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【イベントレポート】シチズンのスマートウォッチ戦略 ―事例に見る、ウェアラブル起点のIoTプラットフォームを推進するオープンイノベーションの5ポイント―

新規事業開発

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

2022/02/08回では、デジタルを活用したプラットフォーム型事業を立ち上げたいとお考えの新規事業責任者・経営企画責任者の皆様に向けて、シチズン時計のオープンイノベーション推進責任者である大石氏に、シチズン時計の事例を用いて具体的なオープンイノベーションの推進ポイントをご紹介いただきました。
「プラットフォーム級のDX新規事業を企画しているが社内外の巻き込みに手詰まりを感じている」
「オープンイノベーション推進をしているが、実際の事業が立ち上がらない」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

大石 正樹氏

大石 正樹氏

シチズン時計株式会社 営業統括本部 オープンイノベーション部 部長
ミヨタ株式会社(現シチズンファインデバイス株式会社)に入社し、小型液晶モジュールの開発エンジニアとしてのキャリアを得て、技術営業及び企画営業部門の責任者として海外市場開拓を牽引。2018年よりシチズン時計株式会社へ転籍し現職。オープンイノベーションによりウェアラブルIoTプラットフォーム「Riiiver」の事業開発を牽引。

村田 拓紀氏

村田 拓紀

株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 FLEXY部マネジャー
中古車のマーケットプレイスシェア首位の企業にて拠点責任者、営業戦略策定、メンバーの採用から育成まで幅広く従事。IT企業を経てサーキュレーションに参画。現在はIT戦略における中期ロードマップ策定、IT企画人材育成に向けた技術顧問活用プロジェクトなどDX推進に舵を切る多くの企業を支援。

新井 みゆ

新井 みゆ

イベント企画・記事編集
新卒で入社した信託銀行では資産管理業務・法人営業・ファンド組成の企画業務に従事。「知のめぐりを良くする」というサーキュレーションのミッションに共感し参画。約1500名のプロ人材の経験知見のアセスメント経験を活かし、サービスブランディング、イベント企画等オンライン/オフラインを融合させた各種マーケティング業務を推進。

※プロフィール情報は2022/02/08時点のものになります。

デジタル新規事業の失敗の背景にある「目的の欠如」

現在、日本のIoT市場規模は大きな成長過程にある。実際に2020年時点での市場規模は6.4兆円だったが、2025年には10.2兆円にまで伸長するとされており、5Gやエッジコンピューティングなど技術的進化によってこの数値は上方修正される可能性が高い。
しかしながら、日本のデジタル新規事業の多くは「オープンイノベーションごっこ」で終わっている――メディアからは、そのような揶揄もされているのが現状だ。その裏にある大きな要因の一つは、目的の欠如にある。デジタル新規事業を立ち上げるための方法論ばかりが先行し、「なぜ自社がデジタルで事業を推進しなければならないのか」、すなわち「Why」が不明確なため、失敗するケースが多いと推測される。

シチズンのオープンイノベーション事例「Riiiver」の裏側

誰でも好きな機能を生み出せる「Riiiver」とは?

上記のような状況もある中で、時計メーカー企業シチズンが2019年にリリースしたのがマイクロ・コミュニティ・サービス「Riiiver(リィイバー)」だ。同サービスの3つの「i」が示すのは、Imagine、Inspire、Innovateの3単語。まずはサービス概要について、大石氏に伺った。

大石:Riiiverはさまざまなタイプのスマートウォッチと製品をつなげるプラットフォームです。「iiidea(アィイデア)」と呼ばれる機能アイテムを用いて、例えば「時計のボタンを押すと、天気に合わせて音楽を再生する」といった新たな機能を追加することができます。

Riiiverが特徴的なのは、3つの「Piece(ピース)」と呼ばれる機能パーツの存在だ。トリガー、サービス、アクションの3ステップを自由に組み合わせ、誰でもノーコードで好きな機能を生み出せる。これがiiideaという機能アイテムになる、というわけだ。
Pieceの開発自体にはJavaScriptなどによるコーディングが必要なため、ユーザーはPiece自体の開発、そしてPieceを用いたiiideaの組み立て、2つの側面から参加が可能だ。
Riiiverは現在ユーザー参加型のサービスとして、アイデアソンやハッカソンなど社外との連携企画も積極的に開催されている。

少数体制でスタートし、社内の各部署を巻き込みながら事業化にこぎ着けた

時計メーカーであるシチズンがソフトウェア開発に踏み切ったのは、スマートウォッチ市場が拡大する中で生じた危機感に起因している。同社はちょうど100周年という節目を迎えた時期ということもあり、「腕時計が購入された後、お客様のニーズに合わせて変革できるようなプラットフォームが必要だ」という発想で開発がスタートした。

村田:もともとはかなり少人数のエンジニアからプロジェクトがスタートしたそうですね。

大石:開発部の若手メンバーからRiiiverの発想が出てきたんです。アイデアの具現化のためにはデザイナーが必要ですし、製品を実際に世の中に出していくにはPR部隊も力を発揮するということで、彼らにも参加してもらいました。さらに、実際にプロジェクトを会社で動かすためには経営企画の力も……といったように、ステップバイステップでプロジェクトが広がっていった形です。アイデア出しからオープンイノベーション推進室ができるまでは、3年ほどかかっています。

メーカーとしての根本を忘れず、プラットフォームは手段として活用

村田:このプロジェクトの推進において重要だったのが、「我々はあくまで時計屋である」というビジョンだったのですか?

大石:はい。我々はあくまで時計メーカーであり、Riiiverというプラットフォームが生まれたのも、腕時計の先を行くためには「ハードだけではなく柔軟に対応できるプラットフォームが必要である」という発想によるものです。そこにさまざまなメーカーやユーザーに関わってもらったほうが面白いということで、ハッカソンやアイデアソンを開催しています。
ただ、だからといって我々がプラットフォーマーとして生きていくわけではありません。根っこは腕時計のメーカーであるということを、常に意識しています。

村田:あくまで最終的なゴールは、いかに時計の売上に戻ってくるかなんですね。

シチズンに学ぶ、デジタル新規事業を創るオープンイノベーションの5つのポイント

確固たる軸を持ちながら、デジタル新規事業の創出に成功したシチズン。同社がプロジェクトを推進する中で発見した成功のポイントについて、5つ伺った。

[Point.1]ハードとソフトのバランス

最初のポイントは、ハードとソフトのバランスであると大石氏。シチズンの場合は時計、つまりハードで成功を収めている企業だが、ここにはプロダクトアウト思考に陥るというペインも発生していた。

大石:プロダクトアウト自体は悪いことではないのですが、必ずどこかで限界がやってきます。あるいは扱っているデバイスの限界かもしれません。打開のためにはなんとかしてユーザーとの接点を持ち、UI/UX、あるいはCXの追求を継続的に行う必要があります。そこで我々は、ハードとソフトのバランスを取って進めることにしたのです。

村田:ユーザーの声を直接取りに行きづらかったということですね。その限界を感じたきっかけはどんなところにあったのでしょうか?

大石:販売した後に自分たちの製品がどうなっているかは、なかなかわからないんですよね。ユーザーアンケートを取るというのもなかなか大変です。例えば多くの購入者が製品を寝室に置いているのであれば、寝室に最適な明るさや角度、求められる機能は変わってきますよね。こうしたニーズを取るのが非常に難しいんです。
この点、Riiiverというプラットフォームがあれば、製品の使われ方を収集可能です。腕時計をしているユーザーが天気を気にしているのか、それともスポーツを気にしているのかがわかります。

[Point.2]経営と社内の巻き込み

次のポイントとして挙げていただいたのが、経営と社内の巻き込みについて。前述の通り、Riiiverの開発プロジェクトは少数のエンジニア起点で少しずつ規模を広げていったパターンだが、ここに大きなポイントがあったという。

大石:スライドに「効果的タイミング」と記載していますが、プロジェクトに限界がきたタイミングでいかに上手く経営と握れるかは非常に重要です。またプロジェクトの範囲が広がれば既存・新規を問わずさまざまな部門との連携が必要になるので、しっかり自分ごと化していただけるように巻き込むことで、プロジェクトはさらに活性化して次のステージへと進めるようになります。

村田:巻き込むといっても、他部署にプロジェクトを自分ごと化してもらうのはなかなか難しい気もします。大石さんが気にされたポイントはあるのでしょうか?

大石:反対派を味方に付けることですね。賛同者はすでに自分ごと化していると思うのですが、実は逆もしかりなのです。「ここがダメだ」とおっしゃってくれるということは、ある意味自分ごと化されている。そこで反対意見や指摘をないがしろにせず、改善に熱量を注ぎます。すると自分が指摘した部分が良くなることになるので次の声につながり「気づいたら取り込まれている」という形になります。

[Point.3]他社の巻き込み

さらに社内だけではなく、他社の巻き込みの重要なポイントになるという。この点でシチズンの場合は、Riiiverが事業化されたタイミングでアライアンス専門部隊を確立した。

大石:これはパートナーと動けるメンバーを作ったということですね。最初は人材が不足しているので、どうしても一発必中のやり方になってしまうのですが、10社に対して全てを完璧にこなせるスーパーマンは存在しません。そこで専門部隊を作り、それぞれのメンバーにバラバラに動いてもらうようにしました。ありがたいことに今はどんなサービスでも何かしらでつながれる接点が見つかりやすいので、メーカー同士をつなげた面白い発想が出てきます。

「点」の営業が「面」に変わったことで、他社連携を行うための「思想」のスピードが加速したという。

大石:Riiiverのパートナー企業には、当然Riiiverに入る面白さや具体的なメリットを感じてもらわなければいけません。最終的に相手企業のエンドユーザーに響くイメージが湧くように、専門部隊が日々活動してくれています。

[Point.4]推進組織と他部署連携

4つ目のポイントとなるのが、プロジェクトの推進組織と他部署連携だ。ここで言う推進組織で重要なのは、若手が中心となって自発的に事業創出できるようになるための、次世代社員の育成の仕組みだ。

大石:まず、口出しを我慢して若手社員自身にしっかり考えてもらうようにします。メンバーと定期的に情報交換はするのですが、私から伝えたことよりも重要な内容があれば、優先順位を切り替えてメンバーの意思を尊重します。その上で、他部門への情報共有も丁寧に行い、何か問題が起きてもきちんとメンバーを守れるように意識していました。

部署間連携においても、やはり重要なのは責任と権限の分配だった。Riiiverに関わる追加機能提案はRiiiver開発課が担うが、その開発や検証の目的を明文化し実際に手を動かす開発部が承認することで、サービス開発を自分ごと化してもらえるように配慮したという。

[Point.5]ビジョン

最後のポイントが、前述でも触れたビジョンについて。DXという言葉に惑わされずに、プラットフォームを作るとしても、プラットフォーマーを目指さないほうがいいという。

大石:プラットフォーマーを目指していないわけではないのですが、「シチズン時計をプラットフォーマーに変えるぞ」というのはおかしな話なのです。自分たちが持っている武器は100年以上培ってきたものづくりの技術ですから、その上に存在する製品をより良くするためにRiiiverというプラットフォームを生み出したという部分は、見失わないようにしています。

村田:その上で、「競合他社と戦わない」というのは面白いですね。

大石:戦って勝つのは企業として重要ですが、我々の場合はRiiiverというプラットフォームがあることで、戦うだけではなく協業し、共にビジネスを拡大する術があるわけです。Win-Winの関係で、共に成長していける。綺麗事かもしれませんが、我々はそのようなやり方でRiiiverというプラットフォームを進化させていくつもりです。

シチズンのスマートウォッチ戦略まとめ

今回のウェビナーのポイントを、「すぐに取り組んでいただきたいこと」として以下の3つのポイントにまとめた。

今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。シチズンのスマートウォッチ戦略にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
シチズンのスマートウォッチ戦略 ―事例に見る、ウェアラブル起点のIoTプラットフォームを推進するオープンイノベーションの5ポイント―
本ホワイトペーパーは、2022年2月8日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。デジタルを活用したプラットフォーム型事業を立ち上げたいとお考えの新規事業責任者・経営企画責任者の皆様に向けて、シチズン時計の事例を用いて具体的なオープンイノベーションの推進ポイントをご紹介しております。