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オープンイノベーションとは?定義やメリット・デメリット、日本の大手3社の事例を紹介

新規事業開発
オープンイノベーションとは?定義やメリット・デメリット、日本の大手3社の事例を紹介

インダストリー4.0のムーブメントが世界規模で進行するなか、オープンイノベーションのコンセプトが改めて注目を集めています。2003年にUCバークレービジネススクールのヘンリー・チェスブロー教授が提唱したオープンイノベーションは、これまでにインテルやIBMなどに採用され、大きな成果を上げてきました。

そして日本政府も、次世代の産業を生むエコシステムとしてオープンイノベーションに注目しています。オープンイノベーションとは何か、クローズドイノベーションとの違いは何か等々、事例を交えて解説します。

オープンイノベーションとは何か?

オープンイノベーション(Open innovation)は、2003年に現UCバークレービジネススクール教授のヘンリー・チェスブロー氏が提唱したコンセプトです。自らが発案したオープンイノベーションを、チェスブロー氏は「オープンイノベーションとは、目標達成のための知識のインフローとアウトフローを活用して内部のイノベーションを加速し、イノベーションそのものの外部活用によって市場を拡大することである」と定義しています。

ここでいうインフローとは、イノベーションを起こす外部からの知識や情報の社内への流入のことであり、アウトフローとは、イノベーションを起こす社内からの知識や情報の外部への流出のことです。つまり、オープンイノベーションのコンセプトでは、イノベーションを起こすための知識や情報に対する社内外の境界をなくし、自由に流出入させることで実際のイノベーションの創出を目指すのです。

オープンイノベーションとは対極に、知識や情報を社内にとどめ、社内のリソースだけでイノベーションを起こす企業を「クローズドカンパニー」(Closed company)と定義しています。そして、そのようなコンセプトを「クローズドイノベーション」(Closed innovation)とし、オープンイノベーションと対極のコンセプトであるとしています。

クローズドイノベーションとの違い

オープンイノベーションとクローズドイノベーションの違いには、どのようなものがあるでしょうか。

イノベーションは組織の境界を越えて存在すると考える

まずはマインド・考え方の違いです。クローズドイノベーションでは、イノベーションを生み出すのは自分たちであり、自分たちがやらねばならないと考えます。これに対し、オープンイノベーションでは、知識や情報などの良いものはどこにでもあり、社内外にこだわらずに自由に使うべきだと考えます。よって、オープンイノベーションではイノベーションの存在場所は組織の境界を超えて存在すると考える一方、クローズドイノベーションではイノベーションは社内に限定して存在すると考えます。

オープンイノベーションとOSSは同じ?

ところで、オープンイノベーションとオープンソースソフトウェア(OSS)とは同じなのでしょうか?オープンイノベーションとオープンソースソフトウェアとの違いについてチェスブロー氏は、両者は知識や情報を内外で自由にやり取りし、共有する点は共通しているとしています。一方で、オープンソースソフトウェアは多くの場合、ビジネスモデルが欠如していると指摘しています。オープンイノベーションでは通常、ビジネスモデルが産み出され、実際に市場へ投入されます。これが両者における大きな違いです。

日本の文部科学省も注目するオープンイノベーション

日本の文部科学省もオープンイノベーションに注目しています。文部科学省は平成29年版科学技術白書の中で、「イノベーションを巡るグローバルな競争が激化するなか、従来のクローズドイノベーションに代わり、組織外の知識や技術を積極的に取り込む『オープンイノベーション』が重要視され始めている」とし、我が国の産業界や教育研究機関が積極的にオープンイノベーションを導入することを提言しています。特にグローバルな競争が激化し、併せて製品ライフサイクルが軒並み短期化するなか、日本企業がオープンイノベーションを導入することなしに世界的な競争力を維持することは困難であると指摘しています。

オープンイノベーションのメリット・デメリット

ここでは、オープンイノベーションのメリットとデメリットについて見ていきます。

3つのメリット

1.事業推進のスピードアップ

新たに事業や研究開発を始める際、社内だけで進めようとするとリソースが足りない場合があります。
オープンイノベーションによって外部のリソースやマーケティング手法をフル活用することで、自社独自で扱える枠を越えた幅広い戦略が可能となります。
また、自社が苦手とするが協業相手が得意とするような特定の業務を任せたりすることも可能です。
そのため自社単独で開発するよりも単純に使用できるリソースが増え、自然と自社単独で行うよりも短期間で開発しやすくなります。結果、あらゆる面でのスピードアップが見込めるでしょう。

2.開発の削減

外部リソースを活用することで、新たな技術や知見、そしてそれらを有する外部人材や設備を活用できることにより、開発費を抑えることができます。
特定の分野に詳しい専門人材を社内で一から育成したり、そういった人材を新たに採用したりしなくてよいので、開発に必要不可欠である技術や知見を覚えてもらう期間も抑えられます。
そして開発期間も短くできることに付随し、自社の人員稼働やプロジェクトそのものの運営にかかる費用も抑えられます。

3.自社が持たない技術や知見の獲得

社外組織との連携によって、自社の得意分野以外の知識や技術・ノウハウなどの獲得が可能となります。
そしてオープンイノベーションで得られた知識や技術、ノウハウは当該プロジェクト内に留まるものではなく、プロジェクトに関わった人材や組織の将来的な成長の基盤になるといえます。
全く異なる領域に出自をもつ人員同士が、研究過程で交流しながら互いの知見を交換しあうというのは、一度の開発で役立つだけでなく、その後の自社の技術力向上においても大きな意味を持ちます。
これは、似た領域の企業同士の協業であっても同様です。 外部の技術や知見を取り入れて開発できる、というだけでなく、その技術や知見を獲得して社内に蓄積できる、という点も大きな魅力なのです。

3つのデメリット

1.利益率の低下

自社のみの研究開発で製品開発をすると全ての利益を自社に還元できますが、オープンイノベーションにより外部と連携した場合は、連携先と利益配分しなくてはなりません。
その分、利益率は低下傾向になります。金銭面でのトラブルを回避するためにも、双方が納得し、不利益とならないように調整しましょう。

2.知財関連の情報漏洩・アイディアや技術の流出リスク

特に業務提携や協業を想定したオープンイノベーションの場合、クローズドイノベーションに比べると、技術や情報が流出してしまうリスクは高くなります。
企業名を出して技術を公募すると、その企業がどのようなプロダクトを世に出そうとしているのかがわかってしまうケースも考えられるでしょう。
リスク回避のために、「技術の公募段階では企業名を非開示にする」「協業先が決まり次第、企業の法務担当者が秘密保持契約を結ぶ」などの対策が必要です。
また、連携する際には、人材や資金、物理的な拠点をどこにおくかなどといった、どのような環境を構築できるのか合意を得て明確にしておくことも重要です。
合わせて、協業する企業間で、データの管理方法・アクセス権限などセキュリティ面などの具体的なルールづくりも事前に決めておく必要があります。

3.コミュニケーションコストの増大

お互いに異なる企業文化をもつ組織同士が連携するため、基本的な業務フローを含む様々な点での違いが想定されます。そのため、プロジェクトのスタート段階の組織や体制づくり、さらにプロジェクトの進行において、お互いのコミュニケーションコストが増加する可能性があります。報連相の徹底やデジタルツールなども活用しながら、プロジェクトチームの柔軟な意思疎通をはかることをおすすめします。

出典:
オープンイノベーションのメリットを理解して事業の成長を加速させよう
オープンイノベーションとは?その意味やメリット・デメリットについて事例を交えて解説
オープンイノベーションが注目されている理由とは?その定義からメリット・デメリットも解説

オープンイノベーション推進のポイント

顧客をイノベーションを生み出す協業者として捉える

クローズドイノベーションでは顧客のスタンスを受動的な受け手であるとする一方、オープンイノベーションでは顧客はイノベーションを生み出す協業者としてとらえます。それとともにクローズドイノベーションでは従業員の機動性は相対的に低い一方で、オープンイノベーションでは従業員の機動性は相対的に高くなります。

外部資本を有効活用する

クローズドイノベーションでは外部資本の関与がそれほど重要ではない一方、オープンイノベーションでは外部資本の関与が重要になるケースがあります。つまり、クローズドイノベーションでは外部資本が社内に投下され、それと共に人材やテクノロジーなどのリソースが注入されるケースがまずない一方、オープンイノベーションではそうしたケースが往々にあります。また、オープンイノベーションのプロジェクトによっては、複数の外部資本が関与するケースもあります。

外部のR&Dを有効活用する

R&Dの役割についてもオープンイノベーションでは外部のR&Dと内部のR&Dが同じ重要度で機能するという特徴があります。オープンイノベーションでは、R&Dについても外部と内部の境界がなく、R&Dの活動そのものや活動によって生み出された成果などが自由に行き来します。クローズドイノベーションの場合、内部のR&Dの方が外部のR&Dよりも重要で、リソースも内部R&Dに偏るケースが多いです。

市場への投入タイミングよりもビジネスモデルの磨きこみを優先する

さらに、クローズドイノベーションではビジネスモデルのアイデアを最初に市場に投入することが重要であるとする一方、オープンイノベーションでは市場でのポジションよりもより良いビジネスモデルをつくることが重要であると考えます。

知的財産の保持に固執しない

知的財産についても、クローズドイノベーションではイノベーションに関する知的財産の帰属は社内に限定する一方で、オープンイノベーションでは社内に限定せず、社外のサードパーティーが所有することもあるとしています。

オープンイノベーションとクローズイノベーションの比較

日本の大企業によるオープンイノベーション実践事例3選

シチズンのIoTプラットフォーム事業

時計メーカー企業シチズンが2019年にリリースしたのがマイクロ・コミュニティ・サービス「Riiiver(リィイバー)」はさまざまなタイプのスマートウォッチと製品をつなげるプラットフォーム。
同社がソフトウェア開発に踏み切ったのは、スマートウォッチ市場が拡大する中で生じた危機感に起因しています。
同社はちょうど100周年という節目を迎えた時期ということもあり、「腕時計が購入された後、お客様のニーズに合わせて変革できるようなプラットフォームが必要だ」という発想で開発がスタートし、
3年かけてアイデア出しからオープンイノベーション推進室立ち上げまで進め、無事プラットフォームが立ち上がりました。
自分たちが持っている100年以上培ってきたものづくりの技術という強みを活かしながら、外部アセットや知見を活用し推進した見事な成功事例です。

三井不動産のMaaS推進

三井不動産のオープンイノベーションは、2018年に立ち上がったビジネスイノベーション推進部が中心組織となっています。
その後不動産業界にも迫るデジタル化の波に企業として危機感を抱いたことがきっかけで、「MAG!C」と>呼ばれる事業提案制度も創設されました。
三井不動産は、イノベーションを行うためのクリエイティブな場所として、「WARP STUDIO」というコワーキングスペースを新設し積極的に外部との交流を図るなど独自の文化も有しています。
ビジネスイノベーション推進部はこの制度を利用して、5年間で累計5事業、ことMaaS領域では3事業のリリースに成功しています。

DeNAのと日産によるMaaSへの挑戦

DeNAは「何を届けたいか」を重視し明確にしながら多くの新規事業を創出していること、そして最高技術責任者(CTO)がオープンイノベーション文脈におけるDX新規事業を主導している点が大きな特徴です。
そんな同社が日産と協業して立ち上げたのが、「Easy Ride®」です。Easy Ride®が目指すのは、誰もが気軽にスマホで無人運転車両を配車し、自由に移動できる交通サービス。2018年に横浜のみなとみらいで実証実験を実施しました。
DeNAはオートモーティブや自動車産業のビギナーです。IT企業としてモビリティの領域に入っていくことになった場合、既存企業からすると「DeNAがどういう会社かよくわからない」と感じますし、協業を進めていく上でどういう役割分担にすればいいのか判断が難しい部分があります。そこで日産と協業しお互いの得意分野を活かせた点はまさにオープンイノベーションならではの推進手法です。

外資系大手企業のオープンイノベーション事例

IBMのケース

では、オープンイノベーションの事例としてIBMのケースを見てみましょう。これまでのIBMは典型的なクローズドカンパニーで、新製品開発のR&Dはすべて社内でのみ行っていました。ところが、オープンソースソフトウェアのLinuxや、サンマイクロシステムズが開発したJavaなどの外部で開発された新技術を取り込み、新たにユーザーの要請に応じて各種のテクノロジーをフルスタックで提供するグローバルサービスを立上げました。

IBMはさらに、社内に埋もれていた数々のアイデアを社外へ公開し、ベンチャー企業などにライセンス利用させるなどのニュービジネスも生み出しました。IBMは、会社全体をオープンにすることで社内と社外のそれぞれで新たなニュービジネスを生み出しています。

IBMのオープンイノベーションのモデル

P&Gのケース

オープンイノベーションを導入しているのはIBMなどのハイテク企業にとどまりません。日用消費財のグローバルメーカーのP&Gもオープンイノベーションを積極的に導入しています。P&Gの「プリングルズ」は世界中で売れ続けている人気ブランドですが、2000年にかけて売り上げが低迷していました。社内のマーケティングチームが打開策を検討した結果、ポテトチップ一枚一枚にキャラクターなどを描き、消費を刺激するというアイデアが出されました。

社内のリソースでは実現が困難であると判断したチームは外部のイノベーションを探索し、イタリアの大学教授が開発した食品用インクジェットプリンターを発見しました。それを活用し、わずか半年後にキャラクターが描かれたプリングルズの販売が開始され、二桁の売り上げ増を記録する大ヒットとなりました。オープンイノベーション導入以前のP&Gでは考えられなかった事例です。

まとめ:オープンイノベーションと今後の日本経済

文部科学省が指摘するように、オープンイノベーションは今後の日本企業が積極的に導入すべきコンセプトです。特に、人材などのリソースの機動性が高まり、ボーダーレスで自由に移動する人材流動化時代においては、オープンイノベーションの導入が多くの企業に求められるようになるでしょう。

では、社内にオープンイノベーションを導入するために最も重要なことは何でしょうか。それは、オープンイノベーションを導入するという決意を全社で共有し、実際に社外のネットワークを構築するなどの具体的なアクションをとり続けることです。上述のP&Gは、2000年頃から社外の技術を取り込むための担当役員や専門社員を配置し、50%のイノベーションを社外から取り込むという具体的な目標を掲げて行動しました。P&Gでは、単に製品開発のイノベーションを社外から取り込むだけでなく、パッケージデザイン、マーケティング、市場調査などの領域でもオープンイノベーションを実行しています。

オープンイノベーションを成功させるためには、P&Gのように全社を挙げてオープンイノベーションを導入するという決意が何よりも重要です。しかし、実行においては組織間の調整や組織外との連携など、独特なノウハウが求められます。必要に応じてプロ人材の意見を得るなどして、上手に推進していきましょう。

参考URL

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