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【イベントレポート】DeNAx日産のMaaSへの挑戦 ―DeNAのCTOが語る、オープンイノベーション推進における技術提携の事例とは?―

新規事業開発

17,000名のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月6~8回のウェビナーを開催しております。

2021年3月25日は、他社と共創したいと思いつつ、具体的にどう進めていいか分からず悩んでいる新規事業推進責任者の皆様に向けて、ウェビナーを開催いたしました。
今回ご登壇いただいたのは、DeNAのCTOとしてこれまで様々な他社とのオープンイノベーションを推進してきた小林氏。小林氏が日産との共創プロジェクトを主導した事例とともに、オープンイノベーション型で新規事業を立ち上げるノウハウをご紹介いただいきました。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

小林 篤氏

小林 篤氏

株式会社ディー・エヌ・エー 常務執行役員CTO
法学部法律学科からエンジニアへ転身しDeNAに入社。Mobageおよび協業プラットフォームの大規模システム開発、オートモーティブ事業本部の開発責任者を歴任。2018年より執行役員としてDeNAのエンジニアリングの統括を務め、2019年より常務執行役員 CTOとしてより経営レベルでの意思決定、技術・モノづくりの強化を担う。

村田 拓紀氏

村田 拓紀

株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部
FLEXY部マネジャー

中古車のマーケットプレイスシェア首位の企業にて拠点責任者、営業戦略策定、メンバーの採用から育成まで幅広く従事。IT企業を経てサーキュレーションに参画。現在はIT戦略における中期ロードマップ策定、IT企画人材育成に向けた技術顧問活用プロジェクトなどDX推進に舵を切る多くの企業を支援。

新井 みゆ

新井 みゆ

イベント企画・記事編集
新卒で入社した信託銀行では資産管理業務・法人営業・ファンド組成の企画業務に従事。「知のめぐりを良くする」というサーキュレーションのミッションに共感し参画。約1500名のプロ人材の経験知見のアセスメント経験を活かし、サービスブランディング、イベント企画等オンライン/オフラインを融合させた各種マーケティング業務を推進。

オープンイノベーション型で新規事業を推進する必要性とは?

IT技術を駆使した新たなサービス開発は大きな期待値が見込まれる

「オープンイノベーション」とは、自社以外の異業種・他分野の企業・機関が持つノウハウを駆使して、全く新しいアイディアによるビジネスモデルの確立や製品開発を行うことだ。世界の大企業を中心に、オープンイノベーションの動きは年々活発になっている。

オープンイノベーションの概念自体は分野を限るものではないが、多くの場合IT技術の活用は欠かせない。
そこで国内のIT市場に目を移すと、コロナの影響で2020年は若干ダウントレンドになったものの、2021年はV字回復。2025年まで堅調に成長するだろうと見込まれている。また、AI、IoT、ブロックチェーンといった先進技術の市場成長予測も、かなり期待値が高いものになっている。

事業法人による投資状況と新規事業の隆盛に見る企業戦略の今後

また国内では、各社で新規事業の展開及び他社企業との協業が加速化していると推測される。例えば事業法人によるスタートアップ投資額が2019年は23.9%だったところ、2020年には30.5%まで増えている。

さらにスタートアップ企業の上場数は、毎年40~50社前後をマーク。上場するスタートアップ企業は全体の5%程度であることから考えると、毎年1000前後の新規事業が生まれている可能性がある。

以上のようなIT関連市場の拡大や、協業・新規事業創出の加速などのマクロ要因を考えると、どんな企業であってもオープンイノベーション型で新規事業を行い、自社にはないアイディアを創出していく動きが企業戦略として必要になってくると考えられる。

オープンイノベーション推進におけるCTOの役割と成功のポイント

今回ご登壇いただいた小林氏は、2011年からサーバーサイドエンジニアとしてDeNAにジョインし、大規模システムの開発やマネジメント業務を行うほか、大手企業と協業した新規事業の立ち上げやコンセプト中心のプロダクト開発をさまざま手掛けてきた。
2019年からは常務執行役員CTOとして、テクノロジーによる経営改善を担っている小林氏。今回は具体的事例もご紹介いただきながら、オープンイノベーション文脈におけるDX新規事業のポイントについて伺っていく。

CTOは技術とビジネスを融合させ、モチベーションの高い組織づくりを行う

ディスカッションで最初に探ったのは、そもそもCTOという立場にある方が、オープンイノベーションを推進するにあたってはどのような役割を持つのかという点だ。

小林:DeNAはもともとITに強い企業としてさまざま事業を起こしてきましたので、CTOは技術をコアにしながらビジネスを加速させていくことになります。そのとき会社としては事業戦略と技術戦略を融合させないと、きちんと事業を成長させられません。CTOとしては、この部分もしっかり見ていきます。
もう一つ重要なのが、事業を推進する上ではガワだけを作っても意味がないということです。事業の中で活躍するエンジニア組織をどう作るのかが大切なので、エンジニアが働きやすく、モチベーションを持って事業に取り組めるような共感を作るのが、私のミッションです。

「事業共感性」を高めるためには、「事業が何を誰に届けているのかを明確にすること」と語る小林氏。売上だけにとらわれず、事業そのものの意義を問うことが、新規事業には不可欠だ。

「誰に何を届けるのか」、コンセプトを明確にしたプロジェクト推進事例

今回、小林氏からはメインテーマであるDeNA×日産の事例の解説に先んじて、DeNAがオートモーティブ事業を推進する上で生まれたデザインオフィス「nendo」との取り組み「移動する遊具」について簡単に説明いただいた。
本事例は文字通り、遊具をイメージした自動運転の乗り物だ。小林氏はコンセプトについて、「自動運転のテクノロジーを活用して乗り物が公園を移動していき、楽しみを届けられたら面白いのではと思った」と語る。

小林氏がこういった事業立ち上げの際に重視しているのが、「コンセプト」「デザイン」「テクノロジー」の3軸だ。コンセプトによってDeNAが重視する「何を届けたいか」を明確にし、デザイン(UI/UX)を磨き込み、コンセプト・デザインを現実のものとして落とし込む仕組みとして、テクノロジーを活用するという。

小林:この3軸が整うことによって、きちんとした事業に向かっていけます。どれが欠けても、「誰にも何も届かない」ということになってしまいます。特にエンジニアはテクノロジー軸で考えすぎてコンセプトやデザインが不足しがちですが、3軸をバランス良く進めていくのが大事ですね。

【事例】日産×DeNAの無人運転車両を活用した新しい交通サービスの実証実験

「一般車両が走る公道」で実際のサービスを想定した実証実験で他社優位性を獲得

さて、実際にDeNAが日産と協業して立ち上げたのが、「Easy Ride®」だ。Easy Ride®が目指すのは、誰もが気軽にスマホで無人運転車両を配車し、自由に移動できる交通サービス。2018年に横浜のみなとみらいで実証実験を実施した。

「​Easy Ride®」は株式会社ディー・エヌ・エーと日産自動車株式会社の登録商標

村田:Easy Ride®は、出発地から目的地までの無人運転車両による移動を、テクノロジーを使うことで便利にしていくのがコンセプトだと思っています。
まず、今回の協業によってどういった結果が得られたのかお伺いできますか?

小林:現在の道路交通における法規制や道路事情も含め、無人運転車両でサービスを展開するうえでの課題や制限などがあります。これらについてどういった前提条件で事業を進めるべきなのか、またその条件をどう変えていくべきなのかという知見を実証実験で得られたと思っています。

実証実験をわずか1年で成功させた3ステップ

本事例は、事業推進のための協業の決定から実証実験までわずか約1年で進められた。「当初は2~3年かかってもおかしくないと思っていた」という小林氏。
ここからは、以下の3ステップをどのような着眼点を持って進めたのか、また立ちはだかった困難などについて伺っていく。

協業の決定と契約

もともと、日本がモビリティやMaaSの進化において遅れを取っていると感じていた小林氏。社会課題に対する危機感や、事業的なビジネスチャンスを感じてスタートしたのが本事業だった。

小林:ただ、DeNAはオートモーティブや自動車産業のビギナーです。IT企業としてモビリティの領域に入っていくことになった場合、やはり既存企業からすると「DeNAがどういう会社かよくわからない」と感じますし、協業を進めていく上でどういう役割分担にすればいいのか判断が難しい部分があります。そんな中で、今回の協業の決め手となったのがお互いの得意分野です。

小林:日産様は電動化、自動化に強みを持たれていますし、サービスという観点でDeNAはさまざまな取り組みを行っています。当社は「無人運転車両を活用したサービスの開発」という観点で強みが発揮できるだろうと考えました。
このようにお互いの強みを融合・発揮して進めるという考えでスムーズにコミュニケーションができたため、協業を決定できたのだと思っています。

企画設計~開発

次のステップは、プロジェクトの要である企画設計~開発だ。無人運転車両を自由に乗れるサービスとして展開するためには、数多くのタスクを並行してこなしていく必要があった。
無人運転という特性上発生する、技術面の準備や万が一の事故が起こった際の対応、そして実証実験を行うための行政との折衝など、どれも一筋縄ではいかないタスクが目立つが、協業という点で見逃せないのが双方の得意分野を並行開発したという点だ。

村田:これはお互いの領域には踏み込まず、得意分野にフォーカスして進めたということなのでしょうか?

小林:我々も自動運転技術そのものに対して「ここまではやれるようになってほしい」という要求は当然お伝えするのですが、現実問題としてどこまで到達できるのかは、餅は餅屋といった感じで、日産様にお任せしなければいけません。
サービスという観点ではDeNAが中心となって考え、無人運転車両を通してどんな体験をユーザーに提供するのかを決めていきました。実証実験でどういう結果を得るのかといった部分は、お互いにディスカッションしましたね。

テスト~実証実験

協業する強みを最大限発揮しながら企画・開発を進め、最終的にテスト~実証実験段階に入った小林氏。実施期間は2ヶ月とあるが、そのほとんどを事前のシミュレーションに費やしたという。

小林:不測の事態が起きたときにどうクリアするのかを考えました。例えば実証実験は1日のスケジュールの中で走行ルートを組むのですが、電気自動車なのでどのタイミングで充電するのか、車に不具合が発生したらどうするのか、車が戻る基地はどこに置くのかなど、本当に細かくシミュレーションする必要があるんです。想定通りに物事が運ぶように、さまざまなイレギュラーケースを含めてテストしていきました。

技術提携におけるオープンイノベーションで重要なのは「対等であること」

以上のような流れを踏まえ、日産との技術提携におけるオープンイノベーションには、以下のような3つのポイントがあったという。

1のお互いの得意領域をよく知り、活かすというポイントは、協業の決定や実際の企画・開発フェーズの随所に見られた。また、3の明確なゴールを設定しておくことは、全くの異業種同士が協業するからこそ特に重視すべきだと言える。
では、2の対等なパートナーであり、上下関係ではないというのはどういう意味なのか。小林氏は以下のように語る。

小林:パートナー企業といえども、会社の規模によっては上下関係になりがちです。その点、私自身はDeNAの中でいろいろな企業と協業させていただく中で、いつも担当者の方にフラットなパートナーとしてコミュニケーションを取っていただけているので、非常に恵まれているなと思います。
フラットだからこそ我々も相手も言いたいことを言えて、適切な議論を行えます。それが成功の鍵だと思っているので、対等なパートナーであることを意識するのは、かなり重要ですね。

DeNAが大手各社と数々のオープンイノベーションを手掛けた裏側

オープンイノベーションを実現させるロードマップ

ディスカッションでは、DeNAが他社とオープンイノベーションを推進するにあたってどのようなポイントを押さえながら意思決定を行っているのかについて、大きく3つのステップと6つの項目に分けてより詳しくご説明いただいた。

パートナーの見極め

最初のステップとなるのは、やはり実際に協業するパートナーの見極めだ。お互いに強みを発揮できるという条件はもちろんのこと、小林氏はそれ以外にも「適切なパートナーシップを構築できるか」という点が重要だとする。

小林:産業や事業規模といった要素も当然ありますが、お互いにパートナーシップを結んで適切なディスカッションができる、同じ目的を共有して一緒にやっていく姿勢を取っていただける企業様なのかどうかは、非常に重要です。
ここができない場合は、どんなにその事業や産業が魅力的でも、DeNAは協業しないという方針にしています。

村田:これは中長期的に見ると、パートナーシップを構築できるかどうかが最終的な事業インパクトを変える要因になるからですか?

小林:そう考えています。業界の2、3番手の企業だったとしても、その方々がDeNAと上手くコミュニケーションしていただけるのなら、「一緒にDXを進めて一気にトップに出よう」くらいの感じでやれればと思っています。

このほか、小林氏は「受託関係になってしまうと、言われていることをやる作業者になってしまい、お互いに努力してやっていこうとするパワーが生まれない」と述べる。
対等であるからこそ、オープンイノベーションへの期待値も最大限高めることができるのだろう。

業界を知る

次のステップとして小林氏が提示したのが、手掛けたい事業の業界を知るという項目だ。ここまでにご紹介した通り、DeNAはこれまでオートモーティブとは無縁の状態だった。協業とはいえ、自社がプロジェクトを推進していく以上業界知識を得るのは必須ではあるが、一口に「知る」と言ってもどのようなポイントがあるのだろうか。

小林:その業界として大切にしたいことや現状の課題、ほかのプレイヤーがどんな取り組みをしているのか、さらに海外にはどんな事例があるのかをきちんとリサーチして知っていくのがかなり重要です。自分たちが業界のプロフェッショナルになっていくのも一定必要ですね。

村田:ロードマップの中で面白いなと思ったのが、ビジネスアイディアを検証したら実際にPoCを行い、そこから初めて事業化の検討や戦略設計をするということです。

小林:やはり新しいチャレンジは、やってみないとわからないことが多いんです。冒頭に毎年1000社のスタートアップが現れて5%が上場するという話がありましたが、逆に言うと1000本のアイディアにチャレンジしたとしても、2、3本が良いものになればいいくらいなんです。
そこをいきなり、新しい分野で「自分たちの考えた最強のプロダクト」を作っても上手くいきません。だからこそPoCを行い、さまざまな仮説をもとに実験やユーザーインタビューを繰り返しながら作っていく必要があると思っています。

中長期で取り組む

最後のステップである中長期で取り組むという視点で登場するのが、複数のプロジェクトを走らせるという考え方だ。実際小林氏は、日産×DeNAの事例以外にもオートモーティブ分野で数多くのプロジェクトを走らせていたという。この意図はどこにあるのだろうか。

小林:大きな収益を得るようなプロダクトの開発は、深めのJカーブを取ることが往々にしてあります。大きな投資をして、5年後に巨大事業として収益を得るということですね。ただ、その間に何もやらないと初期投資額だけが大きくなってしまいます。
最終的な投資回収は目指しますが、本当にそこまで到達できるかはわからない。世の中の状況次第でJカーブがどんどんズレこんでしまうこともありえます。事業に安定的にチャレンジし続けるには、短期的にある程度の収益になり、なおかつ大きなプロジェクトに対してもシナジーを起こせるようなプロジェクトを少しずつスタートするのが重要なんです。

実際にEasy Ride®と平行して動いていた複数プロジェクトの例を記載したのが上記の図だ。複層的にサービスを展開していったという。

誰に何を言われてもゴールに向かって走り続ける胆力が必要

最後に、ここまでの内容を踏まえた上で小林氏が考える、オープンイノベーションの落とし穴についても教えていただいた。特にここでは、「未踏に踏み出す勇気と胆力」について注目したい。

小林:ふわっとしていますが、新しいチャレンジをするときは周りから「なんでそんなことやっているんだろう」とか「それは価値があるの?」という目で見られて、心が折れることがあるかもしれません。しかし、将来自動運転によって多くの人たちが移動に支障が無い世界を作りたいと思ったら、そこに対してモチベーションを持ち、意志を持ってしっかり進めていく精神がすごく重要です。

「オープンイノベーション」と言葉にするのは簡単だが、実際に当事者が行うのは未知なる領域への挑戦だ。全く新しい、社会を変えるようなイノベーションを起こすという大事業を成し遂げるには、リーダーはもちろん、メンバー一人ひとりにも強い意志が求められるのかもしれない。

オープンイノベーションまとめ

今回のウェビナーのポイントを「今すぐ取り組むべきToDoリスト」として以下にまとめた。

今回ご紹介したウェビナー資料のダイジェスト版を以下のボタンからDLできます。オープンイノベーションにご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
DeNAx日産のMaaSへの挑戦 ―DeNAのCTOが語る、オープンイノベーション推進における技術提携の事例とは?―
本ホワイトペーパーは、2021年3月25日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。DeNAのCTOとして様々なオープンイノベーションを推進してきた小林氏が、日産との共創プロジェクトを主導した事例をもとに、オープンイノベーション型で新規事業を立ち上げるノウハウについてご紹介しております。