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【イベントレポート】ファミマのデジタル新規事業 ―DX責任者必見、CRM戦略による顧客データ活用からデジタルビジネス開発の裏側と成功の秘訣―

D2C・EC強化

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

2021年4月14日は、DX推進責任者や新規事業開発責任者の皆様に向けて、成功するデジタルビジネス開発の秘訣をお伝えいたしました。
今回ご登壇いただいたのは、ファミマDXの立役者であり、データ活用のプロでもある井上氏。
ファミマの事例をもとにCRM戦略やデジタルビジネス開発を成功させるポイントを詳しくご紹介いただいています。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

井上 博之氏

井上 博之氏

ファミマのデジタルビジネス開発の立役者
ローソン、ローソンからの出向先日本郵政グループを経て、ファミリーマートにジョイン。ローソンではMACHI CAFEを企画販売。日本郵政では社長特命で新規事業開発のために出向し金融業では前例のなかった新規物販ビジネスを構築し開始し、大幅な売上増にいたる。現在在籍中のファミリーマートでは、CVSのエキスパートとして、デジタルマーケティング戦略の実行フェーズを主導し、DXに貢献。2020年より、ファミマ・NTTドコモ・サイバー・伊藤忠が手掛ける新デジタル広告企業データ・ワンの取締役としても新規デジタル広告のモデルを推進中。2021年3月よりファミリーマート執行役員。

樋口 達也氏

樋口 達也

株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部マネジャー
金融コンサルティング企業を経て、サーキュレーションへ入社。製造業界を担当するセクションの責任者を務め、自らもB2Cのコマース領域を中心にプロシェアリングコンサルタントとして、100件以上のプロジェクトを担当。特に、(株)ユーグレナグループのD2C企業への支援では、経営者の戦略パートナーとして、社員ゼロ30名全員が業務委託のプロ人材という革新的な経営スタイルの実現に貢献。

花園 絵理香

花園 絵理香

イベント企画・記事編集
新卒で入社した大手製造メーカーにて秘書業務に従事。その後、医療系人材会社にて両手型の営業を担当し全社MVPを獲得、人事部中途採用に抜擢され母集団形成からクロージング面談まで幅広く実務を経験。サーキュレーションでは、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とビジュアルに強いコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。

※プロフィール情報は2021/4/14時点のものになります。

企業のDX推進において顧客データが最重要な理由とは?

顧客データの活用は変化の激しい世の中で企業が成長するための要

DX推進の切り口はさまざまで、その裾野も広い。自社の業務効率化のためにデジタルを活かす方向もあれば、商品・サービスとテクノロジーを組み合わせることもできる。
その中で一つ注目したいのが、国内のデータ活用状況だ。日常業務や未来の業務戦略にデータを活用している企業は、活用していない企業に比べると数十パーセント以上の好業績を出している。

「データ」と漠然と言われると明確なイメージが湧きづらいが、多くの企業にとって欠かせないのは顧客データの存在だ。企業成長においては顧客理解や顧客体験(UX)の最適化が必須だが、担当者の勘や経験だけで事業を推進すると、見当違いなマーケティング施策になりかねない。市場の変化にも対応しづらくなるだろう。

こういった懸念をカバーするには、顧客データを最大限活用し、正確な意思決定を行う必要があると考えられる。

フェーズを問わず、データ活用によってビジネスチャンスが生まれる

データ活用は、まず「既存事業」「新規事業」の2つの領域に分類できる。既存事業ならマーケティング施策への活用や顧客分析などがメインになるし、新規事業であればデータサービスの開発やデータそのものの取引が想定できる。

データ活用によって既存ビジネスの売上向上を図り、さらにデータそのものを組み込んだ新規ビジネスの開発を行う。DX推進においては、これが一つの定形とも言えるだろう。

【フェーズ1】ファミマのCRM戦略における顧客データ活用の裏側

さて、今回ご登壇いただいたのは、ファミマでデジタルマーケティング戦略を続けてきた井上氏だ。ファミマ自体は2020年からDX戦略推進を強化しており、中核に決済アプリ「ファミペイ」を据えている。

時代の先端を走るファミマの顧客データ活用の動きを振り返ってみると、スタート時点は2007年のTポイントの活用開始にまで遡る。今回は当時から現在までのフェーズを「CRM戦略」と「デジタル新規事業」の2に分け、ファミリーマートがどのように顧客データを活用してきたのか、井上氏にじっくり伺った。

ファミマの顧客データを活用したCRM推進のロードマップ

ファミマがCRM戦略として実行したのは、大きく以下の3つのテーマだ。会員数拡大のためにTポイントの活用を開始し、1to1マーケティング実現のためにID_POS連携をスタート。さらに、顧客の声による商品開発を行うために、ID昨日で会員アンケートを開始した。
のべ10年にわたる取り組みについて、一つひとつ見ていく。

会員数2000万人を誇るTポイントを活用し会員数を拡大

新規事業開発を行う上で井上氏が最も大切にしているのは、「目的を忘れないこと」と「現場主義」だそう。特に前者は今回のウェビナーでは大きなキーワードとなる。実際、ファミマのCRM戦略最初の一歩においても、井上氏は「何度も目的を履き違えそうになった」と語る。

井上:ここで陥りやすいのが、とにかく会員数を増やすことが目的になってしまうという点です。進捗管理をするにしても、「先週は何人」「今週は何人」という部分だけフォーカスされますが、そもそも会員数を増やした先にある最終目標は、多くのお客様に来店していただくことです。ここを忘れずに会員数を増やしていったのが一番のポイントですね。

店舗集客の拡大とロイヤルカスタマーの育成を目指して導入されたのが、Tポイントの自社クレジットへの導入だった。その後、クレジット機能なしの会員カードの発行に至っている。
ファミマはこの施策によって、Tポイントが擁する2000万人の会員獲得に成功した。

ID_POS連携によって1on1マーケティングを実施

会員拡大に成功したファミマが次に着手したのが、1to1マーケティングの実現だ。これは文字通り、顧客一人ひとりに最適化されたマーケティングを行う手法を指す。
ここに移行しようとした背景にあるのが、これまでのファミマのデータ活用の状況だった。従来はPOSデータのみしか取得できず、特定の商品の購入状況しかわからなかった。

井上:POSデータのみでは、どのお客様がどんな目的で商品を買ったのかが全く見えてきませんでした。その結果、北海道から沖縄まで、全国の店舗が同じマーケティング戦略で進んでいたのですが、各地域の特徴を無視して商売をしても、東京以外のエリアでは通用しないことが個別の検証でもわかっていました。
今後はお客様に寄り添っていくためにも、IDを利用して販売や品揃えに活かしていきたいと思ったのが、2015年からのCRM戦略の根幹です。

そこでファミマは、TポイントのPOS連携を行うことで、最小コストでID_POS連携を実現。顧客の購買データを基に、個別の割引クーポンの発行や、Tポイント加盟店同士の相互送客などの販売施策を推進していった。

会員アンケートを用いながら商品開発・改善をスタート

CRM戦略の最終段階で行われたのが、ID機能を利用した会員アンケートによる、定性・定量を加味した商品開発体制の構築だ。

井上:定量データだけでは顧客の真の購買目的や商品評価はわからないので、お客様への商品インタビューも実施しました。新商品や戦略上の重点商品に対してどこが良かったか悪かったか、どういうシーンで召し上がったのかなどをヒアリングし、その後の商品評価と改善につなげていきました。

樋口:1to1マーケティングにおいては何を買ったかだけではなく、その背景を聞くのが重要なんですね。

井上:この取り組みによって、当初の目論見より売れなかった商品がリメイクした瞬間売れるようになるなど、いろいろな成功事例もあります。

CMR戦略の推進によって見えてきた2つの課題

一見順調に推進されたように思われるファミマのCRM戦略だが、段々と見えてきた課題が大きく2つあったという。

樋口:一つが、他社との共通IDを使っていたためにデータ活用の自由度が制限されてしまったという点。もう一つが、購買データを収集できるお客様にしかアプローチできない、つまり間口が狭くなってしまうというところですね。
次のセクションでは、これらの課題を井上さんがどう解決していったのかご案内していきます。

【フェーズ2】デジタルCRM戦略からデジタル新規事業につなげたDX推進の裏側

「デジタル新規事業開発」の一貫として広告配信会社を設立

CRM戦略によって見えてきた課題を解決すべく、次なるフェーズで実施されたのがデジタル新規事業開発だ。ここでもやはり顧客データの活用がポイントとなる。具体的な施策として登場するのが、決済アプリ「ファミペイ」と広告配信会社「データ・ワン」の2つだ。

ファミペイはローンチから1ヶ月300万DLを突破したほど大きな反響を得たアプリで、ファミマTカードとの併用も可能となっている。
一方、データ・ワンに関してはその存在もよく知らないという方が多いはず。そこでフェーズ2の詳細をお伺いする前に、データ・ワンの概要についてご紹介いただいた。

1to1で効果的なデジタルマーケティングを行うデータ・ワン

データ・ワンはファミリーマート、伊藤忠商事、NTTドコモ、サイバーエージェントの4社が出資して2020年に設立された。「毎日のお買い物から1to1でフィットする広告」をキャッチフレーズとして掲げており、ファミリーマートをはじめとした店舗の購買データを用いて、顧客に対して個別の広告配信を行っている。

4社の協働について、井上氏は以下のように語る。

井上:デジタル広告の一番のメリットは、ユーザーをセグメントして、一番購入率の高いお客様に向けて配信できることだと感じていました。しかし、広告を視聴した方が実際に店舗で商品を購入したかどうかは、これまでオンラインとオフラインで分かれてしまっていたんです。

樋口:分断されていたイメージは強いですね。

井上:ここは最大の課題だと思っていたのですが、オンラインとオフラインをつなぐノウハウが無いので、なかなか我々だけでは解決できませんでした。データ・ワンの設立にあたっては4社が共同出資し、それぞれのスキームに対して特定の知見が高い方を集めてビジネスを構築しています。これはまさに始まったばかりの取り組みですね。

データ・ワンにより効率的なリピーター獲得施策を打ち出せるように

データ・ワンで新たに獲得したノウハウによって、実際にファミマが実施しているのがリピーター獲得施策だ。

井上:例えば、ある商品のターゲットが20~40代女性だとしたときに、ターゲットの中から過去に該当商品の購入履歴が合った方を、ファミマのID_POS購買データから抽出。その方たちに集中的にデジタル広告を打つ。これが一番リピート購入率の高かったやり方です。

樋口:いわゆる潜在リピーターと呼ばれるものでしょうか?

井上:そうですね。もう一つのやり方としては、同じターゲットで、対象購入履歴が無い方にも広告を打ちます。するとブランドが再想起されるため、「こんな商品が出たのか」と商品のトライアルが起こります。ヒットする情報が多ければ多いほど来店要因になりますから、そこを狙うということです。
これまではターゲットが20~40代女性でも、60代や10代の方にまで広告を打っていましたが、あまり反応はありませんでした。広告コストもかかっていましたから、極力ターゲットの方に寄せて広告を打ち、効率化を図ろうとしています。

樋口:1to1で必要な情報がどんどん提案される状態になっていきますね。

2つのデジタル新規事業がCRM戦略の課題を解決した道のり

では実際に、ファミペイとデータ・ワンがCRM戦略によって浮き彫りになった課題をどのように解決していったのか、それぞれ解説していく。

【ファミペイ】外部の知見を得ながら誰でも簡単に使えるUI/UXが完成

「データ活用の自由度向上」という目的でリリースされたファミペイ。Tポイントとの連携によって2000万人という巨大な会員を獲得することにはメリットを感じていた一方、井上氏は「自社できちんと購買データを取りたいという思いがあった」と語る。
これまでファミマに来店してもらえていなかった顧客を獲得するためにも、アプリは大きな武器だと感じていたという。

井上:アプリ開発プロジェクトは、実はマーケティング本部の中のアプリ勉強会からスタートしています。外部のプロ人材にも集まっていただいてUI/UXをどんどん組み上げていったのですが、これが今のファミペイの原点になりました。

樋口:私もファミペイは使うことがあるのですが、すごく使いやすいです。UI/UXにはかなりこだわったんですか?

井上:最初は自分たちだけでUI/UXを作りました。あれもこれもといろいろな機能を付けたのですが、一般のお客様に対してデモをしたら、最後までたどり着けた方が一人もおらずショックを受けて。
やはりきちんと専門分野をオーガナイズしていらっしゃる方にアドバイスをいただく必要があるだろうということで立ち上がったのが、アプリ勉強会なんです。コンセプトは「ファミペイ一発」ということで、トップ画面で全てが完結することを目指してスタートしました。

樋口:外部の知見を入れながら、最高のものを作っていったということなんですね。

井上:有効なリソースを上手く使い、最後はお客様にご評価いただくのが一番重要ですね。

共通IDから自社IDに切り替えることによって、目論見通りデータ活用の自由度は飛躍的に向上。課題の一つ目を見事クリアした。

【データ・ワン】SNS活用によって最大1億人の顧客にリーチ可能となった

もう一つの課題である「顧客接点の最大化」を達成するいとぐちになったのが、データ・ワンの設立だ。リピート施策についてはすでにご紹介した通りだが、データ・ワン設立の背景として大きかったのは、やはりこれまでファミマを利用したことがなかった顧客へのアプローチだ。

井上:データ・ワンを介することで、購買履歴の無いお客様にもアプローチできるようになりました。実際は不可能にしても、SNSを活用いただいている最大1億人のお客様にリーチできます。

樋口:過去に利用があってリピートしていなかったお客様に対しても情報を届けられるということですし、興味をどんどん促せる取り組みですね。

デジタルCRM戦略からデジタル新規事業を成功させた秘訣

ここまで、既存事業に対してCRM戦略を実施し、デジタル新規事業開発にまでつなげたファミマの15年の軌跡を追ってきた。
以下のようにロードマップを改めて一覧化して見ると、時々の目的・課題に応じて次々と新しい施策を的確に打ち出していることがわかる。

ここから見えてくるのは、CRM戦略によって顧客データを蓄積し、新たなマネタイズポイントを構築するという好循環だ。企業の成長戦略に対する顧客データの重要性は、もはや言うまでもない。

さて、2007年から2021年現在にまでファミマが実施してきた戦略の全てのプロセスにおいて、井上氏は以下の3つの視点が成功の秘訣であるとする。

まず、最終ゴールを忘れないことの大切さは本ウェビナーの中で井上氏が繰り返し述べていた通りだ。また、達成プロセスにおいては井上氏が重視する「現場主義」が必要になるという。

井上:開発は時間との勝負になるので、マスタースケジュールをどう見るかというスタート段階から、内々のメンバーだけで物事を決めてしまいやすくなります。しかし小売のCRMというものは、現場が使えてナンボです。必ず現場のメンバーを巻き込んで、現場中心で回していくことが大事だと思います。
現場は本当に好き勝手なことや無茶を言いますし、本音を言えば苛立つこともありますが、それこそが本当のCRMなのではと感じます。冷静に考えると、彼らの言っていることが正しい場面は多い。使えるシステムやCRMを開発するには、まず現場の意見を第一に聞かないと、全く的はずれなものが出来上がってしまいます。

自身で失敗経験を重ねたからこそ、現場を巻き込む大切さを実感されている井上氏。「現場の声を聞く」というのは、口で言うほど簡単ではないからこそ、ぜひ重視したいポイントだ。

最後の視点は「ブレない評価軸」。ここでもやはり重要なのは、最初の目的に立ち返ることだ。

井上:原点に戻るというのは、やはり検証の結果を見て冷静に判断することです。私自身も、検証には常にこだわるよう意識しています。

井上氏の経験上、「失敗したプロジェクトは絶対に3つのうちどれかが抜けていた」という。CRM戦略・デジタル新規事業に限らず、あらゆるプロジェクトにおいても、この3つの秘訣は胸に刻んでおきたい。

CRM戦略&デジタルビジネス開発まとめ

今回のウェビナーのポイントを、「明日からすぐに取り組んでいただきたいこと」として以下の3点にまとめた。

今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。CRM戦略やデジタルビジネス開発にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
ファミマのデジタル新規事業 ―DX責任者必見、CRM戦略による顧客データ活用からデジタルビジネス開発の裏側と成功の秘訣―
本ホワイトペーパーは、2021年4月14日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。ファミマDXの立役者であり、データ活用のプロでもある井上氏のご経験を元に、ファミマの事例を基にCRM戦略やデジタルビジネス開発を成功させる秘訣についてご紹介しています。