IPOとは?起業家が知っておきたい上場との違いやメリット・デメリット
※本記事は2019年9月25日に公開した記事の再掲です。
2022年4月に22年ぶりとなる株式市場の再編があり、8月には東京証券取引所が「IPO等に関する見直しの方針について」を公表し、大きな変化がありましたがIPO件数自体は近年の傾向を維持しています。
ここでは、IPOのメリット・デメリットをはじめ、IPOを考える起業家向けのアドバイスをまとめました。
Contents
IPOとは?上場との違いは?
IPOとはInitial Public Offeringの略で、わかりやすく言うと未上場企業が株式を証券取引所に新規上場させることをいいます。
対する上場はあくまでも「証券取引所で企業の株式が保有(または発行)する株式の取引が認められること」であり、必ずしも新規の株式発行を伴う必要がありません。
IPO株は、売出価格(公募価格)より高い上場初値がつくことも多く、株式投資家にとって魅力的な投資法であることが知られています。
IPOの件数は、リーマンショックの影響で「100年に一度の大不況」といわれた2009年の19件から右肩上がりに回復し、前出のグラフを見るとわかるように日本でも2014年からは高水準で推移しており「IPOマーケットは過熱だ」といわれるほどの活況を呈しています。
IPOのメリット・デメリット
IPOは、株式を上場させる企業やその起業家にとっても大きなメリットがあるのですが、起業家がIPOすることのデメリットや、気を付けるべき点に関してあまり知られていません。
ここではIPOのメリット・デメリットについてご紹介します。
IPOのメリット
・多額の資金調達が可能
IPOや、その後の必要なタイミングで多額の資金調達が可能となり、事業拡大に向けた投資をスピーディーに行うことができます。
・知名度の向上と信用力アップ
IPOによって知名度が上がり、上場企業としての信用力が手に入ります。集客力が増したり、取引先などからの見られ方や取引条件も変わったりします。
・人材採用力とモチベーションアップ
IPOを行い、資金調達が可能となったり、知名度が上がったりすると、従業員の士気が高まります。ベンチャー企業の課題である採用の面でも優秀な人材が集まりやすくなるでしょう。
・内部管理体制の整備
上場審査をパスして上場企業となるためには、コンプライアンスを順守し、適正な財務報告を行うための内部管理体制を構築しなくてはなりません。結果として、社内の不正防止や社会的な信用を高める大きなメリットがあります。
・株主とストックオプション保有者の利益確保
IPOによって、株主やストックオプション保有者が利益を確保できます。具体的には、起業家(創業オーナー)、ベンチャーキャピタリスト、ストックオプションを持つ役職者、社員持ち株会のメンバーなどです。
IPOのデメリット
・企業価値向上へのプレッシャー
IPO後の経営者は、株価を上げ続ける使命を負います。そのため、株主からの業績向上・企業価値向上へのプレッシャーを受けることになり、短期的な利益追求に走ってしまうことがあります。
・ヒト・モノ・カネ・すべてのコストがかかる
上場審査をパスして公開企業となるためには、内部管理体制を構築することが必須となります。さまざまな制度構築や人員確保、ドキュメントの作成といったコストが、数年単位でかかるというデメリットがあります。
・IRのための情報開示が必要
IPO後においても、継続的にいい条件で資金調達を行うためには、投資家向けのIR活動を通して、業績等の適切かつ十分な情報開示を行っていかなければなりません。IR担当者を置いて常に意識をしていないと、IR活動はおろそかになりがちです。
・全株を同時売却はできない
IPO後も事業が成長し続け、市場に評価されれば、確保できる利益はその分、上がっていきます。しかし、創業オーナーは、IPOした途端に全株を売却するわけにはいかず、経営上の支配権が維持できる資本政策を維持しながら、株式を順次段階的に売却していくことになります。
本当にIPOがベストな選択肢なのか?上場を目指すかの判断基準とは
IPOには複数のメリットがあるものの、IPOをしたほうがいいケースと、そうではないケースがあります。その判断基準はどこにあるのでしょうか。
IPOしたほうが良いケース
継続的に拡大、成長していくことができる事業であれば、IPOによる段階的な株式売却のほうが、結果的に株主である起業家が高いキャピタルゲインを得る可能性が高くなります。
経営者にそのような自信がなければ、他社に経営を委譲することによる、短期での経営権の換金のほうが儲かることも多いといえます。
IPOしなくても良いケース
営業キャッシュフローの範囲内の投資でうまくいっており、起業家(もしくは経営者)が満足している場合は資金調達を考える必要はなく、IPOを目指す意味はありません。
非上場のままであれば、株主から業績を上げろというプレッシャーを受けることもなく、起業家にとって自由度の高い経営が維持されます。
従業員持株会はIPOの意外な落とし穴
PO前に安定株主を確保したり、社員のモチベーションを高めたりする目的で、従業員持株会制度を導入する企業は少なくありません。
しかし、上場が計画どおりにいかない場合には、従業員持株会は意外な落とし穴となります。その失敗例を見てみましょう。
ケース1 よく考えずに従業員持株会を導入しトラブルに
IPOを目指してとりあえず従業員持株会を導入してしまい、結果としてIPO計画が中止となった場合、「従業員が持つ株式を誰が買い取るのか」「株価はどうするのか」といった話でトラブルとなってしまうケースがあります。
ケース2 従業員持株会の退会者が入会者を上回る
IPOを目指して従業員持株会を作ったものの、上場が計画どおりにいかず、従業員持株会が放置されると入会者は増えずに退会者が増えていくことになります。上場に向けて何度か資金調達をした結果、株価が上がっていると、退会者は払った金額以上を受け取って退会します。そのうち株価が下がり、従業員持株会の資金が枯渇すると従業員持株会に残った会員は大損を被ることになります。
ケース3 IPOからM&Aに方向転換
IPO後の安定株主づくりと福利厚生を目的として従業員持株会を導入したものの、結局M&Aを選択することがあります。安定株主という観点から、それなりの持株比率を従業員持株会に持たせるケースがあり、オーナーとしては予期せずしてM&Aで得られる多額のキャピタルゲインを従業員持株会会員に渡す結果となることがあります。
従業員持株会導入によるこれらの失敗例は、資本政策上の失敗例であるだけでなく、従業員のモチベーションを著しく下げるという意味でも大きな失策となります。
IPOを目指す起業家は多いが、IPO以外の出口戦略を見落としていないか?
起業家には、IPO以外にもいくつかの出口戦略(EXIT戦略)があります。例えば、一定程度企業を成長させた後に、M&Aによるキャピタルゲインを狙うことが考えられますし、非上場のままを選ぶことも、立派な資本政策といえます。
多額の設備投資が必要になったり、一時的に業績が不安定になったりするような場合には、必ずしも投資家の「増益・増収」の要求が正しいともいえず、せっかくIPOした上場企業がMBO(経営者による株式の買収による非上場会社化)を選択するケースもあります。
自社にとっての最良の選択はIPOなのか、よく考えて現実的な選択をしてください。
監修:山田 昌史氏
株式会社プルータス・コンサルティング 取締役マネージング・ダイレクター 米国公認会計士
組織再編・有価証券発行・資本政策関連のアドバイザリー業務、有価証券の設計・評価業務、企業価値評価業務に従事し、多数の案件を手掛ける。企業研修・大学MBA講師。企業買収に係る第三者委員も務める。具体的プロジェクトには、TOB、株式交換等の組織再編アドバイザリー、資金調達アドバイザリー、非上場会社の資本構成の再構成コンサルティング、インセンティブ・プラン導入コンサルティングなどがある。
著書に「企業価値評価の実務Q&A」(共著、中央経済社)、旬刊商事法務No.2042、2043「新株予約権と信託を組み合わせた新たなインセンティブ・プラン」(共著)、ビジネス法務第19巻第4号「法務担当者のための非上場株式評価早わかり(第4回)」(共著)、企業会計Vol.68No.5「制度の変遷で理解する株式報酬諸制度のメリット・デメリット」、旬刊経理情報No1402「時価発行新株予約権信託の概要と活用可能性」(共著)、No1395「業績連動型新株予約権の設計上の留意点」(共著)掲載などがある。
2019年8月より京都大学経営管理大学院の客員教授に。