【イベントレポート】ブロックチェーン事業の創り方 ―ブロックチェーン3社創業のプロが語る、最新事例と技術活用ポイント―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2021年7月14日は、先端技術を実際のマーケットニーズと結びつけて事業にまで落とし込む作業に困難を感じている新規事業責任者・経営企画室長の皆様に向けて、ウェビナーを開催いたしました。
今回ご登壇いただいたのは、ブロックチェーンを利用した仮想通貨交換取引所「c0ban」をはじめ、幅広い業界でデジタルサービスの立ち上げを手掛けてきた小林氏。小林氏が時代の三歩先を読んで事業を立ち上げたからこそ体験した成功と失敗について、実際の事例を基にお話しいただきました。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
小林 慎和氏
戦略コンサル出身、ブロックチェーンなど最先端技術を活用したサービス立ち上げのプロ経営者
野村総合研究所上級コンサルタント、グリーの海外責任者を経てアジアにて複数社起業。帰国後、金融庁認可日本発の暗号資産「c0ban」を立ち上げバイアウト。現在は株式会社bajjiファウンダー兼CEOとしてブロックチェーンを活用したセルフケアアプリ”Feelyou”を開発しリリースから3ヶ月でGoogle Play ベストオブ 2020「隠れた名作部門」大賞を受賞。国内外で5社連続起業、創業支援10社の実績を持つシリアルアントレプレナー。
村田 拓紀
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部
FLEXY部マネジャー
中古車のマーケットプレイスシェア首位の企業にて拠点責任者、営業戦略策定、メンバーの採用から育成まで幅広く従事。IT企業を経てサーキュレーションに参画。現在はIT戦略における中期ロードマップ策定、IT企画人材育成に向けた技術顧問活用プロジェクトなどDX推進に舵を切る多くの企業を支援。
新井 みゆ
イベント企画・記事編集
新卒で入社した信託銀行では資産管理業務・法人営業・ファンド組成の企画業務に従事。「知のめぐりを良くする」というサーキュレーションのミッションに共感し参画。約1500名のプロ人材の経験知見のアセスメント経験を活かし、サービスブランディング、イベント企画等オンライン/オフラインを融合させた各種マーケティング業務を推進。
※プロフィール情報は2021/7/14時点のものになります。
Contents
2030年を見据えたブロックチェーン活用を取り巻く環境変化
コロナによって一時期停滞していたIT市場は、2021年からV字回復。将来的にも堅調な成長が見込まれる中、特にブロックチェーンの市場規模は今後大きな飛躍を遂げるとされている。実際、現在のブロックチェーンの市場規模は200億円と言われているが、これがわずか5年後の2025年には1000億円、5倍にまで拡大する予測だ。
ブロックチェーンの隆盛を物語るもうひとつの要素が、ブロックチェーン技術を用いた新たなビジネスの登場だ。注目度の高いところでは「NFT」や「スマートコントラクト」「P2P取引」などが挙げられる。金融仲介アプリケーションの「Defi(ディーファイ)」に着目している人も多いだろう。
さまざまなサービスが登場する中で、「我も」とブロックチェーン技術の活用に乗り出す企業は多いと予想される。一方、2030年を見据えてどのような事業を展開すれば成功できるのかを探るには、まだまだ事例が少なく未知数な部分がある。
小林氏が立ち上げた3つのブロックチェーン事業とは?
そこで今回ご登壇いただいたのが、ブロックチェーン技術を用いた事業をすでに3つ立ち上げている小林氏だ。内訳は、ブロックチェーン黎明期に立ち上げたのが仮想通貨取引を行う「c0ban」、次にコロナ禍にリリースされたセルフケア領域のアプリ「Feelyou」、そして情報管理を行う分散型データストレージ「IPFS SOUKO」。
まずはすでに運用に成功している前者2つの事業について伺い、後半は新規サービスであるIPFS SOUKOについて、詳しく解説していただいた。
【広告と仮想通貨】中立的にトランザクションを知れるイノベーション
ひとつめにご紹介するのが、仮想通貨取引所c0ban。2016年に生まれた同サービスの特徴は、動画広告配信プラットフォームを保有していることだ。ユーザーが配信されている広告を視聴すると、c0banを獲得できる仕組みになっている。
当時、まだ法整備が整っていなかった仮想通貨業界ならではの苦労は多かったというが、c0banはローンチ以降成長を続け、時価総額は最大300億円にまで上る成功を収めた。
c0banがブロックチェーン業界におけるイノベーション足り得たのは、「動画を見たら仮想通貨がもらえる」という仕組みがあったからではない。本質的な意義となったのは、ブロックチェーンによって中立的にトランザクションを知ることができたことだ。
小林:今もこれからもそうだと思いますが、企業が社会的責任の中で中立性を担保するのは当たり前です。その一方で、残念ながら不正は後を絶ちません。一部のデータが改ざんされるといったことがあります。しかし、全てがネットワークでつながったデータ社会の在り方を考えると、人間が介さずとも中立的に透明性・公平性が担保できる仕組みが求められます。それがブロックチェーンです。
ブロックチェーンを利用したc0banの広告は、「事業者もユーザーも、トランザクションを見に行けば『確かに広告が見られて、コインがユーザーに渡された』と公正なデータで確認できる」と小林氏。これは、広告業界の革命的要素だったのだ。
【セルフケア】公正なデータによって企業活動の信頼性を証明
もうひとつの事業が、感情日記アプリFeelyouだ。リリースは2020年7月で、開発の目的はコロナによってマイナスの影響を受けた人のメンタルケアだ。リリースからわずか3ヶ月で、Google Playのユーザー投票部門ベストアプリに選出されるほど反響があった。
本アプリはユーザーの感情をシェアすることがコンセプトとなっており、「ブロックチェーンでなければならない理由はそこまでない」と小林氏は語る。ブロックチェーン活用のポイントは、実はコンセプトの外側にあった。
小林:現在の社会的なトレンドは、地球規模で言えばSDGsです。メタルケアもSDGsではありますが、もっと踏み込めないかということで、Feelyouのアプリは使えば使うほどアプリ内で「木」がもらえるようにしました。その活動量に応じて、当社は森林を美しくするための事業にコミットする流れです。
我々はこれを「Feelyouサステナブルサイクル」と呼んでブランディングを行っていますが、ユーザーからしてみると「経営するだけでも大変なベンチャー企業が、本当に森林事業にコミットするのか?」という疑問が浮かびますよね。ですから我々の活動記録をブロックチェーンに残しておくんです。公正なデータを出すことによって、我々が一生懸命頑張っていることをアピールできるわけです。
村田:人のケアと社会のケアを、ブロックチェーンでしっかりつなげていったということなんですね。
ブロックチェーン活用の利点は「透明性」「中立性」「話題性」
ここまでにご紹介した2つの事業を通して見えてくる「なぜブロックチェーンを活用したのかという」理由を、以下の3点にまとめた。
村田:データの透明性を高めるためということと、利害関係が対立するものにとって中立性を保つためということ以外に、ホットトピックだからという部分もあるんですね。
小林:我々はベンチャー企業なので、資金調達をするためには話題性も重要ですね。
Web3.0の大きな鍵を握るFilecoin/IPFSとその活用方法とは?
最後にご紹介するのが、小林氏が今現在立ち上げに取り組んでいる「IPFS SOUKO」だ。サービスを簡単に説明すると「データリスクを考えた次世代分散データストレージ」ではあるが、それだけを聞いても全容はなかなか掴みづらい。
本項目では同サービスの立ち上げ背景から伺い、小林氏が今後どのようなシステムを提供しようとしているのか、概要を探った。
【立ち上げ背景①】ブロックチェーンに対する法規制整備が進んだ
サービス立ち上げの背景として大きいのは、ブロックチェーンに対する規制整備が進んできたことだ。もうひとつが、これまでは中央集権型だったWeb2.0から、分散化を図るWeb3.0への変化の潮流が見えてきたことだという。
村田:規制整備の進捗度は、簡単に言うと「落ち着いてきた」ということなのでしょうか。
小林:そうですね、金融サービスを取り扱う際の免許や仮想通貨交換登録といった制度、金融資産を預かる場合のカストディ業務の規制などのルールがはっきりしてきました。例えばNFTについても、今ある仮想通貨と何が違うのか、どんな内容が規制されるのかといったことが、現行のルールの中なら明確に見えると思います。さまざまな制度が定まったことで土俵の広さがわかり、ビジネス設計がしやすくなっています。
【立ち上げ背景②】中央集権的なWeb2.0から分散化を図るWeb3.0への潮流
村田:もうひとつの背景がWeb3.0への世の中の潮流ということですが、Web2.0においてはGAFAが大きな力を持っているイメージだと伺っています。ここについて、簡単に解説していただけますでしょうか?
小林:GAFAは生活インフラの一部だと思いますが、生まれたのはここ20年の話です。世界中の人がスマホを持ち何にでもつながるようになって便利ですが、実は大きな課題が生まれています。それを解決する次の段階が、Web3.0です。
上記のスライドの右側に並んでいるのは全て技術の名前で、キーとなるのが「分散化」です。
小林氏は、例えばFacebookの投稿でユーザーが「いいね」をたくさんもらうとFacebookは広告を出せて儲かるが、ユーザーには何の恩恵もないことをWeb2.0の課題例として挙げた。また、GAFAをはじめとするプライベートカンパニーが地球上のデータを独占している状態で起こったのが、トランプ氏のTwitterアカウント凍結だという。
Googleのクラウドにエラーが起きると、地震速報のようなニュースが流れます。もはやデータにつながることは上位の生活インフラになっているのに、それがプライベートカンパニーによって牛耳られているわけです。トランプ氏のTwitterは、強制的に凍結されました。それができてしまう仕組みをどうにか変えようという動きが、Web3.0なのだと思います。
分散型データストレージを可能にするFilecoinという技術への期待
Web3.0への動きがある中で、小林氏の手掛けるIPFS SOUKOに用いられているのが、Filecoinという技術だ。Filecoinは、これまでのような中央集権的仕組みを持っていた「データを預かる仕組み」の分散化を可能にする。
小林:我々はWeb2.0にある課題を解消した、中央集権で管理されないデータストレージの仕組みを作ろうとしています。この仕組みを用いると、仮に誰かの意思でデータが止められたとしても、分散化されることでどこかで生きているような状態になります。データの非中央集権化、つまり分散化を実現するのが、Filecoinというブロックチェーンです。
村田:「分散型データストレージとは何か」ということで、従来との比較を以下のスライドにまとめました。
村田:FilecoinはIPFSとの組み合わせが非常に面白い技術として、注目を集めていますね。
クラウドと分散型データストレージの違いとは?
さて、データストレージと言われると、多くの人が想像するのはクラウドサービスだろう。ウェビナーでは、データ分散型ストレージとクラウドの違いについても触れた。簡単に言えば、「クラウドの一部が分散型ストレージ」であると小林氏。
小林:分散型ストレージもネットワーク経由でデータセンターにアクセスして使用するので、広義のクラウドです。
ただ、例えばAWSのクラウドストレージは確実にAmazonが管理していますよね。Amazonが管理していないAWSはありません。Googleクラウドも同じく、Googleが管理しています。
一方でFilecoinとIPFSを活用した分散型データストレージは、一部をA社が、また別の一部をB社が、さらに別の一部をときには個人が管理します。全体としては大きな一つの仮想ストレージとして機能させ、安心安全にデータ保存を行う仕組みです。仮にA社が管理をやめてもストレージは残り、データは永久的に保存される。そういう違いです。
NonEntropyが企業として提供する、誰もが安心してデータを保存できる世界
最後にお伝えするのが、IPFS SOUKOをはじめ「Web3.0社会のストレージインフラを提供する企業に」を使命として掲げた、NonEntropy Japan株式会社が持つ価値についてだ。
まとめると以下のスライドのような内容になるが、これはどんな意味を持つのか、小林氏に詳しく伺った。
小林:今となっては、「データをどう保存するか」は息をするのと同じくらい重要なことです。それが今は、便利だからという理由で何気なく保存してしまっている。私自身もiPhoneのデータはiCloudに保存していて、便利だと感じます。
一方で、片手で数えられる数の企業に自分の生きているデータを全て預けるのは、非常に危険です。企業としても、クラウドを扱う1社にデータ保存を依存した場合、その会社と裁判になってデータを差し押さえられてしまっては戦えません。国としても、データ保存をアメリカや中国にだけ依存していては危険です。
データリスクに対して善後策を打つ必要があるからこそ、私はNon Entropyという会社で取締役をしています。GoogleやDropBoxに預けてもいいのですが、それだけではBCPの観点であまりにリスクが高いため、FilecoinやIPFSに預けるサービスを提供しているわけです。
こういった考えを一言にまとめると、以下のような形になると小林氏は語る。
全ての人が透明性高くデジタル保存ができる――。Web3.0の世界に向けたブロックチェーン事業の創り方のヒントが、この考え方の中に見えてくるのではないだろうか。
ブロックチェーン事業の創り方まとめ
今回のウェビナーのポイントを、「すぐに取り組んでいただきたいこと」として以下の3点にまとめた。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。ブロックチェーン事業の創り方にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。