【イベントレポート】星野リゾートのDX推進 ―開発体制を内製化し3年で7倍の規模に拡大させた3つのポイントとは?―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2022/05/19回では、開発体制の内製化を検討しているものの、具体的なアクションに落とし込めていないとお悩みの経営者様に向けて、星野リゾートに外部召喚され開発体制内製化を主導された 藤井氏に、全社一丸となりDXを推進する3つのポイントを星野リゾートの事例も交えてご紹介いただきました。
「開発体制の内製化を検討しているが、どのくらいの人数、何をミッションに雇えば良いかわからない」
「徐々に開発体制を内製化したいが、ステップやベンダー活用基準がわからない」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
藤井 崇介氏
株式会社星野リゾート CTO 情報システムグループ
大学卒業後、アクロクエストテクノロジー株式会社でWebシステム関連の開発を約10年経験後、2018年に星野リゾートに入社。星野リゾートでは外部召喚され、開発体制の内製化を主導し大浴場混雑可視化、Go Toキャンペーン対応などの4つの新システムやアプリのリリースを6週間〜3ヶ月という短期間で実現した。ビジネスと開発部隊の架け橋となり3年で同社の開発体制を7倍に拡大するなどデジタル面から同社の成長を推進中。
村田 拓紀
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部
FLEXY部マネジャー
中古車のマーケットプレイスシェア首位の企業にて拠点責任者、営業戦略策定、メンバーの採用から育成まで幅広く従事。IT企業を経てサーキュレーションに参画。現在はIT戦略における中期ロードマップ策定、IT企画人材育成に向けた技術顧問活用プロジェクトなどDX推進に舵を切る多くの企業を支援。
酒井 あすか
イベント企画・記事編集
新卒で大手人材紹介会社に入社し、中途採用における両面マッチング型の法人・個人営業、グループ会社・地銀とのアライアンス連携業務に従事。丸の内エリアに本社を構える企業への採用支援、100名単位のグループ会社社員に対して営業企画、地銀への人材紹介事業レクチャーに携わる。サーキュレーションではプロ人材の経験知見のアセスメント業務とオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2022/05/19時点のものになります。
Contents
DX推進のためにデジタル部門の内製化が必要な理由
現在日本の大手企業は、業界を問わず次々とエンジニア組織の内製化を進めている。これは企業として積極的にDXの取り組むためであり、中には数百人規模のIT人材の採用を計画している企業も登場しているほどだ。
言い変えると、これまで日本企業の多くはエンジニア組織を内製化しておらず、ITプロジェクトに関しては外注が中心だったのだ。その一方で日本のITプロジェクトの成功率は非常に低く、2021年調査時点ではわずか6%という数字がある。
つまり、担当者や社外ベンダーに丸投げしている状況では、DXの成功確率が低くなるのも容易に想像される。だからこそ、内製化の必要性が問われているのだと言えるだろう。
星野リゾートがアジャイル型でDXを推進できた背景とは?
さて、星野リゾートは2000年頃から情報システム部を立ち上げており、当初は主にペーパーレス化を推進。取り組みに伴い、生産性は向上していた。
一方でシステムの運用や新規ITプロジェクトを画策する上では課題も多く、いわゆる技術負債が蓄積していたという。そこで2018年頃から改めてエンジニア組織の内製化を進め、アジャイル開発を導入。改修コストを大幅に削減し、自社プロダクトも数々リリースに成功した。
ただし、こうした成功に至るまでの道筋には課題も多く存在した。ホテル運営のプロである星野リゾートにはエンジニアを評価する基準がなかったため、当初は内製化自体に消極的だったというのだ。
そんな状況をどう乗り越えていったのか、藤井氏に成功の背景を3つ伺った。
[背景1.体制の見直し]スクラム導入とプロダクトオーナーチームの発足
内製化を推進するため、第一にスクラム導入とプロダクトオーナーチームの発足を行ったという藤井氏。
スクラムとはアジャイル開発方法の一つで、チームでコミュニケーションを取りながら、組織に必要な開発を優先度の高い順に進めていく手法だ。
藤井:スクラム開発はチームと経営者を近付けるのがポイントです。私が中に入っていろいろな人に話を聞きながら開発の優先度を決めましたし、ステークホルダーとの打ち合わせには外部の開発者にも入ってもらったりしました。
村田:プロダクトオーナーチームを発足して、受け身から価値提案をする組織にも転じたそうですが、スキルマップを作っただけではなかなかマインドは変わらない気がします。何か仕掛けがあったのでしょうか?
藤井:会社全体の意思決定者と話す機会を増やすのが一つのポイントですね。あとはプロダクトオーナー自身がエンジニアと関わることによって、「自分たちももっとシステムについて考えていいんだ」というマインドが生まれてきたのが大きいと思います。
[背景2.投資プロセスの変更]投資判断を仕組み化
村田:投資プロセスの変更については、IT投資の意思決定にしっかりと経営陣に入ってもらったと伺っています。どのようにITについて理解してもらったのでしょうか?
藤井:情報システム部はいろいろな部署からの要望を受けて開発をしていたのですが、これまではその意思決定プロセスに代表の星野など会社全体の意思決定者が入っておらず、会社として重要だと思っていたデジタル化が実施されていませんでした。この問題をきっかけに、星野の意識が変わったんです。
具体的には、まず10万円程度の小規模な決裁から共有をスタートしました。その結果、システム開発にどういう意思決定が必要なのかが徐々に星野に浸透しましたし、社内には星野自身が考えるよりもさまざまなシステムの要望があるのだとも理解してもらえました。
[背景3.ノーコード開発]業務改善のボトルネックをノーコード開発で解消
もうひとつの背景が、ノーコード開発だ。業務改善のボトルネックをノーコード開発によって解消し、保守運用対応や人材の強化を行ったという。
藤井:単純に今はエンジニアの採用は難易度が上がっており、組織文化が合わない場合はすぐに辞めてしまうといった課題があります。しかし現在は優れたSaaS製品があるので、多くの業務は非エンジニアのサービススタッフでも行えるような世界になりつつあります。ノーコードツールを活用しながら、よりサービスの現場に近い人材がシステムを運用していくのが、一つ大きなポイントです。
というのも、エンジニアの方は変化していくサービス現場の業務についてどうしても理解が浅くなりがちですし、改善の優先度もわかりません。そこに対して、サービスの最前線にいる人間が「自分たちで使うものを自分たちで作り、変えていく」という世界を作ったわけです。
星野リゾートの事例で学ぶ、開発組織の内製化の秘訣
社内体制や投資プロセス、利用ツールそのものを変革してエンジニアの内製化を成し遂げた星野リゾート。内製化によって企業が前進しているのは明らかだが、そもそもエンジニアが社内にいないとどのような問題が発生するのだろうか。
以下では改めて内製化の必要性について具体的な内容を探るとともに、エンジニア組織を内製化しようとしたときに陥りがちな落とし穴についても考察。その上で、後半は内製化のポイントについても改めて教えていただいた。
エンジニアがいないことで発生しがちな問題
まず、社内にエンジニアがいないことで起きる問題の代表例は以下の通りだ。システムの改修が滞り、意味不明な運用ルールが作成され、エンジニアの取り合いにもなるという。
村田:システムが改修されない、ルールなきエンジニアの取り合いなどについてはイメージができますが、「意味不明な運用ルールの作成」とはどういうことですか?
藤井:簡単に言えば「サービス現場が頑張ってしまう」ということです。システムに問題があってもサービス現場には遂行すべき業務があり、何か問題があればお客様に説明しなければなりません。彼らが「システムは変わらないものだ」と諦めてしまうと、例えば仕分けデータを利用するにしても内容は間違っているのが前提になり、「データをダウンロードしたらこういうルールで書き換えて仕分けを登録する」といったルールが出来上がってしまいます。
しかし、システムは変わっていくものであり、サービス現場の社員自身が改善のためのピースだということを理解するのが、非常に重要ですね。
開発組織の内製化でよくある落とし穴
エンジニアの不在により上記のような課題が起きがちだからこそ内製化の必要性が出てくるが、初動には数多くの落とし穴がある。例えば、「いきなりエンジニアを採用する」のもその一例だ。
藤井:社内の課題を早く解決したかったとしても、エンジニアが入社することで彼らにどんなメリットがあるのか、そして彼らがどんな世界観で成長していくのかを先に考えなければいけません。
例えば今まで「言われたことをやっていた」タイプのエンジニアを採用すると、社内で受発注関係が生まれてしまいます。どんな世界観で組織体制を作るかは、慎重になるべきポイントです。
また内製化に意気込みすぎると、未知の分野に対するハードルが高くなりすぎ挫折してしまうのも注意点だ。さらに現場レベルで改善や挑戦の文化が醸成されていないと状態では失敗を許容できず、アジャイル的に開発ができないといった点も落とし穴となる。
星野リゾートが開発組織を拡大させた3つのポイント
ここからは上記の落とし穴を踏まえて、開発組織を内製化する上でのポイントについて解説していただいた。
[point.1]ビジネスとシステムをつなぐ八咫烏人材の発見
最初のポイントは八咫烏人材の発見だ。八咫烏とは古事記に登場する伝説のカラスのことで、3本の足を持っているのが特徴だとされる。ここでいう八咫烏とは、「簡単に言えばビジネスとシステムをつなぐ人材のこと」と藤井氏。
藤井:さまざまなビジネス課題に対して、マネタイズの仕組みや事業の発展の仕方を理解せずにシステムだけを作ろうとすると失敗します。
例えば星野リゾートがグローバル展開をしたいと思っていても、今必要な予約システムを作ろうとすると、目の前の開発のことしか見えなくなってしまう。それでは、5年、10年後に結局変化が生まれないのです。だからこそ、ビジネスとシステムをつなぐ人材として誰を入れるのかが非常に重要です。
[point.2]企業の人材育成を目的とした外部人材の活用
もう一点のポイントが、外部人材の活用だ。内製化と聞くと自社で開発を行うイメージが強いが、星野リゾートの場合は内製化とともに外部の活用も積極的に行っているという。
藤井:例えばプロダクトオーナーの人材育成に外部人材を活用しています。内部のエンジニアには開発を進めてほしいので、システム開発やプロジェクトマネジメント、要件整理の仕方といった知識は外部人材から学びました。
また、採用したエンジニアだけで人材が足りるわけでもありません。当社にはインフラエンジニアが全く足りていなかったので、クラウドの活用が得意な外部人材にコンサルタントとして入ってもらいました。そのおかげで問題解決ができ、社内のメンバーの学ぶ意欲も湧いています。
村田:外注が悪いのではなく、きちんと外部の方を巻き込みながらノウハウをキャッチアップしていくのが重要なんですね。
[point.3]小さな成功体験を積み重ね失敗を許容する文化を醸成
村田:最後の小さな成功体験を作るというポイントは、頭ではわかっていてもなかなか難しい部分があるかと思います。どのように進めたら良いのでしょうか?
藤井:まずは内製化のメリットについて、小さな成功体験で伝えるんです。それこそ数日で画面を一つ改修するといったことでも良いと思います。内製化でシステムが良くなる、自分たちで考えた企画がこんなに役立つと感じられるかどうかが重要です。当然そこには失敗がありますが、やはりこれも小さく失敗して改善を繰り返すのが大事ですね。
星野リゾートのDX推進まとめ
今回のウェビナーのポイントを「すぐに取り組んでいただきたいこと」として以下のようにまとめた。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。星野リゾートのDX推進にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。