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【コーポレート・ガバナンス最前線】積水化学などの事例で学ぶ、取締役会の運営と社外取締役選定のポイント

SDGs

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

ステークホルダーの価値観が多様化したことで、現代の企業には透明性・公正性が求められています。特に社会からの信用を勝ち取らなければならないエンタープライズ企業は、コーポレート・ガバナンスへの取り組みが必要不可欠になりました。
2023/7/20のウェビナーでは、大手国内企業(ブリヂストン、楽天、積水化学、KADOKAWA)のコーポレート・ガバナンス強化の経験がある河合氏をお招きし、取締役会の運営と社外取締役選定のポイントを解説して頂きました。

無料のホワイトペーパーダウンロードはこちらからできます。

コーポレートガバナンス_WPDL

河合 秀樹様

河合 秀樹氏

株式会社KADOKAWA グループ内部統制局局長(兼 取締役会室長 兼 監査委員会室長)、IPO・内部統制実務士
国広総合法律事務所、ブリヂストン、楽天、積水化学工業を経て現在はKADOKAWAグループ内部統制局/局長を務める。経験豊富なコーポレート・ガバナンスのプロフェッショナル。ブリヂストンでは、グループ会社を対象としたコーポレート・ガバナンスの運用基準を整備し、グループ会社役員研修を制度化するなど、グループガバナンスの強化を推進。楽天では、新規事業創出のための新会社設立を複数手掛けたほか、PMI担当として買収企業の統制強化を経験。積水化学工業では、取締役会等運営、コーポレートガバナンス・コードの改正対応をはじめ、政策保有株式の見直しや社外取締役の実務支援を手掛ける。KADOKAWAでは、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社の移行を手掛け、コーポレート・ガバナンス強化の戦略設計〜施策実行の責任者として推進中。

松井 優作

松井 優作

株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
早稲田大学卒業後、新卒一期生で創業期のサーキュレーションに参画しマネジャー就任。首都圏を中心に自動車や大手製薬メーカーなど製造業50社以上に対し、全社DXの推進・新規事業開発・業務改善・営業部隊の構築・管理部門強化などの幅広い支援実績を持ち、実行段階に悩みを抱える企業の成長を支援中。

酒井 あすか

酒井 あすか

イベント企画・記事編集
新卒で大手人材紹介会社に入社し、中途採用における両面マッチング型の法人・個人営業、グループ会社・地銀とのアライアンス連携業務に従事。丸の内エリアに本社を構える企業への採用支援、100名単位のグループ会社社員に対して営業企画、地銀への人材紹介事業レクチャーに携わる。サーキュレーションではプロ人材の経験知見のアセスメント業務とオンラインイベントの企画〜運営を推進。

※プロフィール情報は2023/7/20時点のものになります。

今さら聞けないコーポレート・ガバナンスとは?

コーポレート・ガバナンス(企業統治)とは、あらゆるステークホルダーの立場を踏まえて、中長期的な企業価値向上に向けて健全な意思決定や経営判断を行う仕組みである。
例としては第三者視点となる委員会の設置や、株主への適切な情報開示などがある。

コーポレートガバナンス_記事内①

日本でコーポレート・ガバナンスが注目されたのは、経営悪化や不祥事などが頻発した1990年代と言われている。この時期から、株主還元の意識が強い米国企業が参考にされ始め、中長期的な企業価値向上の手段としてコーポレート・ガバナンスが重視されるようになった。

参考URL:
コーポレート・ガバナンス(企業統治),米国株の特徴(水戸証券)

日本企業の課題とコーポレート・ガバナンスの必要性

経済産業省の伊藤レポートによると、日本企業は資本効率性や長期投資の伸び悩みによって、国際的な評価が下がっている。その背景には、日本企業の利益創出力(いわゆる「稼ぐ力」)が弱く、資本市場から魅力ある投資先とみなされなかったためである。

特に2015年にSDGsが採択されてからは、「サステナブル」や「ESG(環境・社会・ガバナンス)」といった考え方が注目され、ステークホルダーの価値観も多様化してきた。会社の持続性にとって環境・社会への配慮に加え、ガバナンスもそのベースとなっている。こうした背景も踏まえると、日本企業のコーポレート・ガバナンス強化は待ったなしの状況と言えるだろう。

伊藤レポートから読み取る日本企業の正しい道筋

新たなビジネスモデルが求められる状況で、企業はどのような方針を立てれば良いのだろうか。昨今の経営環境や今後の正しい道筋について、河合氏に話を伺った。

伊藤レポートではROE8%以上の目標を提示

松井:2014年に公表された伊藤レポートは、どのようなものなのでしょうか。

河合:「失われた20年あるいは30年」と言われるように、バブル崩壊後の日本企業には元気がありませんでした。長くデフレ環境にあったので、とにかく「コストを下げる」「安くする」という方向ばかり向いていたと思います。
しかしコストを下げる原資はどこにあるのでしょうか?儲かっていないのに値下げするということは企業自身の基礎体力を削り続けることになります。そんな状況で企業は苦しみ、従業員も疲弊し、株主へのリターンもなくなってしまう。これをきちんと利益を稼ぐ状態に戻そうと、そのきっかけになるドキュメントだという風に理解をしています。

松井:利益につながるイノベーションを創出するためには「どうするのか?」が示されたドキュメントということでしょうか。

河合:「結局、日本企業は稼げていなかった」ということが、データで初めてエビデンス化された形です。

伊藤レポートでは、イノベーションにつながる「投資の環」を回すために、ROE(自己資本利益率)8%以上の目標が掲げられている。

コーポレートガバナンス_記事内②

河合:この8%という数字は、インパクトがあったと思っています。経営者の皆さんも意識されていて、大手企業の取締役会でもこの数字は意識されていますし、さらにそれ以上を目指す大手企業も増えてきています。

コーポレートガバナンス・コード改訂

国内の経営環境が見直される中、2021年には企業統治のガイドラインとされる「コーポレートガバナンス・コード」が改訂された。これまでとは違い、”攻めのガバナンス”が重視されるきっかけとなったが、コーポレート・ガバナンスの強化を内製で取り組むには議論が手薄のままだと河合氏は語る。

参考URL:
コーポレートガバナンス・コードとは

コーポレートガバナンス_記事内③

河合:企業の方向性を示すメニューは出てきていますが、「じゃあ誰が社内でやるの?」という議論ははるかに手薄です。なおかつ、内製化を実質的に対応できる人材がどの企業も不足していると思いますね。
また社外取締役を迎えようにも、その人物像にこだわる必要があります。

大手4社の実績をもつ河合氏が実践したコーポレート・ガバナンス施策

IPO・内部統制実務士である河合氏は、これまでに大手4社の内部統制に携わった経験がある。

河合:私自身は、組織にコーポレート・ガバナンスの機能を定着させることに加えて、継続的な人材供給もテーマにしています。

施策の内容から運営体制まで重視してきた河合氏は、どのような点を意識してきたのだろうか。ここからは事例として、積水化学での施策について伺った。

積水化学の事例

河合:元々歴史のある会社ですし、取締役会はしっかりと運営されていました。しかし、私が関わっていた当時、新規事業向けの開発が思うように進展しなかったことがありました。
社外取締役は進捗を知りたがる一方で、現場は試行錯誤の連続で、困難に直面しながらやっていました。情報の見え方も報告のタイミングで変わるため、うまく共有ができていませんでした。
計画通りに進んでいないことを隠すのではなく、できていること・できていないことを整理し、悩んでいる部分も含めて取締役会で報告するようにしたところ、案の定社外取締役も巻き込んで色々なディスカッションに発展しました。

コーポレートガバナンス_記事内④

松井:取締役と現場の対話を増やすなど、お膳立てみたいなものもアレンジをされたのでしょうか。

河合:そうですね。「どこに行ってもらおう」とか「何を話そう」「行った先でどういう人に出てもらおう」などです。このような点を私の方で支援していました。

河合氏は取締役と現場の情報共有を促すことで、解像度の高い長期ビジョン・中期計画の策定をサポートしてきた。その結果として、積水化学は以下のような実績を残している。

※その他の河合氏の事例も知りたい方は、無料のホワイトペーパーをダウンロードしてください。

河合:経営経験の豊富な社外取締役は、中期計画のプロセスにも関与したい意欲が高いのですが、執行側は途上の計画をあまり説明したくないというジレンマがあります。積水化学も以前は出来上がりの中期計画を取締役会で報告していたそうなのですが、私が在籍した時は中間報告を行い、社外取締役の意見を取り入れる機会を増やしました。「社外取締役を含む取締役会の総意」として新ビジョンが出来上がったという部分に、これまでとは違うインパクトがあったと思います。

プライム企業が学ぶべき取締役会の運営方法

コーポレート・ガバナンスの整備では、計画のズレを軌道修正できるような体制が望ましい。現場頼みではなく、経営全体の視野から意思決定をする仕組みを作ると、計画のズレ自体も防ぎやすくなる。

河合氏は自身の経験から、取締役会の運営方法をどのように考えているのだろうか。

取締役会での議論の理想とは?

河合:年間のフォアキャスティングと、事業の進展がどうリンクしているかが大事だと思っています。具体的にどの計画と数字が紐づいているのか。そこをクリアにした上で議論にかけると、ビジョンと実務がきちんと連動するので中期計画自体も現実味が増します。

コーポレートガバナンス⑤

松井:現場も含めて、あらゆるところへの配慮・気配りが重要になるのですね。

河合:そうですね。現場にとって取締役会の決議や報告は非常にハードルが高いものです。ですので取締役会も事業に対して寛容になることが大切です。例えば「ここまでならいい」「この部分は引き受ける」のように、事業を後押ししてあげる。ダメな場合でも明確な基準をつくってクリアにすると、取締役会と現場のコミュニケーションは変わると思います。

事業の議論はバランスシート思考で行う

河合氏によると、事業に関する議論はバランスシート(貸借対照表)をベースにすることが望ましい。PL(損益計算書)を基準にすると、1年などの短期目標を重視しがちになり、中長期的な計画を立てづらくなるためだ。

河合:毎月のPLで「行った・行かない」の議論をすると、結局その単月の思考で終わってしまいます。まして経営に届く数字は過去実績でしかなく、聞いた時点で今更動かしようがありません。そこも当然見るべきですが、大事なのは「今の資産でどれぐらいの利益創出につながっているのか」「利益を生み出さない非効率な事業・資産はないか」をコンスタントに議論することです。それがROEの向上につながります。

コーポレートガバナンス⑥

バランスシート思考で議論を行うと、上図のように長期的な視点を持ちやすくなる。長期投資まで視野を広げることで、見えづらかった課題を発見できる可能性もあるだろう。

松井:様々なポートフォリオを抱えている企業は、セクターごとの分類も必要になりますか。

河合:そうですね。バランスシートは全体合算なので連結全体だと見えにくいのですが、セグメント毎に分けてみると色々なものが見えてきます。そうすると、「事業を進めるべきなのか」「見直すべきなのか」「撤退すべきか」といった判断がしやすくなります。日本企業は不採算事業を見直すことが苦手です。しかし会社の中で注目されず、リソースも与えられず、評価もされず細々と不採算事業に関わり続ける社員は気の毒です。丁寧に現場へ説明しつつ不断にポートフォリオを入れ替えていくことが利益創出に不可欠ですし、リソースの再配置が新たな活力に繋がれば、不採算事業の見直しも決してマイナスばかりではないのです。

河合氏が教える社外取締役選定のポイント

コーポレート・ガバナンス施策で社外取締役を迎え入れる場合は、会社ファーストで考えてくれる候補者を選ぶ必要がある。その選定基準として、河合氏に以下のポイントを提示して頂いた。

コーポレートガバナンス_記事内⑦

河合:会社カルチャーに合っている人物、ステージに合っている人物でないと、社外取締役は難しいです。例えば超上場企業のトップがスタートアップの取締役に招かれても、恐らく機能しないと思います。また事業環境の変化が激しい昨今、過去の成功体験にとらわれる人も不適格です。
あと、経済的自立性も意外と重要だと思っています。社外取締役はステークホルダーの代表として、ケースによっては社長・CEO解任も辞さない行動をとるべき役割です。そうした独立性ある行動をとるためには、「いつでも辞められる」覚悟がないと難しいと思います。取締役報酬が生活の糧になっている人はなかなか辞めないし、大胆な行動もとれないので、選定してしまうと企業は後々大変な思いをするかもしれません。

コーポレート・ガバナンス最前線まとめ

今回のウェビナーのポイントをまとめると、以下のようになる。

コーポレートガバナンス_まとめ

※今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。コーポレート・ガバナンス最前線にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】コーポレート・ガバナンス最前線〜積水化学などの事例で学ぶ、取締役会の運営と社外取締役選定のポイント〜
株式市場で評価されるコーポレート・ガバナンス体制を構築していきたい皆様に向けて、大手4社のコーポレートガバナンス担当経験を持つ河合氏に、具体的な取締役会の運営と社外取締役選定のポイントを解説いただきました。「社外取締役との相性が悪い」「取締役会の運営方法がわからない」などの課題を感じている方はぜひご覧ください。