勝機を掴む新規事業ピボット―新規事業開発のプロが語る、“賢明なピボット“の3つのポイント―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2022/12/14回では、新規事業開発を進める中で事業を継続と撤退の岐路に立っている新規事業責任者の皆様に向けて
新規事業開発のプロ木全氏に、自身が経営する企業でピボットをされた経験や他社でのピボットを見てきた経験から、“賢明なピボット”をするための3つのポイントをご解説いただきました。
「事業検証の結果が芳しくなく、ピボットを検討しているが適切なタイミングが分からない」
「過去事業のピボットに失敗しており、新たに事業開発を行うにあたりピボット判断のポイントを知りたい」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
木全 春貴氏
株式会社The Chef 代表取締役社長
プライム上場企業へ2006年に入社し、営業として7年従事する内5年通期表彰を獲得。その後営業マネージャー、営業推進マネージャーを経て、現在はシニア社員として新規事業や全社表彰案件のプロモーターを務める。本業で活躍する一方で、兼業でサーキュレーションのプロシェアリングを通して複数社で新規事業支援を行う。その他にもDXプロアドバイザーや、自身で起業した株式会社The Chefの代表取締役社長としても活躍している。
村田 拓紀
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部
FLEXY部マネジャー
中古車のマーケットプレイスシェア首位の企業にて拠点責任者、営業戦略策定、メンバーの採用から育成まで幅広く従事。IT企業を経てサーキュレーションに参画。現在はIT戦略における中期ロードマップ策定、IT企画人材育成に向けた技術顧問活用プロジェクトなどDX推進に舵を切る多くの企業を支援。
板垣 和水
イベント企画・記事編集
慶應義塾大学在籍中にITベンチャーでのインターンに2年間従事。オウンドメディアのSEOやチームマネジメント、100本以上の記事ディレクション/ライティングに携わる。卒業後サーキュレーションに入社し、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2022/12/14時点のものになります。
Contents
伸び悩む新規事業を脱するための「ピボット」戦略とは
「ピボット(Pivot)」とは、企業経営における「方向転換」や「路線変更」を意味する言葉だ。ピボット時は、ビジョンに軸足を置いたまま、事業戦略の軌道修正や、これまでとは異なるアイデア・企画に取り組むことになる。
ピボットが必要となる背景にあるのは、市場ニーズと事業戦略の乖離だ。これらの適合こそが、ピボットの本懐と言える。
事業ピボットは新規事業そのものの方向性を左右する大きな意思決定であるため、なかなか踏み切れないケースは多い。とはいえ、必要なタイミングでスピーディーにピボットを行えば、伸び悩む新規事業は一気に成長線を描くことも可能となる。
新規事業開発のプロに聞く、事業ピボットでぶつかった壁と判断軸
では、新規事業においてどのような判断軸を持てば、「賢明なピボット」が行えるのか。まずは、木全氏が手掛けた新規事業の事例について、事業の概要とピボットのプロセスを伺った。
木全氏が手掛ける新規事業「CLESERVE」
今回ご紹介するのは、木全氏が代表を務める株式会社The Chefのメイン事業である、「CLESERVE」というサービスだ。同サービスはもともと、個人開催のイベント・パーティ向けのシェフ派遣サービスだったが、これを企業活動支援サービスへと転換。登録企業は、CLESERVEに登録された飲食店を通常の30%OFFの価格で利用できる。
事業展開にあたり木全氏が着目したのは、企業で接待が行われた際の「経費」項目だった。
木全:一般的な企業は、ガイドラインとして「会議費」を税込み5500円までと決めています。ビジネスマンもその価格の範囲内でお店を選ぶわけですが、それではなかなか良いお店を選べません。CRESERVEなら30%OFFになるので、通常単価8000円ほどのお店を、5500円ほどで使える点で、効用が大きくなっています。
村田:損金算入にも着目されていたと伺っていますが、これはどういうことなのでしょうか?
木全:5001円以上の高額接待は、経理上「会議費」ではなく「接待交際費」という科目になり、損金不算入になると決まっています。ただし資本金1億円未満の企業は、年間800万円までは経費計上できる細かいルールもありますね。
CRESERVEを利用すれば、お店の利用に使った費用は「サービス利用料」という科目になるので、経費計上できます。接待交際費として使える枠が増え、なおかつ税制メリットもあるわけです。
ピボットを意思決定した判断基準と障壁
木全氏が大きな事業転換を行った背景にあったのは、既存サービスの市場可能性だ。もともと企業のIPOを事業グロースの目的として置いていた木全氏は、シェフ派遣事業にこれ以上コミットするのは難しいと判断し、toB事業へと舵を切った。
村田:ピボットをする中では、ヒト・モノ・カネの障壁が発生したそうですね。まず、ビジネスモデルの変化に伴って人材要件が完全に変化し、人を入れ替えたとか。以下のスライドには「育成コストが高すぎた」と書いてありますが、ここがポイントだったのでしょうか。
木全:そうですね。大企業の場合は人材要件が変わったからといって、全面的に採用をするのは非現実的なので育成や配置転換を行いますが、当社はスタートアップなのでドラスティックにメンバーを入れ替えました。
村田:「モノ」の部分だと、飲食店のニーズに応えるアプリ機能の追加が必要だったそうですが、もともと木全さんは飲食店のことをあまり知らなかったとか。
木全:シェフ派遣のときは飲食店自体の経営やオペレーションとは無縁でしたが、新しいビジネスモデルでは彼らの現場運用のニーズに合わせて、機能を作る必要がありました。最初に作ったMVPから、機能を積み上げざるを得ませんでしたね。
村田:リスクがあったからこそ、最初はコア機能だけに絞ったということですね。
「カネ」の面ではゼロからの資金調達が必要だったところ、既存ビジネスの取引先がそのままリードになったのが、調達の大きなポイントだったと伺っています。
木全:シェフ派遣を使っていただいていたお客様自身が企業の経営者で、個人向けサービスではあっても以前から企業活動に使われていたケースが多かったんです。彼らを、会員のリードとして移せたわけです。
“賢明なピボット”をするための3つのポイント
C向けからB向けへと大きく方向転換をした木全氏の事例を踏まえ、事業を成功へと導く「賢明なピボット」をする上での課題と、3つのポイントについて解説していただいた。
大企業の事業ピボットにおける課題
特に大企業の事業ピボットの課題として出てくるのが、「事業アセットの活用」「新規事業の目的」「現場への権限移譲」という3つの要素だ。
事業アセットの活用については、「そもそも自社で何ができるのか、可視化・認識がされていないことが多い」と木全氏。
木全:「このアセットはこういう風に使える」という自社の価値の再認識は、一つのプロジェクトとして取り組んでも良いぐらい重要です。私自身が事業ピボットをするときも、アセットの見直しは必ず起点にしますね。
村田:次の「新規事業の目的」というのは、具体的にどういう内容ですか?
木全:例えば私の場合は明確に「IPO」でした。通常の企業でもピボット時には財務ターゲットが当然出てくると思いますし、例えば別のコア事業との関わりの中で、ユーザー数を増加させるといったKPIなどもあるでしょう。
どういう目的の置き方にせよ、どんな価値の実現のために新規事業をやるのか明確に軸として持っておかないと、ピボットはできません。
最後の「現場への権限移譲」で課題になるのは、目的達成に向けた動きの判断における、現場責任者と経営とのギャップだ。
木全:課題1につながりますが、結局自分たちにできることが不明瞭だと、新規事業をどんな方向性にして何をやりたいのか、既存事業との関連や実現可能性がわからず、明確な目的が決められません。トップが目的を決めても、現場とツーカーでつながっていないと実行は難しくなります。
トップが魂を込めてその事業を「やる」と決めたからには、現場にもそういう動機付けをしっかりしていきましょう。
事業ピボットの方法
以上の3つの課題をベースにしつつ、続いては具体的な事業ピボットの方法についてご紹介する。
事業アセット活用編
村田:事業アセットの活用で失敗しやすいのが、多角化や新奇性にとらわれるというケースですが、これは新規事業に多い傾向なのでしょうか。
木全:そうですね。この場合、アンゾフのマトリクスで事業構造を捉えられているかどうかが大きな起点になります。新規事業を考える際はこのフレームワークを用いながら、自分たちの顧客は誰で、サービスが提供している価値は何なのかを可視化しましょう。
村田:これができていないとアイデアばかりが先行して、不要なコストを中途半端にかけて終わってしまうことが多いそうですが、実際はどんな不要コストがあるのでしょうか?
木全:人件費やシステムを開発のコストなどですね。必要最低限の機能を定めるのが難しくなると、やはり不要なコストが発生します。
ピボットする事業の目的設定編
村田:次が事業の目標設定です。やはり目的を言語化することで、ピボットの判断基準がわかりやすくなると伺っています。
また、最近ではステージゲートが認知され始めていると思います。ステージゲートが必ずしも正しいとは限らず、障壁になる場合があるそうですが、どんなケースが当てはまるのでしょうか?
木全:何が最適なのかわからないのに、時間軸で判断してしまうケースですね。例えば3年後には当たり前になっているはずの事象をサービス化しようとして、それよりも1年前にステージゲートのタイミングが来ていると、結果論的にステージゲートの基準が間違いになってしまいます。非常に難しいポイントですが、だからこそトップがどう判断するか、どうルールを作るのかが問われます。
現場の具体的な手触り感がある情報から判断するのはすごく大事ですし、顧客の意見も吸い上げる必要があるでしょう。外部要因的な話もありますね。例えばコロナ禍によって、いろいろなサービスの提供が前倒しになったと言われています。私の事業も2年半早いと言われ続けてきました。やはり時間軸部分での判断は難しいです。
現場への権限移譲編
村田:最後が権限移譲ですね。判断の権限を委ねるだけで、責任を押し付けるのはNGだとされています。ピボットの責任はトップが持つとしても、特にどんなことに気を付けるべきなのでしょうか?
木全:やはり「魂」ですね。魂を持って事業に関われるのはトップと現場の人間です。彼らが確固たる意思を持ってやってみて、初めて事業の「最初の雪玉」が作れるのではないでしょうか。その後はニーズが合っていれば雪玉が転がり、勝手に大きくなっていきます。そうなれば、役割分担をして機能強化していけるでしょう。
トップとは違う人物が新規事業をやるとなったとき、トップがいかにその人に対して「自分ごとにしてやろう」と言い続けられるかが大事です。権限はそのように任せながらも、使ったコストや出来不出来に関しては、自分が責任を持つことです。
勝機を掴む新規事業ピボットまとめ
今回のウェビナーのポイントをまとめると、以下のようになる。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。勝機を掴む新規事業ピボットにご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。