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ティール組織とは?次世代型組織モデルの可能性や日本企業の事例について解説

人事制度設計
ティール組織とは?次世代型組織モデルの可能性や日本企業の事例について解説

次世代型の組織モデルとして注目されている「ティール組織」。フレデリック・ラルー氏の著書『Reinventing Organizations』の邦訳版『ティール組織』が出版されたことで、日本でもトレンドワードになっています。しかし、ティール組織はまだまだ実例が少なく、言葉を耳にしたことはあっても、どのような組織形態を指すのか、理解していない人は少なくないのでしょうか。今回の記事では、ティール組織とは何かを、ティール組織へ至るまでの進化の5段階や、到達するまでの3つのブレークスルーをもとに読み解いていきます。

 

次世代型組織モデル「ティール組織」とは

ティール組織とは、個々の社員に意思決定権があり、社員の意思によって目的の実現を図ることができる組織形態をいいます。ティール組織では、階層的な役職による組織マネジメントや予算・売上の目標設定、定期的なミーティングの開催等、従来の組織では当たり前のように存在していた慣例や文化を撤廃することができます。ただし、ティール組織には明確なモデルはなく、各組織や個人が独自の工夫によってつくりあげた次世代型組織モデルなのです。 

5段階に分けられた組織モデルの進化過程

会社組織をいきなり「ティール組織」の形態にしようとしても、できるものではありません。ティール組織を形成するためには、5つの進化の過程を経ることが必要です。進化の過程によって生み出されたものを内包していくことで、ティール組織が作られていきます。

ティール組織の形成に至るまで、組織形態はレッド(衝動型)・アンバー(順応型)・オレンジ(達成型)・グリーン(多元型)・ティール(進化型)の5色になぞらえた5段階の進化を遂げていきます。これまでの認識を大きく覆すような変化が起こることで、次の段階へと進化していくのです。

レッド(衝動型)組織

レッド組織は、リーダーの圧倒的な力によって支配する組織形態です。目の前の利益を得ることを優先し、短絡的な思考にもとづいた判断が行われることが特徴です。どのようにして組織として生存していくかだけに焦点が当てられており、衝動的な組織として考えられています。
特定の個人の力で支配的にマネジメントするため、組織を構成するメンバーはリーダーに依存していて、力に従属することによって安心感を得ています。レッド組織はオオカミの群れにたとえられます。
また個人の力に依存するため、再現性がない組織形態とも言えます。

アンバー(順応型)組織

レッド組織は個人の欲求の追求を目指しますが、意識が次の段階へ進むとアンバー組織へと進化します。
アンバー組織は「明確に役割が決められおり、厳格にその役割を全うすることを求められている」のが特徴です。軍隊的とも比喩されており、Red組織と比較しても長期的な目線を持った組織へ変化しています。
上下関係が絶対であり、多くの人数を束ねることができます。レッド組織では、リーダーとなる特定の個人に依存していたのに対して、アンバー組織ではヒエラルキーによって役割分担をすることで、特定の個人への依存度が低下しています。ただし、この組織は今いる環境が不変であるという前提があります。そのため、状況変化に対応出来ないという問題を孕んでいます

オレンジ(達成型)組織

アンバー組織で対応出来なかった環境の変化に適応するために発展した組織がオレンジ組織です。
社長と社員といったヒエラルキーはありますが、アンバー組織のように厳格な階級ではないことに違いがあります。「階層構造によるヒエラルキーが存在しながらも、成果を出せば昇進出来る」というマネジメントスタイルであり、一般的な企業のマネジメントはおおよそオレンジ組織に集約されるのではないでしょうか。

オレンジ組織では数値によるマネジメントが重視され、社員同士が競争することが可能となり、変化を求める意識からも、イノベーションが起こりやすい環境となります。
絶えず変化が起こる環境で生存するために競争を続けることが求められ、”機械のように絶えず働き続けること”を助長することになるため”人間らしさの喪失”という負の側面も持ち合わせています。
日本においてティール組織の考え方が急速に広まっている要因は、オレンジ組織に当てはまる企業が多いことと「働き方改革」によって”機械化してしまった人たちへの警笛が鳴らされていること”の2つにあるのだと考えられています。

グリーン(多元型)組織

”機械化した自分ではなく本来の自分であるため”にオレンジ組織から発展していったのがグリーン組織です。グリーン組織は、決定権限はマネジメント側にあり、明確に決定権限を組織内に再分配されるかについては定義されていません。社長や社員というヒエラルキーがあることはオレンジ組織までと同じです。
グリーン組織では「その人らしさを表現可能であり、主体性を発揮しやすく個人の多様性が尊重されやすいことが求められる」ことがポイントとなります。オレンジ組織では機械的な働き方をしていましたが、グリーン組織では人間らしい主体性を発揮したり、個々の多様性が尊重されたりするような組織を目指す、家族のような組織といえます。
文化自体は多様性を求めているため、社員にとっても心理的安全が担保されやすく、メンバーが多様な意見を出し合い互いを尊重し合える組織ですが、合意形成に時間がかかるという問題もあります。

ティール(進化型)組織

最終段階のティール組織は、「組織を一つの生命体」として捉えていることが特徴です。組織自体が社長や株主のものではなく、ひとつの生命体としてメンバーが関わり、進化する目的を実現するために関係し合っていく組織形態です。目的の実現のために、独自のルールにもとづいた組織運営が行われています。
誰かが指示や命令を出すというヒエラルキー構造はなく、組織の目的を実現すべくメンバー全員で共鳴しながら行動するスタイルが求められます。ティール組織では、すべての意思決定に合意を得ることは必要とされず、個々に意思決定権があります。

 

ティール組織とホラクラシーの関係

ティール組織とよく一緒に議論されるものとして「ホラクラシー」という言葉があります。
ホラクラシーとは、2007年に米国のソフトウェア企業の創設者であるブライアン・ロバートソン氏が提唱した組織理論で、一切のヒエラルキーを排した、フラットな組織体制のことを言います。このホラクラシーはティール組織と意味合いが似ているため、よく混同されるのですが、「ティール組織=ホラクラシー」ではありません。

あらゆる意思決定がトップダウンで行われるヒエラルキー組織に対し、ホラクラシーは、細分化したチーム毎に意思決定の権限や権利を持たせている組織形態です。そのためホラクラシー組織では、上のヒトが下のヒトを「管理する」ということがなく、組織全体が自律しているのです。このように、ホラクラシーは組織マネジメントにおけるより具体的な組織理論のことを指しており、ティール組織の一形態という位置づけになります。

ティール組織に到達するまでの3つのブレークスルー

従来の組織がティール組織に至るまでには、既存の体制を打破するために必要な3つの「ブレークスルー=突破口」があります。

進化する目的(組織の存在目的)

従来の組織では、組織の存在目的や将来のビジョンは固定化されたものでした。ティール組織では、組織として成し遂げたいことなど、組織の存在目的は日々進化しています。組織や人材の持つ力や可能性を最大化するためには、組織が進化していく目的を常に感じ取って把握し、活動内容に反映していくことが求められます。

セルフマネジメント(自主経営)

ティール組織では、全メンバーが意思決定に関わる責任や権限を持っているため、他者からの指示を仰ぐことなく、個々のメンバーが目標意識を持って、行動しています。セルフマネジメントができるようになるには、経営者と同じような視点で業務の遂行方法や内容を評価できることが必要です。そこで、総務や経理、営業といったあらゆる部門で遂行されている業務を個人やチームですべて担う経験をし、ひとつのひとつの業務が他のチームに与える影響や、チームの関係性を理解できるようにするとよいでしょう。

ホールネス(全体性)

従来の組織では、メンバーは本来持っている能力や個性を隠し、期待されている役割を演じることで、評価を受けようとする傾向があります。ホールネスとは、組織内の心理的安全性を確保し、「ありのままの自分」でいられる環境を構築して、能力や個性を最大限に引き出すという考え方です。すべてのメンバーが個性や長所を全面に出すことで、最大限の集団的知性を生み出せるようになります。

ティール組織を構築した事例

ティール組織はまだ一般的に浸透していないがゆえに、誤解されやすい面があります。

まず、ティール組織は小規模の企業やサービス業など一部の業種でなければ無理なのではないかといわれることがありますが、企業規模や業種を問われません。

次に、ティール組織は従来のグリーン組織以前の組織形態を否定したものではないこと。ティール組織には明確なビジネスモデルはなく、ティール組織といわれる組織を構築していても、グリーン組織やオレンジ組織と同じ一面があったり、メンバーの中にはそうした段階の意識を持つ人もいたりします。また、すべての組織にとってティール組織が合っているというわけではありません。

そんなティール組織を構築した事例を紹介します。

ティール組織の事例ーオズビジョン社ー

最初に取り上げるのは、ポイントサイト「ハピタス」を運営するオズビジョン社。ティール組織に到達するまでの3つのブレークスルーのうち、「ホールネス」を成し遂げた企業で、『ティール組織』にも掲載されています。

自己実現のための企業

オズビジョン社の理念は、「人の幸せに貢献し、自己実現する集団で在る」。代表取締役の鈴木氏は、企業は人のためにあり、企業のために人がいるのではなく、企業は人の働く手段のひとつという考え方から、人々が「働く目的」を考えるようになりました。そこで、社員の考え方や内閣府の調査結果をもとに考えを巡らせていたところ、マズローの欲求5段階説にたどりついたそうです。マズローの欲求5段階説とは、人間は食べたい、寝たいといった「生理的欲求」が満たされると、安全に暮らしたいという「安全欲求」、そして、「所属欲求」、「社会的承認欲求」、「自己実現欲求」というより高い次元の欲求を欲するようになるとされているものです。現代社会では、「自己実現をしたい」という欲求が今後高まると考えられることから、同社の理念とされました。そして、理念の実現のために、全人格をさらけ出して、社員が立ち振る舞える組織作りが行われてきました。

参考:オズビジョン:社風と理念

「全体性」が浸透するキッカケとなった2つの制度

オズビジョン社では数々の施策が実施されてきましたが、代表的なのは『ティール組織』でも取り上げられた「Thanks day」と「Good or New」という制度です。「Thanks day」は、希望者が年に1日誰かに感謝するための休暇が取得できるもので、現金2万円の支給もあり、福利厚生としての位置づけもありました。「Thanks day」の取得者には、社内ブログで誰にどんな感謝をしたか共有することが義務付けられていました。「Good or New」は、仕事では関わりのない人と会話をする場を設けるため、毎朝5~6人のグループで「Good=メンバーの長所」と、「News=24時間以内に起こったニュース」のいずれかを順番に話す制度です。

「Thanks day」は数十人規模の会社でありながら、当初は毎月、取得希望者がいました。たとえば、「奥さんを食事に連れていった」という投稿に触発されて利用する人がいたり、誰かの投稿に対して、「○○さん、こんな一面もあるのですね」といったコメントがついたりするなど、一定の効果がみられたのです。しかし、マンネリ化したことで次第に希望者が減ってしまい、3年後には廃止されています。「Good or New」も、社内のコミュニケーションの活性化に一役買いましたが、自由参加でも義務感が出てくることや無理に話さなくてはいけないなどの弊害があり、フロアを増床したタイミングで廃止されています。

しかし、こうした施策を通して理念の浸透を図った結果、人材の入れ替わりが起こり、理念にマッチした人が増加しました。そして同社の理念である自己実現のために働いている社員の割合が増えるという効果をもたらしています。このように、オズビジョン社の理念を実現するべく実施された制度が少しずつ企業風土を作り上げ、そして企業風土の変化に合わせた制度の取捨選択を行ったことで、オズビジョン社は「ホールネス(全体性)」を獲得するに至ったのです。

参考:Yahooニュース:組織は変化し成長する。『ティール組織』に登場したオズビジョンの当時と今

ティール組織の事例ーネットプロテクションズ社ー

自律・分散・協調を実現するティール型組織によりアントレプレナーシップの成長とイノベーションの創造を支援し、社員の自己実現と社会発展の両立を目指しています。
同社の特徴的な取り組みの一つに人事評価制度「Natura」があり、相互成長支援と心理的安全性を目的としたもので半年ごとに全ての社員が相互に面談・評価しあっています。

マネージャー役職の廃止

自律・分散・協調組織を運営するためには、全員がマネージャーとして機能する必要があり、特定のメンバーに恒久的に権限・責任が集中する、役職としてのマネージャーを廃止しています。

流動的な「カタリスト」の役割

上記マネージャー廃止に伴い、各部署における「情報」「人材」「予算」の采配権限として
「カタリスト」という役割を設置します。ただし1名に限らず、チーム人数の10%程度存在することが望まれ、カタリストは各期で流動的に交代することが可能です。カタリストのミッションは権限行使でなく、最大限まで権限を移譲・共有することです。またあくまでカタリストは社内向けの役割定義のため、対外的には目的に応じた肩書きを使用します。

バンド制(5段階のグレード)の導入

職務グレードを細分化せず、5つのバンドからなるグレードのみに統合。成長支援・評価の目線合わせ・効果性向上などを目的に、グレードは全社員に開示されます。3年目まではバンド1内で給与が上昇しますが、バンド2への昇格の場合もあります。

ディベロップメント・サポート面談

半期で4回のRDS(Regular Development Support)及び2回のQDS(Quarterly Development Support)が行われます。

RDS:同一機能部署かつ自身より上位バンドメンバーとの面談。
業績振り返りと活動方針策定。
QDS:カタリストまたはカタリストより権限委譲されたメンバーとの面談。
四半期業績報告と活動方針策定、短中期のキャリアメンタリング。

360度評価による昇格/昇給の決定

業務をともに行うメンバーが下記コンピテンシーを4段階または5段階にて評価します。
また本評価をもとにして評価者間にてすり合わせの上、昇格/昇給を決定します。

参考:ネットプロテクションズ社コーポレートサイト CULTUREより抜粋

まとめ

ティール組織として進化していくのは簡単なことではなく、実例も限られています。上司が部下に対して上意下達を行わず、セルフマネジメントで目的に向かって行動する組織を作るのは難しいものがあります。しかし、先に述べたように、ティール組織は全てに勝るというわけではありません。どの組織モデルが合っているかは、事業内容、組織形態、環境等によって異なり、如何にして人材の能力を最大限に引き出せるかを中心に考える必要があります。そして、進化過程の段階を踏むにあたって、ティール組織のブレークスルーの1要素だけでも取り入れるのも良いのではないでしょうか。

 

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