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純国産カフェチェーンが顧客起点のブランディング戦略構築に成功

ブランディング
純国産カフェチェーンが顧客起点のブランディング戦略構築に成功

「カフェ・ド・クリエ」のブランドで店舗ビジネスを全国展開する株式会社ポッカクリエイトは、店舗数に対して認知率が低くブランディング戦略に悩みを持っていました。そこで代表取締役社長の上野修氏(以下:上野社長)が頼ったのが、長年にわたり化粧品業界のグローバル企業にてブランドマーケティングに携わってきた千葉雅子氏(以下:千葉)です。今回はプロジェクトメンバーの本多展大氏(以下:本多)も交え、プロジェクトの全容を伺いました。

認知率向上のためには、顧客を知り課題を明確化することが必要だと直感していた

店舗の利用者にすら「カフェ・ド・クリエ」の名前が知られていない現状

株式会社ポッカクリエイト 上野修代表取締役社長株式会社ポッカクリエイト 上野修代表取締役社長

上野社長:当社はサッポログループの企業として1994年に創業し、現在に至るまでフランチャイズで「カフェ・ド・クリエ」というブランドでカフェの運営を行ってきました。店舗は2020年12月現在で全国に207店舗です。私は2018年3月末に社長に就任しました。

当社が大きな課題として抱えていたのが、ほかのフランチャイズチェーン店と比べて認知率が非常に低いということです。理由としては約200店舗のうち40店舗は病院にあることや、100店舗は首都圏にあるものの目立つ立地の店舗が少ないという要素が考えられました。もちろん店舗数を増やせば認知率は高まります。しかし、私としてはそれ以外の手法で解決できないかと考えていました。というのも、実際にクリエをよく利用している人も店舗名を認知されていないという状況があったからです。

もともと認知度を高めるための施策にほとんど予算を使っていないというのも認知率が低い要因の一つでしたが、お金を掛けるにしてもしっかりと有効な取り組みが必要です。そのためにまずはペルソナやカスタマージャーニーで課題を明確にして、お客様にメッセージを打ち出していくことが一番大事だと感じていました。

社長の想いを汲みとりブランディングの肝であるペルソナやカスタマージャーニーに言及してくれたのが千葉さんだった

上野社長:課題感を抱いている中で大きな契機になったのが、担当者である竹内さんからお誘いいただいた、サーキュレーションさん主催のコーポレートブランディングのセミナーに参加したことです。その中でサイボウズの方のお話に痛く感銘を受けました。
純国産カフェチェーンである当社と同じく、サイボウズも国産のIT企業です。セミナーではGoogleとまともにやり合っても勝てないので、「日本のサイボウズ」をいかに認知してもらうかを考えてコーポレートブランディングを構築したとおっしゃっていました。まさしくその通りで、当社もスタバと勝負をしたところで勝てません。しかし、スタバとは違う価値を提供すれば、お客様に支持いただけるポジションというものは必ず見つかるはずです。

そこで竹内さんに相談し、ご紹介いただいたのが千葉さんです。面談時は細かいことはお話しせず「認知度を上げたい」というテーマだけをお伝えしたのですが、千葉さんからはまさしく私が解決方法として考えていた「ペルソナ」「カスタマージャーニー」といったキーワードが出てきました。

千葉さん以外にも相談した方が何人かいたのですが、全員テーマに対して「お店を出せばいい」といった回答でした。彼らはメーカー出身で非常に優秀ではあったのですが、当社は飲食なのでとにかく来店するお客様にどうメッセージを響かせるかが重要です。ご提供する商品にしてもQSC+Aにしても、全てはお客様との接点で機能が発揮されます。こういった背景を踏まえ、私が抱いていた課題感に対して的確な意見を返してくれたのが千葉さんだったので、ぜひお願いすることにしました。

グローバル企業でブランディングの本質を追求してきたプロがノウハウを伝授

千葉:今回のご支援のポイントは上野社長のおっしゃる通りです。日系、外資系と化粧品業界において一貫してブランド&デジタルマーケティング業務に携わってきましたが、お金をかければ一瞬の数字を獲得することはできますが、社員の皆様が納得した、お客様に伝わる持続可能な策でなければ意味がないと考えます。業務負荷を増やさずに効率よく進めるために、まず現状把握と地固めが必要でした。

認知拡大施策を実施する前に、店舗におけるブランド体験、すべてのタッチポイントにおいて、企業としての統一された意思が反映されているのがベストだと考えました。その中でカスタマージャーニーを重要視したのは、仮説シナリオがあって初めてPDCAが回せると考えているからです。PDCAの一番の目的は「お客様について知ること」です。コーヒーを一杯飲んで「また来たいな」と思ってもらう、すなわちコンシューマーからカスタマーになっていただくには、お客様の行動や感情、選択を段階的に捉える必要があります。

特にカフェ・ド・クリエはフランチャイズ店が多くありますから、200店舗すべてでお客様に同じブランド体験をしてもらうには、会社全体で共通の仮説を握るのが一つの方法だろうと考えました。

メンバーの思いを汲み取りながら議論を積み重ね、自社のポジションを明確に定めた

まずはブランディングの定義をレクチャーし、プロジェクトをスタートする起爆剤にした

マーケティング本部 商品開発グループ 本多 展大氏マーケティング本部 商品開発グループ 本多 展大氏

上野社長:千葉さんにはカスタマージャーニーを一緒に作ってもらい、社内の意識を統一した上でブランドを再構築してもらいたいと考えていましたが、支援がスタートしてから1、2ヶ月は「ブランディングとは何か」という点について、プロジェクトメンバーにレクチャーしていただくことになりました。

プロジェクトメンバーは6名で、ブランドに対して思いを持った人間を私が数人選出し、さらに部門を横断するために各部署から自薦・他薦してもらいました。商品開発や宣伝、現役のSV、建築、営業運営といったさまざまな部署から年齢も経験もバラバラなメンバーを集めることで、多様な意見が出るようにしたのです。当然みんな好き勝手なことを言うので、千葉さんの講義に対しても「そんなことはないだろう」と平気で言っていましたね。

千葉:最初に講義をしたのは、例えば「マーケティング」という言葉一つを取ってもいろいろな解説の仕方があるので、6名の中でどういう言葉を使うのか意識を統一したかったからです。

また、講義に対して意見を言っていただくことで、チームを温める起爆剤にしようという意図もありました。上野社長のおっしゃる通り最初は「それは違うんじゃないの」と意見を一方的に投げかける程度でそれ以上の会話は生まれなかったのですが、まずはメンバー全員に熱い思いがあり、それぞれ異なる意見を持っているということを全員が把握できたのでは。

プロジェクトに取り組む意義や将来像を1on1で語り合い、メンバーの意識を前向きな方向へハンドリング

千葉:レクチャーを行った上で、商品開発グループの本多さんや販促・宣伝グループの山田さんにお願いして社内の数字をまとめていただき、クリエがどのような状況にあるのか、現状を他メンバー向けに発表してもらいました。こうしたプロセスを経ることで、徐々にプロジェクトメンバー全員が同じ認識の上で議論を発展していく流れにしていきました。

あとは各メンバーに30分ほど時間をいただき、1on1を実施したのも大きかったです。

本多:当初はメンバーも「通常の業務があるのにプロジェクトなんかやっていられない」という感じだったんです。千葉さんの他にもこういった指導をしてもらったことが過去に何度かあるのですが、課題が出るだけで解決に向かわないパターンが多く、「コンサルタントが来たところで話し合いは進まないだろう」と思っていました。

ですが今回は1on1を通して、千葉さんから「みんなが抱える悩みをコミュニケーションで解決し、新しくこういうクリエにしていこう」とビジョンを話していただきました。私自身も今後のクリエに対する思いを伝えられましたし、1on1の時間を設けたのは非常に重要だったのではと思います。

ポジショニングマップの作成がブランディングの軸を決める大きなきっかけに。鍵は顧客視点と固定概念からの脱却

千葉:社長には「認知率を高め、こうありたい」という具体的なイメージがおありだったので、今回の支援では、あるべき姿から現在取り組むべきことを考える「バックキャスト思考」を意識しました。ですので、ペルソナや自社のポジショニング、カスタマージャーニーを決めるにしてもしつこいほどに繰り返し議論を重ね、宿題に取り組んでもらいました。支援の中でも、個人ワークとグループワークを取り入れ、とにかく思考する時間を多くもちながら進めました。

最初の2ヶ月は社長が不在だとなかなか意見が出てこないという状況などがあったため、定例の月2回2時間のミーティングが終わったら毎回事務局のみなさんと次につなげるためのラップアップを行うなど、試行錯誤も多かったです。

上野社長:メンバーの姿勢が変わってきたなと思ったのは、クリエと競合他社のポジショニングマップを作ったときです。最初にみんなで議論したときは縦軸と横軸を「明るい・暗い」とか「居心地が良い・悪い」といったような情緒的な価値で考えていたのですが、それに対して千葉さんが「客観的に数値化できるものを基準にしましょう」とアドバイスしてくれたんです。

そこで、ブレンドコーヒーの価格を縦軸に、コーヒーの種類や健康的なメニューがあるかどうかを横軸に当てはめてみました。すると自社は健康的なメニューがあるという点に強みがあり、コーヒーの種類は非常に少ないということがわかりました。つまり、コーヒーを強化し、健康的なメニューをより打ち出すべきだということが全員ぱっと理解できたんです。

千葉:メンバーのみなさんには、カフェ業界側の視点からお客様視点に切り替えてほしかったので、ユーザー代表の立場である私の役割として、議論の中では固定概念を覆すような発言を心がけていました。ポジショニングマップが確定するまでに、議論には3ヶ月ほどかかりましたね。

上野社長:でもそのおかげで、「居心地」「健康」「美味しいコーヒー」をそれぞれ追求する3つのプロジェクトチームができました。これはもともと私がやりたかったことです。特に指示もなく、メンバーが自分たちでそこにたどり着きました。

プロジェクトメンバー間で共通のブランドイメージを持てたことでプロジェクトは一気に加速

千葉:プロジェクトが進むにつれ、最初は一方通行だった意見の投げかけが課題解決のための対話に変わっていきました。当初はメンバーのみなさん自身も、競合と比べると自社はブランド力が弱いと思っていたんですよね。「どうせ競合には負ける」「駅前の店舗じゃないから駄目だ」というマイナス面にばかりフォーカスしていました。それが、クリエの目指すべきポジショニングを自分たちで固めてからは、かなり自信を持った空気になりました。

上野社長:プロジェクトを自分ごと化できたんだと思います。私から見ていても、きちんと取り組んでくれているとわかりました。

千葉:自分ごとにしない限り、最終的にプロジェクトは風化してしまいます。後半は分科会の発足をご提案したのですが、そこでも目標を実現するにはどうしたらいいのかを各自がプロジェクト化してくれましたし、具体的なアクションにもつながりました。最終的には経営会議でプロジェクトについて発表するまでに至ったので、見事な推進力でしたね。
プロ人材の役割は最終的に社員のみなさんに自走していただき、プロジェクトで培ったノウハウや思いを次につなげてもらうことですが、4月からの支援で11月には「もう大丈夫だな」と感じました。

本多:社員にはみんな「クリエをこうしたい」という熱い思いがあるのですが、我々にはスキルが足りておらず、その熱をどう伝えたらいいのかわからない状態でした。今回の取り組みは、そういったスキルの土台を作る意味で重要なポイントになったのではと思います。

千葉:あとは途中で、社長がこのプロジェクトでやっていることをきちんと人事評価に入れると言ってくださったんですよ。それが一つの転換期だったと思います。

上野:これはみんなのモチベーションにつながっているし実際に時間もかけてもらっているということになったので、幹部のメンバーにこれを評価のプロセスに入れなさいと言いました。メンバーにも自己評価に入れるよう言いました。結果としてメンバーの自己評価は高かったです。やはりやりきったという思いが強かったのかなと思いますから、それも良かったですね。

コロナ禍でもスケジュールを遅延せず、当初のマイルストーンを達成できたことに感謝

上野社長:今回のプロジェクトは、社内の数字を知る、ポジショニングを決める、分科会を発足するといった大まかなマイルストーンが、最初に千葉さんが決めたスケジュール通りで進みました。参画メンバーも意識を高く持って参加したことで今後の成長にもつながり、とても良いプロジェクトだったと思います。実際にカスタマージャーニーを設定したので、今度はそれに基づく商品をどう販促で伝えるかというステージに向かいます。引き続きアドバイスをよろしくお願いします。

今回はサーキュレーションの竹内さんが、私が求める人材のイメージを何度も細かく聞いてくれたおかげで、ぴったりの方をご紹介いただけたのだと思います。ありがとうございました。

千葉:上野社長には強い思いがおありでしたし、21年の年初方針で今回のプロジェクトの成果を報告するという明確なゴール設定がございましたので、絶対にスケジュールを死守しようという気持ちで取り組みました。

もちろん、メンバーのみなさんの積極的なコミットメントがなければ今回のプロジェクトは成立していません。1on1にせよ議論が終わった後のラップアップにせよ、きちんとコミュニケーションを取っていただいたからこそマイルストーン通りに進められました。コロナの影響で4~6月はオンラインでのワークになるなど、事業でも個人でも不安が多い中、みなさんよくコミットしてくれたと思います。非常に「クリエ愛」の強いメンバーでした。

サーキュレーションさんからはいつも自分の経験を生かせる素晴らしい案件をご紹介していただき感謝しています。2021年も厳しい状況は続きますが、今度はクリエの思いをどうお客様に伝えるのかという視点でご支援させていただくつもりです。

プロジェクトメンバーが抱いていた熱い思いと、千葉さんの実直かつ的確なハンドリングが相乗効果を生み出し、上野社長が思い描いたブランディングへの第一歩を踏み出した今回の案件。社員がプロジェクトを「自分ごと」として捉え、積極的に取り組んだことも成功の大きな要因だったのですね。

本日はお忙しい中、ありがとうございました!

店舗ビジネスにおけるブランディング案件のまとめ

プロ人材 千葉雅子氏,ポッカクリエイト 商品開発グループ 本多展大氏,同社代表取締役社長 上野修氏,サーキュレーションコンサルタント竹内美晴左からプロ人材 千葉雅子氏
ポッカクリエイト 商品開発グループ 本多展大氏
同社代表取締役社長 上野修氏
サーキュレーションコンサルタント竹内美晴

課題・概要

全国に200店舗展開するカフェチェーンだが、認知度が低いことが課題だった。純国産カフェチェーンとしてのポジションを築くにはペルソナやカスタマージャーニーが重要だと考えており、部署横断的なプロジェクトチームも編成したかったが、ステップがわからず困っていた。そんな中でアサインされたのが、長年にわたって化粧品業界でブランドマーケティングに従事していた千葉さんだった。

支援内容

  • ブランディングやマーケティングに関する基礎知識のレクチャー
  • 現状分析とブランディングプロジェクトのゴールの明確化
  • プロジェクトメンバーとの1on1
  • ペルソナ、カスタマージャーニー、ポジショニングマップの設定
  • 分科会の発足
  • 役員向けのプレゼンやマーケティング施策に向けたアクション決め

成果

  • 客観的数字に基づくポジショニングマップを設定したことで自社ブランドの方向性が明確になった
  • 社長の念願だったブランディングの肝となるカスタマージャーニーをプロジェクトメンバー中心に作成できた
  • 自分の思いや意見を相手にしっかり伝えるノウハウが身に付き、プロジェクトの推進力が身についた
  • 当初決めたマイルストーン完遂し具体的なマーケティング施策に進める土台ができた

支援のポイント

  • 事業会社でマーケティング責任者をしていたプロ人材が入ると、机上の空論を提示するのではなく、社員自身が気持ちよく働けるようにプロジェクト実行のステップを示しながらサポートしてくれる
  • ブランディングには持続可能な策が必要だが、大切なのはまず現状把握。顧客についてよく知り、社内が共通認識を持つこと。その際にプロ人材がいると自社には無い視点を得られたり、固定概念を外すことができる

企画編集:新井みゆ

写真撮影:樋口隆宏(TOKYO TRAIN)

取材協力:株式会社ポッカクリエイト

※ 本記事はサーキュレーションのプロシェアリングサービスにおけるプロジェクト成功事例です。

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