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大企業の新規事業にこれまでにないスピード感を。~プロ人材の活用により高速でPoCまで漕ぎ着ける方法~

オープンイノベーション
大企業の新規事業にこれまでにないスピード感を。~プロ人材の活用により高速でPoCまで漕ぎ着ける方法~

※本記事は2022年10月時点の取材に基づく内容です。

食、医、ヘルスサイエンスの3領域の事業を持つ、キリンホールディングス株式会社。食から医にわたるイノベーション創出を謳う中で、社員発案のビジネスアイデアの新規事業化にも力を入れています。今回のプロジェクトではPoCに向けプロ人材の知見が必要だと判断し、プロ人材の椿奈緒子さん(以下、椿)をアサインされました。プロジェクト担当者の染谷さん(以下、染谷)と、複数のプロジェクトをマネジメントする立場である西前さん(以下、西前)も交え、プロジェクトの全容を伺っています。

プロジェクトのスピードを短縮し、早期の市場リリースを目指したかった

テクノロジーの進化やオープンイノベーションの観点で、新規事業の創出に積極的に取り組み

キリンホールディングス株式会社 ヘルスサイエンス事業本部 ヘルスサイエンス事業部 新規事業グループ  主幹 西前 純子氏(所属は事例取材時点)

西前さん(以下、西前):キリンホールディングスには食、医、ヘルスサイエンスという3つの事業領域があります。私たちはヘルスサイエンス事業部の新規事業グループに所属しており、業務内容は新規事業創出、スタートアップへの投資や協業などのオープンイノベーションです。

キリンでは「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」ことを目指し、その実現に向けて、人々の健康に貢献していく「ヘルスサイエンス事業」の育成を進めていますが、「特にヘルスサイエンスはテクノロジーの変化が著しく、様々なサービスが台頭しています。こうした状況の中、我々は自由に新しいチャレンジに取り組んでいます。

その一環として年に1回行っているのが、社内のビジネスコンテスト「キリンビジネスチャレンジ」です。今回椿さんにご支援をお願いしたプロジェクトは、昨年コンテストを通過した染谷のアイデアをベースに、新規事業の立ち上げを目指したものでした。

ケイパビリティに合わせて、内製かプロ人材を活用するかを柔軟に判断

キリンホールディングス株式会社 ヘルスサイエンス事業本部 ヘルスサイエンス事業部 新規事業グループ 染谷 将則氏

染谷さん(以下、染谷):私はもともと医療機関の営業担当です。当初は新規事業のアイデアとして、コロナ禍によって減ったクリニックの患者数を戻すようなソリューションを考案していました。アイデアは審査中にメンターからのアドバイスもいただきながら何度かピボットを繰り返し、現在は女性の健康課題を解決するビジネスを展開しようとしています。

西前:コンテストを通過したら、アイデアの起案者は私どもの部署に異動をしてフルコミットでプロジェクト化して担当するケースが多いです。そして実際に新規事業として立ち上げるために、新規事業開発のステップを進めていくわけですが、初期段階で必要になるのがMVPの作成とPoCの実施です。

今回は染谷中心で進め、PoCの実施までに時間かかる見込みだったため、外部の知見をお借りすることにしました。プロジェクトの体制はプロジェクト毎によって異なりますが、新規事業はやはりいち早く世にリリースして、お客様の反応を見る必要があります。 サービスをどうすれば最短で開発できるのか、何をどこまでどう進めればいいのかといった肌感も含めて、しっかりサポートしていただけそうなプロ人材を探しました。

顧客の抱える課題に対する圧倒的な共感と熱意に惹かれて椿さんに支援を依頼した

染谷:要件としては、女性をターゲットとしたビジネスの経験があり、ビジネスモデルの構築から開発の要件・工程の洗い出し、プランニング全般をご支援いただける方を設定しました。

椿:半年でPoCに着手したいというご希望もありましたね。

西前:プロ人材の方には3名ほどお会いして、最終的な判断は染谷に任せました。

染谷:最終的に椿さんにお願いした一番の決め手は、課題に共感していただけた点です。私自身、男性の立場から女性の課題解決を目指していますので、「共感性」を大切にしています。

ほかの方々もケイパビリティは十分でしたが、どちらかといえば事務的な印象を受けていて。一方で椿さんには、プロジェクトで解決したい課題に対する熱意を感じました。

あとは相性ですね。面談で1時間ほどお話をさせていただきましたが、こちらが一つのことを聞いたら、本当にさまざまな事柄を語っていただき、この方となら進められそうだと感じました。

自分が課題に「憑依」できるかどうかを最も重視

プロ人材 椿 奈緒子氏

椿:私はサイバーエージェント出身で、サイボウズとの合弁会社立ち上げや、YOLO JAPANでの取締役COOとして新規事業立ち上げやマーケティング、セールス、アライアンス統括を経験してきました。例えばサイバーエージェントでは事業責任者として女性向けサンプリング事業の立ち上げを牽引しサイボウズとの合弁会社ではメディア規模と収益規模の拡大に取り組みました。現在はさまざまな企業の新規事業立ち上げから推進までを、ハンズオンでご支援しています。

プロジェクトにジョインさせていただくときに一番大事にしているのは、自分が課題に「憑依」できるかどうかです。どこまで課題に本気で立ち向かい、解決したいと思えるかということですね。憑依できなければ、熱意もアイデアも生まれません。特に自分が完璧に知っているわけではない分野は、調査やヒアリングにおいて課題意識と熱意が不可欠です。だからこそ課題に憑依できるかどうかを、ご依頼をお引き受けする条件にしています。これは一緒に取り組ませていただく企業様側に対しても求める部分です。

染谷:実は椿さんとは今日初めて対面でお会いしました。メンタリングはオンラインで行っていましたが、そんなことが気にならないくらい画面越しに「パッション」を感じる方です。熱意とともに、とても話しやすいとも感じていました。

ビジネスモデルに対する解像度を一気に高め、PoCまで前進した

週に1回のミーティングを通して、希望通りのフェーズまで到達

染谷:支援は週1回、完全にオンラインです。ミーティング以外はSlackなども用いてかなり密にやり取りをさせていただいたので、特に不便は感じませんでした。基本的にはプロジェクトをどう進めればいいのか、どんな問題点が出てきそうかといった観点でアドバイスをいただき、次の動きを具体化していきました。

椿:大きくはサービス内容とスケジュール感に対してアドバイスをしていましたね。プロジェクトメンバーが染谷さんしかいませんから、いかに社内を巻き込みながら効率よく進めるかについて議論させていただきました。

染谷:段階としては、まずはビジネスモデルを固めるところからスタートしました。その次にMVPを作り、現在はPoCとブランディングを構築する段階に移行しています。ここまでが当初の希望通り、半年間で進みました。

「勝ち筋」の見える事業案を練り上げるため、社会的価値や顧客のペインを最初に言語化してみる

椿:一番大変だったのが、最初のビジネスモデル――事業案を作るところでした。このフェーズで私がいつも取り組むのが、プレスリリースの執筆です。一度事業アイデアを言語化してみると、それが本当にしっくりくるのかどうかが見えてきます。プレスリリースを基に、果たして現状のアイデアが市場で勝てるだけのものなのか、競合優位性があるのかどうか、自社のアセットや染谷さんの強みをどう使うべきなのか、そもそものビジョンとどうマッチさせていくのかなどについて、調査やディスカッションを重ねました。

西前:プレスリリースを最初に書いてみる手法は、私も自分で事業開発した際に用いていました。メディアでどう伝えられるのかをイメージすると、求められる社会的価値が見えてきます。ですから椿さんのやり方を聞いて、良い人に来てもらったと安心しました。

椿:「勝ち筋」の見える事業案でなければ、市場に出てから通用しないのはもちろん、そもそも社内のゲートも通過できませんからね。 あとは顧客のペインの解像度を高めるのも重要なのですが、キリンさんは「事前にわかることがあるなら知りたい」という姿勢で、調査にかかるリソースを惜しまなかったのが印象的でした。

西前:もともと当社は競争の激しい消費財を取り扱っていますから、商品開発において様々な調査を行っています。ゆえに「解像度を高める」というエッセンスは多分に持ち合わせていたのかなと思いますね。

プロ人材との議論でビジネスモデルの解像度が高まり、圧倒的なスピード感を持った推進が実現した

染谷:顧客調査も含めたビジネスモデルの構築までには2~3ヶ月ほどかけ、何度かトライをして最初のゲート通過が叶いました。

西前:私はプロジェクトを審査する立場なのですが、椿さんがジョインする前はまだまだビジネスモデルの解像度が低く、プロジェクトを進めようにも進められないような状態でした。それが数ヶ月で解像度がぐっと上がり、ステージが前進した印象です。直近ではスピード感を持って推進できていると感じます。特に、染谷自身が自分の言葉で社内を説得できるようになったのは大きいですね。

椿:審査をクリアするための項目はもちろん把握していましたが、それよりも新規事業で重要なのはお客様の課題を解決し、どのように成長できるかです。とにかくそこをクリアにすることにフォーカスしました。

染谷:その次のMVP作成の段階では、椿さんにはモックアップへのフィードバックをしてもらいました。そこまで一貫してコミットしていただける方は社内にもなかなかいないので、本当にパートナーとして一緒に創り上げていただいた感じがします。

正解のない新規事業の推進においては、第三者からの深いフィードバックも必要

染谷:今回のプロジェクトで得られた資産は、第一に自分自身が「新規事業プロジェクトを進める」という新しい経験値を得られたことです。その中で特に椿さんからは、「とにかく行動をして、顧客に聞きに行く」という、メンタル、マインドの持ち方を教わりました。これは新規事業の基本ではありますが、社内で進めていると忘れてしまいがちになります。

椿:毎月振り返りもしましたよね。15分ほど時間を取って、現状の理想と現実のギャップ、続けたほうがいい取り組み、課題、次回トライすべき事柄などを言語化していきました。

新規事業は必ず上手くいかない部分が出てきますし、進むスピードや方向が日々変わっていきます。正解がないからこそ、課題を自分で発見する必要もあるでしょう。そんな中でも、染谷さんがきちんと本質に目が向けられるように意識しました。

染谷:椿さんは何もかも包み隠さずフィードバックをしてくれるので、気持ちの良いやり取りができました。

西前:第三者からのフィードバックが耳に入りやすいのは、新規事業に限ったことではありませんからね。自分とは異なる立場からの人の言葉は、やはり同じ内容でも違った響きで聞こえます。

プロ人材のナレッジとスキル、マインドのフォローは非常に有益

染谷:椿さんとの協業によって事業の解像度が上がり、プロジェクトの進捗が早くなりました。イントレプレナーシップを学ばせていただきましたし、メンタル面でも師匠のように感じています。ある意味お節介とも言えるほどの課題解決への熱意やアグレッシブさは、今後も見習っていきたいです。PoCを乗り越え、プロジェクトが新規事業として日の目を見るときを夢見て、挑戦し続けていきます。

椿:基本的に新規事業の立ち上げはつらいことばかりですから、それを楽しめるほど、課題解決への熱意を高める必要があります。大変な業務の数々も、「事業を完成させるための必須条件だ」と捉えられるバランス感覚が重要ですね。 事業開発を通して染谷さん自身のキャリアも高め、成長ステップを踏んでいただけたら非常にうれしいです。サービスがリリースされてから、一気に成長階段を駆け上がることを期待しています!

西前:プロ人材はナレッジとスキルの宝庫であり、企業としてはもちろんその専門性を求めてご支援をお願いしているわけですが、椿さんはさらにマインド面から受けるプラスアルファの影響が大きい方でしたね。社内新規事業というのは、少人数だとどうしても人によって得意不得意があるので、足りない部分をプロ人材にサポートして事業を進めることは大事だと思います。

また、今回の案件を通して、企業がプロ人材に支援してもらう際は要件やニーズ、課題をしっかり言語化しておく必要性が高いと改めて感じました。それをもし言語化できないのであれば、プロジェクトを始める前に間に入っていただく立場の方とコミュニケーションをしっかり取るべきです。そういう意味で言うと、サーキュレーションさんはしっかり企業サイドとコミュニケーションを取って要件を定め、ベストな方をご紹介していただけるので、非常にありがたい存在です。

初めての新規事業立ち上げで、ピボットを繰り返し手探り状態が続いていた染谷さんですが、根底には「顧客の課題を解決したい」という熱い想いがありました。椿さんのご支援によってプロジェクトが見事にワークし、社内ゲートを順調に突破できているのは、染谷さんの想いと椿さんの課題に「憑依」するスタンスが、見事にマッチした部分も大きいのだと感じました。

本日はお忙しい中、ありがとうございました!

新規事業開発案件におけるまとめ

課題・概要

年に1回行われる社内のビジネスコンテストの審査を通過したアイデアをプロジェクト化したが、起案者自身1名で担当。アイデアの解像度を高めて半年間でPoC実施を目指しており、MVPの要件定義やプランニング・サポートのために外部に知見を求めた。そこでアサインされたのが、新規事業の立ち上げ・推進をハンズオンで手掛ける椿さんだった

支援内容

  • 週1回のミーティングとSlackでのコミュニケーション
  • ビジネスモデルの策定と仮説検証、MVPの作成、PoC準備までの包括的なフォロー
  • 月1回の振り返り

成果

  • 専任担当者だけでは1年はかかりそうだった事業立ち上げのスピードを大幅に短縮
  • ピボットを数回繰り返したプロジェクトのビジネスモデルを固め、6ヶ月でPoCへ進める状態に

支援のポイント

  • 業界大手であっても、破壊的イノベーションに備えたボトムアップでの事業開発が重要。さらに新規事業を成功させるためには、圧倒的なスピードでのローンチも必要不可欠となる。状況に応じてプロ人材を必要なタイミングで活用すれば、プロジェクト推進をスピードアップし、事業の成長確度を高められる。また、担当者の育成とメンタルケアの視点でもプロ人材の存在は有益となる

企画編集:竹内美晴

写真撮影:安西 美樹

取材協力:キリンホールディングス株式会社

※ 本記事はサーキュレーションのプロシェアリングにおけるプロジェクト成功事例です。

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