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実践事例から見る「リーンマネジメント」の本質~それは「徹底した現場実践主義」にある!~

生産管理
実践事例から見る「リーンマネジメント」の本質~それは「徹底した現場実践主義」にある!~

リーンマネジメントとは、プロセス管理の徹底により、製造・サービス工程において一貫してムリ・ムダなく最適な活動を行い、最小限の経営資源で最大限の「顧客価値」を提供することを目的とする経営のことです。

「リーン生産方式」「リーンスタートアップ」など、他にも「リーン」を冠するビジネス用語も見受けられますが、これらは共通して、取り組みにおける「ゴール」は何なのかを明確にして、そのゴールに向けて、最小限の資源で最大限の「価値」を追求する活動と説明できます。

リーンマネジメントの本質は「顧客価値」起点の経営最適化を図ることです。本記事では、企業経営における「リーンマネジメント」の位置づけと意味合い、そしてこれからの企業経営における可能性について検討を行います。

「リーン」とは何か?

「リーン生産方式」「リーンスタートアップ」「リーンマネジメント」など、ビジネスにかかわる方でしたら、これまでに「リーン」という言葉をお聞きになられた方も多いかもしれません。

「リーン」は、英語でLeanと表し、日本語に訳すると、「贅肉が取れた」「均整のとれた」という意味です。

企業経営もメリハリが大切です。リーンは、人間の身体に例えると「つけるところには肉をつける」「不要なところの肉はそぎ落とす」という感覚で、企業経営の要素である「ヒト・モノ・カネ・情報」それぞれにメリハリをつけた資源投入を行い、「美しいプロポーションの組織と運営」を目指します。

これは一度の活動で終わるものはありません。経営は生もので、常に状況は変化し続けます。その時々、状況に応じた「ゴール」を目指して活動を行い、普段の見直しや方向転換、つまり「ピボット」を通じて、「不断のマッチベターを求め続けること」が必要なのです。

「リーン」の基本的な考え方とは?

「リーン」は、3つの本質的な考え方によって構成される経営手法です。

  • 顧客の視点から価値を提供する
  • 最終ゴールに価値をもたらさない無駄を排除する
  • 継続的に改善する

リーンによる管理は、絶えず進化し実際の問題を識別してそれらを除去するのに役立つため、安定した組織を構築するための「ガイドライン」に似ています。

リーン管理の主な目的は、リソースを最適化することによって顧客に価値を生み出すことにあり、実際の顧客の要求に基づいて安定したワークフローを作成して実現させます。

継続的改善はリーン管理の主要部分であり、すべての従業員が改善プロセスに関与できるようにします。

「リーン生産方式」、それは「トヨタの生産現場から生まれた方法論」である

リーンマネジメントは、トヨタ自動車が生産現場で適用していた「トヨタ生産システム(TPS)」の別名、「リーン生産方式」に由来します。自動車会社の製造現場で適用されたものが体系化されたシステムであるため、「生産方式」という名で広く知れ渡りました。

しかし製造業のみならず、民間のサービス業や公務分野なども含めて、業態を問わずマネジメントに役立つ内容が含まれていることから、「リーンマネジメント」という言葉で知られるようになりました。

「リーン生産方式」は、徹底した生産プロセス管理の効率化によって、従来からの大量生産方式と同等以上の品質を実現しながら、在庫量や生産活動にかかる時間が大幅に削減できることが特徴です。その秘訣は「かんばんの活用」にあります。

「かんばん」とは、部品納入の時期や数量が書かれた作業指示書のことを指します。「かんばん」は部品箱ごとにつけられており、後工程で部品箱の最初の1つを取り出したとき、その部品箱についた「かんばん」を外して、前工程や部品メーカーに戻すことで、その分だけ部品を供給するという仕組みです。

この活動の積み重ねによって、後行程起点で各工程が必要なときに必要な量だけ部品が供給される「ジャスト・イン・タイム」の生産活動が可能になります。

「顧客起点の経営最適化手法」としてのリーンマネジメント

リーンマネジメントは、プロセス全体の改善の積み重ねによって最高レベルの「ゴール」を求める活動です。業務プロセスは前工程・後工程互いに影響しあうため、ある一つのステップで品質を妥協すれば、最終商品の品質まで全てに影響を及ぼすことになります。したがって、すべてのプロセスにおいて試行錯誤を繰り返すことが大切で、一つひとつのプロセスの「リーンマネジメント」の集積が「顧客起点での経営最適化」として現れるのです。

スウェーデンにおいては、「リーン」の持つ本質を理解し、製造業のみならずサービス業や公務といった分野においても実践する動きが広がっています。

政府・公務部門での事例として、スウェーデンの移民局は、難民申請の「受付→審査→認定」という大きな流れを一つの「プロセス」としてとらえ、リーンマネジメントを導入しました。その結果、難民申請の審査時間を大幅に減少させることに成功しました。これも最終的な「ゴール」である、難民申請者が受けるメリットを最大化するために、ゴール起点での品質を最高にするための不断の活動の成果であるといえます。

「目的」から逆算したプロセスの実践方法としてのリーンスタートアップ

他に「リーン」を冠する経営用語として、アメリカの起業家エリック・リース著作の同名書籍でも知られる「リーンスタートアップ」があります。これは起業の方法論の一つで、「新しいビジネスモデルの開発を、生産効率性の向上と問題の顕在化による無駄の徹底的排除というアプローチで目指すマネジメント論」と表現できます。

リーンスタートアップとは、アイデア自体を生み出す手段ではなく、アイデアを事業化する際のプロセスをマネジメントするものです。具体的には「仮説構築→実験→学び→意思決定」のプロセスを回し続け、立証された仮説を積み重ねていく活動が基盤です。このサイクルを、「コストパフォーマンスが高い状態で回し続け」、「ムダが極小化された意識決定を下しつづける」ことが大切です。

「リーン」の事例

続いて、リーンの実践事例として、Dropboxのリーンスタートアップでの実践事例と、スウェーデン国内でのリーンマネジメントの実践事例をご紹介します。

事例①Dropboxにおけるリーンスタートアップ

Dropboxとは、2008年9月に初版が立ち上げられたアメリカのDropbox.Inc.が提供するオンラインストレージサービスです。同プロダクトの立ち上げ当時の経緯は、リーンスタートアップにおいて用いられるMVP(Minimum Viable Product)の考え方をうまく使ったスタートアップ事例といえます。

MVPとは、製品を提供する上で必要最小限の機能を持つ、もっともシンプルな製品のことを指します。つまりMVPはすでにその状態で「顧客価値があり、利益を生み出せる必要最小限のもの」になっているのです。

当初、同社の経営者は、「複数のデバイスやチーム間での共有や同期が行えるクラウドストレージサービスをつくれば、利用する人が大勢いる」という仮説を立てました。この仮説を検証するため、Dropboxのメンバーは、3分間のデモ動画を制作し、そこでDropboxが実際にどのように利用されるものなのかについておおまかな流れを説明し、サイトにMVPをリリースしました。

その結果、一晩で75,000名の人がメール登録を行いました。これによって上記の仮説は立証できたとし、アイデアにある程度の確信を持って開発に踏み切ることができたといいます。

MVPは、製品のデザインや技術的なことを検証するためだけのプロトタイプやデモ版のような「出来の悪いプロダクト」ではなく、「目的仮説を検証可能とするプロダクト」です。プロダクト自身で、無駄なく検証し、失敗のリスクを極小化した状態で、次の「目的仮説を検証可能とするプロダクト」への発展につなげていくものなのです。

事例②スウェーデン国内での実践事例

日本が製造業における「リーン」発祥の地だとすれば、スウェーデンはサービス業を中心として、「リーン」を実践する組織や団体が広まった国だといえます。先述のとおりスウェーデンの移民庁では、申請から許可の通知が届くまで、以前なら数週間ほどかかっていたものが、「リーン」を使ったシステムを導入した後には、申請の翌日に通知のEメールが届くようになりました。このプロセス短縮は、最新のITシステム導入だけによるだけではなく、リーンの考え方に基づき申請のタイプ別に整理し、業務プロセスを組み立てたうえでITを適用したことが要因だといわれます。

スウェーデンにおける「リーン」導入のきっかけは、日本と同じくボルボという自動車メーカーにおける「リーン生産方式」の適用でした。しかしその後、公務やサービス分野、更には労働組合もメリットを見出して、業種を問わずに様々なマネジメントの現場に広げていきました。本来「リーン」はあくまで「ゴールの設定」と、それに対して忠実に動くという本質に沿えば、どの分野であっても適用可能なものだと理解されたのです。

スウェーデンには、「リーンフォーラム」という、リーンの実践者ネットワークのハブとなるコミュニティが存在し、製造業と非製造業をまたがる「実践コミュニティ」として機能しています。また政府もリーンの実行支援に取り組んでいます。中小企業の持続可能なリーン開発を支援するプログラムや、自治体・ヘルスケアにおけるリーン開発を支援するプログラムが存在し、多くの関係者がトレーニングを受けて、現場に持ち帰って適用しています。

リーンスタートアップの事例からわかる「リーン」の実践に必要なこと

リーンスタートアップは、「新しいビジネスモデルの開発を、生産効率性の向上と問題の顕在化による無駄の徹底的排除というアプローチで目指すマネジメント論」です。

つまりアイデア自体を生み出す手段ではなく、アイデアを実現する際のプロセスをマネジメントするものといえます。

確かに、何もないところから成果に向けた活動をマネジメントするものなので、場合によっては戦略をたててきっちりとしたタイムラインを引くことは困難なこともあります。しかしリーンスタートアップには「とにかくやってみよう」という考え方はありません。

あるビジネスを始める際は誰が顧客なのか、どのようなプロダクトを創るのかさえも確定していないこともあります。しかし、そのような中でも、決して「無計画」をよしとはしません。「リーンスタートアップ」の本質は、スタートアップのように情熱的で混とんとした組織や活動を管理する方法を示し、自己満足で終わらない新規事業開発を行えるようにするための方法論ということができます。

そのため、「仮説構築→実験→学び→意思決定」のプロセスを回し続け、立証された仮説を積み重ねていく活動が基盤になります。このサイクルを、「コストパフォーマンスが高い状態で回し続け」「ムダが極小化された意識決定を下し続ける」ことが、スタートアップをリーンな状態を維持し続けるための必要不可欠なことだといえます。このサイクルを回し続ける上で活用される代表的なツールとして、先述のMVPが挙げられます。

「リーンマネジメント」で結果を生み出す企業になるためには

ここまで「リーン」の事例を見てきましたが、続いて、これらの事例からわかる「リーンマネジメント」で結果を生み出す企業になるために必要な要素とステップを整理します。

「リーンマネジメント」で結果を生み出すための3つの要素

「リーン」で結果を生み出す企業に必要な要素は、以下の3点があげられます。

  • アウトプットから逆算する
  • 人を選ぶ、リソースを選ぶ
  • すべてのメンバーは、「現場力(技術・サービス力)」と経営力の二刀流」であるべし

特に、現場のメンバーにも「経営力」を求めているところが大きな特徴です。マネジメントの視点では、現場の高い技術力も、経営的な視点の両輪の関係になっていることで、マネジメントの視点で前進することを明確に指摘しています。

リーンを実践する際に考慮すべき5つのステップ、「The Basic Lean Process」

「The Basic Lean Process」の5つのステップは、MVPを生み出す過程で小さく回し続けることで、より仮説検証作業がスムーズに行えるようにするものです。

5つのステップは以下の通りです。

  1. 製品群ごとに、最終顧客の観点から価値を特定する
  2. 各製品群が生み出される価値の流れの中のすべての工程を分けて、価値を生み出さない工程を可能な限り排除する
  3. 製品づくりが最終顧客に向かってスムーズに流れるように、価値創造工程を細かなサイクルで実行する
  4. 一連の製品づくりの流れが出来たら、最終顧客に、直前のステップにあたる工程の活動内容から価値を引き出させる
  5. 直前のステップから引き出される価値が特定されると、一連の製品づくりにおける価値の流れが明らかになり、無駄なステップが削除されていく。そして無駄なく完全な価値が作成される状態に達するまで当該プロセスは続行される

まとめ

日本のマネジメントの現場を見渡すと、常に「プロトタイプ」をつくるための活動を行っている、不具合が発生したら原因追及のためにストップする、合理的、客観的でない作業が多いなど、リーンマネジメントの考え方の逆をいく事例が多く見受けられます。

リーンマネジメントは、マネジメント層も現場関係者も、すべての立場の人が同じ目線で動かないと前に進みません。本質は常に末端の現場にあります。現場という「ゴール」を見つめ、常に本番を繰り返す中で実践を積み重ね、ブラッシュアップを図るという、「リーンマネジメント」の本質を組織内で共有し、小さいとこから実践し始めるのが成功に向けた近道です。

参考

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