【イベントレポート】経営者のためのタレントマネジメント ―元グリコ・ホンダ人事責任者が語る、次世代を担う幹部育成の事例と3つのポイント―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2022/02/09回では、次世代の経営幹部になる人材を、どう育成すべきか悩まれている経営者の方の皆様に向けて
グリコやホンダにてグローバル人材の育成やタレントマネジメントシステムの導入を実践してきた 東野氏に、タレントマネジメントという観点で次世代幹部人材を育成する実践ポイントをご紹介いただきました。
「幹部人材に育てたい人材はいるが、10年後を見越したキャリアパスを明示できていない」
「幹部人材育成をしてもすぐに辞めてしまい、どうしていいかわからない」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
東野 敦氏
次世代グローバル人材を輩出する複数企業でタレントマネジメント等を実践してきた人事のプロ
関西大学卒業後、富士重工業(現SUBARU)、本田技研工業において、工場・研究所を担当。その後、主に海外進出や現地法人・国内グループ会社の人事部門の支援を行い、直接担当した国は20か国以上に上る。人事戦略企画を担当後、フィリピン地区の人事ダイレクターとして3社の経営を担う。海外人事部門立上げに伴い江崎グリコに転じ、グローバル人事ヘッドと人事戦略企画グループ長を兼任。タレントマネジメントシステムの導入による従業員情報の可視化と適材適所の実現、採用マネジメントシステムの共同開発など、人事領域におけるテクノロジー活用を推進。
松井 優作
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
早稲田大学卒業後、新卒一期生で創業期のサーキュレーションに参画しマネジャー就任。首都圏を中心に自動車や大手製薬メーカーなど製造業50社以上に対し、全社DXの推進・新規事業開発・業務改善・営業部隊の構築・管理部門強化などの幅広い支援実績を持ち、実行段階に悩みを抱える企業の成長を支援中。
新井 みゆ
イベント企画・記事編集
新卒で入社した信託銀行では資産管理業務・法人営業・ファンド組成の企画業務に従事。「知のめぐりを良くする」というサーキュレーションのミッションに共感し参画。約1500名のプロ人材の経験知見のアセスメント経験を活かし、サービスブランディング、イベント企画等オンライン/オフラインを融合させた各種マーケティング業務を推進。
※プロフィール情報は2022/02/09時点のものになります。
Contents
DX・SDGs時代、人と組織を取り巻く環境とは
近年、社会情勢の大きな変化とともに人と組織を取り巻く直近の環境認識も転換期を迎えている。人・組織にまつわる要素としは例えば以下のような企業文化、採用、配置育成などさまざまな項目が挙げられるが、そのどれもがより「個人」に寄り添う形に向かっていることは、多くの組織人も実感しているところだろう。
例えば組織文化一つを取っても、従来は株主資本主義だったところから今後は社員や環境、顧客などあらゆるステークホルダーに対してポジティブなインパクトを与えていく必要がある。サステナブル経営の重要性が叫ばれていることや「心理的安全性」がバズワードになったのも、そんな転換の一端を示しているといえるだろう。
グローバル企業における次世代の幹部人材育成の事例
大きな変革を前にして、人事担当者が憂慮すべきは次世代を担えるような幹部人材の育成だ。今回は本田技研工業や江崎グリコなどで人事を担い、タレントマネジメントを実践してきた東野氏から、まず実際の育成事例について紹介いただいた。
本事例でご紹介する企業は売上規模2000億円、従業員1000人程度のメーカーで、なかなか新規事業の推進ができずにいた。特に、タイプ別の人材育成ができていないことが課題だったという。
ここに対して東野氏は、配置、育成、HR Techの3側面からアプローチを行った。
東野:まず「イノベーションができる方を探す」ということで合意をしましたが、イノベーションを起こすのはリーダーや部長ではありません。もう一つ別の人材群が必要だというのが、1つ目の「配置」のポイントです。
2つ目の「育成」においても、必要なのはリーダーシップではない、という観点を入れていくことにしました。それよりも先見性や人を巻き込む力、言葉で伝える力、何か課題を解決したいという強い意志にまつわる内容を育成の中に織り込んでいったのです。
3つ目の「HR Tech」は、イノベーションを起こせる方が何人いてどうやって育成されているのかを、テクノロジーで把握するということです。
一見ベーシックな人事課題と解決策であるように見えて、実際には部課長やリーダークラスとは別の枠を新たに設けることへの不理解や、実際の運用が滞るといった壁が生まれやすく、実行に移すのは難易度が高い。特に運用面では、「年間のルーチンに人事計画を組み込むことが大事」と東野氏。
取り組みの結果タイプ別の幹部育成体制が実運用フェーズに入り、これまで育成してこなかった「横串」タイプの人材の創出に成功。実際に新商品の開発にまで至ったという。
DX・SDGs時代を担う経営幹部タレントマネジメントの3つのポイント
では実際に経営幹部の育成をどう進めていくべきなのか、全体プロセスやよくある落とし穴などと絡めながら具体的にお伺いしていった。
タレントマネジメントを導入して成果を出すまでの全体プロセス
まず、人事担当者が担うべき業務の全体像を示したのが以下のスライドだ。注視すべきはスライド中央、紫で色付けされた部分だという。
松井:ポジションの定義をしっかり行い、定義したデータを基にポジションのマッチングをし、人材の成長や実績に対してフィードバックや報酬を与えているか。この辺りをカバーすることが、タレントマネジメントでは重要なんですね。
東野:そうですね。スポーツに例えるとわかりやすいのですが、野球におけるピッチャーの要件は、ピッチャーをやりたいという志や投げる力、筋力や練習をする力ですよね。プロ野球であれば、それに対して球速が足りない、あるいは年俸がいくらになるのかという話になります。
ところが日本企業の多くは、野球でピッチャーがやりたい人に対して何となくサッカーでキーパーをやらせてしまう。つまり、バリューやスキル、気合いだけで別のスポーツをやらせてしまうんです。その結果、「案外キーパーは下手だな」という状態になることが往々にしてあります。
松井:SDGsが必要になったときに、どういう人が必要なのかを定義せずに野球選手に無理やりサッカーをやらせてしまうと、結局市場からは取り残されてしまうと。
東野:その通りです。
次世代の幹部人材育成において課題となる3つの落とし穴
プロセスを踏まえていざ人材の定義を行い配置・育成していこうとしても、実はここに以下のような落とし穴があるという。
課題1、2は事例でもあったように、「次世代幹部」の定義として、そもそもすでにリーダー職に就いている人やリーダータイプばかりを育成してしまい、結局目的を果たせないというケース。課題3は研修を受けた結果社員の視座が上がり――自社では自身が身に付けたスキルを活用できないと判断し、離職してしまうという状況だ。
それぞれに対してどう対処すべきなのか、3つのポイントとして伺った。
[point.1]候補者の選抜:グローバルで活躍する人材の4つのタイプ
日本企業においてはリーダーが推進者になるべきという意識が根強いが、DX・SDGs時代を担う経営幹部人材幹部候補者はどのような形で選別すべきなのか。東野氏は大前提として、「リーダーがいれば新規事業で勝てるわけではない」とし、人材のイメージを以下の4タイプに分けている。
東野:チームにリーダーは重要ですが、お客様から求められるソリューションを考えるのはリーダーではないんです。そのときにどういう人材群ならビジネスを伸ばせるのかを、しっかりと定義しなければいけません。いわゆる事業戦略の説明ができて初めてタイプのポートフォリオは決まるので、経営理念からしっかり事業を因数分解していただければと思います。もちろんその言語化は、我々のようなプロの仕事でもありますね。
[point.2]キャリア設計:4タイプ別のキャリアパス
ポートフォリオが定まったら、タイプ別にキャリア設計を行う必要がある。前のスライドにもあった通り「リーダー」「イノベーター」「調整役」横串」の4タイプそれぞれに適したプロパーを抜擢するプランが必要だということだ。
東野:まずはざっくりとどの人材がどの事業に何%いればいいのかイメージを持っておいて、その中で自由にキャリアを選べるようにしておくことです。リーダーだけを育てていくというのは、もう古いかなと。例えばイノベーターであれば、バリューチェーンやお金について考えてもらう必要があります。
松井:キャリア設計の視点では、育成状況を測る定量指標が不在だった事例に関わられたことがあるそうですね。
東野:人材や育成に投資をする上では、やはり定量測定が非常に重要なので、その際は専門的なツールが必要です。当該の事例では、目的に応じたベンダーやツールを中立的にご提案しました。
ツール活用の視点では、「タレントマネジメントシステムを入れれば全て解決する」と思っている人も多いと東野氏。
東野:タレントマネジメントシステムはあくまで超高性能な、調理器付きの冷蔵庫のようなものです。中に食材、つまりデータが入っていなければ料理はできません。データを入れるにはある程度の資金も必要だという構造を理解しておく必要があります。私も「もう少し予算を積まないとツールの有効活用はできないですよ」ということは、ご支援の際にあらかじめお話ししていますね。
[point.3]ポジション提示:幹部研修後の約束すべき役割
最後のポイントが、ポジションの提示だ。幹部研修が終わった後、実際にどんなポジションで働けるのかをしっかり伝えることが大事だという。
東野:イノベーターをリーダーの下に就かせるというのはよくあることなのですが、リーダーは新規事業を慎重に判断するので、イノベーションの芽を潰してしまいます。ですからまずは、イノベーターが自由に走れるような環境づくりが組織デザインとして必要です。「石橋を叩いて渡らない」状態が続いてはイノベーターが辞めてしまうので、仮説を立てたらどんどんデザインシンキングで回していくなど、思考プロセスそのものを変えていかなければなりません。
企業としても「新規事業を応援するから、しっかりやってほしい」というメッセージを使えていくことが大事です。
経営者のためのタレントマネジメントまとめ
今回のウェビナーのポイントを、以下の3つのポイントにまとめた。
「D&I」は「ダイバーシティ&インクルージョン」のこと。ここでは性別や年齢というよりは、スキルや志向性の特性を生かして組織成長につなげていく必要性を指している。
東野:イノベーターや調整役、全てのタイプを生かし切ることを考えるなら、どんな人材も会社にとっては貴重な存在です。全ての人の個性を発揮してもらうという意味では、やはりD&Iが本来の事業戦略に必要な人事戦略になるのではないでしょうか。
最後に、以下の「すぐに取り組んでいただきたいこと」をウェビナーの総括とした。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。経営者のためのタレントマネジメントにご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。