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【イベントレポート】D2C実践入門 ―コーセー「米肌」の立ち上げ責任者が成功事例とともに語る、D2Cブランドを成功させる3つのポイントとは?―

D2C・EC強化

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

2021年3月30日は、EC推進に壁を感じているBtoC企業の経営者、新規事業開発責任者の皆様に向けて、D2Cを成功させるための秘訣をお伝えいたしました。
今回ご登壇いただいたのは、コーセーEC専用ブランド立ち上げ実績を持ち、現在はインフルエンサーD2Cブランドの運営を手がける高橋氏。高橋氏が実践を通して感じるD2C事業成功のポイントについて、じっくり伺いました。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

高橋 洋介氏

高橋 洋介氏

コーセーEC専用ブランド立ち上げ等の実績を持つ、D2Cの先駆者
(株)コーセーにて、新規ブランド開発に多数参画。主な実績として、「エスプリーク プレシャス」「ADDICTON」のブランド開発。社内ベンチャーとして「コーセープロビジョン株式会社」の立ち上げに参画。事業部長として、同社初のEC専用ブランド「米肌(マイハダ)」をローンチ。その後、OEMベンチャー企業で、オリジナルブランド事業責任者、EC部門責任者などを経て、 2019年株式会社TWELVEの代表取締役として独立。インフルエンサー向けオリジナルコスメの開発によるD2Cビジネスモデルと、それらを販売するTOKYO COSMETICSを運営中。

樋口 達也氏

樋口 達也

株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部マネジャー
金融コンサルティング企業を経て、サーキュレーションへ入社。製造業界を担当するセクションの責任者を務め、自らもB2Cのコマース領域を中心にプロシェアリングコンサルタントとして、100件以上のプロジェクトを担当。特に、(株)ユーグレナグループのD2C企業への支援では、経営者の戦略パートナーとして、社員ゼロ30名全員が業務委託のプロ人材という革新的な経営スタイルの実現に貢献。

花園 絵理香

花園 絵理香

イベント企画・記事編集
新卒で入社した大手製造メーカーにて秘書業務に従事。その後、医療系人材会社にて両手型の営業を担当し全社MVPを獲得、人事部中途採用に抜擢され母集団形成からクロージング面談まで幅広く実務を経験。サーキュレーションでは、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とビジュアルに強いコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。

※プロフィール情報は2021/3/30時点のものになります。

現在の小売市場から見る、今D2Cを検討すべき理由とは?

D2Cの意味と注目される背景をおさらい。市場規模は今後拡大していく予測

D2Cとは「Direct to Consumer」、すなわち企業や個人が消費者に対して、直接商品・サービスの販売を行うビジネスモデルを指す言葉だ。
B2Cとの違いは、仲介業者の有無。D2Cの場合は販売に自社チャネルを用いるだけでなく、企画、製造、ブランディングといったあらゆる工程を一貫して一企業・個人が行う。アパレル業界におけるSPA(製造小売業)と類似したモデルではあるものの、D2Cは特にECサイトでの販売を主眼に置いている点で区別される。

D2Cが注目されるようになった背景にあるのは、スマートフォンの普及やSNS利用の活発化、それに伴う消費者ニーズの多様化と言われる。現在は大手ECモールに頼らずとも、企業が簡単にECサイト立ち上げを行い、Web広告の展開を行えるようになったのも要因のひとつだ。

D2C市場は2020年2兆円を突破。2025年には3兆円にまで拡大していく予測だ。コロナの影響もあり、大きく変化する小売市場。新たな打開策としての期待が、EC主体のD2Cに寄せられているのかもしれない。今回登壇いただいた高橋氏も、「D2Cビジネスに関する相談件数が非常に増えてきている」と語る。

従来のEC(通販)とD2Cビジネスの大きな違いは「評価指標」

今回のウェビナーでは、リアルタイムで視聴者アンケートを数回実施。その中でD2Cの理解度に関する質問に関しては、「概念は理解できているが、ECとの違いがよくわからない」という回答が50%を上回った。
そこで本イベントはまず、EC(通販)とD2Cにどのような相違点があるのかを探るところからスタートした。モールと個別のショップ、その中でもEC単品通販型、そしてD2Cの3種類に区分し、それぞれの特徴、評価指標、価格、収益性という視点で違いを示したのが以下のスライドだ。

高橋:一番わかりやすいのは真ん中の評価指標です。ECは一人あたりの獲得単価(CPA)と、一人あたりの売上(LTV)の最大化を評価指標としています。D2Cはどちらかというとお客様といかに深い関係性を持つかがポイントになるので、評価指標はフォロワー数やエンゲージメント率、口コミ数になります。

実践から見えてくるD2C立ち上げのメリット・デメリット

全ての要素がデータで表れる分、ごまかしが利かない厳しさも

高橋氏はコーセー時代に「エスプリーク プレシャス」「ADDICTION」などの新規ブランド開発を手掛けた後、初のEC専用ブランド「米肌」をローンチした実績を持つ。このときの経緯については、「当時ECには最新の売り方というイメージがあり、利益率も圧倒的だったのでスタートせざるを得なかった」と語る。コーセーの最も強いシーズである「潤い改善」を活用し、子会社を設立。2年でなんと年間目標の250%を達成した。

コーセーでの華々しい活躍を経て、高橋氏は独立。株式会社TWELVEの代表取締役として着手したのが、オリジナルD2Cブランド事業だった。
インフルエンサーと協業し、広告費ゼロ、4~10%という高いCVRを記録している高橋氏に、まずは実践を経て感じるD2Cを行うメリット・デメリットについて伺った。

高橋:D2Cと通販事業のメリット・デメリットはほとんど同じです。この中で本当に注意すべきポイントは「すべてが競合になる」という点。リアル店舗の場合は同じフロアに入っているブランドよりも売上を稼ぐための施策が必要でしたが、通販やD2CにおいてはWeb場のすべての産業が競合になります。

樋口:すべてが「隣のお店」になるということですよね。

高橋:その中でどこにコストをかけるのか、非常に綿密な計画が必要です。
あとはごまかしが利かないという部分ですね。全てがデータとして正直に表れるという点はメリットでもあるのですが、なかなか厳しい世界です。

「顧客のファン化」こそがD2Cビジネスに挑戦すべき最たる利点

苦労も多いことが予想されるD2Cの世界。そこに今、挑戦すべき理由について、高橋氏は「データに基づいて顧客のファン化を実現できるから」とした。

高橋:当社の場合はインフルエンサーからフォロワーの情報を得られるので、顧客がいつ、どこで、何をどうやって買ったのかデータで取得できるのがポイントになっています。
最初こそSNSにレビューを投稿してもらうなどインフルエンサーの方に広告的なことをやっていただく必要がありますが、お客様のデータを取得できれば次は我々がお客様にリピートやクロスセル、アップセルの施策を打てますし、サブスクシステムなども利用可能です。最終的にはインフルエンサーの方が何もしなくても売上が上がるような、共栄共存の関係を目指しています。
一旦お客様を呼んでいただければ、ずっとファン化できる。これが挑戦すべき理由なのかなと思います。

オリジナルD2Cブランド立ち上げの成功事例

「商品をどう買ってもらうのか」を考えるのが始め方のコツ

ここからは、現在高橋氏が運営しているD2C事業「TOKYO COSMETICS」を実際にどのように立ち上げ、成功へと導いたのか解説いただいた。顧客のファン化を実現するまでの思考の流れは以下の通りだ。

商品力はベースだが、品質や技術に大きな差はない

何を売るかよりも、「どう買っていただくか」の思考に

インフルエンサー×D2C

派手な訴求、無理な投資の負担がなく自然にファンが増える

高橋:メイドインジャパンは世界に誇れる品質ですが、その中ではあまり差別化ができません。そこを割り切ったときに考えたのが、「何を売るかよりも、『どう買っていただくか』」です。

そこで高橋氏が発案したのが、「インフルエンサー×D2C」。インフルエンサーの力を借りて商品を売るという手法だった。

高橋:今はインフルエンサーの方の口コミやSNS投稿が、広告ややらせ、ステマのようになってしまうため、インフルエンサーの方も控えています。これは逆に言うと、インフルエンサーのオリジナルコスメを作り、D2Cで我々が販売するという関係値なら、自然な口コミやSNS投稿になるということです。これを実践した結果、派手なLPなどを作らずとも、自然な形でお客様にファンになっていただける構造ができました。

広告塔になってもらうのではなくレベニューシェアの形で協力を仰いだ

インフルエンサーと提携し、自分のブランドを発信してもらうという形を取った高橋氏。このビジネスモデルについても簡単にお伺いした。

樋口:いわゆるレベニューシェアの形を取られているんですよね。

高橋:お互いの強みを生かして共存共栄していくためのビジネスモデルです。例えばメーカーが商品を作ってインフルエンサーの方に買っていただく、あるいはインフルエンサーの方が広告案件として商品を使えば、ビジネスは完結します。しかし我々はこういったビジネスの強みをあえてコスト化してリスクを持ち、商品が1つ売れたら売上はメーカーとインフルエンサーで折半するという成果主義の形にしました。このため企業としては広告投資が不要になり、インフルエンサーの方は商品を買う、在庫を持つというリスクがなくなります。

D2C実践で失敗しない3つのポイント

高橋氏のようにD2C事業を成功させるには、どのようなマインドセットでスタートすべきなのか。D2C実践で失敗しないポイントについて、それぞれ事例に紐付けながら3つ解説いただいた。

point1: “こだわり”を明確にする

強みをツールや手段と掛け合わせれば唯一無二の事業となる

高橋氏が提示する最初のポイントは、自社のこだわりを明確にするということ。価格、品質、種類、サービス、専門性、利便性などの中から、自社がこだわり続けられるポイント、すなわち自社のUSP(Unique Selling Proposition)を決めるべきとした。「ブランドやプロダクトを見渡すと、必ずどこかにキラリと光るポイントがあるはず」と高橋氏は語る。

高橋:我々はものづくりにおいて、素早く小ロットで製造できる点が強みでした。ここが差別化につながるのではないかということでSNSやインフルエンサーと掛け合わせ、「インフルエンサーのこだわりを実現したコスメを作る」という形で事業に取り組んでいます。

樋口:掛け合わせることで唯一無二のものになっていったんですね。

コラボするインフルエンサーは明確な基準を持って選定すること

インフルエンサーとのコラボレーションに視点を移すと、選定は重要なファクターとなる。高橋氏がここで重視するのは「個人のプロデュース力がある」「自分のフォロワー層や特徴を理解している」「ものづくりに想いと責任感がある」という3点だ。特に後者2点について、高橋氏は以下のように述べた。

高橋:例えば今一緒に取り組んでいるとあるインフルエンサーの方は、女性ではあるもののフォロワーには男性が多い。ここを認識して、我々としては「メンズコスメを一緒に作りましょう」とご提案させていただきました。
また、商品開発には半年ほどかかってしまうので、売上が出ていない間も一生懸命情熱を持って取り組んでいただけるかをしっかり見極めます。

point2:広告ではなく、SNSを通じて伝え、拡散させる

広告費をかけたりアカウントを運用しているだけではSNS活用とは言えない

次のポイントが、「広告ではなく、SNSを通じて伝え、拡散させる」というもの。例えばインフルエンサーマーケティングという形でインフルエンサーを広告塔にしてSNSを活用すると、PR表記が必要になる、エンゲージメントが低下するなどのデメリットが生まれる。

樋口:ステマに見られてしまうとブランディングが損なわれてしまいますよね。

高橋:インフルエンサーに広告費を払ってレビュー投稿をしてもらうのはただの広告ですし、公式アカウントをフォロワー数などの評価指標がないまま運用しているのであれば、それもSNS活用とは言えません。
D2Cという観点においては、商品とインフルエンサーがイコールの関係性を作り、彼女たちが自らSNSで発信をしていくのが重要です。

インフルエンサーと商品が対等になったときに叩き出された驚異のCVR9%

SNS活用の成功事例として高橋氏が提示したのが、女優の辺見えみりさんと一緒に立ち上げたブランド「Pupila」だ。

高橋:辺見さんがPupilaをPRした2021年3月6日土曜日のInstagramへの投稿が、再生回数22.8万回、当社へのCVRが9%という結果を出しています。
38万人のフォロワーがいらっしゃるという規模感もあるのですが、研究の結果、層としては40代女性や主婦が多いため、土曜日の朝に「いいね」回数が多くなることがわかりました。そこで当社ブランドのプロモーションに関しては、土曜日の10時に投稿いただくようお願いしています。すると、日曜までの2日間に爆発的に拡散されるんです。

樋口:CVR9%というのは驚異的な数字だと思うのですが、一般的なCVRや購入率はどの程度なのでしょうか?

高橋:ECサイトは1%あれば良いと言われています。平均はそれ以下ですね。LPなら大体4%でしょうか。当社のECサイトの平均が現在4%です。

樋口:非常に高いですね。

高橋:お客様のモチベーション自体が高く、サイトに入ってきた時点で買うつもりなんですよ。また、購入したお客様自身も「私も買いました」「使っています」とSNSに投稿してくれます。

樋口:これが自然発生的に出るというのがすごくいいですね。

CVR9%という驚くべき数字を達成していることはもちろん、辺見さんや商品のファン自身が自発的にSNSを活用して商品の販促に貢献するというサイクルは、D2Cが目指すべき完成形と捉えて良いだろう。
しかし、ただ単に著名人やインフルエンサーとコラボしただけでは、ここまでの境地にたどり着くのは難しい。それを示すのが、最後のポイントだ。

point3: 価値を一貫して伝えきる

システムが先か、世界観が先か。この順序がD2Cの成功を左右する

「価値を一貫して伝える」――ここで言う価値とは、商品の持つ世界観とイコールだ。高橋氏は、システムやツールよりも、まず世界観の統一にこだわるべきとしている。

高橋:実はシステムからD2Cに入ろうとする方は非常に多いんです。システムと世界観は一見関係の無い話のように思われるかもしれませんが、予算も時間も限られている中でパッケージを導入するとフォーマットに従わざるを得なくなり、出したい世界観を表現できなくなってしまいます。

高橋:まずは自社のこだわりを見つけ、それをどう落とし込めばお客様に一番伝えられるのかを考えたときに初めてシステムの話をスタートしたほうが、D2Cは成功すると思います。今は時間もコストもかからないクラウドのパッケージがたくさんありますしね。

樋口:世界観を統一した上で、それを実現するためのシステムを考えるという順番なんですね。

商品が持つ世界観にもインフルエンサーのこだわりを反映

「世界観の統一」という点で高橋氏が事例として挙げたのが、辺見えみりさんプロデュースの「Pupila」と、ファッションディレクターの干場義雅さんプロデュースの「INOUT」だ。一見するとどちらも黒を基調としたブランドだが、両者の世界は大きく異なるという。

高橋:中をよく見るとフォントが違いますし、「INOUT」のほうはサイト全体が黒い。一部異なるコンテンツを用いたりもしています。ブランドを開発する際は指定した色、フォントを選んでいただくなど、インフルエンサーの方のこだわりをサイトに反映しているんです。


細部にわたってこだわり徹底的にインフルエンサー「らしさ」を演出することが、効果的なブランド構築につながるようだ。これが「システム上できない」となれば、確かに世界観を損ねかねない。

高橋:ほかにもInstagramで活躍している得あゆさんとmomoさんにコラボして作っていただいたブランドは、名前からして「#anakiss」というInstagram的なものにしていたりしますし、サイトや同梱物は全てゴールドの世界観で統一しています。

サイトを訪れた瞬間から実際に商品がお客様の手元に届くまで、一貫した世界観を伝えきる。顧客のファン化という視点においては、最重要ポイントと言っても良いだろう。

D2C実践入門まとめ

特にこだわりを明確にする、一貫した価値を伝えきるための世界観づくりは、取り組んだことが無い企業も多いはず。この点については、外部の顧問など第三者視点のアドバイスが有効になるというノウハウをぜひ押さえておきたい。

上記を踏まえた上で、最後に樋口が視聴者の方々に「今日すぐに取り組んでほしいこと」を3つご提案した。

樋口:ひとつは、社長様と自社のUSPを検討する会議を設定するということ。もうひとつが、個人のSNSアカウントを開設すること。もうひとつが、システムベンダーからの提案を断ることです。
少し強烈に聞こえる部分もあるかもしれませんが、この3つを実践することでD2Cは実現に近づくと思いますので、ぜひ試してみてください。

今回ご紹介したウェビナー資料のダイジェスト版を以下のボタンからDLできます。D2Cにご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
D2C実践入門 ―コーセー「米肌」の立ち上げ責任者が成功事例とともに語る、D2Cブランドを成功させる3つのポイントとは?―
本ホワイトペーパーは、2021年3月30日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。 コーセーEC専用ブランド立ち上げ実績を持ち、現在はインフルエンサーD2Cブランドの運営を手がける高橋氏が実践を通して感じたD2C事業成功の秘訣についてご紹介しています。