プロシェアリングコンサルティング > マガジン > 人材開発・人材育成 > 満足度も仕事の質も高める「帰属意識」を醸成するには

満足度も仕事の質も高める「帰属意識」を醸成するには

人材開発・人材育成
満足度も仕事の質も高める「帰属意識」を醸成するには

リモートワークや副業、フリーランスなど働き方は多様化しています。そうしたなか、企業に対する帰属意識は低下する傾向にあり、もはや時代遅れの概念と考える向きもあります。

しかし、従業員が企業に貢献しつつ自身も満足を得るWIN-WINの関係となるには、高い帰属意識を持つことが依然として重要です。そして帰属意識を高めるためのキーとなる方策の一つに「多様性の受容」があります。

そこで、帰属意識の重要性を改めて確認したあと、高い帰属意識を醸成するためになぜ多様性の受容が求められるのかについてご説明します。

帰属意識は時代遅れの概念なのか

短期間での成果主義、終身雇用の終焉、人材流動化、リモートワークの拡大、個人の生活をより優先する考え方の広がり。職場環境や仕事に対する意識の変化から、企業や組織への帰属意識は低下していると見られています。

企業に対して帰属意識が高い、とこれまで考えられてきた日本。しかし日本においても、ミレニアル世代(1981年から1996年の間に生まれた世代)とより若年層のZ世代(1990年代後半から2000年に生まれた世代)を中心に、帰属意識の低下は明白です。現在の企業で働き続ける期間は最大2年までを希望する日本のミレニアル世代は49%、5年以上は25%というデータもあり、世界平均とほぼ同レベルになってきました。

こうした変化を背景に、従業員の帰属意識に着目することはもはや時代遅れのように考える向きもありますが、果たしてそうでしょうか。

ここでは、高い帰属意識は依然として欠かせないものであると考えます。

帰属意識とは

帰属意識とは、ある特定のグループのメンバーとして属しているという意識、そのグループに対して一体感を持つような心理的状態を指します。元は、精神分析学や社会心理学で使われている用語です。

帰属意識の対象となるグループは、国、地域、学校、宗教を同じくする人の集まり、家族、企業、コミュニティとさまざまです。実際にそのグループに属していなくても、主体的に帰属意識を持つこともあります。

企業における従業員の帰属意識の対象としては、企業そのものだけでなく、組織や仕事を同じくする人の集まりのチーム、ある特定のテーマに関心を持つコミュニティなど、規模やその結びつきにおいてさまざまなグループが考えられます。

特定のグループに対して帰属意識を持つと、そのグループの置かれている状況を把握しながら利益となるように自ら行動するようにもなります。

帰属意識が高いとき、低いとき

帰属意識が高いと「理解され受け入れられている」と肯定的に感じ、グループへの興味が湧いてきます。グループに対して貢献したいという意識が高まり、そこに属していることに喜びや誇りを持つようになります。高い帰属意識はグループにとってもメンバーにとってもポジティブに影響し、幸福な関係を作り出すと言えるでしょう。

しかし帰属意識があまりに高くなりすぎると、自ら考えることをやめてグループの方針に盲目的に従うようになったり、束縛や義務を感じてストレスが高まったりすることもあります。

一方、帰属意識が低いとそのグループに関しての興味が低下し、居心地の悪さを感じるようになります。グループとしての停滞感にも繋がります。

さらに帰属意識が低下すると、グループに対して否定的な感情や諦めの感情を持ち、グループから離脱することになったりします。

帰属意識が高すぎても低すぎても、メンバーはストレスを感じる傾向にあります。適度に高いレベルの帰属意識が、本人にとってもグループにとっても好ましい状況だと言えるでしょう。

帰属意識とロイヤルティ

ここでは、帰属意識と似た用語であるロイヤルティとの関係について整理してみましょう。

ロイヤルティとは忠誠を意味する用語で、組織や商品、ブランドなどに対して抱く愛着や好意的な感情のことを指します。

企業に対するロイヤルティとは、従業員の愛社精神とも言ってよいでしょう。強い忠誠心を持って企業に貢献しようとするロイヤルティは、高い帰属意識が前提となって抱く感情と言えます。

帰属意識と従業員エンゲージメント

もう一つ帰属意識に似ている用語に、従業員エンゲージメントがあります。

従業員エンゲージメントとは、従業員が企業に対して貢献の意欲を持ち、企業は従業員の貢献について支援することです。

従業員から企業に対する一方向の感情のロイヤルティとは異なり、従業員エンゲージメントは双方向の関係です。つまり、企業と従業員両者の成長のために、対等な関係において双方が貢献し合う結びつきのことなのです。

従業員エンゲージメントも、従業員の企業への無くしては成立しない、企業と従業員との信頼関係だと言えるでしょう。

帰属意識が仕事の質やパフォーマンスに与える影響

高い帰属意識を持った従業員は、高いロイヤルティや従業員エンゲージメントを持つ傾向にあります。そうした従業員は、意欲的に仕事に取り組み、主体的に高い目標を立て、積極的にコミットメントを行っていきます。

実際、エンゲージメント・スコアと営業純利益額との間には正の相関があるとの調査結果が得られています。

高い帰属意識は離職率を低下させるだけでなく、仕事の質やパフォーマンスを向上させる要因となるのです。成果が上がれば従業員自身の満足度も高まります。さらに当人だけでなく、周りにもポジティブな影響を与えます。

ところで、大量生産や効率化を重視する高度成長時代の企業においては、従業員から企業への高い帰属意識に基づくロイヤルティが重要と考えられていました。

昨今のイノベーションや新規事業開発を求める企業や組織においては、決められた仕事を効率的に遂行するだけではなく、多様で新しい発想が求められています。自ら発想し、試行や実践のできる環境を作り出していくことが必要です。

発想力を元にした仕事の質とパフォーマンスの向上を求めるなら、従業員の帰属意識に加えて、従業員エンゲージメントを高めることに着目するとよいと考えられます。

従業員エンゲージメントに繋がる高い帰属意識を醸成する方法

従業員エンゲージメントに繋がるような高い帰属意識は、企業と従業員の双方とって重要と言えます。しかし、帰属意識とは主観的な感情と結びついたもの。企業や管理者が思い通りにコントロールできるものではありません。

それでは、帰属意識を高めるにはどうすればよいでしょうか。

即効性ある解決策があるというわけではなく、ここでは複数の取り組みが必要になってきます。

帰属意識を高める取り組みとしてよく挙げられるものに、企業理念の浸透(インターナルブランディング)、ワークライフバランスに配慮した制度を作ることなどがあります。

もちろん制度や環境の整備も必要ですが、従業員それぞれが必要としている支援や要望は異なります。従業員一人ひとりが働きやすく、働く充実感を得られ、その結果ビジネスに貢献できるようにするには、個々の従業員が何を求めているのかを把握し、柔軟に対応することが重要です。

そこで、企業として注目したい取り組みに「多様性の受容」があります。

多様性を受容するとは、従業員それぞれの考え方が尊重される風土づくりのことです。また、それぞれの違いを積極的に理解し受け入れようとする文化の醸成でもあります。自分の居場所として感じられる環境ならば、孤独・孤立・疎外感がなくなり、安心して能力を発揮できる環境が整うことになります。

多様性を受容する環境を作るには、柔軟性のある働き方を認める柔軟な制度、インクルーシブなリーダーシップ、オープンなコミュニケーション、きめ細かな要求と支援の確認を行うワン・オン・ワンの実施などが必要となってくるでしょう。

内的多様性の受容が高める仕事の質とパフォーマンス

「マズローの5段階欲求」で知られているように、低次の欲求が満たされるとより高次の欲求へとレベルアップしていくと考えられています。生存に関わる生理的欲求が満たされたら、安全欲求、親和欲求、承認欲求、自己実現欲求へと中心となる欲求が移っていくわけです。

多様性の受容は、他者と関わりたい、帰属意識を持ちたいとする親和欲求や、他者から価値ある存在と認められたいとする承認欲求に関係すると考えられます。

ところで、受容の対象となる多様性には、外的なものと内的なものがあります。現在の多くのダイバーシティの取り組み対象は、性別や年齢などの外的多様性に関するものです。

一方、考え方や働き方、仕事を通して実現したいことなどの内的な多様性が受容されれば、理解されているという安心感や一体感を持つことができます。そうした環境であれば、従業員はのびのびと能力を発揮できるようになります。

さらに、内的多様性の豊かなメンバーそれぞれが従業員エンゲージメントを高められる環境ならば、仕事の質やパフォーマンスを向上し、イノベーションへと繋がる可能性も潜んでいます。

多様性の受容が帰属意識を高めている事例

多様性の受容が帰属意識と従業員エンゲージメントを高め、仕事の質やパフォーマンスを向上させている企業があります。ここでは、サイボウズとリクルートの事例をご紹介します。

サイボウズ−社外で評価された多様な働き方が高める帰属意識

副業解禁、年功序列撤廃、リモートワークなど、多様性を受容する施策を次々と繰り出すサイボウズ。実は2005年頃は、離職率28%の非ホワイト企業だったといいます。しかしその後、次々と改革に乗り出していきます。

2006年 育児・介護休暇制度

2007年 短時間勤務を可能にした選択型人事制度(2分類)

2010年 在宅勤務制度

2012年 副業許可

2013年 選択型人事制度(9分類)

2018年 新・働き方宣言制度

2013年には、働く時間と場所を軸とした9分類の働き方パターンを設定、希望に合うパターンを選択する方式を採用しました。

2018年にはさらに発展的に、従業員それぞれの働き方をオーダーメイドできる施策へと進化させます。

こうした大胆な施策や制度を元に、個性やそれぞれの働き方を尊重する風土や文化が醸成されていくには通常時間がかかるものです。サイボウズの風土が急速に変わっていった原動力は、コーポレートブランディングが社外で高く評価されたことにありました。

オウンドメディア「サイボウズ式」でサイボウズの社内事情を発信したものが採用に役立ったり、ワーキングマザーを応援するYouTube動画『大丈夫』が共感を呼んで話題となったりと、積極的な情報発信が社外で次々と受け入れられていったのです。

新しい取り組みに挑戦するサイボウズが社外から高い評価を得たことが、翻って最良のインターナルブランディングにもなったとは、非常に興味深いことです。その影響は、サイボウズ社員の帰属意識も高め、離職率を4%まで低下させました。

リクルート-独立してもなお維持される帰属意識

リクルートでは、従業員において起業家精神を育てる風土があります。社員の独立にも寛容で、企業として独立を支援する文化があります。

リクルート卒業生のコミュニティでは活発な交流があり、メンバー同士は元リクルート社員という強い絆で結ばれています。

一般的に、せっかく育てた人材が社外に流出することを嫌う企業は少なくありません。しかしリクルートは、従業員が転職や独立・起業の後に、リクルートの優良顧客となるだろうと考えているのです。この考えが、従業員の独立後にも協力関係を築けることに繋がっています。

リクルートはその名前の通り、学生と企業との橋渡し、今でいう就活を支援する大学発のベンチャーとしてスタートしました。その後、多彩な新規事業を立ち上げて成長を続けています。こうしたビジネスモデルであることが、リクルートの卒業生との間で信頼関係を維持し続けることを重視している背景にあると考えられます。

独立を目指す気概のある、起業精神に溢れた従業員には社外でファンになってもらう。すると帰属意識が従業員の枠を超えて広がっていく。このように離職を選択した従業員の意思さえ尊重し多様性を受容することで、リクルートへの帰属意識は、独立してなお高い状態で維持されているのです。

離職率だけでは測れない、新しい帰属意識のあり方がここにあると言えるでしょう。

まとめ

企業と従業員がともに成長していくためには、高い帰属意識に注目することが依然として重要であることについてご説明しました。

主観的な帰属意識を高めるには、従業員の多様性を受容して、柔軟に支援する必要があります。従業員が十分に能力を発揮して企業に貢献できれば、さらに貢献意欲は高まっていきます。こうしたポジティブなサイクルの中で、より高い帰属意識が醸成されていくことでしょう。

従業員の満足度も仕事の質も高めるための鍵となる帰属意識。

いま一度、その重要性を見直してみてはいかがでしょうか。

参考

[1]デロイトトーマツ「2019年 デロイト ミレニアル世代の意識調査(日本版)」(2019/5/28)

[2]会社への帰属意識をレビューする ~「エンゲージメント」という高いレベルを目指して~

[3]MOTIVATION CLOUD「エンゲージメントは業績を高めるのか-66万人のデータから明らかになった2つの関係-」(2017/11/14)

[4]サイボウズ式「自由すぎる・・・!サイボウズが最近始めた新しい「働き方制度」について聞いてみた」(2018/06/20)

[5]ダイレクト・ソーシングジャーナル「サイボウズ・サイバーエージェント・LIFULLによるインナーブランディングの秘訣」(2019/6/25)

【無料ホワイトペーパー】
社内起業家の見つけ方 ―大手の新規事業支援実績50社以上のプロが語る、社内新規事業成功の鍵となる人材のアサイン方法と事例―
本ホワイトペーパーは、2021年5月27日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。社内新規事業として企業内アントレプレナー育成サポート事業を立ち上げた経験を持つ松澤氏の実例をもとに、新規事業立ち上げの核となる人材の探し方から社内ベンチャーの立ち上げストーリーまでご紹介しております。