4期連続赤字からのV字回復!プロとのセッションで生まれた新しい営業戦略〜アルタビジョンの強み再認識で、事業撤退の危機から一転黒字化へ〜
人気番組「笑っていいとも!」で抜群の知名度を誇った株式会社スタジオアルタ。しかし、2014年に番組が終了したことで、売上の大部分を占めていたフジテレビとの契約は解消した。テレビスタジオ事業という主力事業を失ったダメージが会社全体に波及し、赤字状態が続いていた。多くの離職者が出て、社内の空気が重くなっていく中、起死回生の戦略を生み出すべくプロ人材の活用に踏み切った。
その結果、「奇跡的な経営回復を実現することができた」と語るのは、業績回復のミッションを担い、新社長に就任した同社代表取締役社長の嶋田正男氏(以下嶋田氏)、そしてプロ人材とのセッションをメインで行った営業部メディア営業担当長の井上尚志氏(以下井上氏)。プロ人材の活用に至った背景やその結果について、両氏に詳しく伺った。
Contents
収益の柱を失い赤字に転落。新社長として再起をかけた解決策を模索
嶋田氏: もともと当社は三越伊勢丹ホールディングスとフジテレビの合弁会社だったのですが、「笑っていいとも!」が終了して、合弁も解消。4期連続の赤字という危機的な状況に追い込まれていました。 その突破口として、2017年7月に有楽町マリオンに、劇場「オルタナティブシアター」を手掛け、メディア&エンターテインメント企業への転換を目論みましたが、全く知見がない中での新規事業立ち上げとあって大苦戦しました。また、基幹事業である「アルタビジョン」に関しても、SNSや交通広告に押され、また、以前からライバルだった渋谷駅の4面ビジョンにも勝てない状況が続いていました。こちらも活路が見いだせず危機感が募るばかりでした。従業員も疲弊してしまい、退職者も少なからず出ているような状態。そのような中、2017年10月、当社の社長に就任しました。私自身、百貨店一筋の人間だったので、この状況から脱却するための戦略を描き切れずにいました。会社に留まることを選んでくれたメンバーに何とか報いたいと思いながら、彼らと今後に向けての話し合いを重ねるものの、なかなか打開策が見いだせずにいました。
プロ人材に「教えて」もらうのではなく、社員の能力を「引き出して」もらう
嶋田氏: 打ち手を考えあぐねていたところ、現三越伊勢丹ホールディングスの代表取締役社長執行役員 杉江俊彦氏から、紹介を受けてオルタナティブシアターのインバウンド動員施策で相談をしていたサーキュレーションに再度相談をしてみようということにしました。
それから間もなく、サーキュレーション コンサルタントの石戸美香さんにお会いして、当社が抱える課題を相談。債務超過で投資もできない、知見もない、人材もいない状態であることを正直にお伝えしました。石戸さんがそれをしっかりと受け止めてくれたことは、大きな信頼に繋がりましたね。
その打ち合わせを経て、2名のプロ人材を紹介いただくことになりました。1名は年齢も高く、柔和な印象で相談相手として何ら不足はありませんでした。ただ、甘えてしまう気がしたので、厳しく接してくれる人の方がいいだろうとは思いました。結果的に依頼をすることになったのは、もうお一方のTさんです。プロ人材に教えを乞うのではなく、自分たちの頭の中から解決策を導き出すことができなければ、黒字化することはできても、その後が続かないだろうと考えていました。とにかく厳しく突っ込んでくれる壁打ち相手を求めていたので、Tさんは理想的でしたね。
しかし、導入の実現までには時間を要しました。これまで、グループ内には、外部の力を借りるという文化がなく、成功事例も少なかった為、本社所轄部門の理解をすぐには得られず、一旦頓挫してしまったんです。それでも、石戸さんには何度も提案書の書き直しもしてもらい直談判を続けていたところ、承認を得ることができ。業績の奇跡的回復だけでなく「変化せよ」「他者が私を新しくする」という新しくなった企業理念の実践好事例グループ企業としてグループ全社から注目されるまでに至りました。
巧みなファシリテーションと異業界からの視点で新たな発想・思考を引き出す
井上氏: Tさんにはファシリテーターとして、計8回のセッションを実施してもらいました。うち5回は私と1対1、残りの3回は他の社員も参加しました。「アルタビジョンの強みは何なのか?」「ポテンシャルはどこにあるのか?」「これまでどのような営業活動を行い、その結果はどうだったのか?」と多くの深掘りしていく質問が投げかけられましたが、巧みなファシリテーションスキルにより自分自身の考えが整理されていくことを実感しました。
これにより、自社の強みと弱み、そして今後打ち出していくべきポイントはどこなのか、が浮き彫りになりました。また、収益構造上、広告代理店に求められることに目がいきがちになっていたことにも気付かされましたね。私たちが考えるべきは、その先にいる広告主やアルタビジョンの前を通る人たちの視点だったのです。
Tさんが当社の業界に精通した人ではなく、違う分野のプロフェッショナルだったことで、新しい視点と発想を得ることができたと思います。もしこれが上司と部下という関係だと、正解を探してしまい、これまでと同じような結論を出してしまっていたのではないかと思います。抜本的な見直しを図ることは難しかったはずです。
M.T氏(30代男性)最新トレンドを取り入れた事業戦略のプロ。
ITコンサルティング会社の代表を経て、独立。技術トレンドと世の中のニーズにマッチした事業戦略を描くことを得意とする。IoT・オムニチャネルのサービス/商品開発の企画/PM、WEBマーケティング/アライアンスによる営業強化、広報(新聞/テレビ/WEB)まで一気通貫で対応。
本事例では、ファシリテーターとして、支援先メンバー自身が思考をし自ら具体的なアクションを引き出す支援を行った。
アルタビジョンの強みを再認識。SNS連動事例を打ち出し一気に売上アップ
井上氏: まず、セッションでは、アルタビジョンの強みを見直すことからはじめました。アルタビジョンができて35年、新しい媒体ではないものの認知度は高い。時代の変化に即した新しい価値提供の方法が考えられれば、十分に戦えると考えられるようになりました。Tさんとのセッションのうち、3回くらいまでは、アルタビジョンの強みと弱みをあぶり出すことに注力しました。その結果、アルタビジョンの本当の価値を正しく認識し、伝えられていないことに気付きました。 それまでは、アルタ前の通行者数の多さや、画面の大きさ、画質の綺麗さなど、ビジョンのスペックや立地を価値としてお伝えしていたのです。 しかし、インパクトの強い映像を持って来れば、大勢の人がアルタ前に集まって、スマートフォンで写真や動画を撮ってSNSで拡散してくれるという動きが、実は既に出来上がっている。アルタビジョンの価値はビジョンのスペックや立地そのものではなく、それらを使って「何を起こすことができるか」だと気が付いたのです。 それまで競合だと思っていたSNSは、実はアルタビジョンの価値を高めることができるツールだった。これが我々にとって大きな強みだと、改めて認識しました。ライバルである渋谷の大型ビジョンと比較しても、渋谷のスクランブル交差点は規制が厳しいのに対し、アルタ前の広場では事前告知で人を集めることも可能です。つまり、チャレンジできる幅が広いんです。人を集めてSNSと連動した仕掛けで勝負できるのではないかと考えました。あらためて、リサーチしてみると、「アルタビジョンでこんな映像を見た」とSNSで発信している人の多さにも気付くことができました。CMを何度も流すより、尖った映像を1回だけ流す方がインパクトもあるし、SNSでの拡散もされやすい。それに気づいてからは、料金表を説明するような売り方から、しっかりと事例をお伝えする売り方に変えようという方向性になりました。たとえば、某アニメの宣伝では、“○月○日、新宿アルタ前で何かが起きる!”と告知。想像を上回る人が集まりました。そうした実績を積み重ねることで、営業担当の社員たちも商材への自信を取り戻し始めました。料金交渉に終始するのではなく、「アルタビジョンを活用するとこんな効果があります」と胸を張って伝えられるようになりました。結果として、短期間で業績も驚くほどの伸び率を見せることができました。
コンテンツを生み出す企業へ、時代に合わせて変化を遂げていく
嶋田氏: ありがたいことにメディア事業以外の事業の立て直しもでき、会社自体も黒字化が見えてきました。約半年間の動きでの成果なので4期連続7億円の赤字会社であったことを考えると奇跡のような話です。今では、長期的な成長戦略に目を向けられるまでになり、昨年の今頃とは見えている風景が全然違います。
それも、振り返ると、サーキュレーションに今回の件を相談したことが始まりでした。今後も共に、新たな潮流を生み出せたら面白いなと思っています。
ちょうど、別のプロジェクトでもプロ人材活用をお願いしているところですが、サーキュレーションのコンサルタントの方には、目指す方向性が変わっていないか、予定通りに進捗しているかなど客観的に判断してもらいながら、ゴールに向けてプロジェクトマネジメントしてもらえることを期待しています。
会社としては、「アルタビジョンを持っている会社」というだけでなく、生み出していくコンテンツに強みを持つ企業として発展していきたいと思っています。スマートフォンが普及してから10年も経たないうちに、人々の行動は大きく変わりました。もしかしたら、ビジョンを見上げる時代が終わりを迎えるときも来るかもしれません。そんな時代でも生き残れるように、変化を遂げられる企業であり続けたいですね。