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既存事業からの脱却―自動車部品メーカーが成功した新規事業の勝ちパターンとハイパーグロース事業の創り方―

新規事業開発

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

2022/12/7回では、既存事業とは別な収益基盤を構築したいが考え方や進め方が分からない新規事業責任者の皆様に向けて、㈱東海理化でデジタルキー事業を中心に複数の新規事業開発を同時進行で推進する伴氏と、同社のプロジェクトに新規事業のプロとして参画したTANAAKK(タナーク)の田中氏に、東海理化の新規事業を例に勝ちパターンをお話いただきました。
製品/サービスの開発体制や事業サイドの組織体制が曖昧で何が正解か分からない、などのお悩みを持つご担当者様は是非ご覧ください。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

※このイベントの無料ホワイトペーパーはこちらからダウンロードできます。
PMFのWPDL用

伴 岳彦氏

伴 岳彦氏

株式会社東海理化電機製作所 ニュービジネスマーケティング部部長
株式会社東海理化へ入社後、生産管理、海外営業(車両メーカーへの出向)、米国工場、米国統括会社への出向、人事、事業企画など幅広い業務に従事し、2021年より新規事業開発部門の部長として現職就任。デジタルキー事業を中心に複数の新規事業開発を同時進行で推進中。2022年4月にはデジタルキーを社用車管理に適用したSaaSプロダクト「Bqey(ビーキー)」(ローンチ当初は「FREEKEY社用車予約」という名称であったが、のちに「Bqey」に名称変更)をローンチし、2023年4月にはレンタカー事業者と利用者を結びつける無人レンタカーアプリ「Uqey(ユーキ―)」がサービスイン。デジタルキー事業をはじめとする新規事業で2030年に150億円の売上を目指す。

田中 翔一朗氏

田中 翔一朗氏

Tanaakk株式会社 代表取締役
東京大学在学時から17年間で130社の国内外新規事業立ち上げに関与。自身も2社のEXIT実績。2018年国内最年少上場企業役員経験。2019年ICO経験(2019年価格上昇率世界一)。2020年米国EnterpriseSecurity誌よりアジア太平洋地域のサイバーセキュリティ企業成長率No.1を受賞(創業2年、10名の組織で年間127社の大手法人顧客獲得)。2022年財務省登録適格機関投資家としてHITSERIES®︎FUNDを設立、英WBM誌よりGlobal TOP 100 CEOに選出。

佐々木 博明氏

佐々木 博明

プロシェアリング本部 エンタープライズ推進チーム マネジャー
ディー・エヌ・エー、リクルート、ビズリーチにてWebマーケティングや新規事業立ち上げなど幅広く担当。その後、PERSOL INNOVATION FUND合同会社でHRTech企業への投資案件やM&A業務に従事。サーキュレーション入社後は大手企業様へのDXや新規事業の支援に従事。製造業・流通業・通信など幅広い業界に対して、DX推進に必要なマーケティング・セールス・ECの戦略立案、業務・システム改革、組織改革などのコンサルティング実績を持つ。

酒井 あすか

酒井 あすか

イベント企画・記事編集
新卒で大手人材紹介会社に入社し、中途採用における両面マッチング型の法人・個人営業、グループ会社・地銀とのアライアンス連携業務に従事。丸の内エリアに本社を構える企業への採用支援、100名単位のグループ会社社員に対して営業企画、地銀への人材紹介事業レクチャーに携わる。サーキュレーションではプロ人材の経験知見のアセスメント業務とオンラインイベントの企画〜運営を推進。

※プロフィール情報は2022/12/07時点のものになります。

東海理化の新規事業「デジタルキー」のPMF

2022年4月、東海理化はデジタルキーを社用車管理に適用したSaaSプロダクト「Bqey」をローンチ、更に2023年4月にはレンタカー事業者と利用者を結びつける無人レンタカーアプリ「Uqey(ユーキー)」がサービスインした。
創業は1948年。年商5,531億円の自動車部品メーカーとして歴史を重ねてきた老舗企業が、製造業という固定概念を超えたSaaSの新規事業をどのように立ち上げたのだろうか。
新たな収益基盤の確保を目的に立ち上げられたプロジェクトの勝利ポイントは、「PMF」にあったという。

新規事業投資拡大を決めるためのPMFの定義とは

たとえ新規事業創出に足る技術があったとしても、十分な市場と成長性がなければプロダクトのスケールは難しい。そこで、まずは顧客ニーズの仮説検証を実施し、最適なバリュープロポジション、価格、パッケージの模索によるPMFが必要となる。
東海理化の場合、第一に着目したのは日本全国の車両数だった。

田中:日本全国の車両数は、現在8000万台あります。このうち、BtoBで用いられる車は800万台ほどです。いきなり全国の8000万台を対象にするのは範囲が広すぎると判断し、商用800万台を最初のターゲットに設定しました。
その中で、「スマートフォンで鍵を開ける」というデジタルキーの新しい行動様式や生活習慣がそもそも受け入れられるのかどうかが、チームの最初の問いになります。ここに対しては、SaaS事業であることを鑑みて「売上1億円を作れるかどうか」を指標にしました。

伴:田中さんと相談してARR(年間経常収益)1億円を大きな「結果指標」とした一方、「先行指標」を定量的に捉えるのは難しかったです。そこで我々は、まずはプロダクトをローンチ。製品を「正しくするため」に市場の声を聞き、プロダクトに反映させていくPDCAを高速に回す手段を採りました。定性的ではありますが、お客様にとって製品が「nice to have」ではなく「must have」になることが、PMFしている状態であると捉えています。

田中:デジタルキーの市場に関しては、海外では10年ほど前からAvis Budget Groupが取り組みをはじめており、ほかにもNASDAQ上場企業や大型資本調達をしている企業がいくつもあります。一方で日本はほとんどの事業者がデジタルキーに取り組んでいません。これはビジネスチャンスだと思いました。

フレキシブルな組織展開によるPMFの実行

佐々木:プロダクトのPMFを実行するための売り方は多種多様だと思いますが、現場で売る人間がいないと、横展開によるスケールができません。自分たちで売れる組織を持ったほうがいいのでしょうか?

田中:そうですね。

佐々木:新規の取り組みを実施する際は「ちょっと待ってくれよ」という声も出てきそうです。実際はどうでしたか?

伴:4月のローンチに向けて営業活動を行うメンバーを集めましたが、彼らのバックグラウンドは営業ではありませんでした。当社の場合は、これが意外に功を奏したようです。
何も知らないからこそ、まずは見様見真似で営業活動をすることにして、テレアポを積極的に実施しました。1件取れるとお祭り騒ぎのような雰囲気があったのも、非常に良かったと思います。

田中:具体的に、一人当たり毎月80社訪問する目標を立てました。そうなると1日4件はアポを取る必要があります。スケールするためにはこうした活動が必要だということを、メンバーの皆さんと合意が取れたのが大きかったです。

佐々木:売上1億円を作るために80件のアポを取れる直販部隊を作ったことで、走りやすくなったんですね。

【まとめ】デジタルキー事業を成功させた勝利ポイント「PMF」

東海理化のPMFの定義において重視されたのは、「1億円の売上が立つかどうか」に加え、海外に成功モデルがあるかどうかだった。また、実際にPMFを実行する上では売上を立てるフレキシブルな組織――東海理化の場合は、直販部隊による検証がポイントとなった。

ハイパーグロース事業を創る3つのポイント

東海理化はプロジェクト始動にあたり、経営側から「10年後に150億円を創出せよ」というミッションも課されていた。100億円以上のハイパーグロース事業を創るには、どのようなポイントがあるのだろうか。2つの質問をぶつけることで、実情を探った。

経営からの「2030年に150億」の売上目標に対してどう計画したのか?

実際に150億円の売上目標に対して、到達可能な計画を練り上げたのは伴氏だ。このときのポイントは、やはり他社のベンチマークだったという。

伴:先行事例として、10年で150億円の売上を立てている企業はそれなりにありますから、成功の軌跡をしっかり観察させていただきました。それをトレースすれば、150億は決して無理な数字ではありません。
大前提となるのは、「TAMがあるか」「スケーラブル可能な事業か」です。これらをベースに年度ごとの財務諸表へと落とし込み、10年後に150億円に到達する成長ペースを計画しました。

田中:150億円の売上を作るためには同じ150億円の資本投下が必要になりますが、東海理化さんはその予算がしっかり確保されていました。投資条件は、3年目まではトップラインの伸長、4年目以降は黒字化、5年目以降は投下資本の回収が達成されていることです。段階的な資本投下自体が計画されていたので、プロダクトを作る・売るを繰り返していけば、答えが見えてくるだろうという感覚がありました。

老舗製造業でSaaSのグロースKPIをどう持ち込んだのか?

佐々木:東海理化さんは老舗製造業を生業としていたため、SaaSはやはり過去とは全く別物の事業だったと思います。KPIやフレームは、どのように新規事業に持ち込んだのでしょうか?

伴:KPIを持ち込む以前に、そもそも収益構造や原価構造が異なる点が、既存事業からは全く理解しがたかったはずです。ずっと製造業の領域にいた人は、SaaS事業の粗利8~9割、このうちSGAが5~6割、営業利益が2~3割という形へとなかなかマインドセットを変えられません。部門内ではしっかりKPIを持ちユニットエコノミクスも見ていますが、「社内には持ち込んでいない」が回答です。

佐々木:経営に説明しようと思うほどに難しくなるので、上手く設計して見せるのがポイントになりそうですね。田中さんは、どのような方法で指標を持っていくことが多いのでしょうか?

田中:これもベンチマークを参考にするといいですね。NASDAQに上場している、あるいは上場予定、VCから大型資本を受けているSaaS企業1000社をベンチマークしてみると、最初の1億円を作るときには、営業が10名、1人あたり年間1000万円の売上が必要だとわかります。MRRでいえば85万円です。実際に1億円売り上げると、SaaS企業上位1000社には入れるわけです。
現在はある程度ユニットエコノミクスが証明できつつあるため、新規参入した営業メンバーが数ヶ月でこのMRRを達成できるようにしていくのがポイントになります。

【まとめ】PMF・バックキャスティング・ユニットエコノミクスが重要

ここまでにご紹介したPMFの定義・実行と、上記2つの問いの内容をまとめると、ハイパーグロース事業を創る際には事業立ち上げから事業グロースまでに、以下のようなポイントをクリアする必要があると言える。

ハイパーグロース事業創出のためには、市場の成長性やスケール可能な組織体制、さらにはグロース目標からバックキャスティングした段階的な投資が必要不可欠だ。最終的には、事業に即したユニットエコノミクスの発見が鍵となる。
以上のポイントを踏まえた事業計画が、既存事業からの脱却の第一歩となるだろう。

既存事業からの脱却まとめ

今回のウェビナーのポイントをまとめると、以下のようになる。

今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。既存事業からの脱却にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】既存事業からの脱却 自動車部品メーカーが成功した新規事業の勝ちパターンとは
本ホワイトペーパーは、2022年12月7日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。㈱東海理化で複数の新規事業開発を推進する伴氏と、新規事業のプロとして参画したTanaakk㈱ 代表取締役田中氏に、同社のデジタルキー事業を例にハイパーグロース事業を立ち上げる勝ちパターンをお話いただきました。