危機感を変革のチャンスに。プロ人材と共に全社から31件の新規事業アイデアを集め、事業化へ向けた仕組みを確立。

左:株式会社ヒロテック 購買部 宮﨑 毅士氏、中央左:椿 奈緒子氏、中央右:同社 neXt事業部 田原 節司氏、右:株式会社サーキュレーション リーダーコンサルタント 川端 栄作
※本記事は2025年10月時点の取材に基づく内容です。
株式会社ヒロテック(以下、ヒロテック)は自動車メーカー向けに排気系やドアなどを開発・生産しています。しかし、将来的な自動車の電動化に伴い、主力製品の一つである排気系部品の需要が減少するという強い危機感を抱いていました。
同社ではこれまでも、新規事業開発に取り組んできた歴史はあるものの、新規事業開発を社内のみで完結させる進め方が中心でした。情報収集や技術的な課題の洗い出しなど、全てを担当者が社外イベントやインターネットなどで調べ、一人で進めるスタイルだったため、市場ニーズの検証や社内での実行可能性において限界を感じていました。 このような背景のもと、同社は「新たなドアを開く」という長期経営計画の達成に向け、事業化に向けた動きを体系的に学び、実践していく必要性を感じていました。 そこで、新規事業立ち上げのプロ人材である椿 奈緒子さんと共に、今回のプロジェクトをスタートするに至りました。 本インタビューでは「ヒロチャレ」運営事務局の田原さんとプロ人材の椿さんに、プロジェクトの全容を伺いました。
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プロジェクトの背景:EV化の危機感と「自前主義」からの脱却
――まず、貴社の事業概要と、今回の「ヒロチャレ」に取り組まれた背景・課題感について教えてください。
田原:弊社は自動車メーカー向けに排気系とドアの開発から量産までを一貫して手がけています。また、量産に使う設備や金型なども自社で開発・製作しています。しかし、自動車の電動化が進む中、弊社の主力事業のひとつである排気系事業はいずれ市場から消失してしまうのではないかという危機感を抱えていました。
――過去にも新規事業に挑戦された経験があったと伺っていますが、うまくいかなかった要因はどのような点にあったのでしょうか。
田原:はい。新規事業への挑戦は今回が初めてではありません。過去何十年も取り組んできたものの、なかなか成功に至らないことが多かったのが実情です。その大きな課題は、すべてを社内で完結させようとする「自前主義」の進め方にあったと考えています。 私自身以前は、市場ニーズや技術的な課題をインターネットで調べ、すべて一人で進めてしまうというやり方でした。当然、市場ニーズの検証や、社内での実現可能性の面で限界が生じ、事業化に至りませんでした。 こうした経験から、自社だけではうまくいかないと痛感し、外部の力を借りながら事業化に向けた動きを進めるとともに、そのプロセスを学ぶことが必要だと考えるようになりました。
株式会社ヒロテック neXt事業部 田原節司氏西村氏:このプロジェクトへの挑戦をスタートしたタイミングも重要でした。当社の長期経営計画が、2025年までの「本業に特化する」という方針から、翌2026年以降の「新たなドアを開く」という方針へ、ちょうど180度切り替わる狭間にあったのです。 上層部の意識がまだ「本業特化」に固まっていたため、この「ヒロチャレ」に対していかに理解を得て、コンセンサスを取っていくかが、事務局にとって一番大きな壁でした。
株式会社ヒロテック neXt事業部 西村昌宏氏――そんな状況の中、椿様に依頼されたんですね。
田原:私が担当になった時にはすでに椿さんに参画いただいていましたが 、実際にご一緒してからは、どのようなアイデアに対しても的確なアドバイスをいただき、進捗に応じて柔軟に対応いただいているため、大変助かっています。
椿:私はサイバーエージェント出身で、サイボウズとの合弁会社の立ち上げや、YOLO JAPANでの取締役COOとして新規事業立ち上げ、マーケティング、セールス、アライアンス統括を経験してまいりました。 例えばサイバーエージェントでは事業責任者として女性向けサンプリング事業の立ち上げを牽引し、サイボウズとの合弁会社ではメディア規模と収益規模の拡大に取り組みました。
現在はさまざまな企業の新規事業立ち上げから推進までを、ハンズオンでご支援しています。新規事業というものは、考え尽くしたとしても成功するかどうかは不確実なものですので、チャレンジャーは自信がなくて当たり前です。 メンターとして私がフォローアップを担当する際には「どうすればチャレンジャーに自信を持たせることができるか?」という視点を常に大切にしています。
特に、地方の製造業は新規事業への意欲は高いものの、イノベーション的な動きが取りにくい現状を見てきたため、これまでの経験を活用すれば成功するのではないかという仮説を持っていました。 この取り組みは、地方活性化にも繋がる上に、社員が社内でワクワクする事業を立ち上げ、実現できるというロールモデルを製造業で作ることで、会社も地域も元気になると信じて、成功の仕組みを作ることにチャレンジしたいという思いで参画しました。
プロ人材 椿 奈緒子氏支援内容と成功のポイント:仕組み化と「後見人制度」
――過去の「自前主義」から脱却するために、椿様は具体的にどのような部分で伴走支援されたのでしょうか。
田原:以前は知らなかった事業開発の体系的なプロセスを明確にしていただきました。
仮説の妥当性検証、PoC、商品サービス開発、事業化という各ステージでやるべきことを示していただくことで、そこに集中して活動を進めることができています。 また、次のステージに進めるか否かを判断するステージゲート審査においては、審査のポイントを明確化し、経営層にも周知した上で審査を実施できたことは、大きな成果でした。
――特に、社内コンセンサスという難題を乗り越えるために工夫された点、成功のポイントはどこにありましたか。
椿:「新たなドアを開く」という長期経営計画が後押しとなり、経営陣を巻き込みやすかったことは幸いでした。ボトムアップだけで進めようとすると難しいものですが、経営のビジョンと紐付いていることが強みとなりました。
そして、具体的な施策として導入したのが「後見人制度」です。
これは、新規事業チームに役員相当の方をサポーターとして配置する仕組みです。新規事業は、特に大企業では、役員に「ストップをかける役割」が求められることもありますが、後見人がいることで、味方として応援してくれる存在ができ、チームの雰囲気も変わりました。。
この「後見人制度」は他の企業様に話しても「いいね」と共感を得ることが多く、ヒロテック様ならではの素晴らしい制度だと思います。
田原: この制度は、ある意味「敵が味方になった」ような感覚をもたらしました 。また、私達事務局も、役員会や部長会で定期的に「これは長期戦略達成のための一つの活動である」と繰り返し伝えることで理解を得て、活動メンバーを気持ちよく送り出してもらえるよう配慮いたしました。

事業アイデアの公募と社内外を巻き込む文化の醸成
――プロジェクトは、1年目の選抜メンバーによる活動を経て、2年目の全社公募へと進んでいるとお伺いしました。
田原:はい、1年目は事務局で選抜した6名(3チーム)で活動をスタートし、仮説の妥当性検証に取り組みました。その結果、全3チームが最初のステージゲートを通過し、PoCステージに移行しました。これは、過去の経験から見ても大きな成果だと感じています。 2年目からは、「新しいことに取り組みたい」という社員のモチベーションを汲み取り、全社的な文化へと定着させるため、事務局による人選ではなく全社公募へと切り替えました。
結果としても約1ヶ月間の公募期間に、合計で31件の事業アイデアが集まりました。その中から審査を経て、2件のアイデアが妥当性検証のステージでの活動をスタートしています。 公募を盛り上げるために、社内報での活動報告やポスター掲示、そして1期生の先輩社員による経験談を語るパネルディスカッションを実施する勉強会を企画しました。この勉強会で、起案者の皆さんが本業では得られない成長実感を生き生きと語ってくれたのが、非常に良かったと感じています。
――新規事業開発のプロセスが明確になったことで、社員の意識や活動内容にどのような変化が見られましたか。
田原:最大の変化は、これまで「社内で全て完結させる」という文化だったところから、外部のネットワークを構築しながら事業化を進めるという動きが出てきたことです。特に、宮崎さんのチーム(1期生)は、活動を通じてその変化を体現しています。
椿:宮崎さんのチームはフットワークが非常に軽く、情熱(パッション)を持って関係各所にワクワク感を伝えています。社内外のサプライチェーンを巻き込むのがとても上手だと感じています。
宮崎:社内の仲間を集めるのには苦労しましたが、椿さんのアドバイスも得て、関係部署とのミーティングの実施や、「楽しそうな雰囲気」を伝えることに注力しました。その結果として、社外の協力者を含め70〜80人規模のネットワークができ、地域とも連携できるようになりました。
株式会社ヒロテック 購買部 宮﨑 毅士氏椿:この成果として、宮崎さんのチームの事業アイデアは、広島県の「SCRUM HIROSHIMA」の補助金事業に認定されました。アイデアの解像度と実現性が評価された結果であり、非常に素晴らしい成果だと考えています。
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今後の展望
――今後、「ヒロチャレ」をどのように展開していきたいとお考えですか。
田原:まずは、椿さんに伴走支援いただきながら、現在進行中のアイデアを最終的な事業化まで経験することが第一です。
そして、事務局としては、将来的に椿さんのようなメンターが担える社内人材を育成していきたいと考えています。
また、この「ヒロチャレ」という取り組み自体を、当社の魅力として社外に発信し、「ヒロテックはチャレンジができる会社だ」と認知してもらうことで、新たな若手に参画してもらい、その人たちがまた「ヒロチャレ」の場でチャレンジするという、好循環のサイクルを生み出していきたいと考えています。
椿:現在は仕込みの段階ですが、いよいよ事業として売上を上げて拡大していくフェーズへと進みます。私も、事業化を果たすところまでしっかりと伴走していきたいと考えています。
このヒロテック様の事例は、地方製造業のスターとなる可能性を秘めています。新規事業創出は、売上を上げるだけでなく、社員の成長や会社・地域のブランディングという副産物を生み出します。この成功を発信することで、日本全体が盛り上がっていくきっかけとなれば最高です。

――サーキュレーションに期待すること、メッセージをお願いします。
田原: 椿さんという非常に優れたプロ人材を紹介していただき、ここまで活動を継続できていることが、最大の成果の一つだと感じています。
また、サーキュレーション担当コンサルタントである川端さんにも社内イベントに参加いただくなど、外部の力を借りて進めているということを、社内的に周知できています。
これにより、社内で全てを完結させようという文化が少しずつ変わり、外部ネットワークの活用が新しいビジネス創出には不可欠であるという認識が広がり始めていると感じています。今後ともお力添えをお願いしたいです。
ヒロテックの新規事業におけるまとめ
課題・概要
自動車部品を製造する同社は、自動車の電動化(EV化)が進む中で、排気系部品事業が将来的に縮小していく危機感を抱えていた。また、過去には新たな収益軸を模索し新規事業に挑戦したが、すべて同社内で完結させる方法のみ限界があると考えていた。長期経営計画のテーマが「新たなドアを開く」となったことも踏まえて、全社的な意識とコンセンサスを得ながら外部の知見を活用し、新規事業を生み出す仕組みを早急に構築したいと考えていた。
支援内容
- 新規事業企画案公募のプロセス(ステージゲート)設計、社内告知、勉強会の開催、募集開始のための事務局とのMTG
- 役員プレゼンに向けての事務局支援、各チームのメンタリング
成果
- 1期目では選抜された3チームが活動を行い、事業開発のプロセスを経て、全チームがPoCのステージへの移行に成功
- 2期目のアイデア公募では、全社から31件のアイデアが集まり 、うち2件が役員審査を通過し活動を開始
- チームの活動が地域に認められ、1チームがスクラム広島の補助金事業に認定。社内の枠を越えた外部ネットワークの活用(70〜80人規模)という新たな文化が醸成され始めた
支援のポイント
- 新規事業開発プロセスの体系化と評価軸の明確化 事業開発の「仮説検証/PoC/事業化」という体系的なプロセスを定義し 、審査員である経営層に対しステージゲートの審査ポイントを明確化することで 、活動の透明性と効率性を向上
- 全社公募と継続的な情報発信によるチャレンジ文化の定着 社員のモチベーションを吸い上げる全社公募へ移行
企画編集:島﨑 いろは
写真撮影:河本 純一様
取材協力:株式会社ヒロテック、椿 奈緒子様
※本記事はサーキュレーションのプロシェアリングにおけるプロジェクト成功事例であり、2025年10月時点の取材に基づく内容です。
