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人間とテクノロジーが共存する企業の人材定着化戦略とは

人材開発・人材育成
人間とテクノロジーが共存する企業の人材定着化戦略とは

現在の日本企業にとって最大の課題は、自社を安定的に運営していくために必要な人材を「確保すること」と「定着させること」です。

少子化・高齢化の進展で、優秀な若手人材の確保がますます難しくなっています。一方で、AI時代の本格的な到来を目前に控え、様々な研究機関などが「AIによって消える職業」を発表しました。特にミドル層以上の人材をどのように処遇するのか、労働に対して姿勢や考え方が全く違う若手人材とミドル層以上の人材をどのように協業させていくのかなどの問題も明らかになりました。

今後企業に求められる人材確保のための取り組みは大きく変わっていきます。本稿では、これからの企業に求められる「人材定着化」に向けた取り組みを検討します。

日本企業の抱える人事戦略上の課題

現在の日本企業の人事・労務担当者は、ますます加速する世界の変化にどのようについていくのか、その中で、優秀な従業員を確保し、継続して自社で活躍してもらうか、つまり「人材定着化」の問題に、日々取り組む必要があります。

企業における人材定着化の課題をカテゴライズすると、以下の3点に整理されます。(図1)。

①企業経営・人事労務問題の変化

②従業員の社会・生活環境の変化

③テクノロジーの加速度的進化

①企業経営・人事労務問題の変化 

今から半世紀以上前に確立されて戦後日本経済を支えてきた、終身雇用、年功序列などに代表される「日本型雇用慣行」がうまく機能しなくなりました。これまでは「日本型雇用環境」自体が、企業における人材定着化戦略そのものと言えました。

しかし、企業の成長率の低下と、社内におけるピラミット型の人口構成が崩壊は、人材定着化においてリスクとなりました。

企業における人材定着化の課題、また、従業員が抱える状況や課題は、「若手層/ミドル層/シニア層」で大きく異なります。「世代間の葛藤」をいかに融和し、会社としての「活力」につなげていくのかが大きな課題です。

②従業員の社会・生活環境の変化 

これまで日本社会を支えていた家族モデルである、「夫婦子ども2人」、そして「専業主婦」のモデルは、すでに主流ではなくなりました。ミドル層における未婚・独居者の増加、結婚しても「DINKS」に代表される子どもがいない家庭も増えました。また、核家族化はますます進み、都市部を中心に保育所不足の問題もなお大きく、「ワンオペ育児」の言葉に代表されるように、若年層は安心して子育てができない環境にあります。これらはすべて、企業の人材定着化にとってはリスク要因です。

加えて、団塊世代の「介護問題」が大きくクローズアップされております。現在の働きざかりの層は、子どもの子育てをして、親の介護もして、そのうえで仕事での成果も期待される、といった状況になってきます。また、外国人労働者の増加によって、人事制度も様々な人種・宗教・事情に対応していくことも、企業における人材定着化においての大きな課題です。

③ICTの加速度的進化 

平成の30年間は、ICTの勃興と爆発的な発展の時代といえました。特にここ10年ほどのICTの発達は、企業経営においてもデータ量の飛躍的増加、情報集積コストの低下、情報分析コストの低下と分析精度向上という、デジタル技術を基盤とする環境への移行を促しました。IoTやAI、RPAといった新しいテーマは高度なデジタル基盤を基礎としており、令和の時代にはこの流れは更に加速化していくものと思われます。

労働環境の面においても、IT黎明期は単にオフィス環境の自動化に使われるものでした。しかし、IoTやAI、RPAといった企業・組織経営のデジタル基盤のテクノロジーが深く入り込むことによって、人が担う仕事は「創造性が求められる仕事」「他の人に真似ができない仕事」といったものに限られていくでしょう。このように、ICTの加速度的進化は、企業における人材定着化戦略を考えるにあたって大きな課題となります。

ICTによって不要になる業務 

30年前には経営を行う上で必ず存在したホワイトカラーの定型業務が、ICTの活用により自動化されようとしています。多くのミドル・シニア層の従業員が、長年勤めあげてきた会社で引き続き勤め上げようとしていた矢先に、自社での活躍の場がなくなるケースが多く発生することは想像に難くありません。

デジタルテクノロジーによって労働環境はよりよく変えられる 

一方で、デジタルテクノロジーの進化は、活用の仕方によっては、私たちの、あるいは会社の労働環境をより良いものに変える可能性を秘めています。

テレワークやサイバーオフィス化は、従業員が、最適な時間に、最適な執務場所で、最適な形態で仕事をすることを可能にします。

通勤時間の圧縮だけでなく、介護・子育てをはじめとした、社員一人ひとりの多様なニーズとの両立のための活用にも、技術の力を活かすことができます。

AI時代における人間とICTが共存する企業の人材定着化戦略 

「これからも必要とされる人材」はどのようなものでしょうか。「今後消える人材」はどのようなものでしょうか。ここからは、AI時代における人間とICTが共存する会社環境づくりを目指した人材定着化戦略のあり方を考えていきます。

人間が生み出す「付加価値」の再定義が必要

ICTの加速度的進化によって、ここ数年、世の中の多くの仕事が「消える」ものという予測がセンセーショナルに発表されてきました。しかし、AIやロボットが普及しても、すべての業務が人間の手から奪われてしまうわけではありません。

一部の業務が置き換えられてしまうからこそ、人間にしか出せない付加価値は何なのか、よく考える必要があるのです。

AI時代における人事労務環境の姿

それでは、これからも「必要とされる人材」はどのようなものでしょうか。「今後消える人材」はどのようなものでしょうか。ここからは、AI時代における人間とICTが共存する会社環境づくりを目指した人材定着化戦略のあり方を考えていきます。

ICTの加速度的発達は、人事労務環境においても「必要とされる人材」と「そうでない人材」との乖離を更に広げていく性質を持っています。

この流れにうまく乗ることができれば、働くひと個人にとっては暮らし方がますますオープンに、自由になっていく側面があります。

図2:デジタルテクノロジーがもたらす「人事労務環境」の二極化

「よい待遇」を求めて外を向く人材と、「会社にしがみつく」人材との二極化が加速化する 

図2は、ICTが企業もたらす「人事労務環境」面での二極化についての図です。会社としては、人材定着化のためには、「良い人材」を社内に引き留め、本音では外に出てもらいたい人に好条件で出て行ってもらいたいところでしょう。しかし、会社の期待とは全く逆の結果につながるケースが多くみられます。

会社を成長させ続けるためには、社会の潮流をうまくとらえて、会社をリーダーとしてけん引してくれる人材も必要ですし、リーダー人材が示す方針や方向性とともに動いていける「フォロアー」も必要です。

これらの人材をバランスよく配置、処遇して、会社全体としてこれからのAI時代も事業を持続的に運営することができるか、AI時代の人材定着化戦略の要諦なのです。

組織のICT活用レベルの底上げによる人材定着化

それでは、人材定着化のために会社や組織全体のICT活用レベルを進めるにはどうすればよろしいでしょうか。

「会社・組織のICT活用レベル」は図3のとおり、「業務のICT活用レベル」と「人材のICT活用レベル」で整理することができます。

「業務のICT活用レベル」は、主に機能や制度、仕組みといった、会社・組織の「ハード面」の尺度となります。おおむね「認識がない→認識はあるが導入できていない→認識があり導入もできている」の順番でが高まるといえます。

一方で「人材のICT活用レベル」は、主に社員能力といった、会社・組織のハードを使いこなす能力面、つまり「ソフト面」の尺度となります。「知識がない→知識はあるが利用できない→知識があり利用もできる」の順番で高まるといえます。

人材のICT活用レベルの底上げを行うには

図4は、縦軸に「消えない業務・消える業務」、横軸に「人材のICT活用レベルの高さ」をとり、組織としてICT活用レベルを高めるための考え方を示しています。前提として、図3でご説明した会社による必要なハード面の整備によって「業務のICT活用レベル」を高める取り組みがなされているものとします。

図4:AI時代における企業の人材定着化戦略のあり方

ICT活用レベルが高い層への人材定着化の取り組みの方向性

当該人材層は、会社の教育プログラムなどを通さなくても、社内に整備された業務上の機能や仕組み、ツールを取り入れ、使いこなし、プロジェクトに活用するなど積極的に提案していくことでしょう。したがって、第二象限にある「ICT活用レベルが高い消えない業務」の仕事を最初から全面的に任せることが考えられます。

主に若手層は、生まれた時からデジタルツールに囲まれて使いこなしてきました。彼らは、デジタル社会においては付加価値能力のかたまりとも言えます。例えば、今や組織のコミュニケーションオンラインチャットツールなどでも、無料や安価で高レベルな業務ができます。このようなツールを自ら積極的に使い、経験を蓄積していくといったかたちでもあらわれます。

そして、ここで蓄積された経験をさらに新しい付加価値創出に回していくのです。彼らの能力をうまく会社・組織運営に生かすことで、人材定着化を図る必要があります。

ICT活用レベルが低い人材への取り組みの方向性

この層の人材は、従来から組織内にある手段による業務を続けるなど、せっかく整備された機能や仕組み、ツールを使わない傾向も出るでしょう。そのため、教育プログラムや実践の場を通じて、「消える業務から消えない業務への移行」、つまりなるべく第四象限から離れるための施策を行う必要性があります。

同時に、特にミドル・シニア層の社員には、これまでの職歴・社歴を通じて、「何が自分の強みなのか」を理解してもらう取組も必要となります。社内に「強みの受け皿」がない場合は、「複業」や「地域活動」なども含めて新たな実践の場や仕組みを作り、実践を促し、これらの経験を社内にフィードバックするなどの仕組みも必要になると考えられます。

これらを合わせて、会社組織全体としての「ICT活用レベル」を底上げし、ハード・ソフト両面で人材定着化を図る必要があります。

人材層別「人材定着化施策」

図5では、具体的な人材層別のキャリア形成・人材定着化の方法をまとめました。

図5:人材層別、これからの時代のキャリア形成・人材定着化方法

対若手人材層:デジタルネイティブ層への活躍の場の提供

グローバルでは、時流に乗った技術を持った従業員層に対して、大幅に活躍の場を提供し、高レベルの処遇を与えるケースが一般的です。

中国の通信機器メーカー、ファーウェイは、新卒に3,000万円以上の条件を提示し、世界から人材を集めようとしています。ウォールストリートジャーナルによると、フェイスブック社の従業員の年収の中央値は2,500万円ほどといわれています。国内でも、NECでは優秀な研究者には新入社員でも年収1,000万円以上支払う制度を導入することを発表しました。またLINEも、優れた若手技術者に1,000万円~2,000万円を支払う制度をとりました。

年功序列の傾向が強い日本企業では、いきなり若手の技術者に高待遇を与えることが困難なケースも多いでしょう。しかし、能力に応じた賃金が支払われることが当然の社会になりつつあります。優秀な若手人材を高給で迎えらえるような人事制度の整備や、最大限能力を発揮するための組織の設計が急務でしょう。

また、このような優秀人材は、どの企業からも引く手数多なので、特に一つの企業にこだわる理由がありません。卒業生を表す「アルムナイ」の場を設けることも含めて、転職や起業していった人とも継続的な関係を続けていくことが重要です。積極的な理由で自社を飛び出した人材が外で経験を重ねる中で、そこに「オープンイノベーション」の芽がひそんでいる可能性は十分あるのです。

対ミドル・シニア人材層:「複業」「n枚目の名刺」を持つことによる、「好きな仕事ができる環境」の提供

ミドル・シニア層に対しては、前述の「ICT活用レベルを高める取り組み」と合わせて、会社内外で、「自己実現する活動」を認め、自己の裁量で、会社外でアウトプットを出し、会社内には外で得られた知見をフィードバックする仕組みをつくることが考えられます。

複業でも「会社外部で稼ぐ仕事」「地域活動」「非営利活動」など様々な形態が考えられます。「自身がこれまでに身につけたスキルや技能を、自分の思い通り活かせる場」をつくることで、自身の生活に対する満足度が高められるでしょう。また、これらの経験を会社にフィードバックしてもらうことで、新たな「オープンイノベーションの種」となることも期待できます。

AI時代に見合った会社の位置づけのアップデート:会社を中心とした「コミュニティ・エコシステム」化

これからの時代、会社は図6のとおり、自社の従業員の持続的成長に合わせた、社外ステークホルダーとともに作る「好きなことをし続けることを通じて、社員一人ひとりが成長し続けられるコミュニティ」がと変化していきます。会社は、このコミュニティを提供する「プラットフォーム」になることで、社員に「好きなことをする場」を提供し、結果的に「人材定着」を図っていくことにもつながるのです。

図6:会社を中心としたコミュニティ・エコシステム(イメージ)

「好きなことにこだわる」ことで、会社も、従業員も、もっと「豊か」になれる

コンサルタントの安達裕哉氏は、氏のブログの中で、以下のように述べています。

今後、世界においては「はたらき方」「くらし方」はますますオープンに、自由になっていく。そこで大切になってくることは、「好きなことをやっているか否か」ということだ。これまでは、「好きなことをしていいよ」は、「従来の枠組みから外れてもいいよ」と同義といえたが、そこには「もう周りに合わせて頑張らなくても大丈夫ですよ」というメッセージを言外に含んでいたとも言える。しかし、これから先は「好きなことを仕事にしないと、豊かになれない」という意味に変わってきた」

哲学者の内田樹氏も述べています。

人は、やりたいことをやっている時に、パフォーマンス力が最も高くなります。難局に遭遇し、その場で適切な選択をするためには、他者の過去成功事例を模倣するのではなく、自分自身がもっている、臨機応変な判断力を高めたほうがいい。

そして、自分の判断力が最も高まるのは、「好きなことをしている時」なんです。「自分は、本当は何をしたいのか?」を、常に考えている人は「これはやりたくない」ということに対する感度が上がります。

(中略)自分がしたいことがあったら、それをする。自分が身につけたい知識や技術があったら、それを身につける。自分が習熟したい職能があったら、それを学べばいい。

まとめ:会社も社員も、「好きな仕事」を追求し続けることで、これからも「必要な存在」でありつづける

AIの出現で、会社も、働く個人も、それぞれ大きく存在が問われています。今後世界や経済、ICTがどのように進化するかは予測できません。しかし一つだけ言えることは、今の方向性が続き、更に加速することで、会社も働く個人も、これまでの延長線上での取組を続けると、早晩「消えてなくなる」可能性が高いということです。

企業の人材定着を考えるにあたって大切なことは、個人は「人間にしかできないこと」を認識し、それをとことん「楽しみながら追求すること」です。そして、会社は、「楽しみながら追求する」個人が集い、相互がかかわりながら、大きな目標に向けてベクトルを合わせ、加速していくための「プラットフォーム」を提供することです。若手も、ミドル・シニア人材も、それぞれ置かれた環境や得意分野は異なります。これらを一つひとつ活かしていくことで、会社は社会にとっても、働く個人にとっても「必要な存在」であり続け、将来に向けて安定的に人材も定着していくことでしょう。

参考

【無料ホワイトペーパー】
元GE戦略人事が語る ―世界基準のコーチング研修を全社導入するロードマップと3つのポイント―
本ホワイトペーパーは、2021年10月21日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。コーチングを活用し、組織強化を図りたいと考えている皆様に向けて、コーチングのプロとしてご活躍されている桜庭氏のご経験をもとにコーチングを全社導入するためのポイントご紹介しています。