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アイデアソンとは 基本設計から実行までのノウハウ

新規事業開発
アイデアソンとは 基本設計から実行までのノウハウ

企業の成長を促す新しい手法として、、オープンイノベーションが注目されています。成長し続けている企業では、アイデアソンを活用して外部のプロ人材やアイデアをうまく取り込み、多くのイノベーションに成功しています。
本記事では、アイデアソンの基本から実施方法、成功させるためのポイントなどについて幅広く解説します。

Contents

アイデアソンとは

アイデアソンとは、アイデア(Idea)とマラソン(Marathon)を掛け合わせて造られた造語です。特定のテーマを決めて、そのテーマについてグループ単位でアイデアを出し合い、その結果を競うというイベントで、2000年代に米国で盛んに行われるようになりました。

本来、アイデアソンはハッカソンの事前準備として企画やアイデアを出し合うために行われていましたが、近年はアイデアソンのみで行われるようになっており、大手企業が一般に募集を行うなど企業間の交流やオープンイノベーションのツールとして注目されています。

アイデアソンの目的

アイデアソンの目的は、多様性を持った多くのメンバーでディスカッションを行うことで、それまでになかったまったく新しいアイデアや、特定の課題の解決方法を見つけブレークスルーを起こすことです。また、参加メンバーどうしの交流が生まれることから、コミュニケーションツールとしての役割も期待されています。そして近年では、新たな事業やビジネスモデルの創出の手段として開催されることも増えてきています。

アイデアソンとハッカソンとの違い

アイデアソンは、過去にハッカソンの準備段階として行われていたため、ハッカソンとアイデアソンは同じように見えますが、明確な違いが2つ存在します。そのひとつが参加対象者の違いです。

ハッカソンでは、アイデアをもとにアプリやプログラムを開発することを目的としているため、参加者はエンジニアなどITに関わりのある人に限られています。しかしアイデアソンでは開発が目的ではなく、新たなビジネスモデルや商品などのアイデアを生み出すことを目的としているため、エンジニア以外の多種多様な人が参加可能です。そのため、近年では地方自治体や学校などの公共機関においてもアイデアソンが積極的に行われるようになっています。

そしてもうひとつの違いが、実施する期間の違いです。一般的にハッカソンは数日から数週間という長い期間をかけてひとつの開発に取り組みます。したがって企画から開発の終了、フォローアップまでを含めると非常に長期間ハッカソンを実施することになります。一方、アイデアソンの場合には、数時間から長くて数日と非常に短い期間で実施されることが特徴です。これは、もともとアイデアソンがハッカソンの準備段階で実施されてきたことにも起因しています。

アイデアソンのメリットと注意点

手軽に短期間で実施できるイノベーションツールとして知られるアイデアソンには、多くのメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。それはいったいどのようなものなのでしょうか。順を追って解説していきます。

アイデアソンのメリット

参加のハードルが低い

アイデアソンはハッカソンと違って専門的な技術や知識を必要としないため誰でも参加しやすいというメリットがあります。また、多くの人が参加することによって、さまざまなアイデアが生まれイノベーションが起こりやすくなります。

主体性を養える

組織に属していると、周りの雰囲気や評価を気にして、なかなか自分の意見を言えないということがあるかと思います。また、アイデアは持っているのだけれど、それを言い出すことができず、結局自分の心の中にとどめておくという人も少なくありません。しかしアイデアソンでは多くの人とディスカッションをすることによって、意見を言いやすい環境が作られるため、自分の意見や考えを伝える力や主体性が養われるというメリットがあります。

良質なディスカッションを体験できる

欧米では子供のころから学校などでディスカッションやディベートを積極的に行っているため、自分の意見をはっきりと主張できるようになると言われています。一方で、日本人はあまりディスカッションやディベートに慣れていないため、議論や討論に抵抗があり、自分の意見を主張することが苦手であると言われています。

アイデアソンでは、ディベート(討論)ではなくディスカッション(議論)を重ねてアイデアをまとめ上げるということを目的としているため、非常に良質なディスカッションを体験できます。また、討論でもないため自分の意見に対して否定的な意見も出ません。そのため、普段からそのような場に慣れていない人でも比較的容易に参加することが可能です。

アイデアソンの注意点

テーマが明確ではないと迷走しやすい

アイデアソンを実施することによって起こる明確なデメリットというのは実はあまりありません。強いて挙げるとすれば、テーマが明確になっていない場合や準備が不足している場合に、議論が迷走しやすくなるということです。そして時として、ネガティブな意見などによるバンドワゴン効果によって本来の目的とは違う方向へ議論が進んでしまうということも起こりえます。

また、アイデアソンでは普段から交流のない人とも同じチームになることが多いため、人によっては消極的になりやすいことがあります。しかし、議論の方向性を明確にし、参加者の積極性を引き出すことは、あらかじめチーム内にまとめ役や進行役を配置することによって対応が可能です。

実際に実現するアイデアになりにくい

アイデアソンは何回も継続的に行うことが理想ですが、なかには1回きりで終わってしまうアイデアソンも存在します。そのような場合には、議論する時間は実質数時間のみという非常に短い時間のため、アイデアが出ても実際に製品化や事業として実現する確率は低くなってしまいます。そうすると必然的に参加者のモチベーションも下がってしまうので何らかの対策を行う必要があります。

現在では、そのような問題を解決するために、アイデアソンの成果を共有するサイトなども存在しているので、そういった情報共有ツールを活用することでこの課題を克服することが可能です。

アイデアソンを成功させるための実施マニュアル

絞りぎず大まかなテーマで企画を行う

アイデアソンを実施する手順において最初に行わなければならないことが、どのようなテーマを扱うか、今回のアイデアソンの目指すべきゴールはどこなのかといったことを企画することです。

実施するテーマによっては、大手企業や行政からスポンサーとしての協力を得られることがあります。また、あまりにも奇抜なテーマの場合には募集を行っても参加者が集まらないということが想定されるので、テーマ選びは慎重に行う必要があります。その際に、テーマを絞りすぎてしまうと偏ったアイデアとなってしまうため、なるべく大まかなテーマを設定するようにすることがポイントです。

運営体制の構築と参加者の募集

そして、テーマが決まったらアイデアソンを開催する会場の選定やファシリテーターやメンターといったスタッフの確保などを行い、告知募集をして参加者を募ります。告知募集の手段はさまざまな方法があり、大規模なアイデアソンでは専用のランディングページを作ってインターネット上で告知をしたり、ポスターやチラシを作って告知を行ったりします。また、TwitterやFacebookなどのSNSはアイデアソンと非常に親和性の高い告知方法であるため、積極的に活用して告知を行うとよいでしょう。

チーム分け 人数と多様性に注意

参加者が集まりおおよその参加人数が決定したところで、当日に議論を行うチーム分けをします。アイデアソンでは多くの人が議論をすることでアイデアを創出することが目的ですが、あまりに多くの人が1つのチームで議論をしてしまうと、まとまらなくなるため注意が必要です。そこでなるべく1チーム5~6人など少人数に分けます。そして、アイデアソンでは多様性が非常に重要になるため、チーム内で特定の業種や同じ部署などの人が固まらないようにすることも大切です。

チーム分けは事前に募集段階で参加者のある程度の情報を共有してもらってチーム分けをしておくと当日の進行が非常にスムーズに進みます。特にアイデアソンはハッカソンと違って短時間で行われるため、時間のかかりそうなことは事前にやっておくと良いでしょう。

当日はアイデアソンの前提情報からしっかりと共有

前述したチーム分けまでがアイデアソンの事前準備で、ここからが当日の流れです。まず当日は会場に参加者がそろったことを確認したら、アイデアソンの説明を行います。

アイデアソンでは多くの人が参加するため、はじめてアイデアソンに参加するという人も少なくありません。そのためアイデアソンの目的やルールといったことについて事前にしっかり説明を行い共有しておくことで、その後のトラブルも減り参加した全員が気持ちよくアイデアソンに参加できます。アイデアソンの説明については当日ではなく、事前に周知しておいても良いのですが、当日に行うことで「聞いていなかった」ということも減らすことができます。

テーマの説明 必要に応じて知識をインプット

アイデアソンの説明を終えたら、アイデアソンで議論するテーマの説明をします。扱うテーマによっては、プロ人材からテーマに関する知識や情報を学ぶことができるインプットセミナーを行うということも有効な手段のひとつです。

問題点の話し合い アイスブレイクを忘れずに

ひととおりの説明を終えたところで実際にアイデアを出していく段階に入ります。しかし、いきなりアイデアを出せと言ってもなかなか難しいため、まずは今回のテーマに対する問題点をチーム内で出し合いアイスブレイクする時間を設けると良いでしょう。また、問題点を明確にしておくことで議論の方向性も定まり議論の活性化にもつながります。

量を重要視し、積極的にアイデア出し

テーマに対する問題点が明確になり議論も活発になってきた段階で、実際にテーマに対するアイデアを出していきます。グループ内でテーマに対して自由にディスカッションを行い、出されたアイデアを紙などに書き出していきます。アイデア出しのディスカッションをする際にはあらかじめグループ内で議論する時間、アイデアを書き出す時間などを明確に決めておくことをおすすめします。時間を決めておくことでダラダラとすることもなくなり活発な議論につながっていきます。

この際には、アイデアの質よりも量を重視すること、相手の意見を批判しないこと、そして、他の人の意見から新たなアイデアを創出するということが非常に重要なポイントです。したがって、最初のルール説明の際にこの点をしっかりと周知徹底しておくとよいでしょう。

アイデアの絞り込み

一定の時間が経過したら、チーム内で出たアイデアをチーム内で共有し、発表に向けてアイデアの絞り込みを行います。一般的に絞り込みは、メンバーが良いと思ったアイデアを多数決で絞り込む方法がとられることが多いです。また、絞り込むアイデアはひとつではなく複数選んで発表するということもよく行われます。

アイデアのブラッシュアップ

ひとつまたは複数のアイデアまで絞り込みを行ったら、次にそのアイデアのブラッシュアップを行ってきます。具体的には、そのアイデアに対しての改善点などを、さらにチーム内でディスカッションを行ってより良いアイデアへ仕上げていく作業です。この際にチーム内で発表するメンバーを決めておくと、発表する人は時間的、精神的な余裕ができるためスムーズに発表できます。

プレゼンテーションと審査 批判はご法度

チーム内で絞り込みブラッシュアップしたアイデアを他のチームに共有するためにプレゼンを行います。この際も、発表を聞く側は発表されたアイデアに対して意見や批判を行わないようにすることが大切です。発表後は、そのアイデアソンの趣旨や目指すゴールにもよって異なってきますが、各チームが出されたアイデアに対して投票を行って一番優れたアイデアを選出したり、審査員の審査によって優勝アイデアを選出したりします。また、製品化や事業化を行う場合には、その後もフォローアップを行って実際の製品化や事業化をすすめていきます。

アイデアソンを成功させるためのノウハウ

目的を明確にし参加者のモチベーションを上げる

アイデアソンでは、イベント自体の開催目的や目指すべきゴールを明確にしておくことが重要です。アイデアソンの開催目的が実際の商品やビジネスモデルを創出することを目的にしているのか、それともディスカッションを通じたコミュニケーションを目的としているのかで、参加する人のモチベーションや参加者自体の構成も大きく変わってきます。また、継続して行う予定のイベントなのか、今回のみのイベントなのかといったことも明確にしておくことでより参加者とのミスマッチも起こりにくくなります。

参加者の多様性が何よりも重要。広く募集を行う

アイデアソンは多様性を持った人たちがディスカッションを行うことで、いままでになかったアイデアを創出しイノベーションを起こすということが共通の目的です。また、アイデア出しのディスカッションの際にも、アイデアの質より量を重視するという前提があるため、参加者が多いほど多様性が生まれやすくなります。また、広く募集を行って知名度を高めることによって、今後の活動に大きな影響を与えるほか、企業としてのイメージアップや大手企業や行政などのスポンサーを獲得することにもつながります。

討論のような雰囲気やアイデアの否定は絶対に避ける

アイデアソンでもっとも重要といえる要素が、アイデアに対して否定をしないということです。そもそもディスカッションとは、議論をすることが目的であり、誰かと討論するということを目的としていません。また、アイデアに対して否定をしてしまうと、その場の雰囲気が悪くなってしまうばかりではなく、参加者が委縮してしまい活発な議論の妨げになってしまうため注意する必要があります。

実際にはディスカッションとディベートの違いを知らない人も多いため、冒頭でルールの周知徹底を行うだけではなく、ファシリテーターをはじめとした運営側のスタッフが参加者をうまく誘導してあげるということも必要になってきます。

ディベートとディスカッションの違いを明確に説明する

前述したとおり、ディベートとディスカッションには明確な違いがあります。まず、ディスカッションでは、意見を出し合いアイデアを相互に発展させることを目的としており、相手の意見を否定してはいけません。また、発言のタイミングは自由で誰でも自由に発言できます。また、ディスカッションでは、多くの意見を積み上げてそれをブラッシュアップしていくことで結論を導き出すボトムアップ手法であることが特徴です。

一方、ディベートは自身の意見の正当性を証明することを目的としており、お互いが異なる立場に立つ意見対立が前提となっています。したがって、相手の意見に対して反対意見を言うことが求められます。そしてディスカッションと違って発言は相手が発言したあとで発言するなど、発言のタイミングが明確にルールとして決まっています。

上記のような違いがあるため、多様な参加者同士が協力してアイデアを相互発展させるためには、ディベート形式よりはディスカッション形式が向いています。初めてアイデアソンに参加する方にはこの点を勘違いしている方もいることが予想されますので、アイデアソンの冒頭で丁寧に説明してあげると良いでしょう。

実際に事業として採用するなど何らかのアクションを取る

アイデアソンの開催目的が純粋なコミュニケーションを目的としたものでなければ、アイデアソンで出たアイデアを実際に製品化したり新たなビジネスとして事業展開したりすることが大切です。せっかく集まって良い意見を出しても採用されず何もフォローアップがないと参加者のモチベーションは次第に下がってしまい、今後のイベントへの参加意欲も薄れていってしまいます。また、企業内で行った場合には、意見が採用されない不満からモチベーションが下がるばかりか帰属意識の低下も招いてしまうことにもなりかねません。

したがって、アイデアソンの結果をもとに商品化や新たな事業展開を行わなくても、アイデアをもとにプロジェクトチームを立ち上げたり、結果を周知したりするなどなんらかのアクションを起こすことが非常に大切になってきます。

アイデアソンの成功事例

仙台市×楽天イーグルス エンターテックアイデアソン

アイデアソンの実例のひとつに仙台市と仙台市をホームグラウンドとしているプロ野球球団の東北楽天ゴールデンイーグルス(楽天イーグルス)が協力して開催したのが、2019年2月に開催された「仙台市×楽天イーグルス エンターテックアイデアソン」です。これは仙台の街の活性化を目的としているだけではなく、スタジアムソリューションのアイデアも募ることで、プロ野球への興味を持ってもらうことや楽天イーグルスの知名度アップ、ファンや地元の人たちとのコミュニケーションなどさまざまな目的を持ったアイデアソンです。

そして、採用されたアイデアは実際に2019年4月から楽天イーグルスが主催する試合や、楽天生命パーク宮城の球場施設、仙台市の各スポットでの実証実験を行うことが決定しました。アイデアソンを開催するだけではなく、実際に形として実現させたひとつの例となっています。

100名を超える参加者が集まる富士通主催の「FUJI HACK」

大手電機メーカーであり、総合ITベンダーでもある富士通は、アイデアソンやハッカソンを盛んに行っている企業のひとつです。富士通グループの富士通総研では、地方自治体や大学などの教育機関と連携し、地域の課題に対する課題解決や地域や大学の新しい価値を創造するためのアイデアソンを実施しています。また、顧客とのサービス共創を目的としたアイデアソンも頻繁に行っており、顧客との信頼関係の醸成や新規事業の開発などに役立てています。

なかでも有名なものが「FUJI HACK」というイベントで、2014年から毎年行われている、新規ビジネス開発を目的としたアイデアソン・ハッカソンで、100名をこえる参加者が集う大規模なものです。そしてそこで生まれたアイデアは独自のサービス開発プログラムによって投資対象となり実際のビジネスへと発展させています。

ふたつのアイデアソンの事例を紹介しましたが、両者ともアイデアソンで出たアイデアを実際に形にしているという特徴があります。このことからも、アイデアソンの成功には「実際に事業として採用する」ことが重要なのです。

アイデアソンを利用してさらなるオープンイノベーションを目指す

アイデアソンについてさまざまな視点から解説を行っていく中で、アイデアソンやハッカソンはオープンイノベーションを起こすための優れたツールであることがお分かりいただけたのではないでしょうか。アイデアソンを実施するには準備などに多くの時間と労力がかかりますが、適切に行えば、その労力以上の成果を上げることが可能です。

技術サイクルや商品サイクルが短くなってきているこれからの時代で成功していくためには、オープンイノベーションが欠かせません。多くのイノベーションを起こすためにも、ぜひアイデアソンを活用して企業の成長の一助としてください。

参考URL

  • https://www.buildinsider.net/hub/hackideathon/02
  • https://www.slideshare.net/cc-lab/ss-30240834
  • https://www.fujitsu.com/jp/group/fri/businesstopics/hackathon/case/
  • https://eiicon.net/about/entertech-ideathon/#p-theme
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