【イベントレポート】量子コンピューター2030 ―日本の大手企業3社の事例で学ぶ、ビジネス現場での活用最前線―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2022/03/29回では、量子コンピューターが自社や業界の課題解決にどのように活かせる技術なのか情報収集されている皆様に向けて、量子コンピュータソフトウェア開発会社の取締役としてご活躍されている大浦氏に、量子コンピューターを活用して業界変革に取り組む先端事例をご紹介いただきました。
「量子コンピューターの可能性を感じているが社内に詳しい人材がいない」
「先端技術の活用を検討しているが、量子コンピューターとの相性がわからない」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
大浦 清氏
人工知能・気象研究・自然言語処理など4社の取締役を歴任したテクノロジー活用のプロ
cocoro SB(現ソフトバンクロボティクスに吸収合併)では会社立ち上げから参画し、大手自動車メーカー等と対話のできる自動車の開発に取り組む。2018年7月量子コンピュータソフトウェア開発の株式会社エー・スター・クォンタムの設立に参加、取締役兼CMOに就任。量子コンピューターを応用した業界のデジタル化推進を支援している。
松井 優作
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
早稲田大学卒業後、新卒一期生で創業期のサーキュレーションに参画しマネジャー就任。首都圏を中心に自動車や大手製薬メーカーなど製造業50社以上に対し、全社DXの推進・新規事業開発・業務改善・営業部隊の構築・管理部門強化などの幅広い支援実績を持ち、実行段階に悩みを抱える企業の成長を支援中。
新井 みゆ
イベント企画・記事編集
新卒で入社した信託銀行では資産管理業務・法人営業・ファンド組成の企画業務に従事。「知のめぐりを良くする」というサーキュレーションのミッションに共感し参画。約1500名のプロ人材の経験知見のアセスメント経験を活かし、サービスブランディング、イベント企画等オンライン/オフラインを融合させた各種マーケティング業務を推進。
※プロフィール情報は2022/03/29時点のものになります。
Contents
量子コンピューターの簡単な概要と取り巻く環境
AIやスパコン、ブロックチェーンなどの先端技術を取り巻くワードの一つとして頻出するのが「量子コンピューター」だ。本ウェビナーでは量子コンピューターの最前線を探っていくが、「量子」という言葉からは、上手く特性をイメージできない方も多いだろう。
そこで今回のウェビナーは、そもそも量子コンピューターは何か、どのような仕組みで、どんな分野に応用できる技術なのか、ざっくりとした概要から解説した。
そもそも量子コンピューターとは?従来型との仕組みの違い
量子コンピューターは従来型のコンピューターと異なる仕組みを持っている。その仕組みが量子力学における「重ね合わせ」「もつれ」といった現象を用いている点が、「量子コンピューター」と呼ばれる所以だ。
従来のコンピューターは「何度も計算を実施して答えを出す」方式であるのに対し、量子コンピューターは「データを膨らませて答えを出す」という特徴がある。直感的にイメージはしづらいが、「計算方法が大きく違う」という点を頭に入れておくと良いだろう。
身近でも活用が進み始めている量子コンピューター
近年で量子コンピューターが一躍トレンドになったのは、2019年10月にGoogleが行った発表時だ。従来コンピューターに対して量子コンピューターが「量子超越性」を持っていると実証。簡単に言えば、「スパコンでも1万年かかる計算を量子コンピューターが200秒で解いた」という内容だ。
以降、徐々に量子コンピューターは民主化が進み、事例には以下のようなものがある。
市場規模は2030年には2940億円規模にものぼると予測されており、今後もビジネスでの活用が注目される。
日本の大手企業3社の事例で学ぶ、量子コンピューター活用の最前線
日本企業においても、大手企業を中心に活用事例は増えている。今回は具体的にどのような企業のどのような事業・領域において活用されているのかを詳しく見ていく。
スパコン/AI/量子コンピューターの役割の違い
事例紹介に移る前に最初に押さえておくべきなのが、スパコンやAIとの違いだ。「量子コンピューターはすごい計算ができる」という端的な理解から一歩進めて、強みと弱みについて大浦氏に解説していただいた。
大浦:まず量子コンピューターとスパコンはハードウェアであり、AIはソフトウェア、あるいは概念的なものです。
スパコンの強みは、CPUを大量につなぎこんで膨大な計算を実施できること。テレビなどでも、コロナのシミュレーションでスパコンを利用している映像を見たことがある方は多いでしょう。実際、スパコンはシミュレーションに強いハードウェアです。
量子コンピューターは、これまでのコンピューターでは解くのが難しかった領域の計算をするのが得意とされています。
一方AIは、過去データや教師データを学習することで、その中から強みや特徴を導き出せるという特性があります。
どれが良い・悪いではなく、我々はそれぞれの特徴を上手く組み合わせることで、課題解決の打ち手が見つかるのだと考えています。
大浦氏いわく、量子コンピューターは「まだまだ研究分野のテクノロジー」であり、今後はユーザー視点で課題を整理し、活用方法を見出す視点が求められるという。
[Case.1:JAL]整備士250名分のシフトを調整
ここからは実際に、大浦氏が実際に支援した企業の事例についてご紹介していただいた。
1つ目はJALが整備士250名分のシフト調整を量子技術で解決した事例で、これまでは1ヶ月かけて行っていた作業が、わずか1分で計算可能になったという。
大浦:例えば飛行機の整備は、機体の生産日やフライト回数、時間などを鑑みて適切に行わなければなりません。これに対して、整備上の制約条件や整備士の方々のスケジュール制限があるため、量子コンピューターを使った最適化計算によって、効率的にスケジューリングできるようにしました。
取り組みの結果、「新たな着眼点で課題を練り直すことができた」と大浦氏。
大浦:全社の業務改革の意識につながるというご意見もありました。整備する場所自体の運用の効率化、人員配置・整備タイミングなど、さまざまな観点でより最適化する余地が発見できそうだと伺っています。
[Case.2:電通]どうしても人の判断が必要だった広告枠の運用を最適化
続いては、電通におけるテレビCM枠の最適化だ。従来は手作業で5時間かけて広告枠運用を行っていたが、わずか1秒で効率的なパターンを導き出せるようになったという。
大浦:お話を伺うと、日毎に変化するマーケティング指標やターゲット予測に合わせて、効率的な広告枠の運用を目指しているということでした。
そこで、これまでは複雑でどうしても人が判断せざるを得なかった部分に計算機を使い、複数のキャンペーンの広告枠の中からより効率的な組み合わせを導き出せるようにしました。将来的には、テレビ局側の広告差し替え作業に寄与する部分も出てくるのではと考えています。
[Case.3:日本郵便]遠隔地への運送効率を改善
最後が日本郵便におけるプロジェクトで、こちらは輸送便数を8%、輸送コストを2000万円削減するほどの効果が見込めるようになった事例だ。
大浦:例えば東京から北海道、東京から九州といった遠隔地への輸送時は、一度大きな郵便局に荷物が集荷され、そこからさらに小さな郵便局へと集配されていくプロセスがあります。その際に配送を行うトラック台数の最適化にチャレンジさせていただきました。こちらも組み合わせの課題ですね。
これらの事例は、3ヶ月ほどのPoC期間を設けるケースが多いという。AIのように学習データを取得するプロセスがないため、比較的短期間で計算結果を出せるのも、量子コンピューターの特徴だ。
量子コンピューターが業界のDXを前進させる
事例内容を見ると、今後どんな分野にも量子コンピューターが活躍する余地は十分にあると推測される。これはDXの文脈においても同様で、企業がDXを前進させ経営課題を解決する際に、量子コンピューターは大きな役割を果たす可能性が高い。
ここからはその具体的なイメージとして、物流業界で量子コンピューターを活用したDXの事例について教えていただいた。
物流業界での量子コンピューターを活用したDX状況
前提として、物流の領域は以下のような7つの機能に切り分けられ、それぞれ課題を抱えている部分に対してDXが進んでいるような状況だ。
このうち、今回取り上げるのは「3.積荷」「4.幹線便ダイヤ」「6.支線配送」3つのテーマだ。
[積荷]量子コンピューティング技術で貨物スペースの積載プランニングを効率化
まず積荷のプロセスで求められているのは、「共同配送や、より効率的な物流拠点の最適化」であると大浦氏。飛行機、船、トラックなどさまざまな輸送法があるが、大浦氏が手掛けたのは飛行機の積荷問題だ。
大浦:例えばトラックの場合も積荷を載せるときに左右のバランスを考えることがあると思いますが、飛行機にも同じ課題感があります。左右・前後のバランスですね。加えて、匂いの問題もあります。香りの強いもの、匂いが移ってほしくないもののバランスも考える必要があるということです。
こうした積荷のプランニングは非常に属人性が高く課題感があったため、これも組み合わせの問題として捉えてチャレンジしました。
松井:具体的にはどのような技術を提供されたのでしょうか?
大浦:一つの入れ物の中に、どのような形でパーツを入れるとより効率的になるかを計算するツールをご提供して、PoCを実施しました。
[幹線便ダイヤ]事業拡大のボトルネックとなっていた、熟練者の属人化の解決
次が幹線便――大型トラックなどを用いた拠点間の輸送だ。ここでも属人化していたのは、やはり何時にどの積荷をどんな順番で積み込むかといった組み合わせ設計だ。
大浦:より効率的、あるいは少ない便で運ぶには、これまで積み上げたプランナーの方のノウハウでは足りませんでした。そこでPoCを行い、計算ツールをご提供しています。
いわゆるベテラン従業員の手によって属人化されていた業務に対して、人が行う以上の成果を出す。この点で、量子コンピューターのポテンシャルの高さが伺える。
[支線配送]配車を管理する基幹システムと連携し、支線配送最適化を行いトラック台数を削減
松井:最後の事例が支線配送。こちらも配車を管理する基幹システムと連携して配送の最適化を行ったということですが、具体的にどのような課題感があったのでしょうか?
大浦:支線配送については、決まったエリア内を10台で配送していました。ここから台数を減らして同じだけの荷量を運ぶには、どうダイヤグラムを組み、どのトラックにどの貨物を積めばいいのかという問題がありました。CO2削減に直結する部分でもあるので、なるべく走行距離を短くするといった組み合わせの問題を解くためにPoCさせていただきました。
松井:大きなデータを扱う業界・企業がDXを前進させるためには、量子技術の活用が一つの選択肢になり得そうですね。
量子コンピューター2030まとめ
今回のウェビナーのポイントを、「すぐに取り組んでいただきたいこと」として以下の3つにまとめた。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。量子コンピューター2030にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。