【イベントレポート】戦略ドリブン組織の創り方 ―経営者のための、経営戦略を実行する組織創りとしてのジョブ型人事制度の設計・構築とは?―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2022/05/11回では、経営戦略に応じた組織運営を行いたいが、戦略を組織にどう浸透させるかについてお悩みの皆様に向けて、日本のベンチャー企業〜大企業まで多くの企業変革と経営者教育に貢献してきた人事のプロ 髙橋氏に
経営戦略を実行する組織創りとしてのジョブ型人事制度導入とは?をご紹介いただきました。
「経営戦略に応じた組織運営を行いたいが、どのように戦略と組織を連結していいのかわからない」
「変化の激しい時代に対応できる組織体制を築きたいが、人事部や人事制度への落としこみ方がわからない」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
髙橋 宏誠氏
株式会社エスト 代表取締役
新卒で富士通に入社後、マッキンゼー、ヘイグループ(現コーン・フェリー)にて戦略の立案と実行・組織構築に従事。日本のベンチャー企業から大企業まで、コンサルティング経験は30年以上に及び、多くの企業変革と経営者教育に貢献。その後、米国系経営幹部教育最大手で、マネジメントシンクタンクであるコーポレート・エグゼクティブ・ボードの日本代表を務め、日本のグローバル企業役員に対してワークショップ提供や大学MBAプログラム講師も務める。株式会社エストを設立し、組織・人事領域を中心にコンサルティング活動中。
鈴木 亮裕氏
株式会社サーキュレーション パートナー
NTT東日本、中国での起業、組織人事コンサルティングファームを経て2015年創業期のサーキュレーションに参画。トップコンサルタントとしてIT領域を開拓後に執行役員に就任。その後、組織急拡大期に人事部長として人事制度設計の再構築を主導、インサイドセールスと大企業のオープンイノベーションを推進する機能を持つビジネスデベロップメント部を管掌した後、2022年8月よりエキスパート職として、エンタープライズ企業向けコンサルティングのパートナー職を担う。
酒井 あすか
イベント企画・記事編集
新卒で大手人材紹介会社に入社し、中途採用における両面マッチング型の法人・個人営業、グループ会社・地銀とのアライアンス連携業務に従事。丸の内エリアに本社を構える企業への採用支援、100名単位のグループ会社社員に対して営業企画、地銀への人材紹介事業レクチャーに携わる。サーキュレーションではプロ人材の経験知見のアセスメント業務とオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2022/05/11時点のものになります。
Contents
多くの企業は戦略を実行できるような組織設計・構築ができていない
経営戦略に沿った組織運営――戦略人事を行う重要性は、ほとんどの企業が認識している。ところが実際に戦略人事が機能していると考えている企業がわずか3割程度で、思ったような組織運営ができていないというのが、多くの企業の現状だ。
経営戦略を実行する組織設計を阻害している要因の一つが、SBU(戦略的事業単位)の不明確さだ。さらには戦略実行のための成果責任や役割分担が明確でない点も理由として挙げられる。
簡単に言えば、経営課題を取り扱おうとしても組織の責任や役割が定まっていないために、部署間での押し付け合いになってしまうのだ。
事例で学ぶ、戦略ドリブン組織設計のロードマップ
では、どうすれば経営戦略を戦略人事にまで落とし込み、戦略ドリブン組織へと変革できるのか。まずは実際に髙橋氏が手掛けた事例を取り上げて、ロードマップについて教えていただいた。
【事例】経営戦略を実行できる組織変革に成功した企業事例
今回ご紹介するのは、中堅製薬会社がプロダクトアウトからマーケットインの経営戦略に転じた事例だ。それまでは業績に伸び悩んでいたが、組織変革によって1年で顧客ニーズに即した製品・サービス展開を実行。売上高は成長軌道に乗った。
戦略ドリブン組織に至るまでには、「変革の準備」「組織の基本設計」「組織の詳細設計」の3つのフェーズがあり、それぞれにいくつかの推進のポイントがある。今回はその中から特に重要な部分を抽出して解説していく。
Phase.1 変革の準備
まず変革の準備のために髙橋氏が行ったのが、戦略のレビューだ。策定した戦略の方向性が正しいのかどうか、定性評価から実施したという。
髙橋:例えばミッション・ビジョン・バリューがトップの価値観とマッチしているかどうかなどを、定性的に評価します。例えばSWOT分析で自社の強みを押さえる手法がありますが、それだけではなく会社の経営資源をきちんと検討できているかどうかも重要です。あとは、戦略が既存部門の方針と整合性が取れているかも確認します。
もちろん、領域別の戦略も作成します。事例でいうと、精神科や呼吸器内科などの区分ですね。そこから製品と販売を分けて、求められる機能を抽出しました。
Phase.2 組織の基本設計
鈴木:次に、抽出した「求められる機能」に対して組織の基本設計を行うフェーズに入っていくかと思います。事例では組織コンセプトを設定するために7Sの要素に落とし込む方法を採られたということですが、どのようなポイントがあるのでしょうか。
髙橋:まず7Sのフレームワークでマクロな分析を行い、さらにコングルーエンスモデルを用いて、組織の生産性を診断します。コングルーエンスモデルとは、組織が外部からのインプットを受けたときにどのようなアウトプットが出てくるのかをシステム的に見る診断です。Activity Value Analysis (AVA) という活動価値分析の手法でBPRすることもありますね。
つまり、業務自体の問題点や業務プロセスの非効率な部分を抽出して、組織課題を設定するわけです。それらを全てまとめた上で、組織設計のコンセプトを設定します。
事例では5つのコンセプトを出しました。1~3まではいわゆる「あるべき姿」、4、5は「ありたい姿」です。これをさらに組織要件として分類します。このプロセスは主任クラス以上のメンバーを巻き込んだ対話形式で、3日間ほどかけて意見を吸い上げるやり方が望ましいです。
Phase.3 組織の詳細設計
基本コンセプトを策定できたら、組織の詳細設計に取り組んでいくことになる。ここでは特に、職務等級体系の構築について詳しく伺った。
鈴木:職務等級体系を構築するには組織は成果責任をしっかり体系化するのがポイントだそうですね。
髙橋:例えばスライドの一番左を見ると、本部長、部長、課長の3段階になっていますね。それぞれの階層の成果責任を、上から下に作っていきます。それを年度計画や成果、給与制度へとリンクさせていく。このような形で成果責任を作ることを、職務設計と呼んでいます。
【まとめ】組織の基本構造設計上の6つの原則
3つのフェーズの流れから読み取れる組織の基本構造設計のポイントを、「6つの原則」として以下にまとめた。この中で最初に策定するべき戦略の基本方針は、実は「ほとんど会社が作っていない」と髙橋氏。
髙橋:ロードマップも大事なのですが、それをどういう方針で作っていくかを決め、その後に組織というハードを構築することです。日本の企業はほとんどが人の集まる共同体なので、より機能的なハードを作るためには、最初の設計が重要です。
戦略ドリブン組織創りを実現するための3つのポイント
ここまでの解説を踏まえつつ、戦略ドリブン組織創りを実現するためのポイントについてより詳しく教えていただいた。
Point.1 戦略ドリブン組織の3つの前提
大前提として、戦略ドリブン組織には「成果創造マネジメント」「SBU(戦略的事業単位)の明確化」、「戦略・組織・ヒトの連動」が必要だ。
例えば成果創造マネジメントを遂行するには、以下のような5つの原則が参考になる。
髙橋:これはアメリカの優秀なマネジャーの方々の実践をまとめたものです。上記のような、成果が生まれる理想的な組織のイメージを持ちながら組織設計をするのが重要ですね。当たり前に思うかもしれませんが、細かに見ていくと日本企業ではできていないことが多いんです。
次にSBUの明確化の重要性に関して、髙橋氏はシャープと三洋電機の例を解説した。
髙橋:シャープが液晶ビジネスを始めたとき、「液晶事業」を切り出してコミットしました。一方当時先行していた三洋電機は、「家電事業」しかなかった。結果として、シャープは後発にも関わらず液晶事業で大きく成長しました。SBUのくくり方によって事業と組織が一体化し、戦略の実現性が見えてくるのです。
鈴木:そして戦略・組織・ヒトの連動が3つ目のポイントということですね。
髙橋:これは戦略に則って組織を設計した後の話ですね。責任、権限、モチベーション、能力の要素を基に人材要件を設定し、そこにマッチした人材を配置するのが大事です。
Point.2 ジョブ型人事制度のキーワード
鈴木:ポイント2のジョブ型人事制度については、特に「ジョブ型組織」や「ジョブ型雇用との違い」といったキーワードが出てくると伺っています。これらのワードとジョブ型人事制度の関係について教えていただけますか?
髙橋:「ジョブ型組織」というのは、戦略実現に向けて従業員に役割分担をさせ、成果を生み出すように意識的に編成した仕組みと人の集まりのことです。7Sでいうと、戦略をベースに構造とシステムを整備した状態です。ジョブ型組織を支えているのはルールの束のようなものですから、組織を機能させるための要素としてジョブ型人事制度を位置付けています。
鈴木:多くの企業でジョブ型人事制度の導入をしていると思いますが、ジョブ型雇用との関係や必要な要素などについてはいかがですか?
髙橋:ジョブ型雇用では、職務記述書にマッチした人材を採用するのが最近のトレンドです。職務記述書とは、職務の目的やポジション、成果責任、職務の性質や範囲、環境必要な知識、経験などを記載したものです。
ただし、ジョブ型人事制度には必ずしも詳細な職務記述書は必要ありません。成果責任シートだけ作成すれば大丈夫です。
Point.3 職務等級体系構築までの4ステップ
鈴木:最後が職務等級体系の構築ステップですね。職務設計、成果責任体系の構築、職務評価、そして職務等級体系の構築というそれぞれのミッションの中で、成果物を作っていく形になるかと思います。
職務設計の際は、前述の通り職務記述書の成果責任シートの作成が中心になる。成果責任体系の構築については、トップである社長にとって重要な全社利益、全社成長、企画といったキーワードに対して、営業本部長や技術本部長の役割を決めていく。
鈴木:成果責任体系を基に実際に職務を評価するフェーズに入った際のポイントについて、ぜひ解説をお願いします。
髙橋:ステップ3では、成果責任の大きさを正しく測ります。本部長になれば大きな責任を負うわけですが、それを評価する方法論が職務評価だということです。例えばヘイ・システムなどの有名なツールがありますが、なんらかの形で評価を定量化し、これに対して目標達成度を見ます。するとメンバーがどの程度の仕事をしているのか、貢献度を数値化できます。ジョブサイズに基づいて給与も決められますね。
戦略ドリブン組織の創り方まとめ
今回のウェビナーのポイントをまとめると、以下のようになる。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。戦略ドリブン組織の創り方にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。