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技術移転とは 技術移転を活用した事業展開と懸念事項

新規事業開発
技術移転とは 技術移転を活用した事業展開と懸念事項

技術移転とは技術を保有している組織が発展途上の組織へ技術提供を行うことです。日本も海外へ生産拠点を移転する際に、技術移転を行ってきました。しかし、技術移転には技術流出などさまざまな課題があります。そこで、技術移転の意味と事業展開の方法、そしてメリットとデメリットについて紹介します。

技術移転は単に技術提供することではない

まずは、技術移転の意味や移転方法、技術移転に該当する内容について整理します。

技術移転とは

技術移転とは、高度な技術を持っている国や公的機関、企業が発展途上国やベンチャー企業などに対して技術提供や技術協力、指導することを指します。

技術移転の対象となる技術はさまざまで、製品の加工技術など生産に関する事柄だけでなく、経営ノウハウなど生産以外に関する技術も含まれているのが特徴です。

また、必ずしも成功する訳ではなく、技術を受取る国や企業の状況によっては不要なケースがあります。さらに技術水準で大きな違いがあると、技術指導を行っても効果の乏しいケースもあり得ます。

そのため技術移転を行う場合は、単に伝えるのではなく、技術水準や状況に合わせて変更を加えるなど工夫が必要です。

技術移転の内容や目的

技術移転に用いられる分野、技術は非常に幅広いのも特徴です。前項でも触れたように、設計や開発、生産加工技術やソフトウェア技術をはじめ、農業や畜産、経営ノウハウなどあらゆる分野で技術移転が行われています。

また、技術移転は国外向けだけでなく、国内の企業同士や国から企業へ、学術機関から企業への提供など、流れや目的も異なります。

たとえば先進国から発展途上国に対して技術移転を行う場合は、現地の技術発展や技術者の育成が目的の場合が多い傾向です。また、大学などの研究機関から企業への技術移転では、業界や社会の発展を目的としています。

例外もあるため必ず同じ傾向ではありませんが、あらゆる問題解決に繋がることは共通しています。

技術移転の方法や計画の立て方

技術移転の方法は、提供をする側とされる側の技術水準の差や状況によってアプローチが変わります。また、企業や学術機関、国など組織や組織の方針によってもさまざまです。

①基礎技術の提供から始める

1つは知識に関して大きな差がある場合、技術を受取る側に基礎知識が乏しいため、基礎的な技術・知識の技術移転から始めます。いわゆるインフラ整備のことで、たとえば発展途上国の中には水や道路などが整っていないことも珍しくありません。

水や道路が整っていない中で、浄水技術やアスファルトの熱を抑える技術を伝えても活用できず理解も難しい状況です。そこで、まずは水道網や道路網の整備技術を提供します。

②ライセンスの付与や移転範囲についても計画

技術移転を行う場合は、技術提供の実施計画だけでなくライセンス付与といった点も考える必要があります。

技術移転は業界や社会、国の発展といった大きな目的・意義もありますが、提供元企業にとっては利益を得られなければ技術的優位な状態が無くなるのみです。

そこで技術提供に伴うリスクを軽減するために、契約条件の設定や技術提供料の徴収も検討します。また、どこまで技術移転するべきか、社内や組織内で明確な境界線を作ることも大切です。

企業としては、あくまで全ての技術を提供するのではなく、業界発展を促し、長期的に自社の利益も伸ばすため一部技術を移転するイメージです。

③技術移転の流れ

国内の学術機関の場合は、技術移転に関する契約手続きが体系化されていることも多く、共同研究や技術の譲渡などに関して比較的分かりやすい傾向です。

また、技術移転機関と呼ばれる、研究機関から企業へ技術移転の支援を行う事業者もあります。

技術移転の契約に関する一般的な流れを以下にご紹介します。

  1. 技術移転の内容を策定
  2. 技術移転先へ問い合わせ
  3. 秘密保持などの契約確認、契約締結
  4. 技術情報の共有や研究開始
  5. 技術移転完了
  6. 技術移転に関する費用請求、支払い

技術移転の具体例

技術移転の概要を把握したところで、実際の技術移転例について具体的にいくつかご紹介していきます。

UNIDOが支援している企業向け技術移転プロジェクト

国際連合工業開発期間(UNIDO)は、オーストリアのウィーンに本部がある国際連合の中にある機関です。

主に発展途上国のインフラや工業、経済発展の支援を実施し、技術移転も1つの支援として国内外でさまざまなプロジェクトが進められています。

そして日本の場合は先進国という立場で、日本企業の優れた技術やノウハウを発展途上国に向けて技術移転・支援しています。

多種多様な技術移転を実施しているのが特徴で、その一例を以下にご紹介します。

  • 自動再生型活性炭濾過処理装置
  • 直流駆動ポンプを活用したソーラポンプシステム
  • 健康管理用絆創膏型ウェアラブル生体センサ

自動再生型活性炭濾過処理装置

自動再生型活性炭濾過処理装置とは、水などのろ過に使用した活性炭を400~500度に加熱された水蒸気の入った特殊装置に投入し、ろ過性能を再生する技術・システムです。

ろ過性能は使用前の状態にまで回復するため、予算や技術面で厳しい状況にある地域では、再利用によるコスト削減が期待できます。

直流駆動ポンプを活用したソーラポンプシステム

ソーラポンプシステムとは、太陽光発電システムを搭載した水をくみ上げるシステムです。

注目すべきポイントは、太陽光発電で発電した直流電力を交流電力に変換する必要のないソーラポンプシステムを開発した点です。

通常は、ポンプシステムに限らずあらゆるシステムは交流電力で使用します。しかし、この機器は直流電力で駆動できるため、変換装置なしで水のくみ上げができるようになりました。

また、電力網の整っていない地域では、交流電力を利用できない状況も多く、直流電力での運用が求められます。発展途上国やインフラ整備が十分でない地域でも、低コストで手軽にポンプシステムを運用可能です。

健康管理用絆創膏型ウェアラブル生体センサ

健康管理用絆創膏型(けんこうかんりようばんそうこうがた)ウェアラブル生体センサとは、15 x 45 x 2mmの非常に小さな電子回路を胸部に貼り付けて、心拍数や心電図などリアルタイムで監視できる小型装置です。

重量は1gと軽く薄いので体に貼り付けても、生活に支障はありません。さらに柔軟性もあるので、体の動きに合わせて生体センサが曲がります。

医療現場はもちろん、一般の方が健康維持のために装着する上でも役立つことが期待されます。また、職業上危険の多い現場(軍・警察や消防など)で、各隊員の状況をリアルタイムで情報収集・分析するためにも利用メリットがあります。

イノベーション創出を目的とした技術移転例

UNIDOの他にも、企業が実施している技術移転事例は多数あるので、いくつかの技術移転事例をご紹介していきます。

また、技術移転の分野は、以下に示すように医療やITなど非常に多種多様で分類の難しい内容も珍しくありません。そして、次の項目でご紹介する事例は研究機関が、国内企業や社会に普及されることを目指したプロジェクトとなっています。

  • ライフサイエンス
  • 情報通信分野
  • 環境分野
  • ナノテクノロジー・材料分野
  • エネルギー分野
  • ものづくり技術分野
  • 社会基盤分野
  • フロンティア分野
  • その他分野

液体窒素冷却高温超電導モータの開発

エネルギー分野の技術移転には、液体窒素冷却高温超電導モータ技術開発と呼ばれる技術があります。

液体窒素冷却高温超電導モータとは、約20年前に開発された高温超電導体を、液体窒素で冷却しながらさらに効率化させた装置です。

電気抵抗がゼロに近い状態になり、なおかつロスが少ないため効率よく電気を伝えることができます。そして液体窒素冷却高温超電導モータは、福井大学の技術を日立製作所や住友電気工業などと技術共有しながら開発しました。

脳梗塞バイオマーカーの開発

医療関係の技術移転には、脳梗塞の早期診断が可能となるバイオマーカーを社会への迅速な普及を目指した事例もあります。

脳梗塞バイオマーカーとは、千葉大学が新エネルギー・産業技術総合開発機構の支援を受け開発した技術で、血液サンプルから脳梗塞の早期診断が可能な点が特徴・メリットです。

従来の診断方法は、MRIやCTによる高額な費用が掛かる検査が必要だったためです。また、MRIやCTはペースメーカーを装着している方の場合、検査を受けられない課題もあります。

脳梗塞バイオマーカーは、血液サンプルで診断可能ですので実用化まで進めば、予防医療産業の大きな進歩・発展に繋がります。

超小型ロボットと微少液滴塗布システム

超小型ロボットと微少液滴塗布システムは、ものづくり技術と呼ばれる分野に分類されています。

超小型ロボットは、500円玉程のサイズで設計されていて、半導体デバイスなど小型精密機器の検査や位置決めに役立つ技術です。慣性駆動ロボットと磁気駆動ロボットの2種類を開発しました。

  • 慣性駆動ロボット:カーボンナノチューブなどの検査に活用可能
  • 磁気駆動ロボット:レーザ干渉計に活用可能

そして、微少液滴塗布システムとは、接着剤・はんだペーストの塗布など極めて微量の液を塗布する場合の課題解決した技術です。

電気通信大学がベンチャー企業を起業し、企業へ技術移転しながら開発を行ったのが、上記の各技術です。このように技術移転は大学が起業し、その企業にて実用化を目指すケースもあります。

また、大学が民間事業者へ技術移転を行うことを、TLO(技術移転機関:Technology Licensing Organization)とも呼びます。

車載用眠気検出装置

技術移転の中には、一般社会の身近な課題を解決できるシステムも積極的に提供しています。

その1つが、車載用眠気検出装置です。車内に設置したカメラ付きの装置が運転手の瞳孔を常に監視し、眠気を検出します。もともとは文部科学省の知的クラスター創成事業の一環として始まり、その後日立物流や日立製作所、矢先計器と共同で実験・開発が始まりました。

技術移転・共有のメリットは、車に搭載・計測できるレベルに技術発展した点です。また、運輸業界などに積極的な製品展開を行うことで、近年問題となっている交通事故の抑止にも繋がることが期待されます。

技術移転のメリット

企業などが技術移転を行うことで、得られるメリットや利益について分かりやすく解説していきます。

技術移転は移転方法や戦略によって、自社の強みをさらに伸ばす可能性につながるため注目しておきましょう。

技術移転により市場規模の拡大が起こり長期的に見て自社にも利益となる

技術移転は技術流出というリスクを感じやすいプロジェクトである一方で、長期的には自社・業界全体にもメリットがあるため検討の価値があります。

アメリカ企業の技術移転に関する事業展開を例にご紹介します。

技術や事業規模で優位なケース

1つ目は、積極的に技術開示と技術移転を行うことで協力関係を結ぶ方法です。なお、技術的優位は保たれるほど、市場のトップを走る企業が選択できる方法でもあります。

圧倒的シェアを誇る企業(業界の標準規格にまで普及している製品や技術があるケース)であれば、仮に独自技術の一部を競合企業や中小企業に技術移転しても簡単に関係性は変わりません。また、業界の底上げに繋がり、新たな顧客獲得にも繋がります。

一部技術は優位だが大きな差はなくなりつつあるケース

2つ目は、競合企業と比較して自社が優位な状態であるものの、長期的に考えると逆転される可能性があるケースの技術移転です。

移転が進むと差が埋められていくので、技術を開示することで不利な立場になる部分(核となる技術など)は非公開にし、それ以外を積極的に技術移転します。

一見すると何もメリットがありませんが、中国企業など新興国企業へ技術移転および出資を行うことで、新しい市場で利益を得られるケースもあります。

つまり業界の発展というよりも、市場拡大を目的とした技術移転です。

国内企業間の技術移転もメリットがある

技術移転は海外向けに行うことでメリットを得られるだけでなく、国内企業が研究機関と共同開発を行い、他社へ積極的に開示するメリットもあります。

具体的には市場の大きな発展に寄与できるだけでなく、新しい市場の発展に繋がり、利益を見込めることです。

たとえばエネルギー分野の場合、環境改善や経済発展だけでなく社会基盤の安定化にもつながり、長期的に新たな市場の発生が予想されます。

そして新たに発生した市場で先行者利益を狙うことも可能です。

短期的・直接的なメリットを得られない場合もありますが、広い視野で見た場合、消費者だけでなく技術移転した企業にもメリットとなりえます。

技術移転により懸念される事項や問題点

技術移転のメリットは大きい一方、懸念事項や問題点も残されています。

他国や他社へ技術的優位を奪われる可能性

技術移転を行うことで他社と協力関係になるなどメリットもありますが、自社の立ち位置や事前の取り決めによってハイリスクにもなります。

理由としては自社の技術的優位が奪われ、他社にシェアを確保される可能性もあるからです。

また、技術移転時の取り決めが曖昧だったり、社内・工場見学時に提供予定以外の機密情報が漏れたりすることで、不利な立場へ陥りやすく注意が必要です。

技術移転を行う際の対策

技術移転によるリスクを軽減するためには、以下のような対策を施すことをおすすめします。

  • 契約条件に使用料を提示
  • 特許権など使用範囲を明確にする
  • 社内見学時に写真や動画で自由に記録させない。
  • 機密情報へのアクセスを厳重に管理

中国が行っている強制技術移転とは

技術移転は日本だけでなく、アメリカや中国などでも積極的に行われているのが特徴です。

しかし中国では技術移転を受ける立場の場合、認められていない内容も全て技術提供する強制行為の疑いがあり、国際問題に発展しています。

技術移転元となる企業に対して技術提供を強制させる行為

近年技術移転関係で問題となっていることがあり、その1つが中国による強制技術移転です。

文字通り技術移転を強制させ、承諾しなければ中国市場への参入などを制限する行為とされています。このような疑いが発生し、中国は国内企業へ向けて、強制技術移転の禁止を発表しました。

しかし中国共産党機関紙では、そもそも強制技術移転はアメリカによるでっちあげと主張しているので、真相が掴めない状況です。

まとめ

技術移転とは、企業が同業種の企業へ向けて技術提供行ったり、政府や研究機関・企業が協力して開発した技術を市場へ提供したりといった行動を指します。また、他には海外へ生産拠点を置くために、地元企業などへ自社技術を提供するなども同様です。

技術移転は、それにより市場規模が拡大するため、長期的に見るとメリットがあります。

しかし、中国による強制技術移転問題や、技術的優位性を奪われるリスクもあるため、リスク対策や国際情勢・他社の状況も分析しながらプロジェクトを進めることが必要です。

参考

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