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【イベントレポート】新規事業創出文化の創り方 ―事業創造プロセス・デザイナー荒井宏之が語る、事業量産を支える事務局の役割とは―

新規事業開発

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

2022/11/15回では、事業アイデアが溢れる文化醸成に向けて必要な組織のあり方を知りたいとお考えの新規事業事務局の方やイノベーション推進部門の方に向けて、「新規事業の何でも屋」として様々な支援を手がける 荒井氏に、”何をやっても上手くいかない”状況を脱する考え方をご紹介いただきました。
「新規事業が次々生まれる文化を創っていきたいと考えているが、どのような役回りがベストか模索している」
「ビジネスコンテスト開催など、新規事業の文化醸成を目指した施策を打っているが納得いく効果が得られない」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

荒井宏之 a.k.a. ピンキー氏

荒井宏之 a.k.a. ピンキー氏

キュレーションズ株式会社 取締役CSMO / エグゼクティブ・ストラテジー・デザイナー)
新規事業の何でも屋。スタートアップ複数社にてWeb、O2O、IPライツ、コンテンツ、食品、健康食品、化粧品、ファッションなどの事業立ち上げを経験した後、成熟事業を持つ大手企業に対して外部パートナーとして、新規事業領域の戦略策定、研修・セミナーの企画・運営、事業創造プログラムの企画・運営、ビジネスデザインなどを通じて、成熟事業のデジタルを活用したビジネス・トランスフォーメーションの実現に注力。

村田 拓紀氏

村田 拓紀

株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部
FLEXY部マネジャー

中古車のマーケットプレイスシェア首位の企業にて拠点責任者、営業戦略策定、メンバーの採用から育成まで幅広く従事。IT企業を経てサーキュレーションに参画。現在はIT戦略における中期ロードマップ策定、IT企画人材育成に向けた技術顧問活用プロジェクトなどDX推進に舵を切る多くの企業を支援。

板垣 和水

板垣 和水

イベント企画・記事編集
慶應義塾大学在籍中にITベンチャーでのインターンに2年間従事。オウンドメディアのSEOやチームマネジメント、100本以上の記事ディレクション/ライティングに携わる。卒業後サーキュレーションに入社し、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。

※プロフィール情報は2022/11/15時点のものになります。

新規事業推進の課題となる、「新規事業創出文化」の醸成

新規事業は着手前・着手後でタスクが大きく変わる。実施前はアイデア出しや新規事業担当者のアサイン、初期的な予算額の決定などが必要だが、着手後は新規事業推進のための社内調整やチームの拡大、事業計画の継続的なピボットといった対応が求められる。
こうした幅広い領域を手掛けるためには、社内のリソース――人材とノウハウのほか、社内調整を行うための新規事業創出文化が欠かせない。実際、新規事業着手後の課題ポイントとして最も多いのが、「既存事業から必要な支援・協力を得るのに苦労した」というものだ。

人材やノウハウは外部から採り入れることも可能だが、社内文化は自社で醸成するほかない。新規事業の推進を加速するためには、必須事項だと言えるだろう。

新規事業事務局/イノベーション推進部門に“求められる役割”とは

一言に「文化の創出」といっても、何を起点とすれば良いのかとらえどころがない。この点も踏まえて、荒井氏に新規事業事務局やイノベーション推進部門に求められる役割のポイントを伺っていった。

新規事業創出の4フェーズにおける「新規事業文化の創出」

第一に、新規事業の文化創出にあたり必要なのは、以下の4つのフェーズのうち「人づくり」「場づくり」「目的づくり」の3つだと荒井氏。

村田:新規事業というと、「事業づくり」にフォーカスが当たることが多いと思います。その手前の文化がないと、ボトルネックが発生してしまうのでしょうか?

荒井:そうですね。スピードが上がらないというのが、一番のデメリットです。文化がないと、担当者が次に何をしたらいいのか、上長がどんなポイントを見て承認をしたらいいのかが、わからなくなってしまいます。
こうした状況を避けるためには、新規事業担当者が事業創出のプロセスや持つべきマインドセットを理解する人づくりからはじめ、担当者の事業創出を全社的にサポートする環境を構築し、目指す未来像としてのビジョンを全社で一致させ、一致団結して取り組む必要があります。その文化が醸成できた上で事業づくりをスタートすれば、失敗確率は大幅に下げることができるでしょう。

上記のように社内にフェーズ1~3までの新しい行動様式を定着させ、新規事業文化創出を狙うのが、新規事業事務局の役割になるようだ。

対話ですり合わせるべき4つのこと、意識すべきポイント

新規事業事務局は新規事業担当者と経営陣(投資判断者)の間に入ることになるが、その際、両者の間に欠如しがちな「対話」を補う必要も出てくる。
対話において互いの意見の押し付けにならないよう意識すべきなのが、以下のようなポイントだ。

荒井:新規事業やイノベーションは、「未来の当たり前」を作るために、既得権益や体制への否定、すなわちカウンターカルチャーとしての色合いが強くなります。しかし、50~60代の経営層は今の若い世代が10~20年後には自社のメイン消費者になるのだという世界を、なかなか理解できません。
新規事業は関係者の立場やゴール、習慣や文化、個人の意識が既存事業とは全く異なるからこそ、価値観の押し付け合いが起こってしまうわけです。
こうした状況を突破するには相手への理解、すなわち上記のような対話が必要になるのです。

今、取り入れたい「スタートアップ・エコシステム」の考え方

荒井氏曰く、新規事業事務局が実際に取るべき立ち位置は、スタートアップ・エコシステムにおけるVCのような役割だという。これは具体的にどのようなことなのか、詳しく解説していただいた。

大企業が創るべき「コーポレートスタートアップ・エコシステム」とは

村田:そもそもスタートアップ・エコシステムとはどのようなものなのでしょうか?

荒井:まずスタートアップは、起業家予備軍の持つビジョンやアイデア、情熱からスタートします。彼らがファーストプロダクトを出した段階でコミュニケーションを取るのは、エンジェル投資家です。投資額はケースバイケースですが、売上の第一歩を作るための投資をしてもらうという構造ですね。そこから成長した起業家に対しては、VCが出資をしていく。基本的に、VCは投資家に対して投資方針や自らのビジョンを説明して、資金を集めます。そしてその後VCは起業家と向き合い、起業家自身の持つビジョンや成長可能性を見定めた上で、自分たちのノウハウを提供し、事業拡大を後押しします。

村田:この構図を、どのように組織に転用していくのでしょうか。

荒井:アナロジー的に置き換えて考えるとわかりやすいでしょう。VCやエンジェル投資家は、新規事業事務局や経営企画にあたります。起業家が新規事業担当者で、投資判断をする社長や取締役会の中間に新規事業事務局が位置するような形ですね。
新規事業事務局がVC的に社長や取締役会と対話をして引き出したいのは、個別案件への投資ではなく、会社全体としての新規事業に対する戦略です。例えば、年間5億円は新規事業に投資をしようと確約をしてもらいます。その5億円でどういう未来を創るのかは、4つのフェーズでいう「目的づくり」の部分に関連します。目的が事業づくりではなく人材育成にあるのなら、まずは人材育成に5億円を使う約束をして、5年後、10年後に事業を作りやすい状況を構築していくことになるでしょう。このような長期的なビジョンや投資方針について、社長や取締役会と対話する必要性があります。
一方で、事業担当者に対しては、実際に事業づくりのサポートを行っていきましょう。例えば世の中には事業計画書を書いた経験がない人のほうが多いですから、そこを経営陣に突かれて事業が止まってしまっては元も子もありません。不足している経験値、知識を真ん中のレイヤーが担っていく必要があると考えています。

以上のように、トップダウンでもなくボトムアップでもない、「ミドルアップダウン型」でのマネジメントスタイルが、コーポレートスタートアップ・エコシステムを考える上でのポイントになるようだ。

コーポレートスタートアップ・エコシステムにおける役割分担

村田:中間のハブとなる方々を「Thinker」と位置付けて、具体的にどのようなタスクを実施すればいいのかを、以下のスライドに記載しています。この中で特に重要なことはなんですか?

荒井:やはり対話ですが、その前提で重要なのが中長期戦略ですね。制度に関して中長期の戦略を描き、最終的にどんな文化醸成をするのか、しっかり定義する必要があります。どんなゴールに向けてどんなステップを踏むのかを決める、ということです。
例えばビジネスコンテストのKPIを件数で定めてしまうと、2、3年目には半減し、4年目にはほぼ0件になり、失敗の烙印を押されてしまうでしょう。しかし、数年間で200件アイデアが創出されたのなら、新規事業に対して意思表明をした人が200名いたことになります。であれば、この200名にいかに継続的にイノベーションに取り組んでもらうのかを考慮しましょう。最新トレンド情報を伝える、専門家の意見を聞くといった取り組みによって視野を広げ、質の高いアイデアを年に5~10件生み出せるようにするほうが重要だからです。そうなると、KPIは件数ではないわけです。
このような中長期的な戦略を描いた上で、経営層と対話を重ねましょう。

コーポレートスタートアップ・エコシステム構築の5つのステップ

新規事業事務局が上記でご紹介したコーポレートスタートアップ・エコシステムを実際に構築するために必要なのは、マインドセット、対話、中長期計画、施策実行、成功事例創出といった5つのステップだ。それぞれについて、具体的にどのような動きが必要になるのだろうか。

[Step.1]マインドセット

村田:まず、マインドセットが必要だと伺っています。これは自分ごととして考えてほしい、ということでしょうか?

荒井:スライドに書いてあるように、人柱になる覚悟が必要です。最初に制度を変える革命家であり、カウンターカルチャーですから、保身にばかり走ってしまう人では難しいでしょう。対話の中で経営層と喧嘩をする場面も出てくるはずですから、そういった状況をいとわず、自社のあるべき姿を追求する覚悟を持つことですね。

[Step.2]対話

村田:対話という観点では、批評家ではなくサポートの立場で交わる意識も重要だそうですね。

荒井:サポーターの立ち位置でありながら、経営層と同じように事業を評価してしまうミドルマネージャーは多いですからね。経営層の意見に同調するだけでは事業は作れません。サポート役として、ある意味では担当者の仲間として、最大限自分が何をできるのかを考え、対話することです。

[Step.3]中長期計画

村田:先ほどもお話しいただいた通り、中長期計画の策定も大切です。やはり、ビジネスコンテストだけが目的になってしまうケースが多いのでしょうか?

荒井:そうですね。とにかく制度の流行に乗っただけだと、担当者も何のためにやっているのかわかりませんし、ミドルマネージャーは外部業者から受けた提案を鵜呑みにしてしまいます。これでは新規事業事務局も、制度を運用するだけの仕事になってしまうでしょう。
何のために実施する施策なのかは、事業づくりや人材育成といった目的ごとに異なりますから、中長期的にどのように制度を構築していくべきなのか、ひいてはそれがどういう文化を作っていくのかを考えて、現実的なプランに落とし込んでいきましょう。

[Step.4]施策実行

村田:次が施策実行です。外部に丸投げをするのは厳禁で、振り返りまで実施する必要があるそうですね。

荒井:実態としてはビジコン受託会社に依頼したほうが楽ですから、選択肢の一つではあります。ただ、「100件アイデアが集まって良かったな」で終わってはいけません。100件の内訳や質、分類、どんなアプローチを行ってアイデアを集めたのかなどをきちんと分析すれば、次に活かせるポイントが必ず見えてくるはずです。少なくとも、振り返りは自分たちで行うべきですね。

[Step.5]成功事例創出

村田:最後は成功事例の創出ということで、サポート体制をしっかり創るのがポイントだと伺っています。これはまさしく、新規事業事務局の役割ですね。

荒井:ビジネスコンテストを開催するとアイデアは出てきますが、ほとんど事業プランにはつながりません。公募の段階では、応募者も本業の片手間で取り組んでいるからです。アイデアが公募を通過したら6~8ヶ月は我々のような外部メンターがついて事業を構築していくケースが多いですが、それもやはり片手間です。そんな状態で新規事業が作れるわけはありません。だからこそ、「アイデアを事業化に進めたい」という意志を持ってサポートとして介在し、時には自分で手を動かしてあげましょう。
新規事業創出文化の醸成には8~10年ほどかかりますが、その間に事業が一つも生まれなければ、取り潰されてしまいます。そういう意味でも、いち早く成功事例を創るのがポイントです。

新規事業創出文化の創り方まとめ

今回のウェビナーのポイントをまとめると、以下のようになる。

今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。新規事業創出文化の創り方にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
新規事業創出文化の創り方 ―事業創造プロセス・デザイナー荒井宏之が語る、事業量産を支える事務局の役割とは―
本ホワイトペーパーは、2022年11月15日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。事業アイデアが溢れる文化醸成に向けて必要な組織のあり方を知りたいとお考えの新規事業事務局の方やイノベーション推進部門の方に向けて、新規事業事務局/イノベーション推進部門に“求められる役割”についてご紹介しています。