【イベントレポート】データビジネスの創り方 ―60のDXプロジェクトを手掛けたプロが語る、データ活用の仕組みと運用構築の方法とは?―
23,000名(※2023年10月末時点)のプロの経験・知見を複数の企業でシェアし、経営課題を解決するプロシェアリングサービスを運営する当社では、毎月10回程度のウェビナーを開催しております。
2021年1月14日は、データを活用した新規事業の立ち上げを検討される皆様に向けて、データ活用と事業立ち上げの極意をお伝えしました。
今回ご登壇いただいたのは、データサイエンティストと経営者の顔を持つ「データ x 新規事業」のプロフェッショナルで、過去在籍していた企業では、データサイエンティストである強みを活かしデジタル領域の新規事業立ち上げを成功に導いた久米村氏。独立創業後、2年間で60以上のDXプロジェクトを支援するかたわら、自社でもデジタルビジネスを複数立ち上げデータビジネスを行う会社を3社経営しています。
当日参加できなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のために内容をまとめましたので、ご参考になれば幸いです。
久米村 隼人氏
データサイエンティストと経営者の顔を持つDX推進のプロ
マクロミル・リクルートマーケティングパートナーズ・弁護士ドットコム・日本経済新聞社にて15以上のデジタル関連事業を創出。独立後は株式会社DATAFLUCTを立ち上げ、データ活用と組織改革に関する自社プロダクトを開発、協業により大手のDX推進にも寄与。幅広い業態50社以上のデジタル事業開発プロジェクトを推進中。JAXAの非常勤職員として宇宙ビジネス創出にも携わる。
村田 拓紀
株式会社サーキュレーション プロシェアリング本部
FLEXY部マネジャー
中古車のマーケットプレイスシェア首位の企業にて拠点責任者、営業戦略策定、メンバーの採用から育成まで幅広く従事。IT企業を経てサーキュレーションに参画。現在はIT戦略における中期ロードマップ策定、IT企画人材育成に向けた技術顧問活用プロジェクトなどDX推進に舵を切る多くの企業を支援。
新井 みゆ
イベント企画・記事編集
新卒で入社した信託銀行では資産管理業務・法人営業・ファンド組成の企画業務に従事。「知のめぐりを良くする」というサーキュレーションのミッションに共感し参画。約1500名のプロ人材の経験知見のアセスメント経験を活かし、サービスブランディング、イベント企画等オンライン/オフラインを融合させた各種マーケティング業務を推進。
※プロフィール情報は2021/1/14時点のものになります。
Contents
データを活用した新規事業に求められるUX(顧客体験)の最大化
デジタル化によって拡大する市場規模とビジネスモデルの変革
現在、大手企業が続々とデジタル化による大きなゲームチェンジを進めている。トヨタは「ソフトウェアファースト」体制への移行を宣言し、パナソニックはモビリティ事業への参入を決めた。
世界的なマクロ視点で見ても、デジタル化の波は留まるところを知らない。エッジコンピューティングの投資額は2025年時点で157億ドルに達する見込みで、IoTデバイスが生み出すデータ量は2050年に79.4兆ギガバイトにまでのぼるとされている。
こうした潮流にいかに対応していくかが、今後のビジネスにおいて重要になることは言うまでもない。その中で着目すべきは、「顧客に対してどのような体験を提供するのか」という点だ。単純にモノを生産して売るだけのビジネスでは、今後生き残れない可能性がある。
データ活用事業によって産業構造が変化する
DXの中で特に「データ活用」という領域に視点を絞っても、同様の流れは伺える。「データのビジネス活用」と聞くと一昔前はデータの分析による売上アップやオペレーションへのフィードバックなどが想像されたが、現在はデータ活用の本質も「動的データ」を活用した、UX(顧客体験)の最大化に変化しつつある。
実際、現在は顧客データやPOSデータといった静的データ以上に、時系列で示された状況データ、すなわち動的データが重視される傾向だ。
例えばb8ta(ベータ)社では商品をユーザーに体験してもらう展示場を提供しており、カメラなどさまざまなデバイスから取得したデータをメーカーに対してフィードバックしている。ユーザーのリアルな反応が、顧客体験を高めるための価値ある動的なデータとして収集され、新たなビジネスの基盤となっているのだ。
データを起点としながら、いかに新しいビジネス・サービス価値を創出するか。これが従来のデータ活用を越えた、データビジネスの考え方と言えるだろう。
データビジネスを実現するためのロードマップ
DXの本質が「ビジネスの変革」にあるのを忘れないこと
ここからは、実際にデータビジネスを実現するためのステップについてお伺いしていく。当然データをどう活用するのかがポイントにはなるが、「データ」という言葉だけにとらわれないようにするため、久米村氏は「ビジネス視点を忘れないこと」を強く提言する。
久米村:DXの相談を受けるときに多いのが、「AIを活用したい」「ブロックチェーンで新しいことをしたい」といった、技術起点で企業を変えたいという話です。しかし、どちらかといえばDXは経営視点、ビジネス視点で考えるのが正しいと考えています。
その前提で、久米村氏は「DX」を「デジタルトランスフォーメーション」ではなく、あえて「データビジネストランスフォーメーション」だと定義した。
デジタル活用はあくまで手段であり、真の目的はビジネス変革にある。「ビジネスをセットで考えること」を踏まえて、具体的にデータビジネスをどのように進めていくべきなのかを見ていく。
DXの「型」として定義できる3つの要素
最初に久米村氏が提示するのが、「Value Proposition」、「Operation」、「Strategy」という3つのDXの型だ。これら全ての変革において、データ活用が鍵になるという。
久米村:まず、顧客体験のような提供価値を変えていく点が挙げられます。例えばオンデマンドやマッチング、レコメンデーションービスなんかは提供価値の変革にあたるのかなと。
一方、業務を支えているような発注や在庫、価格決定、シフト管理などのオペレーションの変革という意味合いでもデータは活用できます。ダイナミックプライシングなんかが有名ですね。
ストラテジーは、経営者が戦略にデータを使っていくという意味です。特にライバルを見る、数字を予測するという部分に活用できます。これら3点が、ビジネスにおけるデータ活用の起点となるでしょう。
村田:技術ありきではなくビジネスを考えるという点では、これら3つのバランスが取れていることがDXにおいて重要なのでしょうか。
久米村:そうですね。左から顧客視点、現場視点、経営者視点という文脈としても捉えられます。
意思決定に至るまでの6つのフェーズ
続いて久米村氏に紹介していただいたのが、6つのフェーズに分かれたDX推進のロードマップだ。データビジネスも通常の新規事業立ち上げと同様に、まずはビジョンを策定するところからスタートし、最終的な意思決定に漕ぎ着けることになる。
村田が注目したのは、「サービスを作りながら必要なデータが更新されていく」という点だ。
村田:これは、最初から使うべきデータを全て定義するのではなく、フェーズに合わせて使うデータをきちんと考えるのが重要だということですか?
久米村:いろいろな企業を支援していると、「何が必要なデータなのか全部最初に教えてください」と言われるのですが、やってみないとわからないことが非常に多いです。まず仮説は作るのですが、その通りになることはほぼありません。修正していくのが大事ですね。
さらに久米村氏は、「コアデータの決定」において、「実は業態によって強いデータの種類も違う」と言及する。
久米村:流通小売や金融、ゼネコンといった業態なら経営データ活用のようなアプローチになりますし、製造業や流通・卸はバリューチェーンデータの活用になります。マーケティングや販売なら、顧客データ活用ですね。
「顧客データ活用が進んでいるから」と盲目的に進めるのではなく、自分たちがどんなバリューチェーンに属しているのかを考えるべきですし、それが自社においても最も大切な経営資源の一つでもあると思います。
自社の業態に最も適したデータ活用のシナリオを定義
久米村氏は、業態に応じたデータ活用を4つに分類し、全部で12のシナリオがあると述べた。例えば顧客データ活用からアプローチをするなら、CRMやサービスレベルの高度化、利用者起点の価格の実現などが考えられる。
久米村:流行っているからMAがいい、CRMがいい、というのではなく、自社がしっかり何をしたいのかを考えながらフレームワークに乗せるといいかなと思います。
自社にどんな強みがあり、どんなデータを活用するのが肝要なのか。そこが定まれば、自ずとデータビジネスで歩むべき方向性も見えてくる。
デジタル組織を作り上げるためのデジタル人材の育成
いざ、データビジネスを推進しようと思っても、実際は容易ではない。ディスカッションの中で、久米村氏はデータモデルを設計するためのイニシャル投資について、大きな事業インパクトとトランスフォーメーションを実現するには1億円程度が必要であり、さらに収益化には数年以上かかると述べた。
ここにさらに、デジタル人材への投資も必要となる。
従来の仕事のやり方を壊すには「上司のトランスフォーメーション」が必要
社内にデジタル組織を作りデジタル人材を育成するには、まずアジャイルをキーコンセプトとして組織を構成し直す必要があるという。
仕事をどのように進めるのか、人事システムをどうするのか、データ基盤はどう整えるのか。こうした調整を経て、始めてデジタル人材の確保にたどり着くことができる。
村田:「デジタル人材を教育せよ」という司令だけが先走ってしまっているケースは私もたまに耳にします。ですが、上記のステップを踏まずにいきなり教育から入るのは難しいですよね。
久米村:教育するためのデータ基盤が無い、あるいは人事システムが古くて上司が評価できないから意味が無いといったケースはよくあります。
村田:この点について、壊すべき伝統的な仕事の進め方もあるそうですが……。
久米村:対面でなければいけないとか、上司がZoomを使えないという話も結構あるんです。紙で承認しなければいけない、よくわからない会議体があるといった部分から変えないと、そもそもデジタルを導入できません。
古い仕事の進め方を実施しているのは、総じて古いタイプの上司だとする久米村氏。ここで躓く企業も多いことが予想される中、村田は「上司のトランスフォーメーションが可能かどうか」についても質問した。
久米村:可能です。私のようなプロ人材が相談を受けるのはまさにここなんです。上司を取り替えるわけにはいかないから、アドバイザーを入れることで徐々に上司を変えていくという方法があります。
プロジェクト責任者は社内で育成し、足りない部分はプロ人材を頼る
仮にプロ人材の力を借りて仕事の進め方を変革し、デジタル組織を作り上げる土台ができたとしても、実際にデジタル組織に必要な構成員を考えると、なかなか一筋縄ではいかないことがわかる。久米村氏に挙げていただいたデジタル組織の構成員の職種は、実に24種にも及んだ。
村田:この人材を集めるのは非常に大変ですよね。
久米村:GAFAなんかは当然雇っている人材ですが、日本の会社がここまでの職種と職務を理解して、適切な年収で採用できるかと言われると、ノーですね。
久米村氏が言うように、現在の日本ではCTOはおろかエンジニアを一人採用することすら困難な状況にある。これでは日本企業のほとんどがデジタル組織を作れずデータビジネスも実現しないことになってしまうが、久米村氏はこの中で最低限社内に必要な構成員を挙げた。それがPO、PdM、PMMだ。
久米村:育成すべきはプロジェクト責任者です。いわゆる「プロジェクトマネジメントチーム」という形ですね。今はPM一人が技術や顧客体験の進化を追いかけて管理するのは不可能な領域にまできていますから、3人の社員を立てて分業体制にするのが肝要だと思います。
村田:教育できるものなのでしょうか?
久米村:全て経験ですね。PdMはAIやプロダクトをわかっている必要がありますし、PMMも最低限デジタルマーケティングやプロダクト開発の経験が必要です。
これでも非IT企業にとってはまだまだハードルが高い。やはり検討すべきは、外部のプロを巻き込むことだろう。久米村氏は、「社外に丸投げは禁止」とした上で、PO、PdMの一部の領域を委託して、二人三脚でDXを進められる可能性があることにも言及している。
久米村:AIエンジニアを100%自分たちで育成しようとしても資金やパワーがなかったりしますから、そこは外注するなど、一つずつ外部のプロ人材を活用しながらチームアップをしていくことかなと思います。現在は人材の流動化で一人の人材が3社で働くのも当たり前になってきていますから、可能でしょう。
データビジネスの創り方総括
「データを活用した事業創出に近道は存在しない」という前提で、今回のウェビナーの内容を以下の3点にまとめた。
今回ご紹介したウェビナー資料のダイジェスト版を以下のボタンからDLできます。新規事業開発にご興味を持たれた方は、ぜひご活用ください。