【イベントレポート】ジョブ型人事制度の導入効果 ―大幸薬品の事例に学ぶ、ジョブ型人事制度導入企業の採用強化とリブランディング術―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2022/09/27回では、企業の成長を促進するためジョブ型制度の導入を検討されている人事担当者、経営者の皆様に向けて、組織改善強化のプロフェッショナル 田中氏に、全社浸透するためのジョブ型人事制度導入と導入後の採用強化とリブランディング術について語っていただきました。
「ジョブ型制度導入を進めているが、社員の退職や社内の反発の対処の仕方がわからない」
「制度改革後の一時的な生産性の低下から抜け出したいが、何を行えば良いかわからない」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
田中 幸之助氏
元 大幸薬品株式会社 人事総務・広報担当執行役員
本田技研工業、AIU保険会社、フランクリン・コヴィー、ナイキジャパンを経て大幸薬品に入社。人事制度を刷新しジョブ型人事制度へ切替に従事。段階的な切り替え計画により管理職から一般職まで全社制度切り替えを主導。採用強化/老舗企業イメージからのリブランディングを仕掛け、毎年役員クラス含む中途採用約20名を実現。売上高67億円→150億円まで増加させた機能組織を創り出した組織改善強化のプロフェッショナル。
田中 将太
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
大手人材系企業を経て、サーキュレーションへ入社。首都圏のサービス業界を担当するセクションの責任者を務め、自らもプロシェアリングコンサルタントとして、100件以上のプロジェクトを担当。大手金融機関での複数の新規事業開発や、大手不動産企業での全社DXのグランドデザイン設計支援から、設立間もないHR系スタートアップの垂直立ち上げ時の経営支援まで、幅広い業界・規模の企業の事業成長に貢献。
酒井 あすか
イベント企画・記事編集
新卒で大手人材紹介会社に入社し、中途採用における両面マッチング型の法人・個人営業、グループ会社・地銀とのアライアンス連携業務に従事。丸の内エリアに本社を構える企業への採用支援、100名単位のグループ会社社員に対して営業企画、地銀への人材紹介事業レクチャーに携わる。サーキュレーションではプロ人材の経験知見のアセスメント業務とオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2022/09/27時点のものになります。
Contents
社内の不安が多く、完全移行が難しいジョブ型人事制度
日本の人事制度といえば、勤続年数に応じて役職や給与が上がっていく年功序列が一般的に運用されてきた。しかしVUCA時代においては、徐々にジョブ型人事制度への移行やその検討をする企業も多数見られる。
ジョブ型人事制度とは、あらかじめ規定した職務内容に応じて採用を行い、業務の成果によって評価や等級が決められるものだ。欧米では一般的ではあるものの日本にはまだ馴染みが薄く、改革を推進する上では大きく2つの壁に直面する。
どのように社員の理解を得ながら新しい人事制度へと改革を図り、社内浸透するのか。長年年功序列制度を敷いてきた老舗企業ほど、この壁を乗り越えるのは難しくなるだろう。
【事例】大幸薬品に見る、全社浸透するためのジョブ型人事制度導入
今回ご紹介するのは、講師の田中幸之助氏(以下、田中(幸))が人事制度刷新を手掛けた大幸薬品の事例だ。当時の大幸薬品は古い年功序列制度を採用しており、新規事業が生み出されない文化になっていたという。
田中(幸):私が入社した当時は、一言で言えば「何もするな」が合言葉になっているようなカルチャーでした。正露丸という非常に安定した主力事業の上に年功序列制度があり、決められたルーチンワークをコツコツこなしさえすれば、新しいことをしなくても毎月給与が支払われてきたからです。
そこに対して新たにジョブ型人事制度を導入し、外部人材を補強するために採用ブランディングも実施。第2の事業を成長させることにより、売上伸長に成功しました。
田中(将):そもそもなぜ、ジョブ型人事制度の導入に至ったのでしょうか?
田中(幸):安定した事業はあるものの、マーケット自体は少子高齢化で縮小傾向にあったからです。10年、20年先を考えると会社が停滞してしまうのは目に見えていましたが、危機意識を持っていたのはトップだけでした。そのため、半ばトップダウンで制度改革が始まりました。
企業が実施すべき、成功するジョブ型制度導入の進め方
制度導入に至ったプロセスについては、フェーズ1、2に分けてご紹介いただいた。フェーズ1では3年かけて、全社浸透と既存社員の意識変革を行ったという。
フェーズ1に関してはさらに3つのステップに分け、段階的にジョブ型制度移行を進めていった。
[step.1]職務給導入
年功序列型の企業が一気にジョブ型へと移行すると、反発も免れない。そのため、まずは職務給の導入から着手したと田中(幸)氏は語る。
田中(幸):それまで給与は年齢や勤続年数で決まっていましたが、今後は職務責任の重さや難易度、成果などによって評価が決まり、昇給・昇格につながるという形式を浸透させる狙いで実施しました。とはいえ受け入れがたい人もいるので、年功序列要素も残しつつ、徐々に職務給にする流れにしています。
職位と職務等級を新たに定め、市場データを基に給与レンジを設定するため、まずは全てのレイヤーの社員一人ひとりに職務調査を行い、職務記述書を作成したという。
田中(幸):職務等級を全てのポジションに対して設定する必要がありますから、職務内容も把握しなければいけません。全体の6~7割の社員にヒアリングをしたと思います。2ヶ月ほどかけました。
[step.2]管理職からジョブ型人事制度導入
ステップ2からは実際に、管理職からジョブ型人事制度の導入をスタートしたという。ここでは改めて等級制度を改訂し、執行役員クラスのE等級、組織長クラスのD等級、マネージャークラスのM等級という3段階の等級と給与を設定した。
田中(将):このタイミングで等級制度を作り直したのは、何か理由があるんですか?
田中(幸):ステップ1は社員の抵抗を和らげる意味で一部年功序列要素を残していたため、運用が曖昧になっていました。ですからステップ2で仕切り直し、ポジションごとに給与にもかなり格差をつけて設定し直した形です。
[step.3]一般職までジョブ型人事制度導入
最後が、管理職の導入成功体験を一般職にも実行し、全社的なジョブ型人事制度の浸透を図るステップだ。とはいえ、技能職を中心に職能給は一部残したという。
田中(幸):工場の製造ラインで働いている技能職の方々の仕事は、ジョブサイズが大きく変わったりはしません。ですから技能や能力で評価したほうが本人のモチベーションも上がるだろうということで、職能給を残しています。
[補足]社員のキャリアを考えたリプレースメントプラン
田中(将):実際の制度導入のプロセスと並行して、リプレースメントプランにも取り組まれたそうですが、どのような背景や目的があったのでしょうか?
田中(幸):1つ目の希望退職は、ステップ1の職務給の導入時にミドル層を対象として実施したものです。それまで年功序列でやってきたものを急にジョブ型にすると言われても、定年まであとわずかな場合は「今更変わるのは……」という方もいらっしゃいます。それを無理強いするのではなく、場合によってはセカンドキャリアを目指してもらい、会社で支援することにしました。
2つ目が抜擢人事です。制度改革はミドル層からの反発を受けるのを恐れて形骸化しがちですが、そうなると若手層は会社に失望しますし、場合によっては辞職してしまいます。そこで若手の中から2~3割の社員を意図的に昇格させました。
3つ目が敗者復活です。ジョブ型人事制度の導入によって、ミドル層の中にはどうしてもワンランク下の等級に下げなければいけない人も出てきます。そうなると気持ちがネガティブになりモチベーションも下がり、会社に悪影響が出るので、頑張れば1~2年を目処に元の等級に戻れるようにしました。
ジョブ型人事制度導入後の採用強化とリブランディング術
以上のフェーズ1に続き、フェーズ2では5年かけて組織強化や事業開発を推進したという。当時の課題は、内部人材だけでは知識が循環されず斬新な新規事業アイデアが出てこないことで、採用強化や「老舗ベンチャー」としてのリブランディングを3ステップで推進した。
[step.1]HP作成・SNS強化
大幸薬品が最初に着手したのが、HPの作成やSNS強化だった。以前の採用は縁故頼みや人材紹介会社に丸投げするような状態で、情報発信するためのHPはそもそも存在しなかった。こうした受け身から脱却するためHPを制作したほか、FacebookやLinkedInの活用もスタートして「老舗」イメージの払拭を図ったという。
田中(将):このステップで、ジョブ型人事制度はどのような効果を発揮したのでしょうか?
田中(幸):外部から人を採用する上で一番効いたのは、給与水準ですね。外部市場データに合わせた数字にレンジ給で幅を持たせたため、例えばマーケティング職はマーケティング職、営業職は営業職なりの給与水準で採用することが可能になりました。
[step.2]採用チャネルを変更する
田中(将):続いて実施したのが採用チャネルの変更です。こちらはどういった変化がありましたか?
田中(幸):採用活動を進めても、優秀な若手人材はなかなか人材紹介会社に集まってきません。当時はダイレクトリクルーティングが流行し始めていたので、当社も直接候補者に訴えようと導入しました。
とはいえこれだけで全ての採用を補完するのは難しいですから、人材紹介会社も引き続き活用しています。ご依頼する会社は厳選してパートナーシップを構築し、当社を深く理解してもらった上でPRをお願いしました。人材紹介会社を当社のファンにする戦略ですね。
田中(将):新しい採用手法を取り入れられているのは、ジョブ型人事制度が社内の風土や文化に良い影響を与えているからのようにも感じますね。
[step.3]いいことだけを言う面接内容を変更
田中(将):面接の内容も採用手法の変化に伴って変化したそうですが、どういった内容になったのでしょうか?
田中(幸):リブランディングをして「老舗ベンチャー」というイメージで採用活動をしましたが、段々イメージが先行して、実態とかけ離れ始めてしまいました。そのため入社ギャップが生まれしまうのは良くないということで、悪いこともきちんと話すようにしたんです。今、大幸薬品にはこういう課題があるからあなたに解決してほしいのだと、きちんと理解してくれる方だけを採用する方向へと方針変更しました。
[成果]第2の事業の成長により、売上高を150億円まで増加
ジョブ型人事制度の導入後に採用やリブランディングを行った結果、大幸薬品は大手外資出身のCMOの採用に成功。課題だった新規事業の創出にも成功し、現在は第2の柱となる事業が成長中だ。その結果、売上高は従来の67億円から150億円にまで増加している。
ジョブ型人事制度の導入効果まとめ
今回のウェビナーのポイントをまとめると以下のようになる。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。ジョブ型人事制度の導入効果にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。