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【イベントレポート】カシオの全社統合DX ―デジタル統轄部長が語る、入社3年で実現したユーザー中心デジタル組織変革事例の裏側―

業態変革・DX

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

2022/04/05回では、DX推進が業務改善にとどまっており全社変革までの道は遠いと感じている企業様に向けて、
カシオ計算機のバリューチェーン全てにおけるDX推進を統括している 石附氏に、入社3年で実現した全社統合DX推進の裏側をご紹介いただきました。
「DX推進がデジタル業務改善にとどまっており全社変革への繋げ方がわからない」
「DXロードマップをつくったものの、組織の縦割りの壁に阻まれてうまくいっていない」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

石附 洋徳氏

石附 洋徳氏

カシオ計算機株式会社 デジタル統轄部長 兼 デジタル共創推進部長
株式会社博報堂にて、様々な業界のクライアント企業に対し、マーケティング戦略構築やマーケティングシステムの導入を推進。2019年からカシオ計算機株式会社に参画し、カシオの新しいデジタルマーケティングの仕組みづくりをリード。2021年より全社のDXを統合・推進する組織としてデジタル統轄部を立ち上げ、責任者としてカシオのバリューチェーン全てのDX推進を統括。

松井 優作氏

松井 優作

株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
早稲田大学卒業後、新卒一期生で創業期のサーキュレーションに参画しマネジャー就任。首都圏を中心に自動車や大手製薬メーカーなど製造業50社以上に対し、全社DXの推進・新規事業開発・業務改善・営業部隊の構築・管理部門強化などの幅広い支援実績を持ち、実行段階に悩みを抱える企業の成長を支援中。

酒井 あすか

酒井 あすか

イベント企画・記事編集
新卒で大手人材紹介会社に入社し、中途採用における両面マッチング型の法人・個人営業、グループ会社・地銀とのアライアンス連携業務に従事。丸の内エリアに本社を構える企業への採用支援、100名単位のグループ会社社員に対して営業企画、地銀への人材紹介事業レクチャーに携わる。サーキュレーションではプロ人材の経験知見のアセスメント業務とオンラインイベントの企画〜運営を推進。

※プロフィール情報は2022/04/05時点のものになります。

日本国内のDX推進はなぜ全社浸透しないのか?

DX白書によると、DX推進に成功している日本企業の割合は現在1割以下とされている。DXの難易度が高いことは多くのビジネスマンが感覚としても理解しているところだと考えられるが、その成功・失敗を分岐するのはやはり社内のデジタルに関する知見の有無が大きい。特にデジタルにまつわる知識を基にした経営陣の意思決定は必須である一方、現実には上層部ほどITリテラシーが不足している企業がほとんどだろう。
知見不足であるがゆえに、IT企業では主流となっているアジャイルでのプロジェクト推進ができず、経営陣の舵取りがないため部署間連携も滞る。そもそもIT人材自体も不足している。これらの状況が、日本のDXが遅れている要因だといえる。

【事例】カシオに学ぶ、MY G-SHOCKで実現したユーザー中心DXの裏側

では、さまざまな課題を乗り越えて全社統合DXを推進するにはどうすればいいのか。まずは象徴的な事例として、カシオの顔とも言えるG-SHOCKのDXについて教えていただいた。

「MY G-SHOCK」のユーザー中心の体験デザイン

MY G-SHOCKとは、簡単に言えばG-SHOCKのパーツを自分で好きなようにカスタマイズし、購入できる製品だ。Web上で液晶や文字盤、ベゼル、バンドなど細かなパーツの色を自ら選び、それがそのまま形となって手元に届く。
MY G-SHOCKについて石附氏は、「ユーザー中心のバリューチェーンの象徴的なサービスとして立ち上げた」と語る。
「ユーザー中心」というのは、Web上でカスタムできるというだけにはとどまらない。例えばMY G-SHOCKはオーダーが入ってから国内生産する都合上、到着まで3~5週間という通常の通販商品としては比較的長い期間を要する。注文、組み立て、配送、到着……これら全てのプロセスにおいてユーザーの購入に対するワクワク感が途切れないよう、各プロセスでお知らせメールがユーザーに届くようにしたという。

石附:製造管理システムとフロントをつないで、MY G-SHOCK専用のモーションが入ったメールを送ります。「今、自分のG-SHOCKが作られているんだ、送られているんだ」というシーンにワクワクしていただくような仕掛けを、最初から徹底して体験を構築しました。

「MY G-SHOCK」の顧客体験を実現するシステムアーキテクチャ

ユーザー中心の体験を実現するため、MY G-SHOCKの裏側では、さまざまな体制・仕組みの連携と刷新が行われた。
例えばECサイト一つを取っても、何百万以上ものカスタムパターンがあり複雑になるシステムを、あえて既存システムに組み込んで一本化。MY G-SHOCKを見たユーザーが、シームレスに別の製品も閲覧できるよう配慮したという。

松井:製品の製造・組み立てに関しては、山形の工場に新しいラインを作ったともお伺いしています。

石附:はい。ユーザーごとにバラバラのオーダーを受けて製造するという工程がしっかりと回るように、ラインを管理する仕組みや業務プロセスに至るまで、工場のメンバーと一緒に構築をしました。

工場の部品在庫とECシステムは連携が必要になるため、新たにカスタマイズコアシステムも構築し、パーツ一つひとつを細かに管理。ERP、EMSなども含めたそれぞれのシステムはAPI-HUBによって疎結合され、データ連携がしやすくなっている。
システムを駆使した新たなオペレーションの構築は当然現場の反発なども想定され、一筋縄ではいかない。上記のアーキテクチャのサイクルを見てもわかる通り、あらゆる部門が一つの目標に向かって推進していかなければ、成し遂げられない事案だと言えるだろう。

デジタル統括部長が語る、入社3年で推進した全社統合DXのポイント

MY G-SHOCKに代表される全社的な変革をカシオが成し遂げられたポイントについて、今回は3つ挙げていただいた。

[Point.1]リーダーシップを持ってDX推進の中心となる

松井:まずはDXビジョンという、一種のグランドデザインのようなものを作られたとお伺いしています。企業が3カ年、5カ年でビジョンを描いた結果、推進に戸惑うケースもあると思うのですが、石附さんはどのようなポイントに気を付けたのでしょうか。

石附:DX戦略を描くために3年かけて毎週のように会議をやっても、その間に世の中は変わってしまいます。その中で私が心がけたのは、企業として変わらない大切なものを掛け合わせてビジョンを描くということです。
これまでカシオはメーカーとして「創造 貢献」を社是にしてきていましたし、それが強みですが、これからは直接ユーザーとつながって価値を提供していかないと、20年先は厳しくなるという危機感がありました。そこで、ユーザーに直接価値を創る、ユーザー中心のバリューチェーンに変えていこう、というビジョンを一つ掲げたのです。これは5年後も変わらない、カシオの勝ち筋です。その時に何が足りないのか、現状とのギャップを語るようにしていきました。

松井:その軸がブレないようにしながら、WebサイトやECサイトをわずか10ヶ月でリニューアルしたほか、CDPの導入やマーケDXのグローバル展開などを同時並行していったのですね。

[Point.2]DXのフラグシップとなる事業を選定する

DXビジョンの実現に向けたさまざまな施策の中でもMY G-SHOCKは重要な立ち位置であり、DXのフラグシップ事業として最初にスタートした。DX推進においては、この事業選定が重要になるという。

石附:一般的に、スモールスタートで動かしやすいものから成果を上げてスケールさせていくべきと考える方もいると思うのですが、カシオはそれではスケールしないだろうという印象でした。今までの事業に対して大きくインパクトのあるもので成果を上げないと社員がDXに気付いてくれないと考え、事業としてもブランドとしても中心的存在のG-SHOCKのカスタマイズ企画を実現することにしました。あえてど真ん中で、みんなが注目しやすいものを非常にファストに実行する判断をしたのです。

製品をカスタマイズしてもらうというアイデア自体は以前か存在していたため、何度か頓挫していた企画をDXで実現することになった形だ。念願を叶えられたという意味でも、社内へのインパクトは推して知るべしだろう。

[Point.3]推進を加速させるDX組織を構築する

最後のポイントとなるのが、DXを推進するための組織構築だ。カシオの場合は新たにデジタル統括部を組成し、DXの旗振り役としたが、それはDXの推進がある程度進んでからの話だ。ここにはどういった経緯や意図があったのか、簡単に伺った。

松井:今回のケースは必要性に応じてどんどん組織を作っていったという方法を採ったのだと思いますが、なぜそのように進めたのでしょうか?

石附:やはり従来のようにIT部門やマーケティング、事業サイドが分かれているとなかなか動きにくいところがあったからです。MY G-SHOCKのプロジェクトを進めていくうちに「組織を一体化すれば成果が出るだろう」という思いが生まれましたし、それは役員も同様でした。

松井:MY G-SHOCKの成功が社内説得の大きな武器になったんですね。

カシオの場合は外部活用も積極的に行った。多くの企業におけるIT人材の不足は冒頭にも述べた通りだったが、やはりカシオ内にも知見が不足していた部分は存在したためだ。

石附:前提として変革は自分ごとでなければ進まないので、しっかりと社内で変革を担える体制を作り、今も幅広く採用を行っています。一方でやはり外部の知恵を借りるべき部分もあるということで、一定のソリューションが必要なところはコンサル企業やベンダーさんにご依頼しました。ポイントで不足している部分はプロシェアリングを活用するといった使い分けです。

松井:ずっとお願いし続けるのではなく、どこかで出口も用意されているんですか?

石附:やはりプロジェクト単位など、切りいいところまでを担ってもらったほうがいいですね。自社では定常的にDXを進めていきますが、外部とはある条件、あるタスクで契約をして一緒にやらせていただいたほうがお互いにわかりやすいですし、成果も出やすくなります。

カシオの全社統合DXまとめ

今回のウェビナーのポイントを以下の3つのポイントとしてまとめた。

今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。カシオの全社統合DXにご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
カシオの全社統合DX ―デジタル統轄部長が語る、入社3年で実現したユーザー中心デジタル組織変革事例の裏側―
本ホワイトペーパーは、2022年4月5日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。DX推進が業務改善にとどまっており全社変革までの道は遠いと感じている企業様に向けて、カシオ計算機の全社統合DX推進の裏側をご紹介しております。