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【イベントレポート】デザイン思考×ブランド創り ―商品開発責任者のための、ユーザー起点の「意味のイノベーション」による新価値創造プロセス―

ブランディング

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

2022/09/14回では、企業のマーケティング・ブランディング担当者に向けて、ミレニアル・Z世代を中心に広がる「イミ消費」という新たな価値基準に合わせたブランド革命を起こす3つのポイントを、意味のイノベーションやデザイン思考を専門とするブランディングのプロフェッショナル 久志氏に語っていただきました。
「イミ消費が重視されるこれからの時代に合ったブランド価値創造の仕方がわからない」
「既存のブランドから新たな価値を生んで成功した事例を学んで、成功のポイントを知りたい」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

久志 尚太郎氏

久志 尚太郎氏

NEW STANDARD株式会社 代表取締役
1984年生まれ。中学卒業後、米国留学。16歳で高校を飛び級卒業後、起業。帰国後は19歳でDELLに入社、20歳で法人営業部のトップセールスマンになり、その後、世界25ヶ国を放浪。その後、2014年TABILABO(現: NEW STANDARD株式会社)を創業、デジタルネイティブなクリエイティブディレクターとして事業&ブランド開発を主導している。意味のイノベーションやデザイン思考が専門。

田中 将太

田中 将太

株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
大手人材系企業を経て、サーキュレーションへ入社。首都圏のサービス業界を担当するセクションの責任者を務め、自らもプロシェアリングコンサルタントとして、100件以上のプロジェクトを担当。大手金融機関での複数の新規事業開発や、大手不動産企業での全社DXのグランドデザイン設計支援から、設立間もないHR系スタートアップの垂直立ち上げ時の経営支援まで、幅広い業界・規模の企業の事業成長に貢献。

板垣 和水

板垣 和水

イベント企画・記事編集
慶應義塾大学在籍中にITベンチャーでのインターンに2年間従事。オウンドメディアのSEOやチームマネジメント、100本以上の記事ディレクション/ライティングに携わる。卒業後サーキュレーションに入社し、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。

※プロフィール情報は2022/09/14時点のものになります。

社会情勢を背景にモノ・コト消費からイミ消費の時代へ

高度成長期にあった大量消費の時代からこれまで、消費者の購買理由は社会情勢に応じて変化を遂げてきた。従来は安さや品質、手軽さといった「機能的価値」が重視だったところから、安心感や高級感、高揚感を重視する「情緒的価値」へと転じて久しい。機能的価値は「モノ消費」、情緒的価値は「コト消費」とそれぞれ呼ばれている。
そして現在新たに登場したのが、自分らしさや自分の理想を重んじる「自己表現価値」――「イミ消費」だ。例えばふるさと納税の利用や無農薬野菜の購入など、商品・サービスが持つ社会的価値に共鳴した、自己表現としての消費行動がミレニアル・Z世代を中心に注目を集めている。

イミ消費が台頭した背景にあるのは、若い世代の価値観の変化やSDGsをはじめとした世界の新しい基準だ。実際にミレニアル世代に対する企業の印象アンケートでは、「エシカル」に積極的な企業に好印象を抱く人の割合が全体の93.4%にものぼる。

事例で学ぶ、イミ消費時代の商品開発に欠かせない「意味のイノベーション」とは?

製品の機能や製品がもたらす体験が重視された時代に対し、これからはブランドの追い求めるパーパスとユーザーの価値観の合致が求められる。
そのために必要なのが「意味のイノベーション」だ。これは「新しい意味」の付与によって価値の転換を生み出し、商品・サービスのCXの最適化を目指すものだ。

実際に久志氏はこの「意味のイノベーション」についてどのような理論を持ち、実際の商品・サービスに落とし込んでいるのか。事例も交えて詳細を教えていただいた。

久志氏が考える意味のイノベーションの公式

最初にご紹介するのが、久志氏が考えると意味のイノベーションの公式だ。久志氏は自ら創業したNEW STANDARD株式会社でさまざまな意味・価値を生んだ事例を収集しており、データベース化して研究を重ね、一つの公式を導き出した。

久志:「記号×文脈=意味」が、私たちNEW STANDARDが考える、意味のイノベーションの公式です。コミュニケーション領デザイン域の研究を、意味のイノベーションに応用しています。コミュニケーションデザインの研究では、商品やブランドなどを通じてコミュニケーションを取る際に、人は「文脈」があって初めて意味を理解できる、ということがわかっています。

田中:「ラベルがない水」でしょうか。

久志:人によっては猫避けに見えたり、災害時の備えに見えたりします。ゴミだと感じる方もいるでしょう。この記号を「カーボンニュートラル」や「SDGs」の文脈で見ると、「ゴミの量を減らせる、新しい時代のラベルレスボトル」という意味を理解できます。同じことを20年前に言っても、社会的な文脈がないため、全く意味がわからないものになってしまうでしょう。
このように我々が提唱する「意味のイノベーション」とは、現在特定の記号が持っている文脈を違う文脈に変えていく、ということなのです。

【事例】アサヒビール株式会社と共同開発した「ASAHI WHITE BEER」

田中:では、改めて具体的な事例について解説していただければと思います。これはアサヒビールさんと共同開発されたビールですね。

久志:これは2年ほどかけて開発した製品です。東京と神奈川の限定販売でしたが非常に好評で、特にミレニアル・Z世代の間で話題になりました。
商品開発にあたり実際に若い世代にインタビューをしてみると、彼らにとってビールは同調圧力やプレッシャーを感じる、権威的な存在でした。飲み会の1杯目は必ずビールで、CMではすごい人が宣伝をしている。これが従来のビールの意味だったんです。
そこで「ASAHI WWHITE BEER」では新しく、「ビールはあるがままの自分でいられる、充足感を感じるエモい存在である」という意味を付与しました。この価値観もまた、ユーザーインタビューを繰り返して見えてきたものです。エクストリームユーザーと呼ばれる、「ビールが大好き」な属性を持った女子大生が感じるような、「ビールは自分を解き放ってくれるものだ」という価値観、モノの見方を借りてきて、この商品を生み出しました。

田中:パッケージもビールらしくないデザインになっているのが印象的で、ここにも新しい文脈の付与が現れていると感じます。

意味のイノベーションを起こすための4つの循環ステップ

アサヒビールの事例のような意味のイノベーションを起こすには、4つのステップが必要になる。問いの設定、BI、パッケージデザイン、CXデザインを順に実施し、これらをぐるぐると循環させるのがポイントだ。

[step.1]問いを設定する

ステップ1は「問いの設定」で、常にユーザーの声に耳を傾ける姿勢が必要だ。とはいえ、ユーザーの言う「好き」「嫌い」という言葉に一喜一憂するのではなく、「ユーザーのパースペクティブ、世界の捉え方を理解することが非常に重要」と久志氏は語る。

久志:例えば若年層向けにビールを作りたいという目的があった場合、どういうことが課題で何が求められているのかを紐解いていかなければなりません。バズっているものをとりあえず取り入れて、おしゃれなデザインにすればいい、プロの言う通りにブランディングすればいいというものではないのです。
自分たちの中に答えはないからこそ、ターゲットのパースペクティブを理解することが大切です。答えはユーザーが持っています。

[step.2]BI(ブランドアイデンティティ)を検討する

ステップ2のBI(ブランドアイデンティティ)とは、ブランドの目的やターゲット、パーパス、提供価値を定めることを指す。

久志:BIで企業起点の言葉ばかりが並んでいるケースは多いのですが、BI検討の時点でPoC観点を持ち、きちんとユーザーに当てに行く、ユーザーに伝わる言葉を作る試みが必要です。そうでないと、パッケージやCXデザインに落とし込む段階で全く使えない製品になってしまいます。後工程が全て無駄になってしまうため、重要なポイントですね。

[step.3]パッケージをデザインする

次のステップがパッケージデザインだ。この点については、既存の調査方法で進めると「みんな似たりよったりのデザインになる」と久志氏。

久志:ここで大切なのは、問いの設定で見つけた課題やBIの検討時に感じたユーザーの求めるインサイトを、顧客体験としてどう表現するかです。説明的な情報や時代性のようなものは、別の観点で補足しましょう。

その上でデザイン案の幅を出すために久志氏が用いるのが、以下の3つの手法だ。

久志:我々がよくやるのが、デザイン思考的な手法です。ユーザー起点で彼らの好むパースペクティブをベースにデザインする。2つ目はアート思考です。デザイン思考はアウトサイドインですが、アート思考はインサイドアウトですね。作り手がユーザーに届けたいものを表現するやり方です。もう一つがトレンド思考。これは文字通り、今流行っているトレンドを踏襲する手法です。
こうした3つの手法でクリエイティブパターンを作り分けて幅を持たせると、非常にバランスがよくなるのでおすすめです。

[step.4]CXをデザインする

最後のステップがCXデザインだ。ここで欠かせないのは、各部署が連携し、顧客体験価値を作ることだ。当然のようでありながら、企業の多くは縦割り組織になっているため部署がバラバラに動いてしまい、CXを上手く作れない原因になっているという。

久志:製造、マーケティング、マネタイズを考える人が一体となって協力していく必要がありますね。そのときハブとなるのがBIだからこそ、BI設計が重要なんです。顧客起点の言葉でBIを落とし込めば、マーケティングでもマネタイズでも同じBIを使えます。

デザイン思考×意味のイノベーションで新しいブランド価値を創る3つのポイント

デザイン思考を用いた意味イノベーションを成功させるには、ほかにもいくつか押さえておくべきポイントがある。ここについても、久志氏に詳しく伺った。

[point.1]人間理解

久志:1つ目は人間理解と書かせていただきましたが、いわゆる「人間中心設計」ですね。特にデジタル領域において人間理解は必須なので、ターゲットがどういう考えを持って行動しているのか、深層を理解しなければなりません。

久志:よくあるのが検証型のユーザーインタビューで、課題を想定してインタビューしている光景をよく見かけます。しかしこれは仮説自体が間違っていることが多い上に、自分たちが求める方向にユーザーを誘導してしまう恐れがあります。より有効なのは、探索型の手法です。

探索型では明確な仮説は持たず、課題そのものを特定するためにインタビューを行う。新しい価値を見出すにはこのように、より「人間理解」という視点に立った調査が必要なのだ。

[point.2]新しい基準や価値観の情報収集

2つ目のポイントは、新しい基準や価値観の情報収集だ。意味のイノベーションで重要な「世の中の文脈」は刻々と変化するため、常に時代の流れを把握しておく必要がある。

久志:情報収集のやり方は3つあります。1つ目がリバースメンタリングというもので、若者から学ぶ手法。2つ目が海外情報の取得です。翻訳ツールを使えば海外情報の取得は容易ですから、例えばニューヨーク・タイムズや論文なんかに積極的にアクセスしましょう。3つ目がアカデミックな知識を体系的に学習する方法です。今は各種論文やハーバード・ビジネス・レビューなんかにもアクセスしやすいので、新しい基準や価値観を得られるでしょう。

田中:自分たちが正解を持っているわけではないからこそ、常にアップデートのための情報収集が大事なんですね。

久志:自分たちの中にある今までの価値観は、大体間違っているぐらいの感覚を持つべきですね。それがVUCA社会だと思います。意識として顕在化させるだけではなく、行動にまで落とし込むのがポイントです。

[point.3]プロトタイピング

最後のポイントがプロトタイピングだ。小さく作り試行錯誤を繰り返して製品化を目指すのがプロトタイピングの本懐だが、久志氏はこれを恋人とのデートに例えている。

久志:プロトタイピングで多くの方が行っているのは、いきなり「完璧なデート」を仕立てるような、間違えです。「完璧なデート」で、トレンドを調べて、レストランを決め、遊園地に行って、花束を渡すようなことです。相手の好みも聞かずに、こんなデートが成功するはずありませんよね。しかも「完璧なデート」にはさまざまなノウハウが詰め込まれているので、ある終始一方通行。これでは、相手が本当は何を求めているのかもわかりません。
実際、恋人にとってのデートとは散歩のことかもしれないし、自転車に乗ってどこかに出かけることかもしれません。さまざまなデートの形があるからこそ、小さくプロトタイピングを繰り返して、何が自分たちにとっての最高のデートなのかを作っていく必要があります。これがプロトタイピング、デザイン思考の考え方です。

デザイン思考×ブランド創りまとめ

今回のウェビナーのポイントをまとめると以下のようになる。

また、今回の内容を受けてブランド責任者や商品開発責任者の方々に振り返っていただきたいのが、今の3つの問いだ。

今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。デザイン思考×ブランド創りにご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
デザイン思考×ブランド創り ―商品開発責任者のための、ユーザー起点の「意味のイノベーション」による新価値創造プロセス―
本ホワイトペーパーは、2022年9月14日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。企業のマーケティング・ブランディング担当者に向けて、ミレニアル・Z世代を中心に広がる「イミ消費」という新たな価値基準に合わせたブランド革命を起こす3つのポイントを事例を交えてご紹介しております。