【イベントレポート】60の新規事業を推進した開発PMが語る ―停滞する新規事業立ち上げを推進する3つのポイント―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2021年5月12日は、事業開発のプロジェクトマネジメントに対して行き詰まりや停滞を感じている皆様に向けて、新規事業を中心にさまざまな業界でデジタル領域のプロジェクトをPMとして推進してきた中矢氏に、これまで携わった約100のプロジェクトの中からピックアップした事例をもとに停滞しがちな新規事業推進のポイントを伺いました。
プロダクト開発におけるTipsが満載なので、自社の戦略のヒントにしてみてください。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
中矢 育範氏
60の新規事業を推進した開発PM
ITスタートアップ、ソフトバンクBB等を経て独立、オープンイノベーションプラットフォーム企業のCTO等を歴任し、ファウンダとして越境ECフリマアプリ等をローンチ。オムニチャネル化、業務改善、新規事業立ち上げなど、デジタル技術を事業やプロダクトへ落とし込んでいくためにPMとして大手企業からスタートアップまで幅広く支援。直近は日本で唯一の顔認証APIを活用した各種サービスを開発。
村田 拓紀
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部
FLEXY部マネジャー
中古車のマーケットプレイスシェア首位の企業にて拠点責任者、営業戦略策定、メンバーの採用から育成まで幅広く従事。IT企業を経てサーキュレーションに参画。現在はIT戦略における中期ロードマップ策定、IT企画人材育成に向けた技術顧問活用プロジェクトなどDX推進に舵を切る多くの企業を支援。
新井 みゆ
イベント企画・記事編集
新卒で入社した信託銀行では資産管理業務・法人営業・ファンド組成の企画業務に従事。「知のめぐりを良くする」というサーキュレーションのミッションに共感し参画。約1500名のプロ人材の経験知見のアセスメント経験を活かし、サービスブランディング、イベント企画等オンライン/オフラインを融合させた各種マーケティング業務を推進。
※プロフィール情報は2021/5/12時点のものになります。
Contents
なぜデジタル領域の新規事業は停滞してしまうのか?
IT活用のニーズが高まる一方で新規事業成功には高いハードルがある
社内のDXを推進し、デジタル領域を絡めた新規事業を立ち上げたい。こうした漠然とした需要は各企業の間で高まっていると考えられる一方、新規事業の成功確率は実際のところさほど高くはない。
例えばVCによる投資成功確率の読みを見てみると、IPOの成功はわずか10%という数字に留まっており、新規事業成功のハードルの高さが伺える。
一方で国内のITサービス市場は2025年には現在の5.6兆円から6.4兆円の規模にまで成長する見込みがあり、IT活用した新規事業へのニーズと実際の成功確率の間には、大きなギャップがあるのだと言える。
企業規模を問わず、ユーザーから問われるのは「欲しい商品である」こと
新規事業が停滞・失敗するのは何もスタートアップ企業や新規上場企業に限った話ではない。GoogleやAmazonなど、GAFAと呼ばれるような世界を代表するIT企業ですら、失敗した事業は数多く存在している。
当然、数多くの失敗ができるのは資本力が背景にあるとも考えられるが、ここから読み取るべきは名だたる大手企業の商品であっても、ユーザーにとって「買いたくないものはいらない」という事実だ。
特にWebサービスにおいては、ただ単にビジネスアイディアが優れていれば良いというわけではない。優れたUI/UX設計は大前提であり、ほとんどのプロダクトにとってリリース後のアップデートも必須と言える。
「良い商品なら成功する」――そんなビジネスでは当たり前の事実に改めて直面させられるデジタル領域において、新規事業が停滞してしまう要素を以下の3つにまとめた。
顧客ニーズを捉えた上で優れたデザイン・機能の製品を生み出し、リリース後もユーザーの声を起点としながら改善・成長を続けていく。今回はそんな新規事業を推進するためのヒントを、これまで60以上の新規事業開発を手掛けてきた中矢氏に伺った。
DX新規事業をスムーズに進める3つのアプローチ方法
中矢氏に最初にご紹介いただいたのが、ずばりDX新規事業をスムーズに進めるためのアプローチ方法だ。中矢氏は大きく、「マーケットの正しい理解」「テクノロジーとビジネスの融合」「ピボット前提のPoCの実施」の3つに主眼を置く。それぞれの内容と具体的な推進方法とは、どのようなものなのだろうか。
マーケットを正しく理解し、企画に蓋然性をもたせる
必然性の無いテクノロジー活用はただの後付けになってしまう
最初のアプローチとして中矢氏が着目するのが、「新規ありき」のビジネスモデルに固執しないということだ。デジタルを活用した新規ビジネスとなれば、自ずとこれまでの自社には無かった新規性を求めてしまいがちだが、中矢氏はこれにノーを唱える。
中矢:特に大企業の新規事業のブランディングでよくあるのが、「AIなどの新技術を使って何かをしよう」というご相談です。しかしここに必然性がなく、後付になってしまうことが非常に多くなっています。
自社の強みを活かすためのアイディアがあり、知見が無い部分を補うためのご相談であれば私どもとしても非常にやりやすいのですが、先にテクノロジー、あるいは自社が持っているもので何かをしたいというのは、正直難しいです。
村田:そういった部分も含めて、きちんとマーケットを理解しようということなんですね。
デジタル領域において「自社の持っているもの」として想像できる一つの要素がデータだ。特に顧客データはどんな企業でも大なり小なり保持している一方で、中矢氏は「自社が思っているほどデータの価値は高くない」と言及する。
中矢:自社が持っているデータというものは多くの場合GoogleやAmazonが持っているデータに比べるとどうしても劣ってしまい、データ自体に価値を持たせるのが難しいんです。特に何らかのブローキングや取次をしている企業からは「データ活用をしたい」と言われることが多いのですが、まずはそれを使ってユーザーに何を伝えたいのか、その方法は何なのかという入り口の部分を設定しないと、なかなか他社には勝てません。
社内メンバーだけでは強みを新規事業に結び付けるのが難しい
「データがあるから活用したい」ではなく、あらゆる角度から自社の強みを把握した結果、ソリューションはIT活用ではなかったということも多いという。
ここは、中矢氏が提示する「マーケットの正しい理解」のためのアプローチの中にある「自社の強みの再認識」につながる部分がある。
村田:自社の強みをきちんと理解するために持つべき視点は何かありますか?
中矢:自社にいるとどうしても視野が狭くなってしまいます。そのために我々のような存在がいるので、まずはディベートですね。
また、意外と社内に自社の強みをわかっている人はいるのですが、それを新規事業に紐付けるのはなかなか難しい部分があります。新しいマーケットに対するソリューションの創出や課題のクリアを目指すなら、そのテーマについて外部の人と話をしながら形作っていくのが非常に重要だと思います。
テクノロジーとビジネスを融合させる
「DX」ではなく「IT化」を皮切りに新規事業を展開する手法
次に中矢氏が取り上げるのが、今回のテーマとしては最もコアな部分であり、難易度が高いテクノロジーとビジネスの融合だ。ここでも中矢氏は、ただ単に新規性を考えるのではなく、マーケットに対する最適解での活用を検討することが肝要だとしている。
村田:項目にある「枯れた技術の信頼性を活用」というのは、具体的にどういうことですか?
中矢:例えば先進だと思われている画像認識や音声認識の技術は、意外と枯れている、すなわち昔からある技術だったりします。AIが入ってくるのは、枯れた技術をいかに別の角度で使うかという部分なんです。そもそも確立された技術をよりレベルアップするというのが、AIが使われる理由だということです。
今は特にAIを使ってDXを推進しようとする方が多いのですが、例えば店舗で販売していたものをShopify※を使ってオンラインでも販売したり、広告費を使ってブログなどで集客すれば簡単に数億円の売上になります。こういった取り組みに関しては、新規で何かを開発する必要もなければ、最新である必要もありません。
経営会議ではどうしてもAIなどの最新技術を使って新しい切り口を使おうという話になりがちなのですが、きちんと収益が出る形でチャネルを構築して、新規のユーザー層にリーチするための考え方は、最新テクノロジーである必要は無いと考えています。
※ECサイトの開発及び運営プラットフォーム
中矢氏は新たなチャネルで商品を売る取り組みは「DXというよりはIT化」とした上で、「まずはIT化を進めて数字を上げ、新たにDXに取り組めるアイディアやチャネルに投資をしていく考え方が良いのでは」と語った。
市場の技術動向を分析し、将来的なトレンド予測する意識も必要
中矢氏が言うところの「IT化」であれば、新規事業といってもハードルは下がる印象を受ける。スモールステップでの推進も可能だろう。
一方、どんなテクノロジーを利用するのかという観点においては、投資が加速しているマーケットや技術トレンドのキャッチアップも当然重要だ。
中矢:日本のVCもシリコンバレーの技術動向なんかはよくキャッチアップしていると思いますが、やはりここ3年ほど見たときに動いているものは3年後の技術トレンドになり得ることが多いです。そこを最上流として見た上で、今後技術がどんな方向に向かっていくのか、ある程度感覚は持っておく必要がありますね。
ピボット前提でのPoCを実施する
大企業がスタートアップのようなプロセスで新規事業に投資をすれば有利に働く
3つめに紹介いただいたのが、ピボット前提でのPoCの実施についてだ。中矢氏は、本ウェビナーにおいて特に「失敗を許容すること」の重要性を説いている。
中矢:例えば業界ナンバーワンの大企業と3年目のスタートアップを比べると、大企業の場合は数字を持っているのに上手く使えないというよくあるパターンに陥りがちです。一方スタートアップの場合はLINEやインスタなどでどんどんチャネルを増やし、駄目ならやめるといったことを何の抵抗もなくやっています。それに対して単月で何百万、何千万円という資金をつぎ込める体質を作っている。失敗しても最終的に良いものが残ればそれでいいんです。
大企業で同じことをやるのは難しいかもしれませんが、スタートアップに比べれば潤沢な資金を持っているはずですから、同じステージに立てば非常に戦いやすくなると思います。大企業がCVCを使うのも、しがらみが無いところで新しい考え方に対して投資をしていく文化を持ち込みたい意図があるのではないでしょうか。
予算の上限や実施期間、撤退ポイントを決めておくことが重要
村田:中矢さんがこれまで経験してきた感覚値を踏まえると、どれくらいの判断基準で次のピボットに動いていくべきなのでしょうか。
中矢:正しいアプローチをしていることが大前提ですが、クォータリーで打って駄目ならやめる、あるいは撤退ポイントを決めておくことです。
村田:金額的な指標はありますか?
中矢:企業によりますが、1000万円以下で回せるものをいくつか用意するなどですね。例えばメディア戦略なら単月で使える予算を5つに配分して、一番良いものを引き出すといった感じだと思います。
事例で学ぶDXプロジェクトマネジメント
ここからは実際に、中矢氏が手掛けてきた新規事業の事例について簡単に紹介いただいた。カテゴリーを分けると主に6つ。ここでは特に、画像認証AIサービスの事例を取り上げる。
画像認証AIサービス/第三者の参入で社内に客観的視点を加える
本事例は日本初の顔認証システムをAPI連携した事例で、プロジェクトの背景にあった狙いとしては、新規事業の創出と文化醸成が挙げられる。
中矢氏は技術観点からのアドバイス、提携先の発掘、さらにチームビルディングなどをサポートした。関わり方として大きかったのは、外部の第三者視点から支援することで、社内に客観的視点を与えられたことだという。
また、中矢氏の支援による成果としては、すでに推進されていた事業のスクラップ&ビルドや技術サイドの中期3ヵ年策定、技術要求とビジネスサイドの橋渡しなどが挙げられる。
村田:技術サイドの中期3ヵ年の策定とはどういったものだったのでしょうか?
中矢:SIerだった会社が新たにAI系のサービスを始める事例だったのですが、ずっと受託をやってきたので新規事業の創出は弱い部分がありました。そこでIPOや会社を成長させるためのサービス開発など、何をマイルストーンにして進めていくのか、彼らが持っている技術のエクステンデット、そしてこの先起き得ることなどを社長と議論して決め、3ヵ年計画に入れ込んで進めていった形です。
そもそも新規事業の創出において他社からビハインドしている場合も、外部人材がリードすることで長期的目線のプロジェクトマネジメントを実施できるという好例だ。
DX新規事業の3つの落とし穴
最後に、DX新規事業を進める上で陥りがちな失敗要因についてご説明いただいた。
中矢:会議で決めたもの一つに対して数千万円をつぎ込んで総コケするというったことはやめる必要があるので、まずはきちんとユーザーのニーズ・ウォンツが理解できるまで検証する必要があります。
また、デジタルテクノロジーやメディアの特性を理解していないというのは、自分たちが持っている新規事業のアイディアとテクノロジーがどう連結されるのかという部分に関わります。ここは外部人材がいないとなかなかできないので、我々がよくお仕事をいただく部分ですね。
そして最後が、失敗を前提としたプロジェクト設計ができていないという点。これは何度も言っているように、10個やったら9個は失敗するという前提で予算設計などを行い、経営層へ説明することが重要です。
DX新規事業立ち上げまとめ
今回のウェビナーのポイントを、「今すぐ取り組むべきToDoリスト」として以下の3点にまとめた。
今回ご紹介したウェビナーで使用した資料は、未公開部分も含め以下のリンクからDLできます。DX新規事業立ち上げにご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。