【イベントレポート】出光の脱炭素×DX ―出光DX責任者が事例で語る、企業がカーボンニュートラルを見据えたDX推進を実現する構想と体制とは―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2022/07/06回では、DX推進やサステナビリティ/脱炭素に取り組んでいるもののそれぞれの施策が噛み合わず苦戦する新規事業責任者・経営企画責任者の皆様に向けて、ブリヂストン、出光のCDOを2社歴任した三枝氏に、出光のカーボンニュートラルの挑戦事例と「カーボンニュートラル」をゴールにしたDX推進方法を語っていただきました。
「GX(グリーン・トランスフォーメーション)の経営戦略あるいは新規事業への織り込み方がよくわからない」
「DX推進やデジタル系の新規事業を推進しているが、全社戦略と噛み合わず行き詰まりを感じている」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
三枝 幸夫氏
出光興産株式会社 執行役員CDO/CIO デジタル・ICT推進部管掌
株式会社ブリヂストンにて、生産システムの開発、工場オペレーション等に従事。2013年に工場設計本部長、2016年に生産技術担当執行役員、2017年よりCDO・デジタルソリューション本部長となり、全社のDX、ビジネスモデル変革を推進。2020年より出光興産 執行 役員CDO・デジタル変革室長、2021年より現職。
樋口 達也
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部マネジャー
金融コンサルティング企業を経て、サーキュレーションへ入社。製造業界を担当するセクションの責任者を務め、自らもB2Cのコマース領域を中心にプロシェアリングコンサルタントとして、100件以上のプロジェクトを担当。特に、(株)ユーグレナグループのD2C企業への支援では、経営者の戦略パートナーとして、社員ゼロ30名全員が業務委託のプロ人材という革新的な経営スタイルの実現に貢献。
酒井 あすか
イベント企画・記事編集
新卒で大手人材紹介会社に入社し、中途採用における両面マッチング型の法人・個人営業、グループ会社・地銀とのアライアンス連携業務に従事。丸の内エリアに本社を構える企業への採用支援、100名単位のグループ会社社員に対して営業企画、地銀への人材紹介事業レクチャーに携わる。サーキュレーションではプロ人材の経験知見のアセスメント業務とオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2022/07/06時点のものになります。
Contents
バズワード「DX」「SX」「GX」に取り組むべき理由
「DX白書2021」によると、現在日本企業の約半数以上はなんらかの形でDXに取り組んでおり、準備段階から挑戦・成功段階へと徐々に移行中だ。
また、ESGを含むサステナビリティ推進も経営の中核となりつつあり、約80%もの企業が非財務情報の任意開示を行っている。これが、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の潮流だ。
似たような位置付けとして存在するのが、GX(グリーン・トランスフォーメーション)。GXはSDGsの中心である気候変動と脱炭素にフォーカスした経済社会システムの変革を示す言葉であり、DX、SXと同様に重要な経営課題として世界的に注目されている。
SX、GXの達成のためには、DX推進によるビジネスモデルの変革が欠かせない。3つのバズワードは独立して存在するのではなく、密接に絡み合った大きな課題なのだ。
出光の事例に学ぶ、企業がDX推進を成功させるための3つのポイント
では実際にDXに加えて、SX/GXの中核ともいえる脱炭素を両立して推進するにはどうすればいいのか。ブリヂストンと出光興産、2社の大企業でCDOを経験した、DX推進のプロである三枝氏に伺った。
出光興産のDX推進・カーボンニュートラルへの挑戦における背景・課題と成果
従来、石油化学製品を中心とした事業展開をしてきた出光興産。しかし近年のSDGs推進の波の中では事業そのものが脱炭素の課題に直面しており、頭を悩ませていた。エネルギー利用の在り方は、一朝一夕では変化させられない。それでもカーボンニュートラルへと転換していくために乗り出したのが、DX推進だった。
三枝:出光には現在のエネルギーの供給責任を果たしながらも、新しい事業でビジネスを変革する流れが求められていました。実際に石油化学製品、化石燃料由来のビジネスは今後減少していくはずです。その中でもしっかりオペレーションが回る効率の良い体制を作る、そして新規事業を立ち上げる上で、デジタルが必要だと考えました。
既存事業の割合を少しずつ減らし、別の領域で収益化を図る。2050年に向けてそんな大きな絵を描いている出光は、今後DX推進において「for Customer・for Ecosystem」に注力するフェーズに移るという。
樋口:これは従業員や顧客、ビジネスパートナーとの共創がキーワードになっているかと思います。共創のためには、ビジネスプロセス全体をデジタル化していく必要があるのでしょうか?
三枝:そうですね。例えばお客様との共創でいえば、ニーズの多様化によるカスタマイズ、パーソナライズという方向があります。かといって、お客様一人ひとりに営業マンがヒアリングをするわけにもいきません。やはりデジタルを用いて最適な形を見つけて提供できるような環境が必要です。これは従業員、ビジネスパートナーとの共創も同様です。
Phase.1:DXの準備としての基盤・体制変革
実際に出光がDXを推進したプロセスについて、今回は2つのフェーズに分けてそれぞれポイントを教えていただいた。最初のフェーズでは、DXの基盤・体制変革を進めたという。
鉄則.1:社内外への本気の意思表示
最初にご紹介いただいたのが、社内外への本気の意思表示を行うという鉄則だ。そのために、出光は2030年ビジョンや自社のDXの在り方、構想などを中期経営計画や統合レポートに織り込んで発信した。
この意図について三枝氏は、「投資家の方の理解をいただくと同時に、従業員にも外向けの発信は強い説得材料になる」と語る。
樋口:確かに社内の会議で話すよりもIRや中計に出されたほうが、社会に対して本気で自社を変えていく姿勢が伝わりそうですね。
三枝:今回のような外向けのセミナーに私が登壇するのも、出光の本気度を示す活動の一つといえるかもしれません。
鉄則.2:経営者を支える優秀な人財
2つ目の鉄則は、経営者を支える優秀な人財を定義し、選択することだ。出光の場合はDX領域の外部専門家と対等に議論できるだけの体制が薄かったため、全社的にDXスキルやリテラシーを浸透させる必要があったという。
そのために実施したのが、内製化の重要性の発信や、中途採用・プロ人材の活用だ。
樋口:大企業の場合はコンサルタントに頼りきりになってしまう例もありますが、どうすれば自社内に外部人材と対等に議論する体制を築けるのでしょうか?
三枝:プロから提案されたものに対して良し悪しを判断するだけではなく、「一緒に考える」マインドセットが重要です。入り口としては専門分野のスキルを身に付けた人材が社内にいることが望ましく、難しい場合は徐々に勉強をする、外部から採用をするといった方法で議論の体制を作っていくのがおすすめです。
鉄則.3:チャレンジを推進する企業風土
3つ目の鉄則は、チャレンジを推進する企業風土の醸成だ。DX推進は新たな取り組みだからこそ、クイックに小さな成功事例を作り継続的に発信することで、施策が単発で終わらないよう工夫をしたという。
三枝:ITプロジェクトにありがちなのが、現業部門とシステム開発部門が一緒に要件定義をして、その後はシステム部門任せになる状態です。すると、最終的にできあがった頃には仕事のやり方が変わっていたり現業部門が伝えそびれていた内容があったりして、プロジェクトが延期になり、予算もかかり、使えないものになってしまいます。
やはり短い期限をしっかり決めて、システム部門と現業部門が同じチームでアジャイルによる改善を繰り返しながら進めるのが、組織風土を変える上では効果的です。
CDOを2社歴任した三枝氏の「カーボンニュートラル」をゴールにしたDX推進
2020年までに基盤と体制構築を行った出光は、2021年以降、実際にDXを実行し事業改革を行うフェーズ2に突入した。具体的にはビジョン、サービス、業務プロセス、アセットの4つの戦略を推進したという。
Phase.2:DXの実行としての事業改革
戦略.1ビジョン:2030年ビジョンの設定
樋口:ビジョンについては、2050年を見据えた長期ビジョンの策定を行ったということですが、昭和シェルと合併した2019年時点ではこうしたビジョンは描いていなかったのでしょうか?
三枝:2019年時点では、統合の進め方にフォーカスしたビジョンを描いていました。その後、コロナ禍も含めて世の中が急速にカーボンニュートラルに向けて動き出したため、2020年に改めてビジョンを打ち出したのです。
樋口:かなり大きなビジョンですから、DXというよりはそもそも会社がどうあるべきかを定義を行う作業に近いですね。
三枝:DXを進める上では重要です。会社が進むべき方向があってこそ、DXが強力な武器になります。そういう位置付けでDXを捉えましょう。
戦略.2サービス:サービスステーションをニーズ探索と新しいサービス提供の場に
2つ目のサービス戦略として、出光は新たに「スマートよろずや」というエコシステムの広がりを描いた。以下に示しているのが、その全体像だ。
三枝:これからは燃料だけを提供していても事業は持続しません。地域のサービス拠点からさまざまなものを提供する必要があります。そうなると出光1社では成り立ちませんから、パートナーとエコシステムを作っていく考えを持っています。
戦略.3業務プロセス:オフラインのみのタッチポイントからOMO施策への転換
続いての戦略は、業務プロセスに関して。出光がこれまで持っていた顧客とのタッチポイントはガソリンスタンドのみだったが、新たにOMOのデジタルタッチポイントとしてオウンドメディア「iX+(イクタス)」を立ち上げた。
これは、地方のユーザーに対してデジタルにまつわる有益な情報を提供するためのものだという。
三枝:日本のDXはあまり進んでないと言われていますが、これは企業側だけの責任ではなく、マーケットそのもの――お客様自身がデジタルを避けているような風土があると感じます。例えば通販の比率は中国・欧米が5~7割であるのに対し、日本はまだ1割程度です。デジタル自体を地域の方々が受け入れていないのです。
こうした状況に対して「デジタルを使うとこんなに便利なことができるし、安全である」という内容を啓蒙すれば、結果的に我々が取り組もうとしているデジタルサービスも広がり、日本全体のDXが進むのではと考えました。
戦略.4アセット:変革の土台として経営資源の“再定義”
最後の戦略はアセットについて。従来の出光のアセットは石油関連の精製プラントや研究所、子会社、調査機関などが主だったが、DX推進にあたりいくつか新たなアセットを作り上げた。
その一つが、「人づくりの3つの塾」だ。各部門向けにDXリテラシー向上と起業家マインド醸成を目的とした塾を創設し、DX人材の育成を行うという。
三枝:大企業が新しいビジネスに向かって出ていこうとしたときに、ただ単に飛び地でスタートするだけではスタートアップと変わりません。自分たちの持っている強みを生かしてこそ競争力が生まれ優位性を発揮できるはずなので、自分たちのアセットを見直してみました。
既存のアセットを上手く使えば強い武器になりそうだと考えて生み出したものの一つが、上記の内容です。
出光の脱炭素×DXまとめ
今回のウェビナーのポイントをまとめると以下のようになる。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。出光の脱炭素×DXにご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。