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戦略PRとは?注目される背景と次なる手法を解説

広報組織立ち上げ・強化
戦略PRとは?注目される背景と次なる手法を解説

戦略PRが注目されてから、約10年。戦略PRは、ソーシャルメディアの台頭と深く関係しています。この記事では、「そもそも、戦略PRってどういうこと?」という疑問に答えるとともに、具体的な事例やソーシャルメディアの台頭のPRへの影響、今注目されているストーリーテリングという手法についても解説していきます。

「PR」と「広報」が混同されてきた理由

PRの正しい意味を理解している人は少数で、誤解されてきました。そもそもPRとは「パプリックリレーションズ」の略で、組織と組織を取り巻く社会が良い関係を築くための活動のことです。

20世紀初頭のアメリカでPRという概念が生まれ、日本にも1940年代後半に、アメリカからもたらされました。その後、日本で実際にPRという言葉が浸透したのは、高度経済成長期の大量消費時代。この時のメディアを取り巻く時代背景によって、意味が誤解されて広まっていったのです。

新聞しかメディアがない時代にPRという言葉が浸透したアメリカと異なり、日本でPRが浸透したときには、テレビが普及し始めていました。同時に大量消費時代が到来し、テレビと広告代理店、自社ブランドを展開する大企業によって、マスマーケティングによる広告展開が盛んになっていったのです。そのため、PRの本来の意味は重視されず、新聞や雑誌などに無料で自社の情報を取り上げてもらう「パプリシティ」と混同されてしまい、PRの意味合いが変化しました。

また、日本でPRは「広報」と訳されましたが、広報の役割は本来のPRとは異なるものです。広報の部署が多くの大手企業で設けられるようになったのは、大量消費時代後に公害問題が社会問題化した1970年代。広報は社会問題への対応を行うため、守りの姿勢をとらざるを得ませんでした。ニュースリリースなどを通じて社内外に情報発信を行う役割を持っているものの、積極的に自社の商品やサービスをアピールする役割は担って来なかったのです。

戦略PRが注目される背景

戦略PRとは、商品に関心を持ってもらうためのテーマを発掘し、世の中が関心を持つ空気をつくり、消費者が買う理由をつくる手法です。世の中が関心を持ちやすいテーマやトレンド感と、自社の商品やサービスを結びつけていくことがポイントになります。また、従来のパブリシティと混同されていた「PR」と一線を画す意味でも、「戦略PR」と呼ばれるようになりました。

そんな戦略PRが注目されるに至った背景には、2つの要因が挙げられます。

1つ目は、大量生産を行えば大量消費につながるという、高度経済成長期以降の”つくれば売れる”時代が終焉したこと。消費市場が成熟したことで、質が高いものや価値のあるもの、あるいは価格の安いものであっても売れるとは限らず、消費者の購買意欲をいかに喚起するかが課題となりました。

2つ目は、インターネットの普及によって、消費者が受け取る情報量が増加したこと。さらにSNSの浸透によって情報洪水といわれるほど、消費者が多くの情報にさらされるようになり、商品の差別化が難しくなりました。また、一方的に消費者が情報を受け取るのではなく、自らも情報を発信する側にもまわるようになるという変化も起きています。

こうした要因から、従来のテレビCMなどによる広告展開の効果が薄れてきたため、戦略PRが注目されるようになったのです。

 

買う理由をつくる戦略PR

では、戦略PRは実際にどういった手法で行われるのでしょうか?商品の購入につなげるために、「いい○○」の空気感をつくる手法をもとに解説していきます。

「いい〇〇」は変わる

消費者が数多くの商品の中から購入するに至る商品を選ぶのには、「買う理由」があります。戦略PRの先駆者の本田哲也氏は、「買う理由」の一つとして、世の中で「いい○○」とされている共通認識を挙げ、「いい○○」はいつの時代も同じではなく、変遷しているとしています。

参考:COACHA:「戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」

そのうえで、一例として「いいクルマ」を例に挙げています。1980年代に「いいクルマ」とされたのは「見た目のよいクーペ」でしたが、1990年代は「ラグジュアリーで乗り心地がよい」クルマ。そして、2000年代になると大きく価値観が変わり、「車内空間が広く子供と出掛けるのに便利」なクルマ。2010年から今に至るまでは「エコカー」が「いいクルマ」とされています。

「いいクルマ」として消費者に支持される自動車は、時代の様々な要因によって移り変わっているのです。変わりゆく「いい○○」に自社の商品がマッチすれば、おのずと消費者が「買う理由」になります。

 

意図的に「いい〇〇を変える」戦略PR

さらに、『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』では、世の中で「いい○○」とされる社会常識を意図的に変えれば、買う理由をつくることができるとしています。「いい〇〇を変える」戦略PRが行われた事例として挙げられたのは、洗濯洗剤のケースです。まず、1997年に「いい洗剤は白さ」と世の中の認識を変えたのは、花王のアタックで、「スプーン一杯で驚きの白さに。」がキャッチコピーでした。そして実際に、「いい洗剤は白さ」が社会常識となったのです。

それが、2000年代に入ると、P&Gの「アリエール」の戦略PRによって、「いい洗剤は除菌」へと変わります。P&Gは、除菌の専門家共同実験を実施した結果を洗濯除菌の啓蒙情報としてメディアに流し、洗濯してきれいになった洗濯物にもバイ菌が残っていることがセンセーショナルに、新聞やテレビなどで拡散されました。そして、「いい洗剤は除菌」という空気感をつくることで、除菌力をアピールする洗剤が求められるようになり、「アリエール」の広告が効果的に消費者に届くようになりました。

このように、戦略PRによって「いい○○」の認識を変えると、消費者の「買う理由」をつくることができるのです。

 

「ピジョン」が実現した大逆転戦略PRの成功事例

「いい○○」を大々的に仕掛けていった戦略的PRの成功事例として、ベビー用品メーカー「ピジョン」のベビーカーのケースが挙げられます。当時、ピジョンは世界でベビー用品では圧倒的なシェアを誇るものの、ベビーカーでは日本市場で後塵を拝し、シェアはわずか5%程度でした。そこで、ピジョンは2014年に「ランフィ」を新発売するにあたり、戦略的PRを行い、売れる土壌をつくったのです。

日本では当時、「いいベビーカーは軽い」、あるいは「いいベビーカーはおしゃれ」というのが、世の中の認識でした。ここで「ランフィ」もおしゃれで軽いとアピールしても、差別化は図れません。そこで、「ランフィ」ならではの差別化できる特徴として、一般的なタイヤの厚みが13.8センチなのに対して、16.5センチの大径タイヤであること、それにより段差を乗り越えやすいという点に着目したのです。

ピジョンはまず、ベビーカーユーザーに対する意識調査を実施し、「ベビーカーで段差を乗り越えるときにストレス」を感じている人が多いというニーズを掴みました。しかし、ベビーカー選びにおいては、段差を乗り越えられることを重要視する土壌がありません。そこでピジョンが行ったのは、「段差でつまずくことがどれだけ問題か」という視点に転換し、新たな市場ニーズをつくり出していくという戦略だったのです。

段差でつまずいたときの衝撃を図る実証実験を実施し、ベビーカーにかかる衝撃は自動車が急ブレーキをかけたときの5倍ということ実証しました。そして、太径タイヤの「ランフィ」は一般的なタイヤ径のベビーカーよりも、軽い力で安全に段差を乗り越えられることを裏付けたのです。この情報をメディアに流したことで、大手新聞などで大きく報道され、「いいベビーカーは大径タイヤ」という新たな認識が世の中に生まれ、消費者が「ランフィ」を買う理由をつくることに成功しました。

参考:Pigeon:導入説明

戦略PRが注目されて10年、今のPRを見る。

戦略PRが注目され始めてから約10年が経ちます。ソーシャルメディアの台頭によって変わった情報の流れを振り返るとともに、これからの戦略PRに求められることを見ていきます。

ソーシャルメディアの台頭によって変わる情報の流れ

戦略PRが注目される要因となったソーシャルメディアは、日本では2010年から2011年にかけて本格的に広まったTwitterやFacebookです。そして、2011年の東日本大震災を契機として開発されたLINEは、若年層のみならず、中高年層にもコミュニケーションツールとして活用されています。

スマートフォンの普及とSNSの台頭によって、ヒト同士が共通の関心事項でつながるようになり、そのコミュニティの中で情報が流通するようになりました。この流れはメディアのあり方にも影響を及ぼし、画一的な情報が誰に対してももたらされるのではなく、ニュースメディアでも、スマートフォンに「欲しい情報」が配信される流れにシフトしています。つながりを持つヒトの間で関心のある情報が多く流通する一方で、広く情報を効果的に行き渡らせることが難しい時代になってきました。

これからの戦略PRに大切な3つのポイント

これからの戦略PRを進めていくうえで、認識しておくべき3つのポイントがあります.

1つ目は、情報洪水により、消費者の情報選択率が低下していること。消費者は日々、インターネットを通じて多くの情報に接しているため、単に情報を流して埋もれてしまう可能性があります。さらに、消費者は広告的なコンテンツを避ける傾向が見られます。

2つ目は、企業の情報コントロール力が低下していること。消費者はSNSで自由に情報を発信し、ネット上では口コミ情報があふれているなど、企業がコントロールできない情報が多くあります。

3つ目は、社会の関心が多層化していること。SNSを通じて、消費者は趣味や価値観等、共通の関心事を共有しています。新たな情報の取得は、関心毎に合わせてパーソナイズされた情報をスマホから受け取るのが中心となってきました。

この3つのポイントからも、テレビCMなどによる広告で商品の認知を図ったり、新聞の折り込みチラシで来店を促したりといった従来の手法だけでは、購買につながりにくいことは明らかです。一方で、「この商品ってこんなに良いんだよ。」「これって楽しいんだよ。」「だからあなたも買ってみて」といった、同コミュニティの口コミは影響力が強く、信用度も高くなります。そこで企業は、戦略PRによって、そう思わせる空気感をつくり、SNS等による拡散へつなげていくことが成功のカギとなるのです。

次なる戦略PRの手法「ストーリーテリング」

空気感をつくる戦略PRの次の一手とされているのが、物語調で伝えるストーリーテリング。空気感をつくっても、類似商品が登場すると競合してしまうため、差別化する手法としてストーリーテリングが注目されています。

そもそものPRの役割は、社会とよい関係をつくるための活動です。自社の商品やサービスの良い噂を第三者に拡散してもらうには、信頼性の構築が欠かせません。そこで、「どんな会社か?」「どんな商品か?」「どんなサービスなのか?」を深く知ってもらう手法として、その裏にある物語を伝えるのがストーリーテリングです。たとえば、トークドキュメンタリー番組の『カンブリア宮殿』で、人気商品が生まれるまでのストーリーを見ると、人に伝えたり、実際に手にしたりしたいと考える人が多いのではないでしょうか。

具体的には、「事業を始めた社長のきっかけや思い」、「新商品の開発に至った背景」、「開発中に乗り越えた壁」などを発信することが考えられます。また情報発信の手段についても、従来のような広告であることがすぐにわかってしまう方法では、いくらストーリーを伝えても情報の受け取り手は興味を失ってしまうでしょう。漫画やドラマなどのメディアを活用して、まずはコンテンツ自体を楽しんでもらい、最終的に伝えたいメッセージを読み取ってもらうような伝え方の工夫が求められます。

 

まとめ

スマートフォンの普及やSNSの台頭によって、これまでとは情報の流通のあり方が変わり、戦略PRが注目されるようになりました。しかし、約10年経った今では、空気感をつくる戦略PRよりも、自社の商品やサービスを差別化する手法として注目されているのは、ストーリーテリングです。時流を見逃さずに、効果的なPRの手法を構築していくことが求められています。

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