社内ベンチャープログラムを成功へ導く支援体制とメンタリングの実践

左:株式会社サーキュレーション コンサルタント 井口 大輔 中央左:株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 事業開発室 神倉 諒氏(以下:神倉) 中央:プロ人材 椿 奈緒子氏(以下:椿) 中央右:株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 事業開発室 齋藤 明子氏(以下:齋藤) 右:株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 事業開発室 課長 伊藤 司氏(以下:伊藤)
※本記事は2024年12月時点の取材に基づく内容です。
「感受性のスイッチを全開にする」という理念のもと、化粧品を中心とした「美と健康」に関わる事業を展開している株式会社ポーラ・オルビスホールディングス。
2029年までのビジョンの基本戦略の一つに「新価値を創造し、事業の領域を拡張する」を掲げています。既存の事業領域にとどまらず新たな価値創出を目指し、事業ポートフォリオの拡大を図る取り組みの一環として、3年前に社内ベンチャープログラム「Glow」を立ち上げました。
「Glow」が3年目に突入するにあたり、新たなプロ人材の知見が必要だと判断し、以前プロジェクトをご一緒した当社を想起いただきました。課題感を伺った上で、新規事業立ち上げのプロ人材である椿 奈緒子さんと共に、今回のプロジェクトをスタートするに至りました。プロジェクト担当者の伊藤さん、齋藤さん、神倉さんにプロジェクトの全容を伺っています。
Contents
社内ベンチャープログラムの仕組みを構築したかった
プロジェクトの背景

チャレンジャーである社員は初めて新規事業開発に挑戦するため、肌感覚でアドバイスいただくよりは、型に合わせて体系的にメンターとして教えていただける方を探していました。
チャレンジャーに負担のない社内ベンチャープログラムにしたい
神倉さん(以下、神倉):2017年頃に私が担当していた新規事業の立ち上げでサーキュレーションにご相談をしたのが出会ったきっかけです。そこから少し時間が空き、Glow立ち上げの時は別のメンターの方に2年〜3年稼働していただきましたが、3年目となるタイミングで、「型化すべき」といった課題感が見えていたので、新たなメンターの方を探し始めました。 その際に、親身になって要望を聞いていただき、幅広いご経験のプロ人材がたくさんいて、状況に合わせてご紹介いただけるサーキュレーションさんのことを思い出し、ご相談しました。
信頼できるパートナーとしてのサーキュレーション
伊藤:当社の要望を聞いていただけたことはもちろんですが、決定の前にプロ人材と面談ができたことも大きいです。あくまで、社内ベンチャーという立ち位置なので、会社としてのルールがあります。その中でチャレンジャーの想いを大切にし、自由に実施するという要素と、一方で型化も必要なフェーズでしたので、その点もサポートしていただけることがとても大事でした。組織の中で複数の関与者を巻き込み動かしてきた経験があり、事業家精神をお持ちの方と数人面談を通してお話しさせていただきましたが、椿さんが一番ぴったりだと感じました。
神倉:また、サーキュレーションさんから「プロジェクトを進めるにあたって、もしプロ人材にご要望がある際にはフォローしますのですぐに言ってください」と言っていただけたのも心強かったですね。

メンターとしてチャレンジャーに合わせたアドバイスの必要性
椿さん(以下、椿):私はサイバーエージェント出身で、サイボウズとの合弁会社の立ち上げや、YOLO JAPANでの取締役COOとして新規事業立ち上げやマーケティング、セールス、アライアンス統括を経験してきました。例えばサイバーエージェントでは事業責任者として女性向けサンプリング事業の立ち上げを牽引しサイボウズとの合弁会社ではメディア規模と収益規模の拡大に取り組みました。現在はさまざまな企業の新規事業立ち上げから推進までを、ハンズオンでご支援しています。

新規事業というものは、考え尽くしてみないと上手くいくかどうか分からないものですので、チャレンジャーは自信がなくて当たり前です。メンターとして私がフォローアップを担当する際には「どうやったら自信を持たせることができるか?」という視点は常に大切にしています。
自信を持てるるきっかけは社内からのアドバイスなのか、過去の成功体験なのか、それとも新規事業を成功させた実績者からの評価なのか、人によって様々ですが、そのチャレンジャーにとってベストだと思える手法を提示し、どのように人を巻き込むべきかを伝えることを意識しています。
メンタルのフォローを含めた引き出しの多い支援
スケジュールのすり合わせが成功の肝
椿:最初にマイルストーンの設定やスケジュールについての確認からスタートしました。ここは資料にも落とされていたのでかなりスムーズに進めることができました。
伊藤:椿さんには我々のスケジュールを尊重し、不足している部分については補足いただき本当に感謝しています。
椿:新規事業開発や社内ベンチャープログラムは会社によって進め方が異なるというのは理解していますので、プロジェクト開始直後は、事業開発室の方々がどのように進めたいのかという点を意識していました。
伊藤:最初に椿さんからスケジュールについて補足いただいたことで実際にメンターとして入っていただいてからの齟齬が少なくスムーズに進めることができました。
椿:実際にメンターとして動き始めてからは、ゴールから逆算した途中審査や投資承認委員会までのスケジュールに合わせて宿題などを出しながらミーティングをし、チャレンジャーがさらに落とし込んで次までに宿題を考えるという繰り返しでした。
マイルストーンに対して、1つ1つの解像度を上げていくためのステップを少しずつやっていくというイメージでしょうか。自分たちだけだと引き出しが限られているので、社内からの視点だけではなく、これまで私が立ち上げてきた20個以上の事業事例の視点で軌道修正できるという点は強みだと思います。新規事業というものは、自分だけで進めていくと不安になるものですが、外部のメンターがいることで自信をもちやすいため、そこをプッシュできるようにしていました。
伊藤:新規事業においての定石に反して、会社として踏まなければいけない手順やルールを擦り合わせるのが難しいだろうなと予想していたのですが、全くその部分のストレスはありませんでした。
チャレンジャーのフォローはもちろんなのですが、企画に対して我々事業開発室が会社としてどのような判断をしているのかという点に関しても、椿さんと事業開発室とで目線を合わせることができたのでスムーズに進んだと思っています。
椿:新規事業としてのアドバイスはできるものの、会社として判断する部分は企業ごとに異なり、一概にはわからないので、その都度事業開発室のみなさまとコミュニケーションを取るようにしていましたね。
個人に合わせた多角的な視点でのサポート
椿:楽しそうに、ワクワクしながら新規事業に取り組んで欲しいという想いが根底にあるので、一人ひとりの個性に合わせて、何が響くのか、どこでテンションが上がるのかを聞きながら意識していました。
伊藤:新規事業未経験のチャレンジャーは、「どう思う?」とオープンクエスチョンで聞かれると困ってしまうし、メンターの方に「これをした方がいいよ」と言われるとつい指示に従ってしまいたくなります。椿さんには、具体的なフレームワークなどもセットでアドバイスしていただけたため、言われたからやった、楽だからやった、という気持ちがチャレンジャーたちに残りませんでした。 「あなたは◯◯の特性をもっているから、こういうことが得意だよね」「主業務でこういうことやっているので、こういう動きできるのでは?」ということまでアドバイスしていただき、個人の得意な領域に合わせたサポートをしていただけたのがありがたかったです。
椿:Glowに参加するチャレンジャーは、主業務との兼務で実施しているため、熱意をどこまで込められるか、後押しすべきなのかという点はフルコミットの方に比べて伝え方が難しいなと感じました。

社内ベンチャープログラムにおけるプロ人材の重要性
椿:ポーラ・オルビスホールディングス様では新規事業に関するビジョンを掲げていらっしゃいます。私はプロ人材という立場からこのビジョンの実現に向けた取り組みを一緒に進めています。会社の方針が明確であることが新しい事業の創出に不可欠ですが、同時に社員が気軽に新規事業にチャレンジできるプログラムがあることは非常に意義深いと考えています。ビジョンを意識しつつ、チャレンジャー個人の成長を支援し、チャレンジャーが持つ可能性を最大限に引き出すお手伝いをしたいと思っています。
最終的には、「Glow」へのチャレンジがホールディングス全体にとって有益であり、個人のキャリアとしても魅力的な選択肢となることを目指しています。例えば、新卒社員が3年以内にGlowに応募し、子会社の社長を目指すようなキャリアパスが生まれると素敵だなと思っています。
新規事業の文脈では、チャレンジャーが未来に対してワクワクし、成功を持続できる仕組みを共に構築していきたいと考えています。
神倉: 椿さんのおかげで、2023年は途中審査を通過する事業企画案が1つもなかったところから、2024年は3つの企画のうち2つが通過することになりました。
Glowへの応募とその実績が、自己成長と会社の成長に繋がるプログラムを構築することが重要だと考えています。2025年のGlowでは、椿さんにもう一歩深く関与していただく予定であり、それを楽しみにしています。
齊藤:当社が大切にしている考え方の中に、「A Person Centered Management」というものがあり、これは「ポーラ・オルビスホールディングスのあなたではなく、あなたは何がしたいのか」という考えを大切にしていこうというものです。
この考えにも通ずる、「チャレンジャー自身が何をしたいのか?」ということを大切にして、2025年以降も椿さんと進めていきたいと考えています。
そして、創業100周年を迎える2029年までの4年の間で、「Glow」から次の100年を創るブランド事業が生まれることを期待しています。

伊藤:会社に入ると目標が与えられることはたくさんありますが、社内ベンチャーである「Glow」は会社員のままローリスクでチャレンジできるという意味でメリットがあると感じているので、いい意味でチャレンジャーにとって気軽な社内ベンチャープログラムを椿さんと一緒に取り組んでいきたいと考えています。
社内ベンチャープログラム「Glow」についてチャレンジャーにとって負担にならないプログラムでありたいというみなさまの想いと、椿さんの「チャレンジャーが自分らしく、自信を持つためにはどうすればよいのか?」という想いが見事にマッチした内容だと感じました。
本日はお忙しい中、ありがとうございました!
社内ベンチャープログラムにおけるメンター活用におけるまとめ
課題・概要
同社では、既存の事業領域にとどまらず新たな価値創出を目指し、事業ポートフォリオの拡大を図る取り組みの一環として、3年前に社内ベンチャープログラム「Glow」を立ち上げた。長期経営計画の戦略の一つである「新しい価値を創造し、事業領域を拡大する」という目標を実現するため、「PSF(プロブレムソリューションフィット)およびPMF(プロダクトマーケットフィット)の検証精度の向上」を重視したいと考えていた。
支援内容
- チャレンジャーへの仮エントリー〜本エントリーまでのサポート(スケジュール作成、定例ミーティング、チャットによる日次のフォロー)
- 投資承認委員会〜最終審査会のサポート
成果
- Glowが発足してから数年が経過し、審査も厳しくなっている中、2023年は途中審査を通過する企画案は0件だったが、2024年は2つの企画案が投資承認委員会で審査中・2025年には、より質と量と高めるために募集の前の告知の段階からプロ人材が入る体制を構築することができた
支援のポイント
- プロジェクト開始時にスケジュールやマイルストーンを明確化し、齟齬のない進行を実現
- 事業開発室を含めた関係者全体が安心して進められるよう、適切なフォローを実施
- チャレンジャーの状況や性格に合わせつつも、個人のスキルや感覚に依存しない仕組みを構築
- フレームワークや型を活用し、チャレンジャーが安心してプロジェクトを進められる環境を提供
企画編集:島﨑 いろは
写真撮影:清水 ケンシロウ
取材協力:株式会社ポーラ・オルビスホールディングス、椿 奈緒子様
※本記事はサーキュレーションのプロシェアリングにおけるプロジェクト成功事例です。