【イベントレポート】強いデジタル組織の創り方 ―経営×顧客×テクノロジー視点で経営陣が今やるべきデジタル変革のための3つの取り組み―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2022/3/23回では、組織内のデジタルリテラシーの向上や社内外へのテックイメージの浸透に悩まれている企業様に向けて、1年半でパイオニアをデジタルカンパニーに変革させた立役者である石戸氏に、イメージ刷新をどのように進め、デジタル変革をどのように推進し、成功させてきたかをご紹介します。
「社外から優秀なデジタル人材を招聘したが、彼らに何を期待し、何をしてもらえば良いかわからない」
「自社のイメージが伝わらずデジタル人材の採用に苦戦し、描いた社内体制を構築できず悩んでいる」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
石戸 亮氏
パイオニア株式会社 モビリティサービスカンパニー CCO(最高顧客責任者)兼 CMO
大学卒業後、サイバーエージェント入社。子会社の立ち上げ、グループ企業2社の取締役として経営に携わった後、Google Japan入社しデータを活用した統合マーケティング支援を手掛ける。2016年からイスラエル創業のマーケティング・インテリジェンス企業デートラマでマーケティング統合プラットフォームを2000社以上に提供。2020年にパイオニアに入社。CDO/CMOを経て、現在は最高の顧客体験創出をミッションにCCO兼CMOとしてマーケティング・営業・カスタマーサクセス幅広い部門を管轄し全社にグローバルSaaS企業のビジネス推進スタイルを注入している。
村田 拓紀
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部
FLEXY部マネジャー
中古車のマーケットプレイスシェア首位の企業にて拠点責任者、営業戦略策定、メンバーの採用から育成まで幅広く従事。IT企業を経てサーキュレーションに参画。現在はIT戦略における中期ロードマップ策定、IT企画人材育成に向けた技術顧問活用プロジェクトなどDX推進に舵を切る多くの企業を支援。
新井 みゆ
イベント企画・記事編集
新卒で入社した信託銀行では資産管理業務・法人営業・ファンド組成の企画業務に従事。「知のめぐりを良くする」というサーキュレーションのミッションに共感し参画。約1500名のプロ人材の経験知見のアセスメント経験を活かし、サービスブランディング、イベント企画等オンライン/オフラインを融合させた各種マーケティング業務を推進。
※プロフィール情報は2022/03/23時点のものになります。
Contents
日本企業のデジタル変革を推進フェーズで停滞させる社内体制の問題
現在日本企業はこぞってDX推進に注力しているが、多くの場合進捗が停滞しているのが実情だ。こと中小企業に目を向けると、DXの進捗具合は大企業の4分の1程度の規模にとどまるといったデータもある。
デジタル変革が進まない大きな理由は、第一に推進者が不在であること。そのため単なるITツール導入に終始してしまい、ビジネス構造を変えるような変革や生産性の向上が望めない。また日本はITプロジェクトの推進そのものにも問題を抱えており、2021年時点では成功率6%という低水準な数値も見られるほどだ。
工期、予算、品質……。どれを取っても満足の行く結果を出しづらい現状を招いているのは、社内体制だ。担当者が社外に丸投げする、発注者側にそもそもデジタルリテラシーがないといった現状を打破しなければ、今後も日本のデジタル変革の進捗は遅々として進まない可能性が高い。
【デジタル変革事例】パイオニアが1年半でデジタルカンパニーへイメージ刷新するまでの裏側
以上のような状況の中、パイオニアは約1年半という短期間でデジタルカンパニーへの刷新を遂げた。創業80年以上、いわゆる老舗車載機器メーカーがどのようなチャレンジを行ってきたのか、まずは概要について伺った。
パイオニアのデジタル変革における3つのチャレンジ
データの物売りによる機会損失から「データカンパニー」的な循環性のあるビジネスへ
最初にご紹介するのが、いわゆるデータ販売にまつわるチャレンジだ。パイオニアが保持するのは主にカーナビなどの組み込み機器から取得できるデータで、従来もこれらをテックジャイアントや運送系企業などに販売していた。しかしその売り方は「切り売り的だった」と石戸氏は語る。
石戸:私が以前所属していたGoogleでは、従量課金制のオープンなAPIを提供し、エンジニアがドキュメンテーションを見てどんどん研磨していくような形でデータがサービス化されていました。一方でパイオニアが行っていたのは、価値のある素晴らしいデータを個社に対して販売するようなものです。もっとセールスのやり方を改善する余地がある印象でした。
そこで実践されたのが、高い営業利益を目指したソリューションサービスの提供だ。
石戸:我々の場合はIoTやハードウェアを用いるので100%ソフトウェアではありませんが、SaaSビジネスのようにデータを継続的に使っていただくビジネスにすることで利益率を向上。なおかつ、お客様に長く使っていただけるような価値の提供を指針にしました。
販売して終わりではない、いわゆる「モノ売り」から「コト売り」へと転じたのが、パイオニアの第一のチャレンジだった。
パイオニアがデジタル変革するイメージを広報し、デジタル人材の採用力を強化
村田:もう一つのチャレンジは、デジタル人材不足の解消ですね。今はデジタル人材の採用に苦戦していらっしゃる企業がほとんどだと思いますが、人材不足はやはりパイオニアでも問題になっていたのでしょうか?
石戸:私が入社した当時は、さほど問題は顕在化していなかった印象です。ただ、パイオニアが持つハードウェアの開発技術・歴史にIT業界の経験が融合すれば企業がさらに良くなると感じましたし、後から「このプロジェクトにこういうデジタル人材がいればもっとワークする」という具体的イメージも湧きました。そこで経営陣に提言をし、さらに私の周囲にいた20年選手のデジタル人材にも声をかけ、マッチングしました。
実際の市場にはなかなかデジタル人材がパイオニアで働く魅力が伝わっていなかったため、1年以上かけて採用広報活動を行ったという。メディア露出やイベントへの登壇などを増やし、2年間で多くのデジタル人材の獲得に成功した。
個別最適されたシステムやオペレーションによる業務の摩擦を解消
3つ目のチャレンジが、事業モデルシフトにおけるサイロ化からの脱却だ。これまでは機能ごとにシステムがサイロ化しており、社内業務に摩擦が起きていたという。これにより「ビジネスを伸ばしたくても伸ばせない状況だった」と石戸氏。
村田:その現状から今は顧客起点のオペレーションに変革をされたということですが、どういうことなのでしょうか?
石戸:パイオニアのカーエレクトロニクス事業の歴史は30年ほどで、基本的には企画・営業・マーケティングの業務はしっかり回っています。すると業務が部署などの組織そのものに紐付き気付かないうちにサイロ化してしまい、顧客体験が良くなりません。顧客に対する摩擦、そしてフロントで動くメンバー同士の摩擦をなくすために、システムのオペレーションを整理しました。
デジタルフレンドリーになる成功と失敗を分ける3つの要因
以上のように、デジタルフレンドリーな企業への道を着実に歩み続け、すでに一定の成果も出しているパイオニア。この成功・失敗を分ける要因は、以下のようなものだという。
特に明暗を左右するのは、トップのコミットメントであると石戸氏は語る。
石戸:当社の場合は社長をはじめとした経営陣が変革にコミットしています。もちろんリーダークラスや現場レベルで変革の意志を持つこともできますが、大きな意思決定を行うにはやはりトップのコミットメントが状況を大きく左右すると思います。
組織のデジタル変革のために経営陣が今取り組むべき3つの施策
では実際に、組織がデジタル変革をするために経営陣はどのような施策に取り組むべきなのか。パイオニアの成功事例を踏まえて、3つ教えていただいた。
発信の変化:広報からの着手がQuick-winとなる
村田:まずは広報に着手するのがQuick-winだとお伺いしていますが、なぜなのでしょうか?
石戸:認知がないとビジネスパートナーとの提携も採用もできないからです。外部に知ってもらうことは、社内の人間のメタ認知にもつながります。
パイオニアに関しては変革の矛先やアセットは間違いなく良いものであり、なおかつ今はデジタルのチャネルが豊富です。そこでFacebookやLinkedInのアカウントなどを再整理して、コーポレートの発信をできるようにしました。実施にかかった時間はものの数週間です。
また、大手はPDFでプレスリリースを出すことが多いのですが、ベンチャーでは当たり前のようにWebで見てわかりやすい形を取ります。デリバリーチャネルとクリエイティブを少し工夫するだけで印象が大きく変わるだろうと感じたので、手間はかけずにそこから動き始めました。
人の変化:トップ自らが採用戦略にコミットしダイレクトリクルーティングを実施
村田:人の変化についてはやはり採用が非常に重要なのだと思いますが、ここでもトップのコミットメントが必要だそうですね。
石戸:基本的に歴史ある会社は新卒採用がメインで、良い人材がいれば人事部が各部署に配属する形だと思います。しかし私がこれまで所属していたようなベンチャー企業の場合は、事業責任者が週に何人もの優秀な人材と会い、半年や1年かけて口説きます。ほかにも自らビズリーチを使ってスカウトメールを送るなど、息をするように採用を行う印象ですね。パイオニアはそうではなかったので、役員も含めて幹部が自分でダイレクトリクルーティングをするようにしています。
村田:当然採用のみならず成長も必要だと思います。研修やeラーニングは失敗しやすいのでしょうか?
石戸:研修やeラーニングは、受け身なケースが多いですよね。コンテンツを用意してもほとんどの人は受けずに終わり、「何のための研修だったのか」ということになってしまいます。知識を身に付ける方法としては有効なのですが、基本的に育成はセルフスタートできるような仕掛け作りが必要です。
村田:自律型の人材を作るために、石戸さんはチェックリストをご用意されていると伺いました。
石戸:私が10年ほど前から使っているチェックリストがあります。顧客・テクノロジー・生産性・社内外ネットワーク・経営視点などを包括的にセルフチェックしながら動ける状況が大事ですね。メンバーとの1on1でも、例えばチェックリストにある「新しいサービスを何個使ったか?」といったことを聞いて活用します。
業務の変化:成功事例を浸透させデジタルフレンドリーな方向へ組織変革
村田:最後は業務の変化。パイオニアさんの事例でお聞かせいただいたように、顧客中心のシステムを作っていかなければいけないと思うのですが、トレンドSaaSを活用していくことに心理的抵抗がある方も多そうです。これはどうやって上手く活用してもらうのでしょうか?
石戸:一番わかりやすいのは自分自身が使って見せて、「確かにこれなら使いやすい」という状況を体現することです。あるいは社内でそれなりにデジタルに明るく、社内に声掛けできるような人材を見つけ、その人を起点に推進してもらうというのがよくやるパターンです。
村田:成功事例を浸透させてデジタルフレンドリーな組織を作ると会議でも差が出てくるということですが、どんなことが起こるのでしょうか?
石戸:例えば4つくらいのチームが一緒に会議をするケースがあり、そのうち3チームはダッシュボードの管理画面で情報を共有する、デジタルフレンドリーなチームになりました。残り1チームはそういったツール活用が得意ではありません。しかし3チームがダッシュボードを基に月次報告や共有、議論をするうちに、「うちもほかのチームのようにダッシュボードを使って報告をしないと」と言うわけです。ツール活用を強制しなくてもそういう声が出てきたというのは大きなことです。必然的な波及効果ですね。
結果として現在石戸氏が見ているチームは、全てツール活用をし始めている状況だという。まずは立ち上がりが早そうな組織あるいは人材を見出して集中的にサポートし、組織への波及効果を狙うのが、ツール活用の一つのポイントになりそうだ。
強いデジタル組織の作り方まとめ
今回のウェビナーのポイントを、「すぐに取り組んでいただきたいこと」として以下の3つにまとめた。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。強いデジタル組織の作り方にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。