【イベントレポート】JTの事例に学ぶイノベーション推進 ―大企業のPoC担当が押さえるべき、イノベーション施策成功の4つのポイント―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2022/3/9回では、社内でイノベーション創出のため日々挑戦されている新規事業責任者・経営企画室・PoC担当者の皆様に向けて、電通でブランドコンサルティング・メルカリのOMO戦略チームを立ち上げた実績を持つ 南坊氏に、JTのOMO施策”THE TASTE SESSION”立ち上げの裏側と、イノベーション創出成功のポイントをご紹介いただきました。
「流行テーマを元に施策を考えろと指示されたが、事業案の目的を問われても答えられず行き詰まってしまっている」
「とりあえず新しいことをやってくれと言われたが、PoC地獄で時間をかけても事業化できずにいる」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
南坊 泰司氏
電通でブランドコンサルティング・メルカリのOMO戦略チームを立ち上げ独立、新規事業開発のプロ
新卒で電通に入社。ブランドコンサルティング、デジタルマーケティングの専門領域を経た後、電通独自のDMPおよびTVメディア PDCAツールSTADIAの開発・運用を担当、局内トップ評価を3度獲得。自身がマーケティングを通じて社会に提供できる価値を最大化することを考え急成長期のメルカリに転職。 マーケティング・マネージャーとしてマーケティングをフルファネルで担当。その後、事業企画部に移りオンラインとオフラインを統合するOMO(Online merged offline)戦略チーム立ち上げに従事。2020年に独立創業し、マーケティング/クリエイティブ領域を中心に支援を行う。
樋口 達也
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部マネジャー
金融コンサルティング企業を経て、サーキュレーションへ入社。製造業界を担当するセクションの責任者を務め、自らもB2Cのコマース領域を中心にプロシェアリングコンサルタントとして、100件以上のプロジェクトを担当。特に、(株)ユーグレナグループのD2C企業への支援では、経営者の戦略パートナーとして、社員ゼロ30名全員が業務委託のプロ人材という革新的な経営スタイルの実現に貢献。
板垣 和水
イベント企画・記事編集
慶應義塾大学在籍中にITベンチャーでのインターンに2年間従事。オウンドメディアのSEOやチームマネジメント、100本以上の記事ディレクション/ライティングに携わる。卒業後サーキュレーションに入社し、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2022/03/09時点のものになります。
Contents
中長期視点が欠如し、目的が曖昧な大企業のイノベーション推進
オープンイノベーション白書によると、日本のイノベーション創出の経営課題は数多く存在する。「新規創出」ではなく既存の取り組みの「改善」に注力してしまう傾向や、そもそもの取り組み件数・投資額などが低水準であることなどがその一例だ。大枠で捉えるなら、総じて日本企業の多くは目の前の単発施策に気を取られがちで、中長期的な視点が欠如しているといえる。
この背景にあるのは、新規事業開発やM&Aなどリスクのある意思決定が取りにくいこと、また戦略やビジョンが曖昧で、予算取りが上手くいかないといった状況だ。
以上のような状況をまとめると、イノベーション推進には以下のような落とし穴があると考えられる。
今回のウェビナー講師である南坊氏は特に2の落とし穴について、実際の企業からの相談を受ける際に実感している点があるという。
南坊:私はデジタル系の事業開発に関わらせていただくことが多いため、まさしく企業の方々は「デジタル活用をしたい」「DXをしたい」という文言でご相談に来られます。デジタル分野になかなか取り組めていない企業にとってデジタルは完全に手段ですから、2の落とし穴は本当によくありますね。
JTのイノベーションPoC施策「THE TASTE SESSION」の裏側
日本の大企業が中長期視点と確かな目的を持ってイノベーションのPoCを推進するにはどうすれば良いのか、今回はJTが取り組んだデジタルマーケティング施策の推進プロジェクト「THE TASETE SESSION」を例に解説していく。
THE TASETE SESSIONは加熱式たばこ「Ploom(プルーム)」にフォーカスし、オンライン・オフラインを問わず五感を通してたばこ体験の向上を目指した施策だ。
南坊:「人のときを、想う」というコーポレートメッセージにあるように、たばこは時間を楽しむものです。この考えを基にして、「五感で味わうアクション」をテーマに、オンライン・オフラインの祭典を作っていく企画にしました。
例えば香りを言語化するコンテンツではSCENTMATIC株式会社と協働し、まさしく「セッション」を体現した見せ方をしているのが特徴となっている。
JTに学ぶ、大企業のイノベーションのPoC担当が意識すべき4ポイント
ここからは事例内容をベースとしながら、実際に大企業のイノベーションPoC担当が意識すべきポイントについて、4つ伺った。
[Point.1]関わるプロジェクトの社内における建て付けを検討する
樋口:最初のポイントが、社内における建て付け検討。これは新規事業プロジェクトというものは注目度が高く、社内の協力を得るための準備が重要だということですね。社内協力を得るのが一番の目的になるのでしょうか?
南坊:そうですね。大企業における新規事業は縦割り的なチーム構成になっていると思いますが、新しいことをスタートする際は基本的に事業体や事業部からの逸脱が求められます。そうなるとほかの事業部に知られていたい、あるいは好感を持たれていたいというポジティブな気持ちがないとプロジェクトを進められません。他部署に影響を与えないような施策は、意味がないとも言えますね。
これまで社内に存在していなかった新たな取り組みを複数の部署、あるいは社内全体から意識し応援してもらえるようにするのは、非常に重要だ。こうした状況を生むために、南坊氏はJTの事例においてプロジェクト名称にこだわったという。
南坊:名称を変更して意味があるのかと思われるかもしれませんが、例えば本部長レベルの会議は非常に忙しいので、案件内容が3行にまとめられたりします。そのときに名称は非常に大事で、ぱっと理解できること、新しいチャレンジをやっていると思わせることに大きな意味があります。
実際に南坊氏は「コンテンツプロジェクト」という制作的イメージのある名称を、「OMOコンテンツプロジェクト」に変更。当時はまだ浸透していなかったOMOという言葉によって、社内に新たな取り組みの印象付けに成功した。
また新しい概念に対して南坊氏のような外部の専門家が干渉し、「プロのお墨付き」を与えるのもポイントだ。第三者からの担保が社内にとっての安心材料になるという。
[Point.2]ビジョンに沿うイノベーションになっているか確認する
樋口:次のポイントが、ビジョンに沿うイノベーションになっているかの確認です。まず新規事業担当者の方にご認識いただきたいのが、「社内にいると自社のビジョン視点を見落としがちになる」ということですね。また第三者視点を意識して、会社がもともと持っているコアを見つめ直すのも重要です。
そもそもの課題としては、新規性の高いPoC施策ほど意義が曖昧になり、「提案して」と言われたのに提案すると否定されやすいというケースを非常によく聞きます。
南坊:目的と手段のバランスのような話なのですが、目的自体を「手段化しないぎりぎりの解像度」で具体化する必要があると思っています。このとき大事なのが意義ですね。会社のビジョンというものは意外と社内に浸透している大義なので、誰も否定できません。JTの場合は「人のときを、想う」が大義であり、たばこを吸うというのは「時間」である。だから「五感を大切にする取り組みをしよう」というと、特に否定する要素がありません。
南坊:社員が受け取りやすい目的を誰にでもわかる解像度で設定するには、上手く大義と共通言語を活用することが重要だと思いますね。
[Point.3]一つひとつの施策を線でつなぎ、中長期目線で展開する
樋口:3つ目のポイントに関しては、まず目新しいものに飛びつかずマクロ視点を持つこと、そしてテーマを決め、ビジョンやストーリーとして連続性を持たせることが重要だと事前にお伺いしています。これはその通りだとは思うのですが、最初から設計をする自信がない方も多いかと思います。これはプロジェクトを進めながら設計していくものなのでしょうか?
南坊:「線をつなぐ」というのが大事です。いきなりマクロな視点で全体を形作るのは難易度が高いので、一度単発でテーブルに載せ、塊にできそうなものを発見して配置し直し、線にしていくのです。
JTの場合も、まずはやろうと思っている発想をテーブルに出してつなげた結果、「五感」という視点に至ったと南坊氏。
南坊:もともとは担当者の方がいろいろ考えて用意していたアイデアがあったからこそ、THE TASTE SESSIONが生まれました。単発のエレメントならどんな方でも取りかかれると思うので、そこから順を追って作っていけばいいのではないでしょうか。
[Point.4]Point.1~3を押さえた上でプレゼンの魅せ方を見直す
最後のポイントはプレゼンの魅せ方について。南坊氏はこの点で、「新規事業のプレゼンは一人歩きすることを念頭に置くべき」としている。
南坊:そもそも大企業の新規事業において、自分が最終決定者にプレゼンテーションできるケースはほぼありません。マネージャーや役員に託すことになるわけですが、その役員が自分と同じクオリティで説明してくれるとは限りませんよね。そういう意味では、どんな人が読んでもわかるプレゼン資料にしておかないと、誰にも伝えられない。
1スライド1メッセージで文字を少なくする手法もありますが、あれはきちんと喋れる人が用いる演出なので、そうでなければ必要なことはきちんと記載し、突っ込まれそうなポイントも潰しておくべきです。
JTのケースにおいて南坊氏は、プレゼン資料をロジカルに説明しやすいワードベースの資料に落とし込んだ。「他部署に流通させる意味ではパワーポイントを使ったほうがいい」としながらも、上司の説得に際しては、ワードでロジカルかつ端的に伝え、企画を通したほうがブレは少なくなるという。
JTの事例に学ぶイノベーション推進まとめ
最後に実際にイノベーションPoC担当が実践すべき行動をご紹介する。いかに社内の共感を得ていくのか――周囲との関係性構築が、イノベーション推進においては欠かせない要素のようだ。
また総括として、今回のウェビナーを受けて企業の担当者の方にすぐに取り組んでいただきたいことを以下の3点にまとめた。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。JTの事例に学ぶイノベーション推進にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。