「銀行×プロシェアリング」で持続可能な地域づくりへ!YMキャリアがプロシェアリングの内製化に踏み切った理由と将来の展望
山口フィナンシャルグループの子会社であるYMキャリア様は、サーキュレーションの「プロシェアリングパートナー」における最初のパートナーです。地域で最も不足している資源は「人材」であるという考えのもと、現在では企業と人材を繋ぐパイプ役を担っており、地域では欠かせない存在になっています。
今回は同社の代表取締役である松浦 裕志氏をお招きし、どのような経緯で「YMプロシェアリング」の立ち上げに携わったのかを伺いました。松浦氏が考える人材業の意義や、プロシェアリングの展望についてもお伝えします。
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実証事業で有効性を確認──YMキャリアがプロシェアリングの内製化を決めた理由
──単刀直入にお伺いします。なぜプロシェアリングの内製化を決めたのでしょうか?
YMキャリア 代表取締役社長 松浦 裕志氏(以下、松浦):そもそも我々が人材業に参入したきっかけは、実証事業で金融機関が行う人材業の有効性が確認できたことです。
実は私たちの銀行グループは、人材業への参入ありきで事業は展開しておりませんでした。取り組み始めたのは2018年で、最初は人材業が「お客様の役に立つかどうか」「事業成長や事業再生に貢献できるか」を確かめるために実証事業を行ったんですね。
その結果として、雇用や副業・兼業人材のマッチングで一定の成果を得られたので、2019年7月にYMキャリアを立ち上げました。
──地域企業の皆様にとって、金融機関の人材業はどのような点で役に立っているのでしょうか?
松浦:事業運営の重要なリソースである「ヒト」という面で、価値提供ができることに意義を感じています。多くの金融機関がパーパスやビジョンに掲げている「企業の成長支援」や「地域貢献」とも一致する事業ですよね。
──人材業に対する、松浦社長の想いをお伺いできますでしょうか。
松浦:私がYMキャリアに参画したのは2019年10月(設立から3ヵ月後)ですが、実は弊社グループが人材業に携わっていることさえあまり知りませんでした。実際に参画してみて「この事業はやった方が良い」と心から思えたので、熱量を持って取り組んできました。
やはり企業の成長支援など、グループ全体のパーパスやビジョンと一致していたことが大きかったですね。
──副業・兼業まで広げて、プロシェアリングに参入した背景をお聞かせいただけますか?
松浦:実証事業で副業・兼業人材の有効性も確認できていたので、スタートの時点から想定していました。サーキュレーション様と半年以上の協議を重ねて、YMキャリアの設立から1年後にプロシェアリング事業、「YMプロシェアリング」を始めました。
──どういった経緯でYMプロシェアリングを当社と始めることになったのでしょうか?
松浦:YMキャリア側から声をかけたと思います。元々ビジネスマッチングで成果が出ていたところから「社内にプロシェアリング事業を内製化したい」とご提案をさせていただき、サーキュレーション様に「なにかいい座組はできませんか」とお伺いしたことがきっかけですね。
株式会社サーキュレーション 代表取締役社長 福田悠(以下、福田):そうですね。ただ、私たちとしても初めての試みでした。創業3年目から全国の地域金融機関様とビジネスマッチングを始めた当初に想定していた座組ではありませんでした。
YMキャリア様と共に試行錯誤をしながら、一緒にベストプラクティスを創ってきたからこそ出てきた発想ですし、まずは「中本さん(※)を一度出向で受け入れてみましょう」という流れになりました。
(※)YMキャリア リクルーティング事業部 係長の中本 健治氏。
──松浦社長は、なぜ当社にお声掛けいただけたのでしょうか?
松浦:ビジネスマッチングの頃から、弊社グループで実績が出ていたからですね。また、ビジネスマッチングに対して、社員の熱意を一番感じられるのはサーキュレーション様だと思いました。
株式会社サーキュレーション執行役員 笹島 敦史(以下、笹島):それは間違いありません。私たちのビジネスマッチングは、2019年頃から加速度的に進んでいます。もみじ銀行様で成果が上がり、山口銀行様にも広げていただいた影響ですね。2020年4月には、広島に中国支社を立ち上げました。山口フィナンシャルグループ様については、弊社の社員とも相性が良かったと感じています。
私たちは提携先の金融機関の支店を一つひとつ回って、プロシェアリングという「ヒト」の経験・知見で地域企業の社長様のお悩みをいかに解決できるかなどをご説明しています。
山口フィナンシャルグループ様の支店長の皆様は企業成長を本気で考えていて、かつ柔軟な方が多かったので、プロシェアリングの価値にすぐ共感をしてもらえました。
社員の出向や地域での信頼構築を経て、さらなるステップアップを目指す
──プロシェアリングの発足にあたって、困難や壁を感じた部分はありますか?
笹島:銀行員さんであれば必ずプロシェアリングの内製化ができると確信をしていたため、中本さんの出向を迷わず受け入れたかたちですね。
実際は早期立ち上がりとはいかず、ノウハウの習得には8ヵ月ほどかかりましたが、彼の真面目さには救われました。訪問に行くたびに「フィードバックをください」という愚直さは、社員でも見たことがないくらいですね。パートナーが中本さんだったからこそ、今があると感じています。
福田:当社の社員の育成でも、遅咲きの人はもちろんいます。最初から器用にやれる人もいますけど、最終的にはお客様の事を第一に考え、コツコツと努力できる人が活躍したりしますから。
松浦:サーキュレーション様に出向で受け入れてもらったことが、一番良かったかもしれません。中本が帰ってきたときは別人みたいになっていて、「やってくれるんだろうな」と思わせるほど熱い男になっていました。
笹島:実は3ヵ月目くらいのときに、中本さんが「もう無理かもしれない」と電話をしてきたことがあったんですよ。急いで会いに行って、一緒にドライブをしながらたくさんお話しして。「辞めますか?」とお話を伺ったところ、「でも私が諦めたら、銀行からプロシェアリングがなくなってしまうんです。諦めたくない」と仰ってくださって。
誰よりもプロシェアリングの可能性を信じていて、意志を燃やし続けてくれました。
──なぜプロシェアリングに熱意を持ち続けられるのでしょうか?
松浦:銀行の新しい手段として、人材業に価値を感じているからですね。
コロナ禍のゼロゼロ融資なども含め、これまでも金融機関は融資を通しては価値提供できていると思います。ただ、金融以外のプラスアルファの支援メニューはあまりなく、「やれることはやり切っている」状況に近かったと思います。
そこに人材業という手段が加わって、活動の中で「本当に企業の役に立つんだ」ということが分かった。今では中本だけではなく、YMプロシェアリングのメンバー全員が熱い気持ちを持っています。
福田:銀行員の皆さんには、「お客様のためになる」という共通認識がありますよね。元々地域に何十年、場合によっては100年単位で根付き、お付き合いのある企業様と本業で繋がっている分、成長も承継も倒産もある意味「当事者」に近い視点でずっと寄り添われていると思うんです。そういう本業の歴史的な背景から生まれる、お客様に対する貢献への想いの強さが武器になっていると思います。
笹島:プロシェアリングの提案をする際に重要なのは、企業を取り巻く環境の「先」を考え、未来の目指す姿から逆算して、今すべき打ち手を社長と共に考え抜き、提案することだと思っています。最初は皆さんここでつまづくことが多いのですが、これまで業務の中でやってこなかっただけで、銀行員の皆さんにも「未来を見る力」は十分あるんです。
私も銀行出身だったのでよく分かるのですが、業務の特性上、銀行では「過去」と「現在」の状況を見ることが多い。ただ、働いている人は意識が高くて地元愛も強く、能力も非常に高い方々ばかりなので、プロシェアリングの提案を通して先を見る癖さえつければ、担当企業の未来を想像できるようになるのだと思います。
──将来を見るという観点では、YMキャリア様のグループ内でも既に事業性評価に取り組まれていると思いますが、プロシェアリングでも同様のスキルが必要なのでしょうか?
松浦:事業性評価には既に取り組んできましたが、融資という「カネ」の手段に人材業、「ヒト」の手段が加わったことで、集めないといけない情報が増えました。例えば、各企業様の課題設定をするためには、組織の状態や5年後の将来像を聞かなければなりません。
そういう意味では、私たち銀行員にもレベルアップが求められています。
──外部からのヒアリングは難しいですよね。地域企業様の情報を集めるにあたって、工夫やコツなどはあるのでしょうか?
福田:そこについては、信頼貯金を積み重ねている銀行員という存在は大きいと思います。「銀行員さんが言うならやってみよう」となることも少なくありません。
松浦:そうですね。地域の経営者様と融資を通した事業状況の共有ができている点は、信頼に繋がっていると感じます。期待以上のものを提供するために、弊社は「なぜそのようなニーズがあるのか」「どこで悩んでいるのか」という部分から認識をすり合わせてきました。
笹島:銀行員さんの信頼については、実績にも現れています。当社の社員と銀行パートナー様の生産性を比べてみると、銀行員さんが最後までプロジェクトに伴走する方が成約率が高いんですよ。 解約率も低い水準にあるので、銀行員さんの信頼貯金を活かしきれている結果だと思います。
──プロシェアリングの発足によって、銀行内で変わったことはありますか?
松浦:グループ内におけるプレゼンス(存在感)も変わりました。YMプロシェアリングの今期の売上が約2.5億円、成約が150件を超えた影響ですね。企業様のほうでも成果が出ているようで、グループ銀行の営業社員が伺ったときに感謝されることもありました。
ただし、成約後のフォローが前提になりますので、1人が同時に担当できるプロジェクト件数は20件くらいが限界と感じています。
──当社では、パートナーシップ(協働)の度合いをステップで分けています。YMキャリア様はステップ2にあたりますが、さらに先を見据えていらっしゃるのでしょうか?
松浦:そうですね。ただ、ステップ3を目指すにあたっては、営業社員のスキルアップが必要です。具体的には、プロジェクトマネジメントのスキルや経験不足を補ってから、改めてステップ3への移行をご相談させていただくことを考えています。
笹島:YMキャリア様については、人選だけを当社が行い、その前後のプロセス(訪問・ヒアリング・プロジェクト要件の定義・プロと企業の引き合わせからクロージング)はYMキャリアの営業社員さんが行っている状態です。阿吽の呼吸のようにフォローアップを伴走して、連携をよりスムーズにした効果が出ていると思います。
福田:私たちとの対話でも、YMキャリア様は常にお客様を意識してくださるので本当にありがたいです。1人あたり15件をどうやって20件に増やすか、いわゆる「15プロジェクトの壁」を焦らずに乗り越えたいですね。
圧倒的な危機感で現状をチャンスに!YMキャリアが考えるプロシェアリングの課題と可能性
──松浦社長にお伺いします。金融庁の方針、または金融機関を取り巻く環境について、課題やチャンスだと感じられていることはありますか?
松浦:地域金融機関にとっては危機的な状況ですが、だからこそ絶好の機会だと思っています。社員の成長、組織の成長にも繋がるかもしれません。
現状、地方は人口減少が続いており、また、金融業界には異業種も参入してきています。そのような中、当局からビジネスモデルの再構築を促されるとともに、銀行法も改正されていきました。 銀行法で大きく変わったのは、持続可能な社会の構築に貢献する事業であれば、銀行でも取り組めるようになった点です。その中でも人材業を含むHR領域は、地域の事業成長や事業再生にダイレクトに刺さります。
このような事業に金融機関が取り組むことは、必然的な流れだと思います。
──ありがとうございました。次は、福田社長にお伺いします。
当社にとってYMプロシェアリング、プロシェアリングパートナーという座組の価値はどこにあり、ビジョンの実現とはどのように繋がっているのでしょうか?
福田:プロシェアリングパートナーを通して、私たちのビジョンをより早く実現できると考えています。
当社は「地方創生」や「中小企業支援」というコンセプトを大事にしてきましたが、私たちだけでは行き届かないことも事実です。その部分を、すでに地域との信頼関係ができている銀行様と進めることで、「知のめぐり」を日本中に広げられると思っています。
──社会に向けては、どのように貢献できるとお考えでしょうか?
福田:持続可能な社会を作るために、当社だからこそ果たせる役割があると考えています。
私たちが地域創生に乗り出したのは約7,8年前なので、国内では大手企業様を中心に地方創生の取り組みは進んでいました。すでに地域社会の中では連携が進んでいる中で、当社だからこそできる「人に紐づく経験・知見の価値」を提供したい。
その上で、公共団体なども含め、金融機関と共創しながら、私達にしかできない事を考え地域との一体感を創ることが理想ですね。
ただ、実際に地域の銀行を見てみると、現状をチャンスに変えているところと、まだ促せていないところがあると感じています。松浦社長は、この差がどのような点にあるとお考えですか?
松浦:圧倒的な危機感だと思います。 私たちでいうと、主要営業エリアの山口県は社会課題先進地域にあたります。その影響で「このままでは駄目だ」という想いが、他の地域よりも強いのではないでしょうか。
福田:なるほど。組織の体質や文化の面でいうと、まだ失敗を許容するムードには必ずしもなっていない印象があります。
松浦:そうですね。まだまだ改善の余地はあると思います。
ただ、私たちのグループには事業会社が多く、我々自身が様々な事業に積極的に挑戦しています。また、10年前や20年前の銀行と比較しても、「グループ内外に若手社員を送りチャレンジさせよう」という方針が浸透してきました。
このような取り組みは、グループとして若い社員の獲得にも繋がっていると考えています。
日本や地域を変える「銀行×プロシェアリング」への期待
──最後にお一人ずつ、プロシェアリングへの想いをお聞かせください。
笹島:金融機関でのプロシェアリング内製化が全国各地に広がれば、日本は本当に変わると思っています。
例えば、YMキャリア様が100行あれば、中本さんのような銀行員が1,000人いれば、企業のためにカネ×ヒトで全面的に支援する金融機関が増えますよね。企業支援のソリューション自体は世の中にいくつもあるので、プロシェアリングを含めた総合商社のような銀行が誕生して、地域とのパイプ役になる未来を想像しています。
地域全体の意識を変えるきっかけとして、プロシェアリングが機能できれば本望です。
福田:私の理想は、プロシェアリングパートナーが地域経済の希望になることです。
この事業を始めてからはまだ3年程度なので、幅や深さはこれから出てくると思います。そのため、基本的には制限やキャップをかけずに、プロシェアリング自体が可能性を広げるものになってほしい。 現時点では希望に近いですが、金融機関の方々と一緒にこのプロシェアリングパートナーを創り上げながら、地域経済にインパクトを与えていきたいですね。
松浦:私からは金融機関の皆様に向けて、「我々の組織も持続可能であることが必要だ」というメッセージを送らせていただきます。 多くの金融機関は、ビジネスマッチングの延長線上として人材業に取り組んでいます。しかし、それでは事業単体での採算が取れません。まずは事業としてやるべきかを整理するべきでしょう。企業様の持続可能な成長を支援するには、そのための組織設計が必要です。
私たちとしては、プロシェアリングは地域を支えながら採算も取れる事業であると考えています。地域金融機関の皆様には、ぜひプロシェアリングを一つの選択肢としてご検討いただきたいですね。
※記事内の所属・役職は全て2024年3月15日当時のものです。
※プロシェアリングパートナーについてはこちらのプレスリリースもご覧ください。
https://circu.co.jp/news/20240314-4626/