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【イベントレポート】経営者のためのESG ―連年ESG構成銘柄入りを果たすNRIの事例に学ぶ、企業価値を高めるESG経営のポイントとは?―

SDGs

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

2022/03/08回では、ESG/サステナビリティに取り組むことの重要性は感じているものの実践できていないとお悩みの経営者・サステナビリティ推進責任者の皆様に向けて、ESG評価トップ企業であるNRIのサステナビリティ推進室長としてご活躍される本田氏に、NRIの実例をもとに企業価値を高めるESG経営のポイントをご紹介いただきました。
「ESG評価機関からの評価を上げたい」
「成長戦略へと繋げるESGに対する考え方、社内の巻き込み方を知りたい」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

本田 健司氏

本田 健司氏

株式会社野村総合研究所 サステナビリティ推進室長システムエンジニアとして証券・公共などのシステム開発に従事した後、香港に3年間駐在。2000年以降、ネット通販や携帯・スマホのカーナビアプリ開発など新規事業の立ち上げを担当。13年3月に本社総務部に異動し、サステナビリティ活動に関わる。16年10月からサステナビリティ推進室長として活躍。
『日経ESG』に2019年10月号から連載していたコラムをもとに、2021年4月『イチからつくるサステナビリティ部門』(日経BP社)を出版。

信澤 みなみ氏

信澤 みなみ氏

株式会社サーキュレーション ソーシャルデベロップメント推進プロジェクト 代表
2014年サーキュレーションの創業に参画。成長ベンチャー企業に特化した経営基盤構築、採用人事・広報体制の構築、新規事業創出を担うコンサルタントとして活躍後、人事部の立ち上げ責任者、経済産業省委託事業の責任者として従事。「プロシェアリングで社会課題を解決する」ために、企業のサスティナビリティ推進支援・ NPO/公益法人との連携による社会課題解決事業を行うソーシャルデベロップメント推進室を設立。企業のSDGs推進支援、自治体・ソーシャルセクター とのコレクティブインパクトを目的としたプロジェクト企画〜運営の実績多数。

板垣 和水

板垣 和水

イベント企画・記事編集
慶應義塾大学在籍中にITベンチャーでのインターンに2年間従事。オウンドメディアのSEOやチームマネジメント、100本以上の記事ディレクション/ライティングに携わる。卒業後サーキュレーションに入社し、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。

※プロフィール情報は2022/03/08時点のものになります。

現在のESG投資に関する動向とESG経営の必要性

近年ESGにまつわる社会的動向は著しい動きを見せているが、2021年6月のコーポレート・ガバナンス・コードの改訂が記憶に新しい人も多いだろう。企業はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)とも関連して、サステナビリティを巡る課題への取り組みを明確に求められている。
実際に世界のESG投資総額は2021年時点で3880兆円にものぼっており、もはや企業活動とは切っても切れない存在だ。

いよいよ自社としてもESG/サステナビリティ経営に乗り出すべきだという意思決定をしている企業も多いであろう一方、どのように自社の事業と絡めて取り組むべきかは迷いどころとなる。

【事例】連年ESG構成銘柄入りを果たすNRIのサステナビリティ経営

今回登壇いただいた本田氏はNRI(野村総合研究所)において、2014年頃からサステナビリティ経営に携わってきた人物で、著書に『イチからつくるサステナビリティ部門』がある。今後新たな領域へと取り組む多くの企業の大先輩として、NRIにおけるサステナビリティ経営の全容について伺った。

株価が10倍にまで成長したサステナビリティ推進の成果

そもそもNRIがサステナビリティ経営に乗り出したきっかけは、「サステナビリティが株価の安定性につながるのではないか」という発想からだったという。競合他社の株価が業績に左右されず安定化している要因として、サステナビリティが見出された形だ。
9年にわたる取り組みの結果、NRIは株価が一時期10倍にまで成長した。

本田:構造的な視点でいうと、ESG投資家はサステナビリティに優れた企業に対して長期的に資金を投じてくれます。頻繁な出し入れがないため、業績が変わっても株価を下支えしてくれているのです。自動車でいうならスタビライザーのようなものですね。

現在NRIはインデックスにおいて評価が高く、ESG株式指数のほとんど全てにNRIが選出されている。その背景にあるのがCDP(Carbon Disclosure Project)やSBT(Science Based Targets)といった国際機関、格付け・評価機関に対する動きであると本田氏は語る。

信澤:CDPはかなり重要視されている指標の一つであり、そこで高い評価を得ることでインデックスにも効果が現れるということですね。

NRIのサステナビリティ経営を理解する4つのポイント

サステナビリティ経営において数字的な成果を出しているNRI。その中で、経営者が理解しておくべきポイントを4つ挙げていただいた。

[Point.1]サステナビリティ用語の理解

信澤:1つ目がサステナビリティの定義をしっかり理解するということですね。これはどういった意味合いのポイントなのでしょうか?

本田:2014年当時は、同じ言葉でも使われ方が違うケースが頻発していました。例えば「サステナビリティ」という言葉を「企業の持続性」と思っている方が相当多かったのですが、本来は地球や社会の持続性を求め、企業がそれらに考慮して経営していく、という意味合いです。
「CSR」についてもよく「企業の社会貢献」と勘違いされているのですが、実際は「社会的責任」です。現代社会における企業の社会的責任というのは、地球や社会の持続性を考えることですから、サステナビリティとほぼ同じ意味です。
また「ESG」というのも本来は環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字を取った言葉であり、投資用語というよりもサステナビリティを見る上で重要な3つの観点と考えたほうがわかりやすいと思います。

[Point.2]ESGのスコープ定義

次のポイントがESGのスコープ定義だ。NRIにおいてはサステナビリティを3つの領域で切り分けて考え、メインスコープを定めているという。

本田:領域の一つが、スライドの下の部分に書いてあるネガティブインパクトの抑止。社会に対してマイナスの影響を与えないという意味で、まずはここをしっかりやっていくことにしました。今はCO2を出すのも「悪い会社」なので、こういったことを抑えていきます。もう一つがポジティブインパクトを促進していく事業外の社会貢献活動――寄付やボランティアなどですね。最後の一つが、事業を通じた社会課題解決です。
ポジティブインパクトの促進は、ネガティブインパクトの抑止がしっかりできていないとなかなか進められません。

[Point.3]ESG投資のステークホルダー

信澤:ポイントの3つ目がESG投資のステークホルダーをきちんと理解するということですが、このあたりはこれからESGの情報開示をする企業様にとっては実態が見えない部分もあるかと思います。

本田:上記は、ESG投資家が企業に投資を行う構造を示しています。真ん中にある年金基金などの機関投資家がESG投資家にあたりますが、彼らは企業に直接投資はしません。アセットマネージャーと呼ばれる運用機関に委託をし、運用機関が実際に企業に投資をするわけです。運用機関は企業に対して話を聞くなどエンゲージメントを行うほか、まずは企業HPや統合レポートを通して企業から情報を得る、あるいはインデックス会社が作るESG株式指数に従い投資を行います。
インデックス会社もアンケートを採ったりしながら情報収集を行いますが、さらに格付け・評価機関の情報も見ます。ですから企業はここに対していろいろな情報を出す必要があり、その一つがCDPなんです。では、CDPに認めてもらうにはどうしたらいいかということで登場するのが、一番左にある国際機関のイニシアチブです。TCFD、SBTなどのフレームワークの認定を取得します。
このような形で、企業は多くの登場人物に対してさまざまな活動をしていかなければなりません。

[Point.4]社内浸透のステップ

最後のポイントは社内浸透だ。サステナビリティ経営は会社全体の取り組みであるために社内の巻き込みが必要となるが、優先度としてはネガティブインパクトの抑制、そしてポジティブインパクトの促進の順で行う。

本田:我々の場合は関連方針を作る本社機構の社員や社長を含む本社役員にサステナビリティ経営を理解してもらった上で、事業部の役員、そして社員という順に展開を行いました。
具体的な時間軸としては、2014年から本社機構が環境推進委員会を中心に段階的に活動をスタートし、本社の人間も委員会に巻き込みながら醸成していきました。2017年頃からはこれがサステナビリティ推進委員会という形に変化し、この段階から登場したのが社会価値創造推進委員会です。同委員会では社内でどういったCSV活動を行うのかを議論し、ある程度固まった段階で生まれたのが価値創造推進委員会です。ここから社員に展開を行いました。また価値共創リーダー活動においては、社員の中でも将来を背負って立つような若手がインフルエンサーとなって広めていく形を取っています。

企業価値を上げる成長戦略としてのESG経営に必要な4つのテーマ

サステナビリティ経営理解のために最低限押さえておくべき考え方をご紹介したところで、続いては具体的に企業価値を上げる成長戦略としてのESG経営に必要なテーマについて教えていただいた。具体的には「情報開示関連」「事業戦略関連」「環境関連」「社会人権関連」の4つだ。

[Theme.1]情報開示関連:外部評価の内容を分析して改善していくことが重要

本田氏が重視するネガティブインパクトの抑止という面においては、企業の透明性――すなわち、非財務の情報をいかに網羅的に開示していくかがポイントとなるという。報告書の形態は統合レポート、人権報告書、サステナビリティブックなど多種多様。特にESGデータブックについてNRIの場合は、2016年頃から開示し始めて現在は200P近いボリュームになっていると本田氏は語る。
各種報告書を作成するにあたって注力すべき部分は、DJSIの評価推移とベンチマーク分析によって炙り出していくことが重要だ。

本田:評価機関がカテゴリごとに自社がどのポジションにいるのかを毎年見せてくれるので、数値が低い部分を直していきました。現段階では大きな穴がない状態にまでなっています。最初の段階は大きなくくりで見て、穴を潰す作業が必要になりますね。

信澤:さらにベンチマークがどういう情報を出しているのかも見ていくと。

本田:成績の良い同業他社がいれば、分析結果を使っていくのがいいですね。

[Theme.2]事業戦略関連:NRIは多数の国際的イニシアチブへ参画

信澤:事業戦略関連でNRIが具体的に取り組んだのがイニシアチブへの参加、マテリアリティの改訂、TCFD分析ということですが、今日はイニシアチブとTCFD分析について触れたいと思います。
NRIさんはほとんどのイニシアチブに参加されていると言っても過言ではありませんね。ここはどういう意識で攻めていくことになったのでしょうか?

本田:イニシアチブに加盟するといっても、単に署名をするだけの場合もあります。とはいえやはりイニシアチブというのは国際的な方針でありフレームワークなので、会社としてそれらに賛同している姿勢を見せることがまず重要です。

信澤:姿勢を見せるからこそ、社内のPDCAが回りやすくなる部分がありそうですね。

続いてTCFDシナリオ分析についても教えていただいた。改めてTCFDとは、金融安全理事会が作成したタスクフォースであり、2020年9月時点で1419機関が署名している。NRIは2018年にTCFD最終提言の支持を表明し、グループ事業全体としてのリスク・機会の特定を行った。

本田:2019年には、IT企業として持っているデータセンターの電力使用に集中的に取り組む方針で財務インパクトを出しました。その後の3年で、全事業に段階的に展開していく計画です。

信澤:その中で財務インパクトの分析例として挙げていただいたのが以下ですね。

本田:これは当社の中で最も大きな存在である証券ソリューション事業に対して、どんなインパクトがあるのかを示したものです。1.5度シナリオの場合は低コストで売上がプラスになり、3~4度だとマイナスになることを示しています。

[Theme.3]環境関連:環境目標の策定・改定

さらに環境関連の目標作成及び改定もESG経営には欠かせない。本田氏は「どんな企業も環境はまず取り組むべき」としている。

本田:NRIの場合は2030年までに2013年度比で温室効果ガス排出量72%削減を目標として出していました。しかしこれはつい先日改定を行い、100%削減にしました。すでに来年度には90%の削減が見込まれ、目標に意味がなくなってしまったためです。

信澤:具体的にはどのような形で100%削減にまで向かってきたのでしょうか?

本田:グリーンファイナンスのサステナビリティリンクボンドという債券を発行し、資金を50億円調達しました。これをデータセンターの再エネ化に充てることで、現状90%削減にまで至っています。

そのほか税法も活用するなど、NRIは国の支援を積極的に活用している。これはNRIが掲げる「未来創発」という企業理念を体現するため、自社のやり方を他社にも真似てほしいという思いがあってのことだと本田氏は語る。

[Theme.4]社会人権関連:ESGで求められる「ビジネスにおける人権問題」とは

近年注目度が高まっている人権関連の問題もポイントとなる。例えば強制労働や人身売買など現代奴隷問題をはじめ、ダイバーシティ&インクルージョン、人的資本課題などが一例だ。

信澤:人権は国際的に見るとさまざまな決まりが動き始めている点も踏まえ、NRIはどういった形で捉えているのでしょうか。

本田:環境と同じく、方針は当然必要ですね。我々はIT企業なのでAIによる差別の可能性があることを考慮し、AI倫理ガイドラインの策定などを行っています。

NRIのサステナビリティ推進体制

最後にご紹介したいのが、NRIが実際にどのような体制でサステナビリティ推進を行っているのかという点だ。NRIコンサルティング事業本部の調査によると、時価総額1兆円を超える企業のサステナビリティ部門の平均人数は16.5名。一方でNRIの場合は主務5名、兼務2名の合計7名という少数精鋭体制だという。

本田:できるだけ他部門と協力したりアウトソースを図ったりしているので、社内は必要な人間だけが動く形にしています。中途採用で即戦力を採用しているのも特色ですね。

またサステナビリティ推進人材に必要な能力についても軽く伺って、ウェビナーの締めとした。

本田:能力的には海外経験や英語能力があり、多様な文化を受け入れられる素養がある方に参画いただきたいと考えています。

信澤:人数よりもスキルセットにこだわってチームを作っている印象ですね。

今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。経営者のためのESGにご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
経営者のためのESG ―連年ESG構成銘柄入りを果たすNRIの事例に学ぶ、企業価値を高めるESG経営のポイントとは?―
本ホワイトペーパーは、2022年3月8日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。ESG/サステナビリティに取り組むことの重要性を感じつつ実践できていないとお悩みの皆様に向けて、ESG評価トップ企業であるNRIの実践事例をもとに企業価値を高めるESG経営のポイントをご紹介しております。