新規事業開発を成功させるプロセスとは~顧客ニーズを捉えたイノベーションをつくる~
新規事業開発をする前に知っておきたい市場に求められている価値とは?
新規事業開発をする前に、新規事業開発で求められることや失敗例を学び役立てましょう。
未来まで顧客に愛される「イノベーション」
公益社団法人「発明協会」では、戦後日本のイノベーション100選を発表しています。トップ10には、日清食品のカップラーメンの元となったインスタントラーメンや、SONYのウォークマン、内視鏡など、発売時に驚きをもって迎えられた優れた製品やサービスが多数紹介されています。
イノベーションの代表とされる製品やサービスは単に新しいだけではなく、年を経てもなお多くの人々に愛されるものが多くあります。つまり、イノベーションによって生み出された製品やサービスは、顧客のニーズを的確に捉えたものであるということが分かります。
参考:公益社団法人「発明協会」:イノベーション100選
求められるのは「新しい価値提供」
日本は高度な技術力と品質管理能力によって、製造業における競争力を身につけてきました。しかし近年、技術の革新や輸送力の上昇などによって、産業を取り巻く環境が大きく変化しており、特にIT企業による異業種への参入によって「破壊的なイノベーション」が様々な分野で起こっています。IT企業がタブレット端末等のデバイス機器や、自動運転を切り口にした自動車分野への拡大を行っているのは、モノに新たな価値を付与することで、モノづくりからコトづくりに切り替えた代表例と言えるでしょう。
このように、従来のように単にモノを売るだけではなく、コトをセットで販売することで、顧客に対して新しい価値を提供することが求められています。つまり「何をつくるか」から「どんな価値を提供するか」が重要になっているのです。単に高品質で低価格な素晴らしい製品を作るだけはなく、機能やスペックのように定量化することができない価値を提供することで、競合を出し抜くことができるようになります。
参考:経済産業省:2016年版ものづくり白書:第1部第1章第3節
失敗する新規事業開発とは?
新規事業開発に失敗した例は枚挙にいとまがありませんが、一般的によく見られる失敗の代表例とその要因をご紹介します。これ以外に、タイミングやミスマッチ、自己過信なども失敗の要因として良く挙げられるポイントです。新規事業を立ち上げる前に、失敗の要因を確認して活かしましょう。
需要の予測を見誤る、または見誤っていることに気付けない
顧客のニーズや、市場予測の読み違えた状態で事業計画を立てたことで、失敗に繋がってしまいやすくなります。また、万全の調査を行なって新規事業開発に挑んだとしても、施策の実行サイクルが遅く、予測の誤りに気付けないこともあります。基本的に、マーケットに適したプロダクトを初期段階で提供することは難しいのですが、自信や準備にかけた時間によって「うまくいくはず」という先入観ができてしまい、誤りに気づくことが遅れたり、状況に合わせた柔軟な発想が失われてしまいます。この事態を防ぐためにも、早期に失敗し、失敗から学ぶという事業開発手法を導入することが重要です。
意思決定がなされない
意思決定者が不在だったり、意思決定の際に混乱したりすると、新規事業が立ち行かなくなってしまいます。新規事業開発をする際には本業の管理システムを持ち込まず、またリーダーシップを発揮する人材が多すぎると意思の統一が難しくなりますので、意思決定をする人物を絞り込んでおくことが重要です。
適切なプロ人材の協力を得ていない
新規事業開発を単独で進めようとしても、本業のノウハウや経験を活かすことができないケースは多くあります。新規事業を軌道に乗せる前に、費用や期間の問題で失敗に終わってしまうことも珍しくありません。また意外と見落としがちですが、新規事業を行うためには既存事業とは全く異なる法律・会計・税務等の知識や実務経験が求められることが多々あります。ローンチ後にプロダクトの成長に集中できる状態をつくり上げるためにも、必要に応じて外部のプロ人材の手を借りることが重要です。
21世紀に押さえておくべき2つの新規事業開発手法
新規事業開発においては、アイデアの発掘、事業の立ち上げ、事業性の評価・判断などさまざまな段階を踏む必要があり、新規事業を軌道に乗せるまでには多くの時間とコストを要します。そのため、新規事業開発を行うにあたっては、事前の念入りな準備・計画が欠かせません。また、新しいサービスや製品は、初期段階の計画が成功することはごく稀であり、有名なサービスであるほど、頻繁に柔軟な方向転換を繰り返しています。さらに、あらゆる情報が流通し、各業界間の垣根が低い現代においては、各業界の専門知識を組み合わせることにより、今までにない新しいプロダクトを生み出すことができます。
次は、新規事業開発における2つの代表的な手法をもとに、どのようなプロセスで計画、実行すればよいのかをご紹介します。
新規事業開発における定番手法の「リーン・スタートアップ」
新規事業開発の手法の中でも特に有名なプロセスはリーン・スタートアップです。
リーン・スタートアップとは
リーン・スタートアップは、失敗を許容し何度も挑戦することができる環境を整備して、小規模かつ短期間で事業をスタートし、顧客の反応を確認しながらニーズに合った製品・サービスを作り上げます。小規模でスタートすることで、コストや時間のロスを最小限にとどめながら市場のニーズに合った製品・サービスを作ることができます。事業が成功するかを早期に見極められるだけではなく、改善を行って軌道修正を繰り返すことで、成功の確率を上げることがでるのです。
顧客開発モデルとは
リーン・スタートアップのコンセプトを理論的に支えているのが顧客開発モデルです。顧客と共に製品開発を行うモデルのことで、顧客ニーズを捉えて素早くベータ版になる製品やサービスをリリ―スし、顧客と一緒に製品やサービスを改良していきます。
参考:富士通総研:新規事業開発の新たなコンセプト:リーン・スタートアップ
リーン・スタートアップにおける新規事業開発のフロー
リーン・スタートアップの手法を新規事業開発のフローに当てはめると、以下のように分類できます。
ここでのポイントは、以下の5つです。
①企画フェーズで新規事業の目的とスコープを先に定めること
②失敗から学ぶために早期に物事を推進し、失敗を許容する文化を浸透させること
③立上げ実行フェーズでは柔軟な評価軸を運用すること
④状況に合わせてプロダクトの目指すべき方向性を変化させていくこと
⑤積極的に専門知識や先端技術を持つ人物から教えを得て学びの速度を加速させること
リーン・スタートアップは、顧客に提供する価値に注目し、最低限のプロダクトを最短最速で、お金をかけずに提供し続け、プロダクトを成長させるための手法です。結果として、せっかく時間とコストをかけて大きな事業を始めたのに失敗してしまったといった、リスクを減らすことができます。
オープンイノベーション
なぜ今、オープンイノベーションなのか?
他企業や研究機関との協業や、外部のプロ人材の活用によって、新たな技術や製品、サービスの開発を目指すことをオープンイノベーションと言います。全てを自社で完結させるクローズド・イノベーション(自前主義)に変わるものとして注目を集めており、異業種間の交流、企業同士の共同研究開発などを行います。
当初は、産学連携による研究開発を行い、スピーディーかつ多様な新技術の獲得をしてイノベーションを起こすというのが主流でした。しかし現在では、新規事業創出における幅広い外部リソースの活用と内部リソースの外部化のことを指すようになり、外部リソースの範囲がより広範囲になっています。企業間の協働・連携が増加していく中で、今後もますますオープンイノベーションが盛んになると考えられています。
もっとも流行っているオープンイノベーションはアクセラレータープログラム
オープンイノベーションの中でも特におさえておきたいのが、大企業や自治体がスタートアップ企業やベンチャー企業と事業創生を目指すアクセラレータープログラムです。3ヶ月などの定められた期間内に、対象者やグループに対して、企業や自治体が経営ノウハウなどを指導し、最終プレゼンを行って新たな出資を得て、プログラムを卒業するのが一般的です。
スタートアップ企業やベンチャー企業は、創業資金を調達し、ビジネスに関するノウハウを得られます。さらに、プログラムによっては、融資だけではなく出資を受けることができるものや、企業との業務連携が可能なものもあります。
新規事業開発のプロセスとオープンイノベーションの各手法
オープンイノベーションにはさまざまな手法がありますが、その各手法と新規事業開発における各フェーズの関係性は、以下のように分類されます。
- 消費者の観察と理解(リサーチ)
- アイディアの創出
- 事業モデルの構築
- 協力企業や研究機関の選定(メンバーの確保)
- 戦略的な事業計画の立案
- 資金調達
- 収益事業化
このように、新規事業開発においてはさまざまなステップ、課題を解決しながら進める必要があります。たとえば消費者のリサーチにおいて、外部のプロ人材やサービスを活用したほうがより広範囲、多角的に調べることができたり、費用や時間を削減できたりします。また、その外部サービス等を活用するかどうかすら、プロ人材による支援を受けながら進めることも可能です。
新規事業開発の成功例
新規事業開発を成功させるためにはどうしたらいいのでしょうか。成功例に学び、新規事業開発に活かしてください。
イノベーションを成功に導くポイント
イノベーションを成功に導くためには、「経営者のコミットメント」が必要不可欠です。ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化を遂げる中で、株式会社電通の元代表取締役社長執行役員石井直氏は、「変革できない企業は消滅する」と語っています。イノベーションを成功に導くためには、以下の5つがポイントになります。
- 従来の成功体験からの脱却
- 短期的な結果を追求するのではなく、長期的視野を持った計画
- 顧客の本質的なニーズを正確に理解する
- 良いアイディアを積極的に取り入れる
- 外部リソースを活用する
オープンイノベーションにおいても、経営者がリーダーシップを発揮し、イノベーションの重要性を理解したうえで適切な判断を行い、協働による相乗効果が生まれるように環境や体制を整備する必要があります。そのためには、「正しい評価体制」と「支援する環境の整備」が大切です。
既存のアイディアを組み合わせて新しい価値を創出する
誰もが驚くような新しい価値を創出することを「イノベーション」と呼びますが、必ずしもゼロから全く新しいアイデアを考え出す必要はありません。
例えばスマートフォンはその便利さ故、発売から約10年で日本人口の7割以上が所持するようになりましたが、使うと手がふさがることや、「歩きスマホ」による事故などの問題が付きまといます。そこで近年、「腕時計」と「スマートフォン」を組み合わせたスマートウォッチというものが話題を呼んでおり、こういったスマートフォン特有の問題を解決するだけでなく、IoTを活用して日々の健康管理をしたり、コンパクトさを活かしてどんなシーンでも音楽を楽しめたりと、「腕時計」という枠をはるかに超えた価値を提供しています。
誰もが驚くような新しいことは、いつでも簡単に浮かぶものではありませんよね。そこでスマートウォッチのように、既存の製品やアイディアを組み合わせ、新しい価値を創出することが新規事業開発にとって非常に大切なポイントになるのです。
重要な「システム化指向」と「ニューカテゴリーの創出」
サントリーとUCC上島コーヒーが立ち上げた「プロント」は、日中はコーヒーショップ、夜間はダイニングバーという2つの顔を持ち、既存のコーヒーショップと一線を画しています。この営業スタイルを支えているのが、夕方のある時間をもってメニューとサービスを完全に切り替えることができる「システム」です。
プロントは、単に提供するメニューを変えるだけではなく、人員の配置や店舗の什器なども含めてシステム化することで、独自の立ち位置を作り出すことに成功しました。
日本総研:経済・政策レポート:新事業開発の成功と失敗の要因に関する一考察
APIエコノミーと広がるウーバー症候群(Uberization)
プラットフォームが主導するAPIエコノミー
API(Application Programing Interface)エコノミーとは、他社が開発したソフトウェアを活用して、ビジネスの幅を広げていく商圏のことを言います。例えば、GoogleはGoogleMapというAPIを公開しており、近年のWebサイトでは、会社等の所在場所を紹介するときに、このGoogleMapを載せているケースが増えています。このように、他社の便利なAPIを通じてサービスやデータの連携を行うAPIエコノミーが、急速に増えているのです。近年話題を集めている配車サービスや会計サービスの多くも、他社との協働に加えてITを活用しています。
参考:野村総合研究所:用語解説:APIエコノミー
ウーバー症候群(Uberization)とは
APIエコノミーの成功例の筆頭が、UBERという配車サービスで、日本ではタクシーの配車ビジネスを行っています。ユーザーはスマートフォンを操作して場所を指定するだけで、周辺のドライバーがユーザーを迎えに行き、目的地まで運んでくれます。カード決済なので煩わしいお会計もスマートに済ませることができます。このサービスは海外ではタクシーだけでなく、一般の人も自家用車で人を運ぶことができます。
このアプリを介した配車サービスは車も設備投資費も必要とせず、運転士を雇用する必要もないため、既存のタクシービジネスと比較すると、費用を圧倒的に低く抑えてサービスを開始できるというメリットがあります。この単なるアプリに過ぎないUberの時価総額は、あらゆるレンタカー会社の時価総額を超えるほどとなり、タクシードライバーを中心に反発が起きているほどなのです。
このような「異なるビジネスモデルが市場に参入し、既存の企業を破壊してしまう現象」は、ウーバー症候群(Uberization)と呼ばれています。ウーバー症候群は、既存の業界には脅威となります。全く異なるビジネスモデルが、既存業界のビジネスモデルを破壊してしまう為、自分たちの業界内しか見ていないと、突然の襲来に足元をすくわれてしまうのです。しかし逆を言えば、今後は業界の垣根があいまいになるため、アイデアと、そのアイデアを新規事業として形にすることができれば、自らがウーバー症候群を起こす側、つまり攻めのビジネスに転じることができるのです。
参考:fjコンサルタンツ:ウーバライゼーション(Uberization)とは
まとめ
新規事業開発では、いくつかの手法があります。しかし、単に手法を学ぶだけではなく、成功例や失敗例に触れることで、より良いシステムを構築することができます。
新規事業開発を成功に導くためにも、ご紹介したフローやポイントをおさえて参考になさってください。