【CVC運営の秘訣】優秀なスタートアップを見抜き、オープンイノベーションを成功させる4ステップ
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
イノベーション推進の手段としてCVCを検討しているものの、「進め方が分からない」と悩まれている方は多いのではないでしょうか。オープンイノベーションによる新規事業の立ち上げでは、有望なスタートアップの選定方法や接触方法も押さえたいポイントです。
そこで2023/7/4回のウェビナーでは、VCファンド「New Commerce Ventures」の代表パートナーとしてスタートアップ支援を行う松山氏をお招きし、オープンイノベーション推進のステップを伺いました。成功のポイントがどこにあるのか、国内の現状と合わせてお伝えします。
※無料のホワイトペーパーダウンロードはこちらからできます。
松山 馨太氏
New Commerce Ventures株式会社 代表
ヤフー株式会社入社後、広告営業を経て、株式会社GYAOへ出向、ネットワーク推進室室長、広告開発部部長として営業企画や放送局との事業開発等に従事。その後、地域課題の解決を目的として起業。2018年よりYJキャピタル(現Z Venture Capital)に参画、アクセラレータープログラムCode Republicの共同代表として、シード期のスタートアップ支援に注力。2022年よりNew Commerce Venturesを設立、現在は小売・流通領域の課題を解決するスタートアップ12社を支援中。
田中 将太
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
大手人材系企業を経て、サーキュレーションへ入社。首都圏のサービス業界を担当するセクションの責任者を務め、自らもプロシェアリングコンサルタントとして、100件以上のプロジェクトを担当。大手金融機関での複数の新規事業開発や、大手不動産企業での全社DXのグランドデザイン設計支援から、設立間もないHR系スタートアップの垂直立ち上げ時の経営支援まで、幅広い業界・規模の企業の事業成長に貢献。
山中 かれん
イベント企画・記事編集
新卒で大手人材紹介会社に入社し、IT・コンサル業界の中途採用における課題解決に従事。ベンチャー中小企業から大手外資系企業まで幅広い採用支援を経験後、社内組織営業力向上に向けた研修立案、商品企画に携わる。サーキュレーションではプロ人材の経験知見のアセスメント業務とオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2023/7/4時点のものになります。
Contents
スタートアップ協業の動向と課題
社内のイノベーションを加速させる手法として、近年ではオープンイノベーションが注目されている。オープンイノベーションの特徴は組織の境界を作らない点であり、社内外の知見やノウハウ、経営資源などを広く活用する。
オープンイノベーションが注目される背景には、政府による支援策がある。経済産業省は、「スタートアップへの投資額を5年で10倍に」という目標を掲げており、以下の”3つの柱”を軸として様々な施策を展開している。
このような支援策の活用を見据えて、現在では多くの企業がオープンイノベーションの実現を目指している。多くのアプローチ方法があるため、手法の選び方や進め方で迷う経営者や新規事業責任者は多いだろう。
数ある手法の中でスタートアップ協業が選ばれる理由は、大きく2つに分けられる。1つ目は新規事業人材不足の解決に、2つ目は時間・コストの削減につながる点である。
一方で、現在のスタートアップ協業にはデメリットもある。大企業の現場でも、「周囲から理解を得られない」「協力体制を築けない」といった課題が浮き彫りになっているようだ。
上記の課題に対して、スタートアップ支援のプロはどういった点を意識しているのだろうか。この点を紐解くために、松山氏にオープンイノベーションのポイントを伺った。
成功するオープンイノベーションの体制と事例
スタートアップ事業はアイデア段階であることが多く、単なる出資だけではイノベーションが難しいケースもある。Z Venture Capitalを通してスタートアップを支援してきた松山氏は、どのような体制を整えてきたのだろうか。
New Commerce Venturesの取り組み
松山:ちょうど昨年の8月末から、New Commerce Venturesをスタートしました。「スタートアップと企業を繋ぐエコシステム」として、中でも小売・流通領域の課題を解決するスタートアップを支援しています。
田中:具体的にどのようなご支援をされているのでしょうか。
松山:現在の機能は2つで、今後3つにしていきたいと考えています。
1つ目はVCとしての機能で、小売流通の課題を解決するスタートアップに出資・支援をすること。2つ目がスタートアップと事業会社のマッチング機能で、イベントを中心としたコミュニティ活動をしています。 3つ目は、倉庫や配送機能がついたコマース企業向けコワーキングです。”ここから新しいコマース関連の企業が生まれていく”という、そんな場所を作りたいと思っています。
[事例:Z Venture Capital] 松山氏の立ち位置と体制
田中:事例として、ZホールディングスのCVCである「Z Venture Capital」での取り組みを伺えますでしょうか。
松山:元々は「YJキャピタル」として活動していましたが、このYJキャピタルとLINE Venturesが統合する形でZ Venture Capitalになりました。Zホールディングス自体は、グループ内企業(YahooやLINE、ZoZoなど)のスタートアップとシナジーを生むことを目的に、企業への投資活動をしています。
田中:松山さんはその中で、どんな立場でどのような取り組みをされてきたのでしょうか?
松山:Z venture Capitalの中では、主にシードステージの企業を支援するCode Republicというアクセラレータープログラムを運営しておりました。
具体的には半年に1回、200社ぐらいにご応募をいただき4〜5社を採択。採択後の出資だけではなく、4ヵ月のプログラムを組んでアイデアをブラッシュアップしたり、仮説検証やインタビューなども行っていました。また、プログラムの最後には”デモデー”という形で投資家を招いて、次の資金調達にもつなげています。
コマース領域の投資では、スタートアップと事業部の方をつないでシナジーを生んでいく…そんな活動をしていました。
上記の通り、松山氏はスタートアップを支援する専用のプログラムを組み、アイデアの精度を高めるサポートを続けてきた。オープンイノベーションを成功させるには、アイデアを形(事業)にするための支援がポイントになる。
CVCが成果を生む、課題を解決するためのステップは?
CVC(Corporate Venture Capital)とは
企業が自己資金を使ってファンドを形成し、スタートアップなどに出資・支援する組織である。未上場企業に投資を行う点はVCと同じだが、CVCでは既存事業を拡大・進化させるための事業シナジーを追求する目的や、新規事業立ち上げに寄与する技術・アイデア、ノウハウなどを早期に獲得することを目的に投資を行うケースが多く見られる。
そのため、投資対象となる未上場企業が将来的に株式公開やM&AなどでEXITを行った際、株式を売却して投資資金を回収(キャピタルゲインを獲得)することはVCと比べると最優先ではない。
参考:
CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)とは?VCとの違い/メリット(東大IPC),証券用語解説集(野村証券)
ここからはオープンイノベーション手法の中でも、CVC運営について松山氏に話を伺った。
スタートアップを活用したオープンイノベーションの種類
田中:次に、オープンイノベーションの種類を整理させて頂ければと思います。「最近こういうのが増えてきている」なども含めて、簡単にご紹介いただけますか。
松山:スタートアップにフォーカスしますと、大きく4つの取り組みが行われていると思います。
松山:1つ目は新規事業プログラム。社員からアイデアを募集したり、テーマを設けてグループワークでアイデアを考える方法です。社内で取り組むクローズドイノベーションのケースと、外部の専門家やVCを呼ぶなど一部オープンになっているケースもあります。
もう1つよくあるのは、コーポレートアクセラレーターやビジネスコンテスト。自社と協業したい企業を募集して、アイデアを提案してもらったり、数ヵ月間かけてアイデアを考えたりする方法です。Z Venture Capitalでは、共同サービスの内容を3ヵ月間ディスカッションするプログラムを設けていました。
さらに踏み込んだ形として、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)があると思っています。アクセラレーターとして数ヶ月間で作るのではなく、資本提携的な形で一緒に開発する方法です。
最後にその延長線として、M&Aで完全に自社グループとして共同開発する方法があります。
CVCの運営における課題
ここからは、オープンイノベーションの中でも「CVC」にフォーカスしていく。CVCの運営にあたっては、多くの企業が出資先や投資条件で悩んでいるようだ。
田中:CVCを運営するにあたって、多くの課題に直面している点は顕著になっていますか?
松山:そうですね。実際の運営では、事業部とうまく連携させることが難しいです。”目標の優先度”が異なるので、「なかなか事業部との連携を進められない」と感じやすい。
また、私がZ Venture Capitalへ入った時に思ったのは、ネットワークがない状態で「どうやって投資先を探すのか」ということです。他のCVCやメンバーと話していても、当時はそういう悩みが多くありました。
最近では、ますますCVC自体の数も増えているので、皆さんも課題を感じているのかと思います。
松山氏は「VCが選ばれる側になっている」とも語る。魅力的なスタートアップを探す競争が激化しているため、出資をするCVC側にも工夫が必要になっているのだ。
CVC運営における4つの課題を解決し成果を生む4つのステップ
CVCの運営課題をどのように解決すべきか、今回は松山氏に4つのステップを提示して頂いた。
【Step.1】投資対象の決定
松山氏によると、投資対象の決定では「戦略リターン」と「財務リターン」の両立が重要になるそうだ。シナジーだけを見て戦略リターンを重視すると、成果が出なかったときに継続が難しくなってしまう。
松山:スタートアップがシナジーが生まれそうな技術を持っていたとしても、財務リターンを出せるチームやビジネスモデルがないと、この会社自体がうまくいかなくなってしまいます。成果が見えない状況になると、CVC活動自体が継続できなくなります。
そのため、「財務リターン」と「戦略リターン(シナジー)」は両にらみすることが重要です。
田中:リターンの捉え方と言いますか、「何を求めていくか」はどのように考えれば良いのでしょうか。
松山:シナジーを中長期的に見るのか短期的に見るのかによって、投資対象は大きく変わると思います。
例えば、Z Venture Capitalで中長期的なシナジーを狙っていた時は、「将来の戦略が噛み合うか」で判断していました。「こういう成果を生める」という具体的なシナジー案が見えなくても、シナジーの方向性とビジネスとしての成長性が期待できれば「投資しよう」という流れです。
一方で、短期的なシナジーを狙う企業は、出資段階で協業を前提としているケースが多いです。「このような内容で協業しましょう」という内容を契約に組み込む。そういったケースは結構多いと思います。
シナジーについては現場と経営陣の目線を合わせて、中長期での期待値をすり合わせる必要があるとのこと。イノベーションの実現は”継続”が前提となるため、CVC側は強く意識したいポイントだろう。
【Step.2】ソーシング力の強化
魅力的なスタートアップと出会うには、様々な角度からアプローチをしなくてはならない。ソーシングではインバウンドを狙う方法に加えて、「ブランディング」や「他VCからの紹介」という視点もポイントになる。
松山:「この領域だったらここに相談したい」と思ってもらうためのブランディングは重要な選択肢になります。なので自社イベントを開催して独自のソーシンググループを作ったり、専門性の高い情報を発信したりしています。
あとはLP出資の活用です。親和性の高いVCに出資をして、彼らにソーシングしてもらった上で紹介してもらうような方法です。
【Step.3】デューデリジェンス
Step3のデューデリジェンス(DD)では、投資基準として以下のポイントをまとめて頂いた。
また、自社にデューデリジェンスの経験やノウハウがない場合は、VCの活用も選択肢になるようだ。
松山:LP出資によって、VC自体にデューデリジェンスを代行してもらう方法もあります。また、VCに出向したり定期的にミーティングしたりして、デューデリジェンスのノウハウを吸収していくやり方もあると思います。
あとは、専門のVCや専門業者にファンド組成からソーシング・デューデリジェンスまでを委託し、一緒に運営する「二人組合」も選択肢です。
【Step.4】事業部との連携
事業部との連携は、松山氏自身も悩んだと語る。中長期のシナジーを目指す現場と、短期シナジーを重視する事業部とのギャップは、キーマンを巻き込むことが解決策になるようだ。
松山:事業部のニーズを理解したりとか、あとは事業部のキーマンを巻き込んでいくのが、解決策だと思っています。
例えば、CVCチームに事業部兼任の方に入っていただいて、その人に情報を共有してもらう。または、その領域を調査してレポートを作り、事業部の責任者にレポートさせてもらう。そうすると、事業部にも興味を持っていただけるので、それをフックに今の課題感やスタートアップに求めることをヒアリングさせていただくみたいなイメージです。
松山氏曰く、事業部に向けたスタートアップのピッチイベントも解決策の一つになる。事業部との連携は、CVC運営でつまずきやすいポイントなので、様々な角度からアプローチすることを意識した
オープンイノベーション共創の秘訣まとめ
今回のウェビナーのポイントをまとめると、以下のようになる。
※今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。オープンイノベーションやCVC運営にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。