらうことを検討する必要もある。

佐々木:ベンダーも含めて使うケースがあると思いますが、どんな感じで活かすのが一番良いのでしょうか。

風間:私がご支援で関わらせていただく場合は、以下の図の濃い赤やピンクのところで外部人材を活用されているケースが多い気がします。

風間:例えば一番中心となるプロジェクトマネージャーの方は、社内の部署をまとめて動かしていくという意味では社内に必要なのですが、プロジェクトではどうしてもシステムやアプリ開発の面で外部人材が増えてきます。そういった方たちも含めた全体のプロジェクトマネジメントを行う意味で外部人材を活用すると、プロジェクトがスムーズに進められると思います。
あとは、フェーズごとにスポットで活用したほうが良い外部人材もいますね。例えばリサーチなんかは、事業会社の中だけでやろうとするとなかなか難しいものです。あとは全体のシステム構造を考えるようなテクノロジストの方がいると、テクニカルな部分で横串を通してくれます。

佐々木:薄いピンクの部分は自社と外部を組み合わせるということだと思いますが、プロジェクトマネージャーやマーケティングストラテジストは、上手く共存できるのでしょうか?

風間:可能ですね。役割、もしくはフェーズによって共存していく方法があると思います。こういったプロジェクトを始めるときはスタート時に重いタスクが多くなりますが、社内に経験者がいれば当然そういう方が中心に立てばいいと思います。しかし初めてOMOに取り組む、デジタルを活用するといったときは、どうしても社内だけではまかないきれない知見が出てきます。そういうときに、最初の戦略を作る部分は専門家に並走してもらうといったことができますね。
表の中で言うと、CRMプランナーもそうです。CRMに終わりはありませんが、100%外部を使い続けるのはコスト面や顧客理解を深める上で不利になるので、最初の設計だけ外部人材に併走してもらい、徐々に事業会社の中で役割を持つという流れもあると思います。

OMO推進まとめ

今回のウェビナーの内容を以下の3点にまとめた。

今回ご紹介したウェビナー資料のダイジェスト版を以下のボタンからDLできます。新規事業開発にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
無印良品OMO推進者の事例に学ぶ ―小売業のDX推進を成功に導く組織体制と役割とは?―
本ホワイトペーパーは、2021年2月24日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。「MUJI passport」を主導し、2017年デジタルマーケティング成功企業1位への道に導いた立役者の一人である風間氏の経験をもとに、OMOやデジタルマーケティングの真髄、成功までの具体的なロードマップをご紹介しています。