AIの進化は目覚ましく、AIを活用したサービスもどんどん登場してきています。ぜひ自社のビジネスにもAIを導入したいと考えている経営者の方も多いのではないでしょうか。

しかし、AIという言葉が独り歩きする中、そもそもAIに何ができるのか正直よくわからないという声も多く聞きます。AI導入はいつ、どんなテーマで検討するべきなのでしょうか。今からでもAI導入は可能なのでしょうか。

本記事ではサーキュレーションで行われた、AIのプロによるセミナーの内容をもとに経営者のための失敗しないAI導入のポイントを解説します。

山田 勝俊(ヤマダ カツトシ)氏

セミナー登壇者様:山田 勝俊(ヤマダ カツトシ)氏

株式会社コルノバム 代表取締役。ディーキン大学経営大学院(MBA)卒業後、IT業界での勤務経験を経て2社起業。その後、多国籍AIスタートアップ、コージェントラボでセールスディレクターとして、200社以上の大企業、中小企業向けにAIで手書きをデータ化するサービス「Tegaki」をはじめ、その他AIの導入コンサルティングを実施。2018年度から再度独立し大企業、中小企業向けの新規事業開発支援を行う。

第三次AIブームの到来

AIという言葉を耳にする機会が増えてきたことからもわかるように、現在は第三次AIブームと言われています。まずはAIのトレンドを簡単に押さえておきましょう。

第一次AIブーム〜1950年代後半~1960年代〜

第一次AIブームは、1950年代後半~1960年代にかけて起こりました。ただし、当時のAIに可能だったのは推論や探索による迷路の解読や定理の証明程度でした。

複雑な要因が絡み合う現実社会の課題を解くことはできなかったため、ブームは程なく終焉を迎えます。

第二次AIブーム〜1980年代〜

第二次AIブームが起こったのは、少し時間がたった1980年代のことでした。推論に必要な情報を、コンピューターが認識できる形に記述した「知識」にして与えることで、AIが実用可能な水準に達した時代です。

しかし、コンピューターが自ら情報を収集して蓄積することはできなかったため、人間がすべての「知識」を与える必要があり、実際に活用するには限界がありました。

第三次AIブーム〜2000年代から現在〜

そして2000年代から現在まで続いているのが第三次AIブームです。これまでとの大きな違いは、「ビッグデータ」と呼ばれる大量のデータを用いることでAI自身が知識を獲得する「機械学習」が実用化されたこと、そして、これまでは人間が設計する必要があった「知識を定義する要素」までをAI自らが習得する「ディープラーニング」が登場したことです。

特にディープラーニングは複雑な問題を高い精度で解けるため、音声や画像認識の分野で目覚ましい成果を上げています。第三次AIブームの到来により、AIはあらゆる分野に一気に広がったというわけです。

経営者が抑えるべきは専門用語ではなくビジネス上のメリット

ちなみに、AI導入の前提としてこのようなトレンドを押さえておくことは有益ですが、特に経営者の方はAIの仕組みや専門用語を正確に理解できなくても問題ありません。

AIはあくまで手段ですので、経営者や事業責任者の方は、AIを導入することによるビジネス上のメリットを考えることの方が重要です。

総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)
(出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)

AIの特徴と導入に適したテーマ

このように近年急速に技術革新が進んできたAIですが、今のAIには具体的に何ができるのでしょうか。

AIの活用用途と特徴

AIには様々な分野があります。これらの中から、自社のビジネスにおいてどのようなテーマにAIを導入していけばいいか考える必要があります。

AIにも様々な活用用途がある
講演のスライドより抜粋

導入するテーマを考える際には、AIならではの特徴も押さえておきましょう。AIには、人間と比較して下記のような特徴があります。

AIの3つの特徴
講演のスライドより抜粋

AIの得意分野〜膨大なデータの爆速学習〜

昨今働き方改革が話題ですが、人間が働ける時間には限界があります。また、職場では高度なマネジメントも必要になるでしょう。しかし、AIはコンピューターですので疲れを知りませんし、マネジメントも不要です。また、膨大なデータ量を瞬時に解析できてしまうのもAIの強みです。

これらを踏まえたうえで、今すぐにAIを適応しやすいテーマは何でしょうか。それは、下記の3つの要件を兼ね備えたものです。

今すぐAIを適応しやすい分野
講演のスライドより抜粋

AIの精度を上げるためには、学習する必要があります。例えば画像認識において、ある顔画像を認識させたい場合、正解となる画像や不正解となる画像をできるだけ多く見せて教えなければいけません。したがって大量の、かつパターンやイレギュラーケースが少ない教師データが必要です。さらに、AIは学習しながら精度を高めていくので、最初から完璧を求めないこともポイントです。やってみるまではわからない、というのもAIの特徴です。

AI導入の際には、これらの3つの要件を備えたテーマから始めましょう。

逆に言えば、これらの要件を備えていないものは、AI導入に向いていないということです。AIという言葉が独り歩きし、AIに対して過剰な期待を持っている方も多い現状だからこそ、AI導入に最適なテーマを見極めることが重要です。

AI導入は自社開発?他社開発?

AI導入に際して多くの経営者の方が最も気になっているのが、コストと開発の難易度ではないでしょうか。開発方法は、大きくわけて自社開発と他社開発の2つのパターンがあります。開発方法によってコストも変わってきます。それぞれのメリットとデメリットを比較してみましょう。

AIって高いんでしょ?自社開発 vs 他社開発
講演のスライドより抜粋し作成

このように、自社開発と他社開発にはコストや開発難易度、権利などにおいてメリットとデメリットの両方がありますので、ビジネスの目的などに応じて最適な方法を選ぶことが重要です。

AI導入プロセスの3つのSTEP

それではここからは、実際にAIを導入するにあたっての進め方を解説します。AI導入プロセスには3つのSTEPがあります。

【STEP1】目的の明確化

AIを導入してどのようなことに取り組みたいかを明確にします。業種や規模によって目的は様々ですが、できるだけ具体的にすることがポイントです。以下、具体的な例となります。

  • AIを使用することで○○のスピードを●%削減したい
  • 熟練社員のノウハウをAIに覚えこませて、全社員がそのノウハウを利用できるようにしたい
  • 大量のデータから、人間には発見できないようなパターンをAIに見つけてほしい
  • 最先端のAIを導入していると投資家に説明したい

【STEP2】AI会社の選定

目的が絞れたら、AI会社の選定(自社開発を含む)を行います。AI会社は近年増えてきており、強みや特徴も様々です。基本的な選定ポイントとして、経歴のあるデータサイエンティスト、マシンラーニングエンジニア、ソフトウエアエンジニア、ビジネス開発担当などがチームとしてそろっているところを選ぶと安心です。

AIは開発会社によって成長スピードが大きく異なりますので、AI会社の選定は非常に重要なステップになります。

【STEP3】POCの実行

AI会社が選定できたらPOC(Proof Of Concept:コンセプト検証)を実行します。POCは2段階で行うようにしましょう。

1段階目では、すべてのデータではなく8割のデータをAI会社に渡して、どれくらいの精度が出るかを検証します。その結果を受けて修正し、2段階目は残りの2割のデータも渡して学習後の精度を調べます。

1段階目と2段階目の間は短いですが、しっかりとアルゴリズムを作り修正できる会社であれば2段階目で精度が少なからず向上します。精度の伸び率も見たうえで最終的に判断しましょう。

まとめ:AI導入は今すぐの結果か未来への投資か

ここまで読んでも、AI導入についてまだ迷っているという方もいらっしゃるかと思います。

AIは人間の子供と同じで段階を積んで成長していくので、今すぐ100%の精度にはなりません。しかし、現在の精度は80%だとしても、導入することで従来よりも20%の時間とコストが削減できれば、その分を新規事業に投資することもできるでしょう。

AIの技術革新は目覚ましく、AIは今後、あらゆる産業構造を変える可能性を秘めていると言えるでしょう。今から導入することで、AIの精度や成長スピードも確実に上がっていきます。未来への投資のために今AIを導入することのメリットは大きいのではないでしょうか。

それでもAI導入に不安がある場合は、研修などを利用して社内のリテラシーを上げると同時に、AIとビジネスをきちんと理解している人材にプロジェクトに参加してもらうこともひとつの方法です。AI導入は、テーマやタイミング、開発会社の選定などによって成長スピードが大きく異なります。貴社にあった選択をして、AI導入を成功させましょう。

なお、本記事は一部の抜粋のみとなっております。セミナーでは具体的なAIを導入している企業の事例や、現在の海外のAI企業のトレンド、今実際のAI導入を進めるべきかどうか、今後AIはどのように発展していくのか、などたくさんのトピックスについてお話しいただいておりました。もっと詳しく聞きたい方は、次回の開催を期待ください。