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【イベントレポート】スマート農業2030 ―食マーケットの変革を担うアグリテック事例と新規参入ロードマップとは?―

新規事業開発

18,000名のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月6~8回のウェビナーを開催しております。

2021/08/26回では、様々なビジネスへの参入を検討している新規事業責任者の方々に向けて
多くの企業の農業DX推進やアグリテックへの参入支援を行う藤原氏に、最新のアグリテック事例や参入検討時のポイントをご紹介いただきました。
「自社がアグリテック、スマート農業領域に進出すべきかわからない」
「自社のAIやセンサーがスマート農業領域にどう活用できるのかわからない」
こうしたお悩みを持つご担当者様はぜひご覧ください。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

藤原 大樹氏

藤原 大樹氏

AI・IoTに明るい食マーケットのDXコンサル
JFEスチールで高炉における省エネ設備に関する研究開発と実機化に携わり、省エネ設備導入による数十億円のコスト削減に成功。その後独立し、国内トップ10内の生産規模を持つ植物工場事業会社などで低コストかつ省力的なDX化を実現する技術コンサルや、IoT ツールやAI予測モデル・モニタリングシステムの作成と導入で様々な企業を支援している。

松井 優作氏

松井 優作

株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
早稲田大学卒業後、新卒一期生で創業期のサーキュレーションに参画しマネジャー就任。首都圏を中心に自動車や大手製薬メーカーなど製造業50社以上に対し、全社DXの推進・新規事業開発・業務改善・営業部隊の構築・管理部門強化などの幅広い支援実績を持ち、実行段階に悩みを抱える企業の成長を支援中。

新井 みゆ

新井 みゆ

イベント企画・記事編集
新卒で入社した信託銀行では資産管理業務・法人営業・ファンド組成の企画業務に従事。「知のめぐりを良くする」というサーキュレーションのミッションに共感し参画。約1500名のプロ人材の経験知見のアセスメント経験を活かし、サービスブランディング、イベント企画等オンライン/オフラインを融合させた各種マーケティング業務を推進。

※プロフィール情報は2021/8/26時点のものになります。

2030年を見据えた日本の農業・食マーケットのビジネスチャンス

データで見る農業分野の社会課題とデジタル技術活用の機運

VUCAの時代においてはどの業界も大きな変革を迫られているが、とりわけ農業分野においては解決すべき課題がかなり多く、その内容も目前に迫る危機として具体的にデータ化されている。
例えば労働力不足一つを取っても、深刻度合いは顕著だ。ただでさえ人口減少によって将来の働き手の不足が予測される中、世界の農業人口は30年間ですでに39%も減っている。
このほか、食糧不足や自然災害による生産被害、フードロスなど農業分野特有の課題の解決も急務となっている。

上記のような課題を受け、政府が積極的に支援しているのが「スマート農業」――つまり、先端技術を活用した農業のあり方だ。今後は参入企業も増加が見込まれており、市場規模は2030年までに6869億円、2019年度比で約10倍にも達するだろうと予想される。

多様な広がりを見せるアグリテック(=スマート農業)の領域

スマート農業と並んで着目したいのが、「アグリテック」というキーワードだ。農業を意味する「アグリカルチャー」と「テクノロジー」を掛け合わせた造語で、海外ではスマート農業とほぼ同義で用いられている。

アグリテックの文脈で覚えておきたいのが、「アクアポニックス」と「アグリテクチャー」という2つの単語だ。
アクアポニックスは水産養殖を意味する「アクアカルチュア」と水耕栽培を意味する「ハイドロポニックス」を掛け合わせた、循環型有機農業法を指す。
「アグリテクチャー」は農業を意味する「アグリカルチャー」に、建築を意味する「アーキテクチャー」を掛け合わせた言葉だ。こちらは、植物栽培などの農業要素を取り入れた建築物を指す。
「スマート農業」というと、機械による農作物自動収穫などがまっさきに想像されるが、現状としてはさまざまな方向性、分野での広がりが生まれているのだ。

事例で学ぶ、アグリテックの最新動向

【前提】アグリテックはどのように食マーケットの社会課題を解決するのか?

今回は講師の藤原氏にアグリテックの最新事例をご紹介いただくが、その前に先端テクノロジーがどのように農業を取り巻く社会課題を解決できるのか、以下のように整理した。

例えば、労働力不足に対して有効なのが農作業の機械化とデータの活用だ。これまで熟練者が長年の勘で行ってきたような作業をデータで体系化できれば、農業の技術継承も可能となる。また自然災害による生産被害には、室内生産など気候の影響を受けない生産が役立つ。さらに食糧不足やフードロスに対するテクノロジー活用のポイントは、「最小限のリソースで最大の生産をし、必要なときに必要なだけ出荷する」ということだろう。
上記のようなアグリテックの持つポテンシャルを踏まえながら、実際に農業、水産、そして酪農の分野でどのような活用が進んでいるのか、一つずつ見ていく。

【最新事例1】農業:植物工場での栽培や機械による農作業の自動化

1つ目は富士通の植物工場と、KUBOTAによる収穫機械の自動運転化だ。

藤原:植物工場では、栽培環境自体をコントロールして、生産効率高く野菜の栽培を実現していこうとしています。収穫機械の自動化も、AIを組み込むことで効率化していくといった活用が考えられます。

松井:このほかにもドローンで見回りを自動化したり、農薬を自動散布するようなことも積極的に検討されているようですね。

【最新事例2】水産:海洋データを可視化し水産業を効率化

松井:次が水産分野ですが、UMITRONはアグリテックベンチャー企業で、非常に注目されているかと思います。

藤原:衛星データなどを用いて魚群や海の状況を予測し、より水産業を効率化していく例ですね。

【最新事例3】農業+水産:アクアポニックスによる使用水量や手間の軽減

農業と水産は同じ食糧生産といっても全く異なる分野に思われがちだが、「アクアポニックス」という言葉もある通り、両方の要素をうまく掛け合わせた事例が登場している。

藤原:これは植物を育てるということと水産を組み合わせた例ですね。魚のフンなどを植物の肥料として利用することで、両者の要素を上手く活用する形になっています。

【最新事例4】酪農:人が見ていた動物たちの様子をIoTセンサーで収集・分析

最後にご紹介するのが酪農だ。酪農は生き物を扱う分人の目で見なければならないシーンが非常に多い分野だが、ここでも先端テクノロジーは活躍の余地がある。

藤原:動物の生態に関わる予兆や挙動、体調など今までなら人の目で見なければいけなかった部分を、AIを搭載したカメラで予測したり、アラートを鳴らすという形に置き換える技術が進歩しています。

2030年を見据えたアグリテック新規参入のロードマップ

数々の事例にもある通り、スマート農業の参入の裾野は非常に広い。では、具体的に生産者がこれに取り組もうとした場合にはどのようなプロセスを踏むべきなのか、以下のように体系化していただいた。

大きくは調査・計画を行うフェーズ1、そして実行のフェーズ2に分けられる。期間の目安はシステム導入までで2年6ヶ月と記載しているが、これは実際に藤原氏が携わってきたプロジェクトを鑑みての数字だという。植物や動物を扱うという点で、スマート農業はどうしても長期的なプロジェクトにならざるを得ない側面がある。
ここも踏まえながら、ロードマップの具体的な6つのステップについて解説いただいた。

フェーズ1:調査・計画

概要設計

参入の第一段階は概要設計だ。ここでの目標は生産品種候補を決めることで、10種類程度はシミュレーションすべきだと藤原氏。

藤原:「そのとき売れるであろう品種」を選定するとは思うのですが、1品種決め打ちにしてしまうと、後々市場や情勢が変わってしまった場合に対応できません。複数の生産品種を検討しておくことで、設備やシステムに拡張性を持たせることが重要だと考えています。

生産品種の絞り込み

次のフェーズでは、生産品種の候補をさらに絞り込んでいく。

松井:重要なのはその品種がしっかり売れるものなのか、地域特性も含めて調査をして意思決定していくということだそうですね。選定の際は何がポイントになるのでしょうか?

藤原:露地であれば、当然選んだ品種が生産できるかどうかが重要ですし、輸送経路についても市場や消費地からの距離を見ます。あとは小売や業務用など、売り先がどのような構成になっているかを勘案する必要があります。

松井:具体的に売れる商品がどのようなものなのかは、事前に調査をすると明らかになるのでしょうか?

藤原:自分の足でいろいろと見ることが重要になりますね。

生産品種の決定

フェーズ1の最後は、ここまでに調査した情報を基にいよいよ生産品種を決定する。このときありがちなのが、生産方法を決める際、メーカーの既成の工場の型のみでイニシャルコストを算出してしまうケースだという。ここには、未成熟なアグリテック領域ならではの事情があった。

松井:直感的には既製品のほうが安いのかと思ってしまうのですが、必ずしもそうではないのでしょうか?

藤原:家電製品のように量産化されていて、機能も決まりきっているのならそれだけ安くなるのですが、この分野にまだ完成した技術はありません。そうなるとメーカーがすでに作っているものに対して自分たちで考えたカスタマイズをすることで、コストダウンできる要素が残っているのかなと思います。

フェーズ2:実行

工場建設の用地決め

生産品種の具体的な要件を定めた後、ようやくフェーズ2、実行段階として工場建設のための用地検討をスタートする。前述で藤原氏が触れたように、輸送コストなども含めた慎重な判断が必要となるのは言うまでもない。

松井:先に建設地を決めてから品種を決めるケースもあると思うのですが、これは失敗要因の一つなのでしょうか?

藤原:例えば「電気代の補助が出てコストが下げられる」という理由で用地を決めてしまうと、補助が終わったときに収支が成り立たなくなることがあります。可能なかぎりコストを下げる努力をした上で、補助などを考慮することが重要ですね。

品種の選定もしかり、ことスマート農業の推進に向けては、常に長期スパンを頭に入れた意思決定が必要になるといえるようだ。

システム導入

松井:システム導入の検討はかなり重いプロセスですが、特にお伝えしたいのは、自動化できる部分とそうでない部分を切り分けて選定していくということかと思います。ここでよくある失敗は、どのようなものですか?

藤原:自動化機械なんかは良いメーカーがたくさんあると思うのですが、それを全てメーカーのお任せのような形で導入してしまうと、機械が止まったときに生産も止まってしまいます。夜間や休日など、メーカーが対応できないことがありますから、ある程度は自社で気候などに関する知識を理解しておかなければいけません。

SCMの最適化

システム導入後は継続してデータを収集、蓄積、可視化し、その上で収穫の効率化を実現していくサイクルが生まれる。その中では、SCM(サプライチェーンマネジメント)の最適化も必要だ。

松井:サプライチェーン全体で生産予測や廃棄、販売機会の損失の削減を行うことが農業を取り巻く課題解決の手段かと思うのですが、実際にここにはどんな取り組みがあるのでしょうか。

藤原:生産者であればその土地の流通企業と連携して土地の湿度状況を共有したり、仲卸や販売者とつながる中で市場状況をリアルタイムで見るといったことですね。そのためのプラットフォームが登場していろいろな情報が集まれば、SCMの最適化は実現しやすくなると思います。

企業のアグリテック領域への新規参入可能性

6ステップのロードマップに照らし合わせて、具体的にどのようなプレイヤーにアグリテック領域への新規参入可能性があるのか、以下にマッピングしていただいた。

藤原:初期設計から絡むのが、設備や機械、デジタル技術をどうするのかという観点ですね。生産品種の絞り込み段階では、種苗企業と話をしていくことになります。工場建設の段階では空調など建屋の検討が必要になりますし、システム導入時にも再びセンサーやモニターなど、デジタル技術が登場します。あとは、廃棄のリサイクルや処理、電気、エネルギーといった分野も関わるでしょう。

松井:上記図をさらにテーマで区切ったのが以下のスライドです。例えば横軸にあるIT業界のプレイヤーが参画するとしたら、例えばプラットフォームやトレーサビリティを担保するようなブロックチェーンのシステムなどの開発があるかと思います。
この中で、藤原さんが特に注目されている領域はありますか?

藤原:ドローンは注目されていますね。開発して現場に投入する部分の参入自体は障壁が低いのですが、法規制や導入後の運用に壁があるということで、図の真ん中あたりの立ち位置として考えています。

松井:ARやVRの領域でいうと、どんな用途があるのでしょうか?

藤原:さまざまな設備や機械を、いつ、誰が、どうメンテナンス・設定をしたのかを、スマホやタブレットを通して見るといった活用があります。現在製造業で実施され、成熟してきた技術がアグリテック領域にも下りてくるようなイメージです。

外部のプロ人材参入がアグリテック新規参入の成功確度を高める

ここまで解説してきた通り、アグリテック領域は農業特有の検討事項が多い。ゼロからスタートする事業者の場合は外部のプロ人材の活用も欠かせないものとなるだろう。
この点で、藤原氏が実際に企業を支援する場合にロードマップ上ではどのような取り組みが行われるのか、まとめていただいた。

松井:藤原さんは概要設計のところでよくシミュレーション作成を実施するということですが、これはどういうことなのでしょうか?

藤原:初期段階では何をどのくらいの生産効率で使えるのかがわからないものなので、大体の現実感をお伝えします。それから品種の絞り込みについて具体的に一緒に検討し、アドバイスさせていただくような形ですね。

失敗しやすいポイントとしてどの工程にも共通するのは、「生産することが目的になってしまった結果、設備や品種が決め打ちになり、拡張性の余地がなくなってしまうこと」と藤原氏。

藤原:お客様の存在と持続性をきちんと意識することが重要だと思います。

松井:農業領域そのものが社会課題の一つですから、取り組む意義は強い。一方で、それが先行して後工程の収支シミュレーションが甘くなってしまった結果、失敗するケースが多いということですね。

スマート農業2030まとめ

今回のウェビナーのポイントを、「すぐに取り組んでいただきたいこと」として以下の3点にまとめた。

今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。スマート農業2030にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
スマート農業2030 ―食マーケットの変革を担うアグリテック事例と新規参入ロードマップとは?―
本ホワイトペーパーは、2021年8月26日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。食マーケットやアグリテック市場への参入を検討されている皆様に向けて、農業DX推進やアグリテックへの参入支援を行う藤原氏の経験をもとに、最新のアグリテック事例や参入検討時のポイントをご紹介します。