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【イベントレポート】元三菱自動車開発責任者が語る ―各業界が新規事業としてEVやCASE市場にこれから参入する方法とは?―

新規事業開発

23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。

2021年3月11日は、SDGs達成に向けた動きが世界中の企業で加速化する中、クリーンエネルギー自動車であるEVをはじめ、CASE、MaaSなどの注目を集める自動車市場に対して、自社のコア事業と結びつけた新規事業の立ち上げを検討したい企業様に向けて、EV市場の現在と将来についてご紹介いたしました。
今回ご登壇いただいたのは、三菱自動車でEV充電インフラビジネスや世界初の量産電気自動車の開発責任者を経て、日本初のe-mobilityコンサルタントとして第一線で活躍する和田氏。
EVを取り巻くビジネスにはどんなチャンスがあるのか、参入の判断はどのように行うべきなのかといったことまで語っていただきました。

当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。

和田 憲一郎氏

和田 憲一郎氏

日本初e-mobilityコンサルタント
三菱自動車工業で世界初の量産電気自動車の”i-MiEV”の開発責任者(プロジェクトマネージャー)を歴任。現在は自動車部品会社、電気・電子メーカー、住宅メーカーなど、自動車関連の分野で自社技術を活かして異業種へ参入する際の一連を支援。MaaS、CASE、電気自動車などに精通した自動車業界のパイオニア。

佐々木 博明氏

佐々木 博明

株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部
エンタープライズ推進チーム

ディー・エヌ・エー、リクルート、ビズリーチにてWebマーケティングや新規事業立ち上げなど幅広く担当。その後、PERSOL INNOVATION FUND合同会社でHRTech企業への投資案件やM&A業務に従事。サーキュレーション入社後は大手企業様へのDXや新規事業の支援に従事。製造業・流通業・通信など幅広い業界に対して、DX推進に必要なマーケティング・セールス・ECの戦略立案、業務・システム改革、組織改革などのコンサルティング実績を持つ。

新井 みゆ

新井 みゆ

イベント企画・記事編集
新卒で入社した信託銀行では資産管理業務・法人営業・ファンド組成の企画業務に従事。「知のめぐりを良くする」というサーキュレーションのミッションに共感し参画。約1500名のプロ人材の経験知見のアセスメント経験を活かし、サービスブランディング、イベント企画等オンライン/オフラインを融合させた各種マーケティング業務を推進。

※プロフィール情報は2021/3/11時点のものになります。

EV(電気自動車)を取り巻く市場動向と今後の見通し

世界規模で追い風が吹いているEV普及の大きな潮流

2015年の国連サミットでSDGsが採択されてから、持続可能な社会の実現のために各企業がさまざまな取り組みを行っている。これは従来のガソリン車からEVへ移行していく流れにとってさらなる追い風になっており、実際にヨーロッパや中国市場においては、EVの広がりが顕著に見て取れる。世界規模で見ても、2020年のEV/PHEVの世界販売台数は対前年比43%増で、約320万台にも及ぶ。

EV市場の成長を考える上で一つのポイントとなるのが、「2035年」というタイミングだ。例えば米カリフォルニア州では、2035年までに州内で販売される新型車をゼロエミッション車に限定するとし、米国全体としても今後10年で販売車に対するルールが大きく変わっていくことが予想されている。
中国では2035年までに新エネルギー車の割合を50%以上にするという素案を出しており、同様の動きは欧州でも見られる。

自動車業界とその周辺に大きなビジネスチャンスがあると予測される

現在の世界的な状況を鑑みると、EV市場に大きなビジネスチャンスがあることは間違いない。特に大きなポイントとなるのが、以下の4つの要素だ。

EV特有の特徴から、自動車業界のみならず、周辺領域においても従来とはビジネスの在り方が変わる可能性がある。例えばEVでは熱が発生しないため、これまでは必須だったスティール素材がアルミやプラスチック、その他特殊素材で代用が可能になる。

以上を踏まえると、2035年を一つの基準としながら、マーケットに対して自社が今後どういう展開をしていくべきかを見定めることが肝要になるだろう。

EVと絡めた新規事業の異業種参入事例

今回ご登壇いただいた和田氏は、日本初のe-mobilityコンサルタントであり、三菱自動車工業において世界初の量産電気自動車「i-MiEV」の開発責任者を担った。
EVの最前線から見ると、現在のEV市場におけるビジネスチャンスは具体的にどこあるのだろうか。ここを紐解く前に、まずは和田氏が手掛けたEVに関わる新規事業の異業種参入事例についてご紹介いたただいた。

積水化学工業が手掛けたEVと住宅をつなぐ新規事業

EVが持つ電気エネルギーを住宅に供給するV2H(Vehicle to Home)

今回ご紹介するのは積水化学工業における事例だ。和田氏はEVモビリティコンサルタントとして同社に参入し、V2Hパワーコンディショナー開発に長年携わった。
V2Hを簡単に説明すると、EVが持つ電気エネルギーを住宅に供給できる仕組みのことだ。活用用途として最もわかりやすいのは、災害による停電時の電力供給だろう。

住宅に蓄える電力と言えば、真っ先に蓄電池を思い浮かべる人も多いだろう。蓄電池とEV、それぞれが持つ電力の違いについて、和田氏は以下のように語る。

和田:3.11で非常用の蓄電池が話題になり、新たに蓄電池を開発したメーカーもあるでしょう。ただ、蓄電池と言っても実は非常に容量が小さいので、大きな電力は蓄えられません。EVのほうが何倍も電力を持てるんです。
極端に言うと、蓄電池が供給できる電力はほんの2~3時間程度のものですが、EVは1週間分でも供給可能です。例えば台風で停電が1週間続くとなれば、EVという大型の蓄電池はかなり使い勝手が良いものになるでしょう。

非自動車メーカーがEV領域に参入するメリットは競合との差別化と先行優位性

EVの電力自体を自宅に設置した充電スタンドから供給する以上、EV×住宅という発想はさほど突飛ではない。とはいえ、積水化学工業自体は自動車メーカーではないのも事実だ。なぜあえて、EV領域に参入しようと考えたのだろうか。

和田:実は積水化学工業様は、日本においてかなり初期段階で太陽光発電を導入しています。その後、日本で初めて家庭用の蓄電池の設置もスタートしました。その次にどうしようかと考えたときに関心を持たれたのがEVだったんです。EVの普及がピークになってからV2Hパワーコンディショナーのようなものを供給したのでは、他企業が参入してしまうので手遅れになる。こういった考えがあったのだと思います。

佐々木:確かにEVマーケットに非常にポテンシャルがある中で、差別化や先行優位性はかなり狙えると感じます。

他社に先んじてEV領域に着手しようと考えた積水化学工業。そこで依頼を受けたのが和田氏だった。技術コンサルタントとしての和田氏の役割についてもお伺いした。

和田:これまでに無い機器を作るということで、企業側はある程度仕様書を作ります。私はその仕様書に対して、技術支援という形で開発の初期段階からいろいろとアドバイスをさせていただきました。

結果として、和田氏はV2Hパワーコンディショナーの開発から量産、そして市場投入にまでこぎ着けた。次の項目からは、具体的なプロジェクトの進め方について見ていく。

プロジェクトは外部人材を活用しながら4つのステップで推進

V2Hパワーコンディショナーの開発は、以下の4つのステップに分けて推進された。EVと住宅をつなぐという点において、和田氏はMiEV power BOX開発の経験から「ある意味応用を考えていけばいい」と考えていたそう。

和田:積水化学工業様の企画部門と技術部門に一緒に参画いただいて、私どもとの3者による綿密な打ち合わせを幾度も行い、内容を固めていきました。そして実際に施策を作って評価をするという、通常のステップを踏んだかなと思います。

さらにディスカッションでは、EV領域の新規事業においてはどういった部分で外部人材を検討すべきなのかについても教えていただいた。

佐々木:和田さんのご経験を踏まえると、マーケットリサーチ時間の圧縮や技術的支援に最初から最後までいろいろな形で携わっているのかなと。やはりその分野について知っている人に聞くことでスムーズに進むのでしょうね。

和田:そうですね。私は企画の最初の段階から入りましたので、仕様書作成のほかに、プロダクトをどれくらいの期間で開発、評価し、どういう基準をクリアすれば完了となるのかなどを、MiEV power BOXの経験を照らし合わせながらまとめていきました。

佐々木:特に品質管理の部分はポイントだと思っています。どうやって評価したらいいのかわからないというケースは多いですよね。

異業種がEV対応をする上で押さえておくべきポイントとは

参入可能な領域は多様。まずはEVかMaaSかが分岐点

EVという領域においても、プロジェクトの推進方法自体は一般的な流れと大きな違いは無い。そうなると、やはりEV市場参入において重要なのはそもそも企業が持っているポテンシャルだと考えられる。ここからは、実際にEV市場において今後伸びそうな領域について議論を進めた。

佐々木:勝手ながら、黄色の部分はAI関連、緑の部分は充電関連といった形で、大きく6つのカテゴリに分けました。EVにはいろいろな関わり方やビジネスチャンスがあると思うのですが、恐らくどこでどう攻めていくのかについて、皆さん悩まれているかと思います。
和田さんの中では、以下の図ではどのような点がポイントになるとお考えでしょうか?

和田:私どもがEVに着手したのが2005年ですから、そこから非常に長い潮流があるわけですが、3年ほど前からはMaaS、Mobility as a Serviceという分野が非常に拡大してきました。企業にとっては、まずEVなのか、それともMaaS方面に行くのかという分かれ道がある気がしますね。

佐々木:EVかMaaSかを考えるときの見極めポイントはありますか?

和田:一般的にはものづくり系ならEV領域を主に考えますし、新たなIoTを活用したサービス系であれば、MaaSが主になるかなと思います。

ものづくりの経験値が高ければ高いほど有利に働く

自社の方向性がEVやMaaSと親和性が高いかもしれないと判断したとしても、実際に「自動車」という産業の中に参入するのは容易ではない。
前述で和田氏が提示した「EVかMaaSか」という判断をした後は、そもそも自動車業界にチャレンジできるかどうかという判断が必要だという。

佐々木:「高い参入障壁」とありますが、どのあたりの難しさで高低を判断するのでしょうか?

和田:特にEV系に参入するとなると、やはりそれなりの知見や経験が必要です。自動車は非常に信頼性・耐久性が要求されるので、例えばEVの主要部品であるモーターやインバータを作った経験が無いのに「作ってみましたがどうですか」と言われても、なかなか難しい。
逆にすでにそれなりの自動車業界でのバックボーンがあった上で提案ができるのなら、可能性はあると思います。

佐々木:ものづくりをしたことがある企業なら、比較的評価も慣れているし、作りやすいから攻められるという部分があるんですね。

和田:それはあるかもしれませんね。EVだけでなく、MaaSも同様です。MaaSにしてもある意味ものづくりに近い考えで作り込んでいかなければいけない領域がありますから、バックボーンがあれば応用できるでしょう。

EVとMaaS軸で見る各領域の参入障壁の高低

今回和田氏には、6つのカテゴリで分類した今後の成長領域の項目を基に、いずれの分野がEVにあたるのかMaaSにあたるのか、さらに参入障壁の高低を具体的にマトリクス化していただいた。

佐々木:やはりEVは車体関連に寄っていますし、全体的に製造がEVに強い形になっていますね。MaaSはやはりIT系です。

和田:例えば自動運転や新エネルギー車の開発そのものになるとハードルは高いのですが、オレンジ色のエネルギーマネジメントやサーマルマネジメントといった分野は、アイディアの方向性や視点を変えることで比較的参入しやすいのかなと思います。
左側には多様なサービスがありますが、その中でも今なら、MaaSのプラットフォーマーになりたいだとか、ブロックチェーンを活用したサービス展開をしたいといった部分でも参入可能です。
自社の得意とする領域がどこにあって、表にあるような内容を実現できるかという視点で見てみると、ターゲットが絞りやすいのではないでしょうか。

上記マトリクスを基に、さらにそれぞれの領域ではどのような企業が参入可能なのか、以下の図では4つに区分けした。自社の優位性を考えながら参照したい。

3つの領域におけるEV市場参入事例

表の上で分類したとしても、まだまだ現在のEV領域にどのような可能性があるのかを即座にイメージするのは難しい。ウェビナーでは実際の事例を3つピックアップし、和田氏に具体的な現況を伺った。

1.ピックアップトラック

最初にご紹介するのはピックアップトラックだ。日本人にとってはあまり身近ではないピックアップトラックだが、米国や東南アジア、アフリカなどの地域ではニーズが高く、販売台数が減少傾向にある乗用車に対して、現在堅調な成長を見せている。
その中で注目されているのが、2019年に初公開されたテスラのEVピックアップトラックの「サイバートラック」だ。未来的で斬新なデザインで、優れた耐久性を持つ。

和田:発売は2021年末から2022年にかけてということですが、予約だけでも70万台を超えるほど話題になっています。
テスラのEVピックアップトラックの発表は、これまでフォードやGMなど米国の自動車メーカーが築いていた牙城に突然テスラが殴り込みをかけたようなものです。これを機に、フォードもGMもピックアップトラックのEV化を表明しました。トリガーを引いたような状況ですね。

和田氏は、サイバートラックの登場によって米国のみならず連鎖的に日本メーカーにまで影響が及ぶと見ている。

佐々木:ベンダーも含めて使うケースがあると思いますが、どんな感じで活かすのが一番良いのでしょうか。

和田:今のアジアにはEV化した1tピックアップトラックの部品を作るサプライヤーが非常に少ないですから、ここに参入のチャンスがあります。同時に、ぼんやりしていると中国のサプライヤーがアジアに参入し始める危惧もありますね。

このほか、米国のEVメーカーであるリヴィアン・オートモーティブはピックアップトラック「RIT」や新型SUV「RIS」を発表しており、Amazonが同社に対して配達用EVを発注するといった動きもある。
これに関しては、「顧客が最初から購入をすると言っており、メーカー側からすれば買い手が決まっていることで安心して作れるというメリットがある」と和田氏。巨大企業が注目するピックアップトラックの領域は、それだけで裾野が広いと言えるだろう。

2.EV関連サプライヤー

次に、EV関連サプライヤーの事例をご紹介いただいた。冒頭にもお伝えした通り、ガソリン車とEVではそもそものエネルギー源が異なるため、自動車として求められる部品の品質などにも大きな違いが出てくる。
電気エネルギーの流れは大きく走行系、電源系、その他冷暖房や電装などに分類できるが、特に和田氏が注目するのが、走行距離に関わる部分だ。

和田:自動車メーカーのEV関係者は、バッテリーに充電できるエネルギーをどう有効活用するか、非常に苦戦されているかと思います。私自身もそうでした。
例えば従来に比べて走行距離を100km伸ばしたいと思ったとき、単純に考えれば電池をたくさん積めば良いのですが、車のスペースには限界があります。そこでエネルギーの品質を高める部分で、自動車メーカー並びに自動車部品メーカーには大きなビジネスチャンスがあると思っています。

さらに和田氏は、EVは特に「冬場の走行距離」に課題があるとする。

和田:冬場になると暖房という形でエネルギーを食ってしまうので、結果として走行距離が短くなってしまいますここには自動車、部品メーカーが頭を悩ませていますね。
その中で最近話題になっているのが、テスラのモデルYで採用されたヒートポンプです。オクトバルブという特殊なバルブを用いたもので、電池やパワートレインと呼ばれるモーター、インバータの排熱、蓄熱などまで利用してトータルエネルギーマネジメントを行うことで、低温時の走行距離アップを実現できています。

「ここ10年で見ても革新的な技術が生まれ始めている」と和田氏。電気エネルギーも万能ではないからこそ、そこに商機が隠れているのだと言える。

3.配車サービス専用EV

最後の事例は、配車サービス専用EVだ。和田氏は2019年に中国で配車サービスを展開する滴滴出行(ディーディーチュウシン)を訪問し、配車専用EV開発について話を聞いたという。

和田:滴滴出行は実際、昨年末にBYDと共同開発した配車サービス専用EVを公開しました。
配車サービス専用EVの開発が従来のビジネスと異なるのは、耐久性です。通常の車は走行時間帯が全体の5%で、95%は停車していると言われます。これが配車サービスとなると、同じ車を24時間フル活用しようとします。走っている車が50%以上、停車している車は50%ほどでしょうか。こうなると、通常の耐久性の8倍、10倍といった基準が必要になります。
タイヤやブレーキパッドなどは摩耗したら交換すれば良いのですが、コンプレッサーなんかはなかなか交換しにくいものですし、8倍10倍走るとなれば、超耐久性が必要なのではという考え方になります。

今後配車サービス専用EVが成長すれば、通常以上の耐久性を持った消耗品のニーズが高まることになる。そもそも配車サービス企業が専用車を発注するのも、「現状の車では不満があるから」だと和田氏は分析する。

和田:滴滴出行だけではなく、GrabやLyft、Uberも今後恐らく同じような動きを見せるでしょう。通常の自動車とは異なる形の自動車を作りたいということになれば、今までガソリン車用に作っていたものであったとしても、一度商品を見直すことで新しいビジネスが可能になるかなと思います。

EV市場に参入する方法まとめ

今回のウェビナーの内容を以下にまとめた。

今回ご紹介したウェビナー資料のダイジェスト版を以下のボタンからDLできます。EV市場参入にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。

【無料ホワイトペーパー】
元三菱自動車開発責任者が語る ―各業界が新規事業としてEVやCASE市場にこれから参入する方法とは?―
本ホワイトペーパーは、2021年3月11日に開催したウェビナー資料のダイジェスト版となります。日本初のe-mobilityコンサルタントとして第一線で活躍する和田氏の経験をもとに、EVを取り巻くビジネスにはどんなチャンスがあるのか、参入の判断はどのように行うべきなのかをご紹介しています。