最新の顧客開拓モデル、コミュニティマーケティング実践入門 ―マスマーケに依存しない、共感で集める顧客開拓マーケティングとは?―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2021/11/11回では、一方通行のマーケティングに限界を感じ、打ち手を模索する皆様に向けて
近年業界を問わず注目が集まり始めた「コミュニティマーケティング」の第一人者 小島氏に、コミュニティマーケティングの本質と可能性についてご紹介いただきました。
「新規顧客獲得、売上獲得が伸び悩んでいるが次の打手が思いつかない」
「自社のプロダクト・サービスとコミュニティマーケティングの相性がよいか分からない」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
小島 英揮氏
コミュニティマーケティングの第一人者
PFU、アドビシステムズを経て、AWS(Amazon Web Services)の日本法人で、マーケティング部門のヘッドとして従事。AWS在籍中に、日本最大規模のクラウドコミュニティ「JAWS‐UG」を発足させ、多くのエンジニアがコミュニティを通じて新たなビジネスや価値創出に関わるモデルを確立、日本のクラウド業界全体に大きな貢献を果たす。AWS退職後、国内外でAI、決済、コラボレーションなどの分野でサブスクリプション系のビジネスを展開する企業のマーケティングやエバンジェリスト業務をパラレルに推進中。
鈴木 貴大氏
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
大手人材紹介会社にてトップセールスとして活躍後、創業期のサーキュレーションへ入社。支社長として東海支社を立ち上げた後に独立。 フリーランスとして複数社で事業開発、営業統括、役員等を務めた後、再びサーキュレーションに参画。現在は首都圏のメガベンチャー・急成長IT企業を担当するセクションの責任者。最先端テクノロジーを駆使した新規事業開発、DX推進に向けた経営戦略策定~組織編成支援など変革プロジェクトの実績豊富。
板垣 和水
イベント企画・記事編集
慶應義塾大学在籍中にITベンチャーでのインターンに2年間従事。オウンドメディアのSEOやチームマネジメント、100本以上の記事ディレクション/ライティングに携わる。卒業後サーキュレーションに入社し、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2021/11/11時点のものになります。
Contents
人口減少とSNSの台頭で限界を迎えているマスマーケティング
日本の人口減少とともに内需の減少傾向が続くことはもはや自明であり、これに伴って従来の新規顧客の開拓手法は、限界を迎えていると考えられる。ただでさえ企業同士が少ないパイを争う形になるだけではなく、スマホ、SNSを始めとした新規ツールの台頭によって、マスメディアの可処分時間が分散しているからだ。
例えば、2015年に比べると1日にテレビを見る20代以下の人の割合は5年間で20%も減っており、今後これが上昇傾向に移るとは考えづらい。さらに、SNSを通して「企業」ではなく「個人」の発信が注目されるようになったことも見逃せないポイントだ。消費者が広告ではなく、「誰が何を言っているのか」を見極めて、商品・サービスの購入を検討する時代になっている。
マスマーケティングは存在し続けるとしても、「とにかくマスメデイアに露出し、多くの人に自社の商品・サービスを知ってもらう」ことによる効果は、従来ほど見込めなくなった。そんな中で台頭してきたのが、「コミュニティマーケティング」の存在なのだ。
AWSを成功に導いた小島英揮のコミュニティマーケティングとは?
講師の小島氏いわく「選べるチャンネルが無限にある」現代において、新規顧客獲得のためには発想の転換が求められている。今回のウェビナーでは、そのヒントをコミュニティマーケティングから探っていく。
AWSでコミュニティマーケティングの有用性を実感した小島氏
小島氏は長年一貫してマーケティングに携わっており、AmazonのAWSの立ち上げに初めての日本人社員として関わった経歴を持つ。Amazonを2016年に退社した後は、コミュニティマーケティングをビジネスに活用するための支援を数多く行っている、「コミュニティマーケティングの伝道師」だ。
Amazonに所属していた当時、「新しい概念を世の中に広げる際に、コミュニティがどれくらい上手く機能するかを体験した」と小島氏は語る。まだクラウドの有用性について懐疑的な声もある中で、小島氏はAWSのユーザーグループであるJAWS-UGを立ち上げた。実際にAWSを活用している人が情報を発信するコミュニティの中では情報が伝わりやすく、ユーザーは行動に移りやすいことを強く実感したという。
現在JAWS-UGの登録者は4万人、ユーザー主体のイベントは年間200回以上開催されている。
AWSを例にコミュニティマーケティングを端的に捉えるならば、「自社のサービスや製品の良さを、既存顧客が新規顧客へと伝えてくれる」ものだといえるだろう。
コミュニティマーケティングを理解するための4つのポイント
AWSのようなコミュニティマーケティングを実施するには、4つのポイントがあるという。それぞれがどういう意味を持っているのか、小島氏に解説していただいた。
point.1:ファーストピンを狙う
まず「ファーストピン」とは、ボーリングにおける一番先頭のピンのことを指す。小島氏はこれをマスマーケティングとコミュニティマーケティングにおける、認知の広がり方の違いに例えている。
小島:ボーリングでは先頭のピンに当て、ピンがピンを倒すことで10本全てを倒しますが、これをマーケティングでやろうというのがコミュニティマーケティングの考え方です。広がり方を図に表すと、従来のマスマーケティングのパネルとは逆になります。
マスマーケティングにおける認知、検討、利用の流れは図にある通りなのですが、問題はステップが進むごとに人が減ることです。だからこそ入り口を大きくするためにコストや工数がかかります。
一方でコミュニティマーケティングは、「これ、すごくいいよ」と言ってくれるファーストピンになるファンを見つけて、その方に次のお客様を見つけてもらい、商品を勧めてもらう。それを聞いた人がさらに次の人に伝える連鎖を生むことができる。これが、ファーストピンを狙う重要性につながります。
では、どのようなファンがファーストピンとなり得るのかというと、必ずしも購入数、利用数が多い人がファーストピンではないと小島氏は語る。商品・サービスをおすすめしてくれる真のヘビーユーザーを発見するには、ファンとたくさん会い、その人たちの満足度を測れる場を設ける必要があるのだという。
point.2:オープン×関心軸を狙う
次のポイントはオープン×関係軸だが、これは世の中にあるさまざまな「コミュニティ」を4象限で位置付けしたときに狙うゾーンを示した言葉だ。
小島:コミュニティマーケティングの対象として理解したいのは、住んでいるところや所属している組織ではなく、商品や考え方といった「関心軸」で集まっている人たちです。
また、コミュニティマーケティングは「ビジネスを大きくするためにコミュニティとどう付き合うか」という話なので、少ないメンバーと固定的なエンゲージメントを作るのではなく、どんどん新しい人に入ってきてもらいたい。
以上の点から、オープン×関心軸というセグメントで、コミュニティマーケティングの「コミュニティ」を考えることが非常に重要です。
point.3:コミュニティを通して売る
次のポイントが、小島氏の著書『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』の中でも特に手厚く解説されている“Sell Through The Community”――すなわち、コミュニティを通して売るということだ。
小島:コミュニティを通してもっと買ってください、もっと売ってくださいと言い続けると、その場にいる人は飽き飽きしてしまいます。それに、コミュニティに参加した50人に「買ってください」と言っても、あまりスケールする感じはしませんよね。
コミュニティマーケティングでやりたいのは、使っている人に自分の言葉で良さを表現してもらい、それに影響を受ける人が生まれるというモデルです(コミュニティに参加した50人から、次の100人、1000人に伝わるようなモデル)。ビジネス的に言えば、見込み客の拡大を行うわけです。
鈴木:コミュニティの人が見込み客の人に話すというのは、いわゆるクチコミとは違うものなのでしょうか?
小島:似ている部分はあります。ただ、実際のクチコミは知っている人に会わないとできないものですし、井戸端会議で終わってしまってはやはりスケールしませんよね。
スケールするには、「知らない人だけどあの人の言うことには共感できる」と思ってもらう必要があります。そこで必要なのが、口で伝えるだけではなく「こんな風に使ってみてすごく良かった」という情報をアウトプットしてもらうということです。それはTwitterかもしれないし、ブログかもしれないのですが、いろいろな形でアウトプットをしてもらい、見た人が「真似をしたい」と思うことが大事です。クチコミとは違い、「コンテンツが継続的に人を口説く」のがコミュニティマーケティングだと思っていただくと良いかもしれません。
point.4:新規獲得マーケティング
小島氏が語る「顧客によるアウトプット」も含め、コミュニティマーケティングによって新規顧客が拡大していくループを示したのが以下の図だ。こうした流れを構築することが、コミュニティマーケティングでは大きなポイントとなる。
小島:このサイクルが回りだすと、雪だるまのように新しい人が巻き込まれ、共感者が増えていきます。単に顧客のエンゲージメントを高めるユーザー会ではない、新しい新規顧客獲得を目的としたアクションです。
コミュニティマーケティングを自分ゴト化するための3事例
ここからは、実際にコミュニケーションマーケティングを行っている企業の事例について、小島氏の解説とともにご紹介いただいた。
それぞれサブスク、ニッチマーケット、新規事業といった領域で分かれているため、自社に照らし合わせて共通点のある事例に注目していただきたい。
【事例1】SaaS、サブスク型のサービス:Salesforce
小島:SalesforceさんはIT業界のコミュニティでも最も成功している事例の一つです。ポイントとなっているのは、製品をどう使うのか、社内の稟議をどう上げれば導入できるのか、社内の啓蒙はどうすれば良いのかといった情報を、実際の利用者に話してもらうことです。
鈴木:これはカスタマーサポートの効率化を狙っているわけではないのですか?
小島:お客様がお客様をサポートすることでカスタマーサポートへの問い合わせ件数は減るかもしれませんが、「サポートコストの削減」として見ると、小さな取り組みです。それよりも重要なのは、満足するユーザーが圧倒的に増えるということでしょう。顧客が本当に欲しかった情報が生み出され、流通し、成功者が増えていくというのが、このモデルの一番大事な部分です。
なぜなら、SaaSは気に入らないと思ったらいつでもやめられるサービスだからこそ、常に満足してもらうことが非常に大切だからです。その点、満足している人の使い方を知ってもらうと引き止め策になる。チャーンレートの低下に直結するんですね。
そう考えると、コスト削減策というよりはチャーン防止であり、新規顧客の開拓、さらにはクロスセル・アップセル施策だと捉えられるのではないでしょうか。
【事例2】ニッチマーケット向けサービス:ヤッホーブルーイング
続いての事例は、「よなよなエール」をはじめとしたクラフトビールメーカー「ヤッホーブルーイング」が展開するコミュニティだ。
ビール市場のシェアはわずか1%程度のクラフトビールというニッチな領域においては、SaaSと同様、継続して購入し続けてもらうことが重要であり、そのためには「ニッチなファン」を増やしていく必要があるという。
小島:実際に彼らがもともと行っていたのは、「超宴」というオフラインの会合などです。最近はオンラインで展開していますが、クラフトビールの良さやヤッホーのビールのおすすめの飲み方などをお互いが伝え合うような場を、一生懸命作っています。
すると、ユーザーの方は自分の「好き」を確認し、肯定し、さらに商品が好きになります。ここで言う「ファン」とは、やはり商品のおすすめ活動ができる人です。「よなよなビールいいよね」「新しい味を飲んでみたけどいいよ」といった形で商品をおすすめすると、もともと飲んでいる人は継続して購入し、新しいファンも増えていきます。
実際にヤッホーさんでは、誰かにおすすめされて購入した人や、ユーザー発信のコンテンツを経由してECで購入した人の比率が非常に高いことがわかっています。
【事例3】新規事業:青山商事
鈴木:これまではすでにファンがいる企業での取り組み事例でしたが、そもそもファンがまだいない、どう作っていけばいいのかかというところで悩まれている方も多いです。その視点でご紹介いただくのが、青山商事さんの事例だとお伺いしています。
小島:青山商事さんの事例は、僕が今まで見聞きした中でも非常にユニークなものです。「洋服の青山」がコミュニティを立ち上げると聞けば、青山のファンからスタートしそうですが、そうではありません。コロナ禍やクールビズなどの影響によって背広やスーツ着るシーン・人口が減っていく中で、青山さんは「ビジネスに寄与する仕事着を提供する」ために、オンラインで自分を上手く表現できる、快適に仕事をできる装いを一緒に考える仲間を求めました。わかりやすく言えば今のファンではなく、将来のお客様です。現代のビジネスの装いに興味関心がある人、オンラインで何を着たらいいのかわからない人たちをまず集め、議論を通して新しいプロダクトやサービスを考えていくことにしました。いわゆる共創ですね。
2021年10月5には、実際にコミュニティで考えた「リモートワークにぴったりなジャケット」がクラウドファンディングを通して世に出ています。
企業のフェーズや目的に応じて大きな効果を発揮するのがコミュニティマーケティング
Salesforce、ヤッホーブルーイング、青山商事。これら3つの事例それぞれから読み取れるのは、以下のような3つのポイントだ。
コミュニティマーケティングはチャーン防止やLTVの向上、ファンとの共創などさまざまな視点での活用が考えられる。自社の商品・サービスがどのようなフェーズにあり、その上でどのようなコミュニティモデルを創り上げたいのか、まずは事例を踏まえながら想像してみることが大切だろう。
実践から読み解く、コミュニティ立ち上げの3ポイントとは
実際にコミュニティを立ち上げるには、やはりいくつかのポイントがある。小島氏がここで提示するのが、WHO、WHEN、WHATという3つの要素だ。
果たしてコミュニティマーケティングはどんな体制でどんな時期に立ち上げ、どのようなKPIを意識すべきなのか。それぞれ簡単に伺った。
[Point.1 WHO/体制]コミュニティマーケターの選定
そもそもコミュニティマーケティングにおいては、コミュニティをマネジメントする「コミュニティマーケター」の存在が必要不可欠だという。小島氏はコミュニティマーケターに必要なスキルを「マーケティングの理解」「会社に対しての交渉力」そして「人に信頼される力」の3つだと定義するが、特に重視すべきは最後の「人に信頼される力」だという。
小島:コミュニティマーケティングはお客様と一緒に歩むものなので、「あの人の言うことは信用できない」と言われたら終わりです。ただ、このスキルは人から教えてもらうことができません。マーケティング知識はなんとか教えられますし、交渉が苦手でもまだなんとかなる。ですから選定の際は、まず人に信頼される力、次に交渉力、最後にマーケティング理解という順で見るのが良いでしょう。
[Point.2 WHEN/タイミング]コミュニティ立ち上げの時期
鈴木:コミュニティ立ち上げのタイミングについてはファンができてから行うのがベストということですが、青山商事さんの事例のように、ファンがいない状態から共創していく型もありますよね。
小島:そうですね。スライドでは通常型と共創型を記載しました。
小島:やはり、ファンがきちんと存在している状態からスタートするのが早いです。ファンがいないのであれば、いわゆるPMFをしっかり行って、ファンを作りましょう。
しかし、それを待っていられない、新しいビジネスをコミュニティと共創しなければならないという場合であれば、プロダクトのリリース前にコミュニティを構築することになります。そのために必要なのが、やはり「関心軸」です。どの関心軸で、誰と話をするのかを設定すると、近道になるでしょう。
[Point.3 WHAT/目標]意識すべきKPI
コミュニティマーケティングにも当然目標があり、それを定量・定性的に測っていく必要がある。
定量面では例えば、コミュニティの新規参加者数、参加者総数の増加率、そして参加者によるアウトプット――商品・サービスをおすすめするコンテンツがどれくらい生まれているかといった指標がある。
小島:定性面で測るべきなのは、「みんなが満足しているかどうか」です。また、ロールモデルとなるコミュニティのリーダーが育っているのかどうか、そしてコミュニティを通して得た情報を基に、ユーザーが実際の行動に移っているのかといったことも重要です。参加者がコミュニティを「自分ごと化」しているかどうかですね。
定性面はトラッキングが難しいので、コミュニティマネージャーやファシリテーターを務める人を固定化して、その人に定点観測してもらうのがおすすめです。
最新顧客開拓モデル:コミュニティマーケティング実践入門まとめ
今回のウェビナーのポイントを以下の図表にまとめた。小島氏は、コミュニティマーケティングとはすなわち、「想起の連鎖を生むもの」だとする。
小島:今までのマスマーケティングは認知を獲得するものでしたが、コミュニティマーケティングは特定のシーンで「思い出されるブランド」になるためのモデルだと思っています。想起の連鎖を生む仕組みがコミュニティマーケティングだと考えると、非常にパワフルな施策であるとご理解いただけるはずです。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。コミュニティマーケティング実践入門にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。