【イベントレポート】“CDO”の役割と創り方 ―NRIのDXコンサルが語る、DXを実現するデジタル組織創りの3つの実践ポイント―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2021年9月28日は、DX推進に苦悩する経営者、推進責任者の皆様に向けて、DX推進に関する数多くのノウハウを持つ松延氏に、CDOが実行フェーズにむけてやるべき組織創りの3つのポイントをご紹介いただきました。
「DX推進責任者に任命されコンサルと戦略はつくったが、実行フェーズで立ち往生している」
「自社のDX化は必須という認識はあるものの、人材・体制・組織などを考えると思考が止まってしまう」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
松延 智彦氏
株式会社野村総合研究所 ITマネジメントコンサルティング部長
1997年銀行系シンクタンクへ入社後、大手システムインテグレータを経て、2004年NRIに入社。ITマネジメントコンサルティング部にてIT組織改革、IT戦略策定、ITガバナンス確立、ITサービスマネジメント改善、情報子会社改革等を数多く手がけるとともに、企業のデジタル変革に向けたコンサルティングや情報発信を行う。NRIのDXプロジェクトをリードしており、主な出版物として、「デジタルケイパビリティ DXを成功に導く組織能力」(日経BP社 共著 2020年)、「図解 CIOハンドブック改訂5版」(日経BP社 共著 2018年)などがある。
鈴木 亮裕氏
株式会社サーキュレーション パートナー
NTT東日本、中国での起業、組織人事コンサルティングファームを経て2015年創業期のサーキュレーションに参画。トップコンサルタントとしてIT領域を開拓後に執行役員に就任。その後、組織急拡大期に人事部長として人事制度設計の再構築を主導、インサイドセールスと大企業のオープンイノベーションを推進する機能を持つビジネスデベロップメント部を管掌した後、2022年8月よりエキスパート職として、エンタープライズ企業向けコンサルティングのパートナー職を担う。
新井 みゆ
イベント企画・記事編集
新卒で入社した信託銀行では資産管理業務・法人営業・ファンド組成の企画業務に従事。「知のめぐりを良くする」というサーキュレーションのミッションに共感し参画。約1500名のプロ人材の経験知見のアセスメント経験を活かし、サービスブランディング、イベント企画等オンライン/オフラインを融合させた各種マーケティング業務を推進。
※プロフィール情報は2021/9/28時点のものになります。
Contents
なぜ、CDO(最高デジタル責任者)/デジタル組織を創る必要があるのか?
日本は「世界最低レベル」のデジタル後進国だという現実
今、日本で声高にDXが叫ばれているのは国の政策として取り組まれているからだが、背景にあるのはそもそも日本がデジタル面においてはおくれを取っているという現実だ。
例えばIMDの世界のデジタル競争力ランキングで、日本は63カ国中27位と奮わない。また63カ国の中で最下位に位置付けられている項目が多数あり、特に人材やビジネスアジリティの視点では、「デジタル後進国」と言わざるを得ない状況だ。
デジタル化の壁は企業の組織文化。経営層の主体的な関与が求められる
日本のデジタル化を妨げている要因を探っていくと、一つには「組織文化」が挙げられる。実際のデータによるとDXの阻害要因が組織文化だと考えている人の割合は55%と多く、次点がプロセス、技術と続く。
組織としてデジタル化を推進する土壌がなければ、そもそもデジタル化のための業務プロセスも技術も企業内に浸透しない。こうした状況を示すように、非デジタルかつ低成長企業が技術役員を設置している割合は、50%以下だ。一方デジタルの高成長企業は、非デジタルかどうかを問わず、70~90%の割合で技術役員を設置している。
組織文化を作り上げるのが「人」だと考えると、技術役員や経営層の主体的な関与が重要であることは、疑うべくもない。
CDOなどのデジタル化責任者の役割を置く企業が増えている
以上のような状況は多くの企業も感じ取っており、CDOなどデジタル化責任者を置く企業は年々増加傾向にある。2020年は2019年度比で5.2ポイントも上昇しており、組織変革に真剣に取り組もうとしている企業の動向が窺える。
以上を踏まえて、今回のウェビナーでは松延氏に「DX実現を目的とした組織創り」を中心にお話を伺った。
NRIのDX部門をリードする松延智彦氏が考えるDXに必要な力と障壁
DXを成功に導く組織能力「デジタルケイパビリティ」とは?
松延氏は野村総合研究所(NRI)でITマネジメントコンサルティング部長兼戦略IT研究室長を務めており、いくつか書籍も出版されている。今回はそのうちの一冊『デジタルケイパビリティ』に掲載されている内容に触れながら、ディスカッションを進めていく。
松延氏が「DXを成功に導く組織能力」として書籍の中で言及しているのが、以下の5つの項目だ。ここについて、簡単に解説いただいた。
松延:まず、DXで何を目指すのかというビジョンや戦略を作る力が必要です。テクノロジー面で言うと、既存のITシステムをより俊敏かつデータ分析をできるようなものに変えていくアーキテクチャー・デザイン力。それから今回の話の中心となる、DXを推進するための組織や人材をマネジメントしていく力。「実践力」と言っているのは、よく言われるアジャイルですね。開発だけではなく、事業変革も含めてアジャイルな仕事の進め方をしていくことです。また、データをガバナンスしていく部分も実践力と言っています。「事業創発力」というのは、新規事業にフォーカスした部分ですね。特に大企業はベンチャー的に事業を作り上げるのが苦手な場合が多いので、身に付ける必要があります。これら5つをまとめて、「デジタルケイパビリティ」と定義しています。
「“CDO”を創る」とは最大の障壁である組織/企業文化の変革
上記の5つのケイパビリティは、フェーズとして大きく「戦略計画」「組織変革」「オペレーション変革」の3段階で発揮する必要がある。大企業をはじめとした多くの企業では、このうち「組織変革」の部分に課題を感じているケースが多いだろう。
鈴木:やはり人を採用する、組織を作るというのは難しいことなのでしょうか?
松延:特に日本の大企業には、特殊な人事慣行があります。簡単に人を採用、解雇、配置転換ができませんし、仕事もまだまだジョブ型になっていません。その中でデジタルという新しいスキルを持った組織文化を作っていくのは、非常に難易度が高いことです。日本市場にデジタル人材が足りていないのも、難しさの要因です。
ここを解決にするには、自社のCDOのリードが欠かせない。組織変革がCDOの役割であり、組織とともにCDOを創ることにもなるのだ。
DXを実現するデジタル組織づくりの3つの実践ポイント
このような状況の中で組織変革を行うためのポイントは、推進体制の構築とデジタル人材の創出、そしてパートナーリングだ。それぞれ何が要点となるのか、以下のスライドにまとめていただいた。
社内で浮かない形で推進体制を構築し、デジタルリーダーの創出に注力。適材適所かつ目的に沿った形態でパートナーを活用する――。重要性は直感的に理解できても、実現は口で言うほど容易ではない。具体的にどういった判断や施策が必要なのか、一つひとつ伺っていった。
【推進体制】デジタル組織をどこに位置付けるか
まず推進体制については、以下のスライドの「DX推進組織のさまざまな役割」にあるような機能が「いずれ必要になる」と松延氏。これを見据えて重要なのが、デジタル組織をどのような位置付けで設置するのかという問題だ。
松延:私はいろいろな企業様を支援させていただいていますが、一番問題になるのは、全社員の1%にも満たない「DX推進組織」だけが、DXを推進するという見え方になってしまうことです。
DXは事業部門や経営層までを含めた全員が関わる必要があるので、「DX推進組織がやる話だ」と捉えられてしまうと、全く進んでいきません。
鈴木:それがまさに、「浮いた存在にならない型」をどう選ぶかという点につながるんですね。DX組織の社内への置き方や部署への関わり方によって、かなり機能や役割、成果が変わるということでしょうか。
松延:そうですね。
以下では、松延氏が提示する具体的な6つの位置付けの型について、ポイントを簡単に解説いただいた。
多くの企業はいずれかの型を取ることになるが、松延氏は「自分たちの会社が目指す目標や現在の状況を見ながら、いくつかの型を組み合わせて考えていくと良い」としている。
「経営企画部門」型
松延:重厚長大な大企業において組織が縦割りにされており、トップダウンで何かを落とす必要があるような場合は、経営企画の立場から推進するのが一つのやり方です。事業やIT側からするとやや遠い存在ではあるので、いかに彼らとコミュニケーションを取るのか、人の架け橋を作るのかがポイントになります。
鈴木:デジタル化推進を試行的に取り組んでいきたい企業には向いているケースですね。
「IT部門」型
松延:DX事業の中でも業務改善やテクノロジーの活用が中心になる場合は、技術を持っているという意味でIT部門にデジタル機能を配置するのが非常に良いパターンかなと思います。ただし、IT部門主導ではなかなか大きな業務変革は難しくなります。
「事業部門」型
松延:事業部門は事業の意思決定に近い部署ですし、事業課題もよくわかっていてスピード感があるのが良い点です。一方でセキュリティ問題の発生や、技術の知見がある人間が少ないことなどが推進上の課題になるケースが出てきます。先ほどのIT部門型とどう組み合わせるのかがポイントですね。
鈴木:事業部門の中にいる方の育成も併せてポイントになりそうですね。
「デジタル化推進部門」型
松延:デジタル化推進部門型は、シンボリックに「こういう組織を作ってやっていく」ということを社内に見せていく上では、非常に良いやり方です。推進部門を立て付けた上で事業部門やIT部門から人を集め、ここでまず集中的に何かをやっていくというのも良いでしょう。ただ経営企画室型と同様に、いかに事業側との架け橋を作れるかが課題になります。
「情報子会社」型
松延:情報子会社化型はIT部門主導型と少し近いです。技術者が多いという面では良いのですが、やはり会社もエンティティも違うとなると、事業やIT部門と遠くなってしまうことがリスクになります。デジタル化推進部門型とどう組み合わせるかが大事ですね。
「デジタル専門会社」型
松延:デジタル化やDXによって、新しい事業を生み出したいという目的がある程度明確になっている企業であれば、デジタル専門会社型は非常に良いパターンです。既存の意思決定から切り離して、独自の処遇で人を採用することも可能です。逆にビジネスの展望が見えていない状態で専門会社を作ってしまうと、収益確保のためにおかしな動きをしてしまうケースがありますね。
【デジタル人材】永続的にDXを推進するための定義・育成・処遇
自社に合った型で推進体制を立て付けできたとしても、組織を構成するデジタル人材の確保も難題だ。松延氏も「最初の1年は外部人材を使えても、永続的に推進する場合にどうするかで多くの企業が悩んでいる」と語る。
具体的なデジタル人材戦略推進の流れは以下の5ステップに分けられるが、今回はこのうち「デジタル人材定義」と「デジタル育成」、そして「処遇」の3点について詳しくご紹介する。
デジタル人材定義
「デジタル人材」と一言で言っても、その職種や領域はかなり幅広く、役割に応じて求められる知識や経験、コンピテンシーは全く異なる。その中でまず考えるべきは、「これら全てが自社の社員として必要なのかどうか」だと松延氏。
松延:例えば企業によっては、データ分析やアナリティクスを中心として業務改革をやっていきたいということもあります。業務改革にしてもデータ分析ではなくユーザーインタビューで顧客接点を変えていきたいのであれば、UXデザイナーが必要です。
やはりここでも、企業としてDXやデジタル化で何を成し遂げたいのかという優先度と、それをどの程度の時間軸で推進するのかを考えていく必要があります。
どのような人員をどの程度確保するべきなのかが決定したら、規模感に応じて採用を進めていく。この際、既存の採用手法に加えてJV(共同企業体)やギグワーカー仲介企業の活用、ときにはM&Aを検討するケースも出てくるという。「採用戦略そのものを考える人材を最初に雇う場合もある」と松延氏は語る。
デジタル育成
社内の人材をデジタル化する――すなわち育成するという観点については、まず役割別に目指すべき状態目標を定めることになる。ここでは、「エキスパート」「社内専門家」「一般」の3階層で分けた。
松延:一番上のエキスパートには社外の方を招くとして、中段の社内専門家というのが実際に社内でDXをリードするデジタルリーダーといった役割を担うことになります。世の中にはさまざまな研修プログラムがあるので、そういったものを上手く体系化しながら育成を推進すること、そして実践的な体験の場を上手く設計することがポイントになります。
実際のところ、社内専門家の育成はさほど問題にならないことが多いと松延氏。それよりも「一般」の階層のほうが重要だという。
松延:特に経営層の方々のリテラシー向上は非常に重要です。実際、どの企業とお仕事をさせていただいても、ここにエネルギーの半分ほどが注がれているのではないかと思います。特に大企業はトップダウンのヒエラルキーになっていますから、経営層がDXに対する理解や意思決定をできるようになることが、最初に求められます。
処遇
もう一つ難易度が高いのが、デジタル人材の処遇をどうするのかという点だ。人事制度の変革は、やはり非常に難しいという。
松延:目先でできるのが、スライドの下部にある3つの解決策です。一つにはプロ人材のような方を例えば3年間3000万円の報酬で有期雇用し、その間に社内にチームを作ってもらう方法があります。解決策3のように、ある程度外に箱を作って自由な処遇で進めてもらうこともできますね。ただし出島を作るとそれなりのデメリットも発生するので、新規事業計画がある程度明確になっている場合が適しているでしょう。
鈴木:最近一番多く採用されている解決策としてはどのような傾向がありますか?
松延:デジタル化をリードするような方を解決策1のような形で雇われている企業は比較的多いです。解決策2にあるようなジョブ型を採用しようとしている企業も、最近は増えていますね。
【パートナーリング】ビジョンに基づいた適切な活用
最後の実践ポイントがパートナーリングだ。デジタル領域でビジネスを行っている他社との連携はほとんどの企業が必要性を感じているのが現状だが、重要なのはSIerやITベンダーに丸投げするのではなく、自社がDXで掲げるビジョンを踏まえ、適材適所かつ目的別の形態での活用を考えることだ。
このとき知っておくべきなのが、パートナーリングにどのような類型と形態があるのかという要素。以下ではこの2点について解説していく。
パートナー類型
まず、パートナーの類型にはビジネスパートナー、サービス提供パートナー、リソース提供パートナーの3種類がある。それぞれの特徴はどのように把握すべきなのだろうか。
松延:人材を獲得していくという意味ではリソース提供パートナーという選択肢があります。国内でデジタル人材が一番プールされているのは、やはりSIerやコンサルティングファームですからね。ただし従来のような請負での丸投げではなく、案件によってジョインしてもらう人を選択するなど、付き合い方を変えていくことが大事です。
サービス提供パートナーとは、新しくDXのビジネスを推進していくときにテクノロジーやサービスを持っている企業と提携することです。ここで重要なのは、どういった企業をどう探すか。「探す機能」をどう作るのかがポイントになりますね。
ビジネスパートナーとは、文字通り本当のパートナーとして共同していくことになるので、会社の価値観を含めてしっかりトップ同士で話を決めるのが大切です。
パートナーリング形態
パートナーとの連携形態というと一番に想像されるのが業務委託だが、このほかにも業務提携や投資、企業買収といった手段を選ぶこともできる。
松延:業務提携は、我々のようなコンサルティング会社と行う場合が多いですね。あとはとにかく人が欲しいが育成の時間がないという場合に、会社対会社で数十名規模のデジタル人材を組織ごと包括的に契約するようなやり方もあります。
投資や企業買収を行うのは、ビジネスとして明確にDXのゴールが見えている企業に限るかもしれません。例えば損保ジャパンはパランティアというアメリカのデータ分析の企業に、3桁億円規模の投資をしています。ビジネスの目標がはっきりしている場合は思い切った投資もできますから、やはりビジョンを明確にした上で相手を見つけることですね。
“CDO”の役割と創り方まとめ
今回のウェビナーのポイントを、以下に総括としてまとめた。
松延:今回繰り返し触れていますが、結局は一番左側にあるビジョンや戦略ありきです。「組織は戦略に従う」という言葉もありますから、戦略からきっちりやっていくのが一つのポイントです。デジタル組織という箱は比較的簡単に作ってしまえるので、その中に入れる人をどこまで内製するか決めた上で、パートナーリングという形態も含めて推進していくことになります。
どの企業の支援でも多いのが、「デジタル人材の価値を本当の意味で体感できていないケース」です。デジタル人材は「亜流だ」という認識の中で組織創りの話をしても、なかなか体制や処遇が上手く回っていかないという実情があります。DXを進めていく上ではデジタル人材が唯一の資産だと、経営層を中心にしっかり認識した上で活動に取り組むことが、非常に重要なのではと思いますね。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。“CDO”の役割と創り方にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。