【イベントレポート】戦略人事の創り方 ―元GEグループ会社HRBPに学ぶ、戦略人事に必要な4つの要素と実践事例とは?―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2021年7月7日は、戦略的人事施策に課題を感じている経営者、人事責任者の皆様に向けて、経営戦略と人事を連動させた戦略人事導入の成功の秘訣をご紹介いたしました。
今回ご登壇いただいたのは、GEヘルスケア・ジャパンで戦略人事責任者を務め、企業の変革を牽引した桜庭氏。
「戦略人事」とはどのようなものなのか。自社に導入は必要なのか、導入時はどのような体制を取るべきなのか。
このようなお悩みをお持ちの方は必見です。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
※このイベントの無料ホワイトペーパーはこちらからダウンロードできます。
桜庭 理奈氏
35CoCreation合同会社 CEO (元GEヘルスケア・ジャパン株式会社 執行役員 人事本部長)
アジアパシフィック地域統括のHRビジネスパートナーとしてGEヘルスケア・ジャパンへ入社後、人事本部長、執行役員を歴任。2020年に35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)合同会社を設立し、多様な業態や成長ステージにある企業で人事部長不在の企業間で、シェアドCHROサービスを開発提供し、経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、アドバイザリー活動を伴走型で支援。経営者や人事担当者向けの執筆コラムも多数出版。国際コーチング連盟認定コーチ。Minds at Work公認・ITCマップ認定ファシリテーター。
鈴木 貴大氏
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部 マネジャー
大手人材紹介会社にてトップセールスとして活躍後、創業期のサーキュレーションへ入社。支社長として東海支社を立ち上げた後に独立。 フリーランスとして複数社で事業開発、営業統括、役員等を務めた後、再びサーキュレーションに参画。現在は首都圏のメガベンチャー・急成長IT企業を担当するセクションの責任者。最先端テクノロジーを駆使した新規事業開発、DX推進に向けた経営戦略策定~組織編成支援など変革プロジェクトの実績豊富。
花園 絵理香
イベント企画・記事編集
新卒で入社した大手製造メーカーにて秘書業務に従事。その後、医療系人材会社にて両手型の営業を担当し全社MVPを獲得、人事部中途採用に抜擢され母集団形成からクロージング面談まで幅広く実務を経験。サーキュレーションでは、プロ人材の経験知見のアセスメント業務とビジュアルに強いコンテンツマーケターとしてオンラインイベントの企画〜運営を推進。
※プロフィール情報は2021/7/7時点のものになります。
Contents
「戦略人事」がもたらすメリットと導入の課題
人事の持つ3つの機能をおさらい。戦略人事の位置付けとは?
戦略人事とは、一般的に「戦略的人事資源管理(Strategic Human Resources Management)」の略語として知られており、もとは1990年代にアメリカの経済学者デイブ・ウルリッチ氏が提唱。世界各国で導入が進んでおり、人事の分野で注目度が高まっている考え方だ。
戦略人事の位置付けがわかりやすいように人事を3つの機能に区分すると、以下のようになる。
オペレーション人事というのは、いわゆる人事システムの運用・労務管理といった日常的な業務を指す。その上のインフラ人事では、戦略人事を成功させるための制度設計や人材確保、人材開発の計画が主な業務となる。一般的に「人事」というと、多くの方はインフラ人事やオペレーション人事の内容を想起するだろう。
一方戦略人事においては、簡単に言うと「経営戦略に沿った人事戦略の構築」が要となる。一般的な人事よりも一枚上のレイヤーとして、経営戦略そのものに深く関わる考え方が戦略人事なのだ。
戦略人事の重要性を高めた背景にあるIT技術の発達と働き方の多様化
戦略人事が注目される背景として大きいのが、IT技術の発達や少子高齢化、働き方の多様化だ。ITの発達でビジネスにスピード感が求められるようになり、旧来の雇用制度のままでは時代の変化にも対応できず、立ち行かなくなる恐れがある。
このため、戦略人事による「各部署の戦略に沿った人材配置・人材開発」あるいは「経営理念・戦略を理解した人材戦略の構築」といった特質が、改めて着目されはじめたのだ。両者が実現すれば経営状況に応じた人材活用が可能になるため、企業としては大きなメリットだ。
戦略人事の課題となる経営・人事・従業員が抱える問題
一方で、戦略人事には以下のような導入障壁もある。
戦略人事が経営戦略に基づく以上、そもそも確固たる戦略が整えられていなければならない。また、仮に明確な経営戦略があったとしても、人事担当者自身の深い理解が求められる点でもハードルは高いと言える。「戦略人事を担える人事担当者の育成」が必要になるということだ。人事は全従業員に関わるものである以上、従業員自身の理解も必要だろう。
そもそも戦略人事が自社にとって有効な手法なのかどうかは、導入検討時に頭を悩ませるところだ。そこで今回のウェビナーでは、戦略人事を成功させるポイントとともに、「自社に戦略人事が必要かどうか」の見極め方についても教えていただいた。
GEヘルスケア・ジャパンで実践された戦略人事の裏側とは?
今回登壇いただいた桜庭氏は、もともとGEヘルスケア・ジャパン(以下GE)において戦略人事を務めてきた人物だ。現在は「人事の価値を変える」というミッションを掲げる35 CoCreation合同会社の代表として、数多くの企業に対しオーダーメイドの戦略策定・人事コンサルテイングを提供している。
まずは実際に、桜庭氏が担ったGEでの戦略人事導入事例について簡単に教えていただいた。
【事例】戦略人事を導入し、HRBPによりCX組織へと変革したGE
従来のGEはオペレーションを整備・最適化する人事組織だったが、戦略人事の導入によって、「機動力のあるリーダーの育成」に特化した組織に変革したという。概要は以下のスライドにある通りだ。
桜庭:恐らく多くの企業も、まだビフォーのようなスタイルを取っておられるかと思います。これが悪いというわけではなく、それぞれに良し悪しがありますから、経営や事業戦略の方向性によって、一番マッチした人事組織の形を取るのが肝要です。
当時のGEはオペレーション部分が整備されていたので、どちらかというとスピーディーに決断をしながら人とコミュニケーションを取れるような、機動力のあるリーダーの育成が課題でした。そこに特化・集中するため、戦略人事におけるHRBP(Human Resource Business Partner)を職責として作ったのが、ビフォー・アフターでの最も大きな違いです。
HRBPはHRビジネスパートナーとも呼ばれる。戦略人事の考え方と同じくデイブ・ウルリッチ氏によって提唱された役割、あるいはフレームワークであり、戦略人事を語る上では欠かすことができない存在だ。本ウェビナーでは、HRBPがどんな役割を果たすのかについても詳しく探っていく。
戦略人事に必要な4つの要素と成功のポイント
さて、ここからは具体的に、戦略人事を導入するにあたって必要なポイントをお伺いした。
HRBPは、前述の通り戦略人事には必要不可欠な要素だ。その理由も含めて、ポイント1から順に紐解いていく。
Point.1:戦略人事を正しく理解する
まず、戦略人事という考え方について桜庭氏自身は「戦略を実行する人事に特化したスペシャリスト」として分類するとわかりやすい、とする。
桜庭:例えば、会社として3年間で売上を130%増加させるという戦略があった場合、経営者が抱く悩みの9割は「人」に収束します。組織がついてこない、お客様が求めるサービスを提供できる人材が育っていない、採用できないなどです。
このときリーダー陣は、実際にどうやって人材育成をしたらいいのか、組織をどう編纂すればいいのか、ポジションをどう変えていくべきなのか、その場合の給与をどうすべきなのかがわからずに困ってしまいます。人事のスペシャリストがいないと、何か人的な戦略に取り組みたくてもリーダーがついていけない状態になってしまう、画餅になってしまうということです。
絵に描いた餅をスピーディーに実装するために、一番効率が良い形が以下のスライドにあるような組織です。先ほど申し上げたような人事のスペシャリストたちに、ラベルが貼られていると考えるとわかりやすいでしょう。HRBPについては、経営判断をする本部長や役員の相棒だと考えてください。
桜庭:戦略人事の特徴は、縦割りの組織において人事面で何が起こるかを集中して考え、部門ごとに必要なものをカスタマイズできることです。逆に言うと、盲点となるのが横のつながりですね。そこで会社として横の統制をきちんと担保し、プロセスを作ってくれる人たちがCoE(Center of Excellence)です。横で管理したほうがいいトピックについては、部門横断的に把握しておく。これはなかなか理に適った体系だと考えています。
ただし、企業の規模的に「人事のスペシャリストは1名で事足りる」ということであれば、役割を分割して戦略人事を作る必要は無いとも桜庭氏は語る。
Point.2:戦略人事導入のタイミングを見極める
戦略人事――人事のスペシャリストたちによる人事組織とその役割を正しく理解した上で重要なのが、戦略人事をいつ導入するのかということだ。ここでは、よくある失敗と解決策について教えていただいた。
桜庭:私自身、HRBPというラベルを貼られるようになったのはここ数年のことです。ですので「HRBPを入れるかどうか」ではなく、「経営として人事に期待する事柄を明確に持っているかどうか」に準じて人事組織を作っていくべきです。流行りに乗る必要ありません。よく「HRBPを置いたほうがいいですか」というご相談も受けるのですが、まずなぜHRBPを置こうと思っているのかという本質的な問いを、担当者と経営陣が行っていることのほうが大事なのです。
中長期的な目線で組織・リーダーづくりに注力していくという見解があるのであれば、すぐにHRBPを置いたほうがいいでしょう。そこにまだモヤがかかっている状態であれば、逆に急がないほうがいいと言えます。
鈴木:ここの見極めは自社だけでは難しそうでから、冷静に判断できる第三者が隣にいるといいのかなと感じました。
Point.3:自社に適した人事組織を設計する
自社の経営戦略を鑑みて、人事組織を設計しHRBPを立てることを決めたら、具体的にどう進めていくべきなのか。立ち上げについては、内製化と外部調達の2つの方法があるという。
桜庭:内製化するにしても外部調達するにしても、大切なのはHRBPとして必要な素養を明確にしておくことです。HRBPは「戦略」のスペシャリストですから、ペルソナを明確にした上で、まずは社内で手を挙げるのがおすすめですね。
鈴木:内製化ということですね。
ここでは、HRBPに求められるスキルについても簡単にご紹介した。ときには外部のHRBPからの指導を受けると、効率的にスキル習得が可能になる。
①企業・事業戦略の理解
②組織能力の特定
③変革を導く実行プランの策定
④実行におけるファシリテーション
Point.4:HRBPを機能させる
最後のポイントが、実際に戦略人事の運用――具体的には、HRBPを機能させるということだ。ここで最も重要なのは、トップの意識。トップ自身が中長期目線や哲学を持っていること、そして「企業成長のために人に投資をする強い意思があるかどうか」が成功の鍵を握る。
また、トップの意思に紐付けた、社内でのタレントプログラムの活用も必要となる。
これに関連して、桜庭氏はHRBPの役割について以下のように述べた。
桜庭:HRBPのポジションはいつか不要となりますし、不要となるべきものです。人事の世界に限らず、今はVUCAの時代で世の中がものすごい速度で動いていますから、HRBPのポジションが未来永劫同じ仕事をしているかというと、そんなことはないんです。
そういう意味でも、HRBPというのはビジネスパートナーとして良きリーダー、良き組織をコーチングし、パフォーマンスを上げ、事業目標を自走で成し遂げられるようにするための相棒だと言えます。
スライドにもあるようなタレントマネジメントサイクルでPDCAを回し、トップやリーダーの方から「うちはもうHRBPがいなくても大丈夫」と言ってもらう。それが究極のゴールなのだと、お伝えしておきたいです。
成功する戦略人事の4つのポイントまとめ
ここまでお伝えしてきた4つのポイントを総括すると、以下のようになる。
鈴木:かなりステップが多くは見えますが、最初から完璧を目指さす必要はありません。経営と人事がともに成長するということが企業の成長そのものですから、当たり前ではありますが、まずは最初のポイント1から重点的にやっていただくことが重要になりそうですね。
桜庭:そうですね。
戦略人事の創り方まとめ
今回のウェビナーのポイントを、「すぐに取り組んでいただきたいこと」として以下の3点にまとめた。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。戦略人事の創り方にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。